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加賀国編・第一話

 加賀国編・第一話更新します。


 前話で宣言通り、越後・加賀攻めはサックリ流していきます。


 それでは新章、開始します。

???――



 飛騨の国から越前へと通じる越前美濃街道。この道は雪が融け、暖かい陽射しが体を温めてくれる。

 道端には花が咲き始め、冬が既に終わっている事を教えてくれる。

 季節は春。四月に入り、十分な行軍が可能な時期だ。


 (……何で、見えているんだ?俺は目が見えない筈なのに)

 街道を行軍する武田家。先陣を務めるのは、武田家の誇る精鋭騎馬隊。率いる将は鬼美濃こと原虎胤。彼等は先行して一乗谷城を目指す。

 二陣を務めるのが俺が率いる遠江勢。鏖の旗が翻っている。

 そこで、ふと気が付いた。


 (ひょっとして、これは夢か?見ているのは越前攻めの時の光景?)

 夢と言われれば納得できる。だって視界が上から見下ろす俯瞰型の視点だからな。

 イメージするなら、鳥になって空から見下ろしている感じだ。

 うん、思い出してきた。武田家の旗を翻した騎馬隊が駆け抜けていく。接近に気付いた越前の国人衆は、止める事も出来ずに見送るしかない。

 中には遅ればせながらに百姓兵を集めようとする者達もいるのだが、二陣を務める俺の旗に気付くと、連中は抗戦を断念していた。

 

 (そういえば、後で確認してみたんだよな。そしたら三条河原の公開処刑の話や、俺が帝の娘婿になる事まで聞いていたらしくて、下手に歯向かうと皆殺しor朝敵として討伐されるんじゃないか?って不安に駆られた、とか言っていたな)

 うん、そう言われた時には思わず納得してしまったよ。でもなあ、まさかこんな事で役に立つとは思わんかったな。

 それはともかく、このお陰で行軍はすんなり進んでいた。

 道中の拠点は、予め接触して内応した連中の城。こういった連中の城で寝泊まりしながら、俺達は進軍を続けた。

 恭順してきた国人衆は、新当主である義信兄ちゃんの名において本領安堵を約束した。目的は進軍速度が落ちる事を防ぐ事。意地を張られて足止めを食らい、一乗谷城に時間を与える事を防ぎたかったのだ。


 越前朝倉勢は留守居役を残して、加賀へ攻め込んでいた。

 留守居役は少なかった。理由は単純。復讐戦という事で、攻勢に多大な兵力を突っ込んだそうだ。留守部隊は公称五千を謳っていたが、実際には千もいなかった。

 当たり前だよな。留守中、常時、百姓兵を城に詰めておく訳にもいかないんだから。

 おまけに、一乗谷城の地の利を俺達が利用した事で、形勢は更に有利に進んだ。


 一乗谷城は南北に伸びた谷を利用した山城。そして南北の出入り口は狭い。つまり少数でも守りやすい堅固な地形なのだ。故に、朝倉家はこの城を居城としていた。

 だが逆に言えば、谷の出入り口を先に押さえてしまえば、こちらも少数で城への追加増援を防ぐ事が出来る事を意味する。

 その為の精鋭騎馬隊。

 一乗谷城に敵襲の報せが届き、百姓兵動員の触れを出し、谷の出入り口に兵を置くのが先か、それとも武田家の先陣がそれよりも早く出入り口を占拠するか。

 これが勝負の分かれ目だったのだ。

 そして、武田家に取っての最大の障害が、大野郡一帯。ここは越前朝倉家の一門筆頭、朝倉景鏡が支配を任されている。一乗谷城から見れば、飛騨側からの守りの要。信用できる一族に任せるという判断は間違いではないだろう。


 だから俺は先陣には大野郡を無視して一乗谷城の谷の出入り口の北側にある下城戸を占領。そのまま一乗谷城を無視して、谷を突っ切り、南側の上城戸も占領。本隊である俺達が到着するまで、時間を稼いでくれという計画を立てていた。

 当然、大野郡を治める亥山城の城主代理(城主の朝倉景鏡は加賀へ攻め込んでいたそうだ)朝倉景次は百姓兵を集めて、先陣の後背を突こうとした。

 ただ、普通に考えてみよう。一日二日で、満足な数を集められるか?しかも加賀攻めの為に百姓兵を集め終えた後だというのに、だ。

 仮に集めたとしても、百姓兵用の具足は足りない。文字通り、肉の壁以外の使い道が無い。

 結局、景次は二日ほど掛けて二百ほど搔き集めたそうだが、そんな真似をしていれば、当たり前だが二陣の俺が鏖の旗を翻して現れる事になる。

 更に後続には本隊が続いている。


 俺は遠江勢に突撃を指示。数の暴力で踏み潰す事を選んだ。

 景次は勝ち目が無い事を察したが、逃げても意味が無い事を察すると玉砕を選択。だが百姓兵達は逃走し、景次は半刻と掛からずに討たれてしまった。

 城の占領は後続に任せて、更に西進。二日以上先行している先陣が奮闘しているであろう、一乗谷城が見えてきた。


 城がある谷の内部は、既に内側を武田家精鋭騎馬隊が支配し、強固な守りの布陣を敷き終えていた。

 一方で奇襲の報告を受けた越前朝倉家は兵を集めていた。だが城に籠もるよりも早く、武田家が谷の内部に陣取っていた為、上城戸と下城戸を取り戻そうと攻め掛かっている。奪還後はそのまま一乗谷城の守りにつくつもりなのだろう。

 故に、こちらは下城戸に攻め掛かっていた越前勢の背後を襲って挟み撃ち。そのまま安全を確保すると、グルッと回り込んで上城戸も同じように挟み撃ち。

 ここに至って、一乗谷城は降伏した。

 この時点で五月半ば。必要最小限だけの所領を奪い、拠点奪取を最優先にしたのだ。


 城は信繁叔父さんに任せて、武田勢は進軍再開。加賀へ攻め込んだ朝倉勢を孤立させる為の要所、坂井郡は十日と掛からず武田の支配下に入った。

 理由は単純。坂井郡は隣接する敵勢力は加賀一向衆のみ。ならば守りはいらん。全ての百姓兵を攻撃に回せ、という極端な作戦を実行していたそうだ。

 戦略的には正解だと俺も思う。俺が朝倉家の立場だったら、同じ事をしている。

 ただ、武田家の侵攻を考慮していなかったのがまずかっただけだ。結果として、坂井郡は無防備なお腹を正面から突かれて陥落した訳である。


 そして小休止と補給網の再構築に励んでいる内に、六月になった。すると、加賀を偵察していた風からの報告が入った。

 越前朝倉勢は尾山御坊に攻め掛かっている。だが武田家侵攻の情報が届き、混乱に陥っている、との事。

 対する加賀本願寺は抵抗を呼び掛けたが、門徒の集まりは非常に悪かったそうだ。まあ気持ちは理解出来なくもない。

 兵力は越前朝倉勢が一万五千、加賀一向衆が四千。

 更に越前朝倉勢の行軍経路上の村々は略奪に遭い、怨嗟の声が上がっている、と。


 兵力以外は、ほぼ予想通りであった。

 俺は遠江勢を率いて進軍を開始。義信兄ちゃんと信繁叔父さんに背後の守りを任せ、信玄パパや三郎(武田信之)君と一緒に加賀へ乗り込んだ。


 まずやったのは、言葉は悪いが餌付けだった。

 『三日分の米をくれてやる。武田家に刃を向けなければ、また三日後にくれてやる。おかしなことをしなければ、来年の秋まで飢える心配はしないで良い』

 これは纏めて食料をくれてやると、それを兵糧として歯向かう奴等が出てくる危険性を考えた上での処置だ。

 百姓達も俺の悪名は知っている。だが、残っているのは本願寺勢力に愛想を尽かした者達だ。

 結果、大半の者達は『様子見』という選択肢を選んだ。俺が約束を破れば戦うが、そうでなければ大人しくしていよう、とりあえず来年の秋までは、という考えだ。

 それで構わない。俺が善政を敷いて、歯向かう根拠を無くしてやるだけだからな。

 

 だが中には反抗した者もいる。

 長島から援軍に来たまま、戻らなかった者達だ。

 これは見せしめも兼ねて徹底的に踏み潰した。三郎君は何か言いたげにしていたが、信玄パパが諭すと自分なりに納得したようだ。

 他には直接歯向かわずに、百姓を煽動して一揆を起こそうとした者もいたが、これは放っておいた。


 何故なら、俺が一向宗の欠陥を突いたからだ。

 そもそも仏に祈るだけなら、坊主は不要だろう。特に一向宗は『南無阿弥陀仏』と念じれば救われる、と謳っているのだ。ならば坊主はいらんだろう。お前達は既に『救われている』のだ。なのに、わざわざ高い年貢を払ってまで坊主が欲しいのか?

 そんなに坊主が欲しけりゃ、俺が適当に連れて来てやるぞ?

 俺の独り言が民に伝わったかどうかは定かではない。ただ風が忙しかった、とだけ言っておこう。


 そして尾山御坊に到着した頃、両勢力は良い感じで消耗し合っていた。

 パパと三郎が後ろで見守る中、俺と遠江勢は尾山御坊を取り囲む越前朝倉勢の背後から急襲を仕掛けて一気に蹴散らした。

 形勢不利を察していた朝倉勢は、抵抗する事無く敗走。かなり恨みを買っているから、落武者狩りに遭うかもしれんが、それはまあ運次第だ。


 そして俺は勢いのままに、尾山御坊を占領した。正直に言うと犠牲は出たが、領民の被害はかなり軽減出来たと思っている。民の恨みも武田よりは朝倉に対する方が強い。

 これも朝倉が復讐戦を仕掛けた際に略奪を働いていた事が理由だ。そんな事をしなけりゃ良かったのに。

 まあ俺は状況を利用させて貰うだけだ。越前に逃げ帰っても帰るべき一乗谷城は武田家に占拠されているのだから、降伏以外の選択肢は無いだろう。後は義信兄ちゃんに丸投げしとけば、万事OK。慈悲深いお兄ちゃんなら、朝倉家家臣達も降りやすい筈。


 俺は尾山御坊に入り、勝利を宣言した。

 「見事である!」

 (は!?)

 

 どこかで聞き覚えのある声に、思わず目を向ける。

 そして後悔した。見なければ良かった、と。

 人影は二つ。

 

 一人は公方だ。剣豪将軍足利義輝。うん、それは分かる。

 だが何でお前はセーラー服を着ているんだ?しかも体が筋肉質だから、ピチピチじゃねえか。待て、動くな。変な所が破れるだろうが。

 あと右手に持っているのは何だ?刀でも扇子でもない。あれは杖か?何と言うか、女子向けの玩具の杖。いわゆる魔法少女の必須アイテムという奴だ。

 あと今更ながらに気付いたが、公方はツインテールだった。


 残る一人に目を向けてみる。そこにいたのは六角右衛門督義治。うん、何でお前が此処にいる?蒲生さんが教えてくれたけど、お前、観音寺城で謹慎中だっただろう?

 しかもお前はナース服か。だが文句を言わせて貰おう。その至る所に穴が空いたストッキングは止めてくれ。どれだけ乱暴に動いているんだ。

 あとお前も杖、持っているのか。魔法少女の杖。それから言い忘れたが、ポニテもやめろ。気持ち悪いわ。


 「余は魔法狂女マジカル・ヨッシー・シャイニングである!」

 「俺は魔法凶女マジカル・ヨッシー・ヒーラーだ!」

 「「二人揃って恋する乙女の味方、マジカル・フュージョン!余分な物を斬り落として乙女となった我等が、其方を祝福してやろう!」」

 何だ、これは?というか、近寄るんじゃない!キモいわ!


 「怯えることは無いぞ、加賀守。余が一のタチを伝授してやろう」

 俺は咄嗟に、何故か手元にあった種子島をぶっ放していた。



永禄二年(1559年)九月、加賀国、金沢城(元・尾山御坊)、武田信親――



 「……夢、か」

 気持ち悪い悪夢から逃れて、俺は安堵の溜息を吐いた。

 どうやら執務の間に船を漕いでいたらしい。最近、睡眠時間が少なかったせいかもしれんな。まあ、仕方ない事なのだが。

 占領したての領地は、どうしても仕事が多いのだ。


 背筋を伸ばして、大きく深呼吸を行う。

 そして、改めて現状を振り返ってみた。

 

 現在、民を静かにさせている要因、食料配給は常備兵の役目だ。各地を占領する傍ら、朝倉勢に荒らされた地域には、田植えもろくに出来なかっただろうから、と定期的に少しずつ食料を配布させている。

 こちらも今の所、厄介な問題は起こっていない。加えて、朝倉勢の略奪を受けていない地域も静かな物だ。風の報告によれば、俺が手当たり次第に無差別皆殺しをしなかった事が意外過ぎて、驚いているそうだ。

 失礼な話だ。俺は敵以外は殺しはせんぞ?勿論、条件付きだ。敵対しない事。ただそれだけだ。敵対しないのなら一向宗を禁教として取り締まる事もしない。


 次に触れも出している。まず戦で親を失った子供達に養い親が見つからないのなら、武田家で責任を持って養育するという事。二つ目、武田家の支配下に入る以上、年貢は本願寺より低くなる、と言う事。詳しい事を聞きたければ、武田家の兵に確認すべし、と。

 それに対する肝心の領民だが、まだ様子見継続中という所だ。一番重要なのは、今歯向かっても勝てないからだ。何せ尾山御坊が落とされたのだ。取り纏め役である坊官がいなくなれば、具体的にどうしたら良いか、分からなくなったのだろう。

 結果、加賀の領民達はとりあえず大人しくする事にしたのだと推測している。


 他に大義名分という物もあるだろうな。俺が帝から『加賀守』に任じられた事、帝の娘婿になる事が正式に発表された事、武田家分家『加賀武田家』の初代当主となる事も影響を及ぼしているのは間違いない。

 加えて、武田家は徴兵ではなく金による常備兵の為、戦に出たくなければ出なくて良い事も広まりつつある。

 だがどこで俺が豹変するかは分からない。だからまだ民は様子を見ているのだ。


 その間、勝家さんには食料配布以外の常備兵二千をもって加賀北部の制圧を。昌盛(小幡昌盛)と虎貞(小幡虎貞)には火部隊の一部と常備兵一千で、加賀東部の制圧を行わせた。

 これらも特に問題が発生する事も無かった。

 俺が圧政を敷いていない事もあるだろうが、それ以上に本願寺への呆れ、という感情が強く残っていたのかもしれない。

 

 一方、武田本家は今頃、越前西部――敦賀へと攻め込んでいる筈だ。というのも、俺は加賀にいるから、向こうがどんな戦況なのかまでは分からないのだ。

 こちらについては義信兄ちゃんの越前守が大義名分だ。その上、朝倉家は一向一揆との争いで疲弊している上に、名将朝倉宗滴はもういない。越前全土が落ちるのも時間の問題。若狭は降伏勧告で若狭武田家を吸収する。若狭武田家は東三河へ左遷予定だ。石高も減るが文句は受け付けない。大きな港のある若狭を活かしきれなかった奴が悪いのだ。

 ちなみに一乗谷城は信玄パパが居城として使う予定。ここから信玄パパが畿内に睨みを利かせつつ、義信兄ちゃんが敦賀の金ケ崎城を起点に西を目指す。結果、武田本家は山名家、尼子家が視野に入る。


 京についてだが、加賀が一段落してパパが越前へ戻る前に、俺はパパに献策をしておいた。

 『京、と言うより山城国は無視の一択です。獲っても敵意と妬みを買う上に、京は守りに不向きな土地。加えて、銭を無心する連中が山程おります。更には上に立ちたがる公方が必ず足を引っ張りましょう。こんな厄介極まりない土地を慌てて獲る必要はありません。面倒事は物好きな三好家に押し付けて、その間に西を統べて大勢力を築き上げるのです。京はそれからでも十分、間に合います』

 パパは俺の言いたい事が分かったらしく、力強く頷いていた。

 日ノ本最大勢力を誇る三好家。だが三好家と言えども、二倍三倍の兵を用意されては、負けを認めるしかなくなる。

 だから焦る必要は無いのだ。ゆっくり時間を掛けて準備を整える。


 本家の基本方針は以上だが、加賀武田家にも基本方針は存在する。まず加賀は内政重視の一択だ。足元を疎かにしてはいけない。あとは常備兵の雇用と武装の充実。その後に越中の西側を目指す。越後を刺激しない程度に、飛騨と加賀を繋ぐ経路を確保するのが目的だ。

 そうすれば、加賀へ来るのに遠回りの越前美濃街道を通る必要が無くなる。商人の往来も促進され、加賀武田家に富を齎してくれるだろう。

 そういえば、弟の三郎(武田信之)君だが、守役の秋山虎繁さんや高坂昌信さんと共に駿河に入った。これは北条家を血迷わせない為の抑止力だ。一方で四男の四郎君が元服して諏訪四郎勝頼と名乗る事になった。こちらの守役は内藤昌豊さん。将来的には信濃・遠江を継承予定だ。俺が内政した所は、なるべく一族で押さえておきたいようである。


 「加賀守様、焙じ茶をお持ち致しました」

 「ゆき、今まで通り二郎で構わん。周りがどう思っているかは知らんが、ゆきは俺の妻だ。妻に官職で呼ばれても嬉しくないわ」

 「……はい、二郎様」

 執務室に入って来たのはゆきだ。月の声が聞こえるという事は、月をあやしながら入ってきたのだろう。となると焙じ茶は侍女に運ばせているみたいだな。足音がもう一人分聞こえる。さすがに盲として生まれ変わって十五年、それぐらいはさすがに判断できる。

 ゆきが月と一緒にここへ来たのは七月だ。尾山御坊陥落の報を聞いて、早速、こちらへ来たのである。どうやら、三条ママが裏で手回ししてくれたらしい。

 遠江の引継ぎとかどうすんだ、とか思ったが、まあ問題が起きていないのだ。俺が残させていた帳面とかを見て、何とか引き継いだという事だろう。 

 

 「ゆき、済まぬが相談に乗ってくれ。まずは人材の再確認だ。筆頭家老は虎盛、次席は権六(柴田勝家)。追加は無し。美濃守(原虎胤)が抜けたのが痛いわ。何とかして穴を埋めんとな」

 「はい、仰る通りです。美濃守様の手腕を考えますと、一年や二年で埋められるような穴では御座いません」

 「全くだな。不幸中の幸いは、俺はすぐに戦をするつもりは無い、という事だ。その間に何か対策を考えるとしよう」

 月の無邪気な笑い声が聞こえてくる。

 まだ生まれて一年と経っていない赤子だが、風邪一つ引かない健康な子だ。

 加賀への長旅の間も平気だったというし、意外に大物なのかもしれん。


 「続いて部将で御座いますね。こちらは孫次郎(小畠昌盛)様に藤吉郎(井伊藤吉郎)殿ですね。まだ御二人だけです」

 「ここも痛いな。部将が少な過ぎる。早い所、侍大将から部将に昇進して貰いたいのだが」

 統治には金も資源も必須だが、そもそも人がいなければ何の意味も無い。国を富ませるにも、国を守るにも人が必要なのだ。

 在野の連中が、自ら志願してくるような策を講じるのも良いかもしれんな。


 「侍大将は兄、明智殿、竹中殿、長次郎(風祭為好)殿、他多数です」

 「ここがなあ。侍大将の層が分厚いんだよな。とは言っても、年齢を考えればおかしくはないんだろうな。寧ろ、よく頑張っていると褒めたいぐらいだ。他家でこの年で侍大将張ってる奴なんて、そうはいないだろうしな」

 「山城守(小幡虎盛)様ももう還暦を過ぎていらっしゃいますしね」

 そうなのだ。俺の守役であり、筆頭家老兼軍配者である虎盛は既に七十が見え始めている。いつ亡くなってもおかしくはないのだ。

 だから、考えたくはないが二代目軍配者の育成は急務だ。俺は目に問題を抱えているから、なるべく軍配者に指揮を委ねたい。

 信玄パパに相談すれば、与力として誰かを送ってくれるだろうけど、出来る限り直臣を抜擢してやりたいのが本音。昌盛に委ねるのも有りではあるんだが、肝心の虎盛が『気質が向いておりませぬな』と厳しい判断を下しているし……


 「……十兵衛(明智光秀)を部将へ抜擢するか?そして虎盛の下で軍配者として経験を積ませる。権六や孫次郎でもいけそうだが、あの二人は前線で暴れる方を好むだろうしなあ」

 「明智殿は知恵働きも出来る御方ですから、間違いなく向いているのですけど」

 「そうなんだよ。適性は間違いなく高いんだ」

 ……仕方ない。多少の不満は出るかもしれんが、思い切って抜擢するか。このまま手を拱くのは悪手だ。少しでも前に進めよう。

 虎盛には事情を説明しておけば、理解してくれるだろう。

 虎貞より優等生だし、虎盛に掛かる負担も少ないだろうしな。


 「いざとなったら戦場遊戯で適性の高さを証明させて納得させるか。それから藤吉郎は秘書方のまま林、山、雷の責任者も兼任させる。暫くは内政重視だ。用水路や街道の整備を藤吉郎の指揮下で行わせる」

 「良い事であると存じます」

 「やって貰いたい事は山程あるからな。それに藤吉郎は百姓の気持ちが理解出来る男だ。その視点も侍ではなく百姓寄り。民にとって暮らしやすい土地にしてくれるだろう」

 あとは藤吉郎の下に、与力として内政能力の高い奴をつけてやりたい。有能な連中同士でチームを組めば、効率性は上がると思うんだがな。

 内政に優れた奴。いや、別に贅沢を言うつもりはない。求めるのは指示した事を遂行してくれる真面目さ、これだけに尽きる。

 地味な内政と言う仕事を、しっかり行ってくれる奴で良いんだ。


 「そうだな……蔵人(前田利久)を協力させよう。藤吉郎とともに内政支援に当たらせる。元は城主だ、それなりに期待はできるだろう。そして将来的には街道整備情報と組み合わせて、効率的な補給網を作成させるか」

 「心得ました」

 「槍働き専門な奴等は領内の治安維持に回そう。主に賊の追捕、害獣の討伐だ。兵の鍛錬も同時進行……いや、ついでに物資運搬もやって貰うか?その辺りは要検討だな」

 領内の治安が良くなれば、他国からの移住者や流人は増える。幸い、加賀には土地が沢山有り余っているのだ。幾らでも来い、田畑ならくれてやる、という状況である。

 あとはコネも使うとするか。

 越後の軍神やボンバーマンに頼んでみるか。戦で捕虜を捕えたら、加賀に売ってくれない?相応のお金は払うよ、って。

 

 「そういえば、藤吉郎にも嫡男が産まれた、と聞いたが?」

 「はい。二郎様が出陣中に産まれたと聞いております。御祝いの品は二郎様名義で贈らせて頂きましたので心配は無用です」

 「そうか、助かる。やはりゆきが傍にいてくれると助かるな」

 石松丸と名付けられた赤子は元気な男の子だったそうだ。

 直盛(井伊直盛)さんは直系の初孫誕生に大喜びだったと聞いている。

 あとは弟か妹だな。そうすれば井伊谷の未来は安泰だ。


 「もう暫くは井伊谷におられるそうです。御子様が落ち着くのを待ってから、こちらへ向かうと」

 「それは仕方ないだろうな。焦らずとも良い。ところで赤子といえば、月の様子はどうだ?」

 「健康そのものです。夜泣きも無いし、本当に良い子です」

 俺の初めての子供である月は、スクスク育っている。良い事だ。

 たまに俺が抱いてやると、俺の頬をペチペチと触ってくる。そして嬉しそうにキャッキャッと笑ってくれるのだ。

 本当に可愛い娘だ。月は絶対に嫁にはやらんぞ。

 前にそう言ったら、ゆきはおろか、家臣にまで笑われてしまったが。


 「話が逸れてしまったな。ゆき、藤吉郎と蔵人に中食を終えたら、俺の所に来るように伝えてくれ。それと二人の配下――陪臣も登城できる奴は登城させろ、と。加賀を豊かな国とする為に、全員で計画を練るぞ、とな」

 やるべき事は山程ある。俺はこれ以降、加賀を本領とする事は決定済み。ならば長期的計画をもって、領内の開発を行わねばならないのだから。

 史実における加賀百万石。

 俺の手で実現してやるというのも、なかなか楽しそうじゃないか。

 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 越前・加賀攻めは夢で過去を見た、という形にしてみました。

 そして現代→戦国への転生なら、魔法少女を登場させても問題ないという事に気づいた結果、今回はある意味出オチな展開となりました。

 余の一のタチ。嫌すぎるパワーワード。

 みんな大好きな方は、しばらく見納めになります。またの登場をお待ちください。


 内政面ですが、折り合えず今回は現状把握から。

 次回から、本格的に内政面をガッツリやっていく予定です。


 それでは、また次回も宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば朝倉義景は 六角からの養子ではないか という説がありますね
[一言] 数年前まで石川県におりましたので岡山と石川の比較です。 確かに駄々っ広いですね、加賀平野は。 ただし日本海沿いの北陸道からは東にある山が見えます。 なので「加賀百万石」という言葉から受けるほ…
[良い点] 夢と言う形で分かりやすく説明が入った事。 視覚の暴力を速抹消出来た事。 [気になる点] 魔法凶女が現実なら六角は喜べただろうに。 ……気が狂ったとして廃嫡出来たんだから。 [一言] 人材が…
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