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今荀彧編・第十二話

 今荀彧編・第十二話、更新します。


 今回は上洛編開始。


 それはともかく、前の話の感想読んで思いました。


 みんな大好き義治君。まさかこんなに人気があるなんてw

永禄元年(1558年)五月、近江国、観音寺城、武田信親――



 ついに始まった上洛戦。こちらの神輿は足利義輝。剣豪将軍として有名な男だ。

 そして戦の口実だが、これは改元だ。

 本来、改元は帝と公方で決める物。だが帝は三好長慶と話して改元を行ったのだ。ボンバーマンが用意しておくと言っていた口実とはこれの事だろう。

 三好の行動は、日ノ本の支配権が三好にあると朝廷が認めたという事になるからだ。

 更に三好家はそれを公方の耳に入る様に大々的に宣言。

 結果、公方は『三好の思惑通り』に挙兵したという訳だ。


 そして俺は今、近江国観音寺城にいる。第十三代将軍足利義輝を奉じた上洛軍の一翼を担っている訳だ。

 俺の率いるメンバーは火部隊二千、風ニ百、陰百、常備兵三千。武田軍の三割ほどを占めている計算になる。

 武田家は一万八千ほど。六角家が二万。従属家は六角支配下の浅井が千。三河松平が千五百。およそ四万の大軍勢だ。

 そして対峙する三好家は公称五万の大軍勢。いやまあ向こうも本拠地近いから、本当に動員できてもおかしくはないんだよね。

 背後の石山本願寺や反三好家勢力に対する守りを考えれば、実際はもっと少ないと思うのだが、ハッタリは重要だ。

 

 そして今は出陣直前。これから京ヘ向けて出陣するぞ!という状態だ。既に裏での打ち合わせは済んでいるから、実際に戦うことはない。誰も大真面目に戦うつもりもない。全く意味が無いからな。

 知らぬは義輝とその配下のみ。威勢の良い事を叫んで燥ぐのは勝手だが、お前の為に俺は兵を捨てるつもりはないんだ。


 その一方で視野を広げると、越前朝倉家は先月頃から加賀一向衆に攻め込まれている状況だ。見事に策がハマったようである。踊らされているとも知らずに、だ。もう少ししたら梯子を外してやる。

 予想外、というか予想しておいて然るべきだったのだが若狭だ。一向衆越前侵攻が呼び水になって、若狭で一揆発生中。若狭武田家はこちらから見ると分家筋になるんだが、俺には直接の付き合いは無かった。だから若狭にも念の為に、風の拠点を作っておくように長次郎に指示を出しておいた。現状、加賀、越前、若狭が風のメインエリアだ。

 

 そして重要な事。俺は長次郎に指示を出した訳だが、直接なのである。

 どういうことかと言うと、ゆきと岩鶴丸が今回の上洛から離脱しているからだ。

 ゆきは言うまでも無く『妊娠』が理由。今は虎盛の奥さんに居候を御願いしている。初産で実家もない身の上では、選択肢は無かった。清洲城の三条ママに頼むとしても、移動と言う問題があったからだ。

 

 幸い、前向きに引き受けてくれたので助かっている。そういう訳で、今回はゆきが不在。代わりに代役として案内役を務めているのが、幼いながらも健気に頑張る真田源五郎君である。

 まだ元服していない源五郎君が一生懸命に俺の案内役を務める姿は、周囲からも好評だ。

 彼は真田勢の中で唯一の上洛軍参加者であり、一族郎党は信濃・飛騨で守りに専念している。

 その為か、兄二人から『うらやましいぞ、こんちくしょう』という内容の、心温まる文が届いたそうだ。


 どう返事をすればよいですか?と聞かれたので『土産は京のお姉さんの下帯でいいですか?』と返しておきなさい、と悪戯心から発言してしまった。

 すると翌月、チート爺ちゃんこと幸隆さんから『源五郎に変な事を教えないで頂きたい』というクレームの文が届いたのである。いや冗談だったんだけどな。源五郎君、本当に素直な子だわ。この子が徳川家康を恐怖させる程の謀略家になるなんて、想像も出来んわ。

 

 そして岩鶴丸だが新年を迎えた時に元服し、河田長親と名乗るようになっていた。岩鶴丸が言うには、河田が滅ぼされた家の名だという。ならば家を立て直すがよい、と河田姓を許した。そして俺の名から一文字与えて長親と名乗らせたのである。

 そして四月から長親は清洲で学び舎生活を送っている。栄誉ある第一期生という事だ。俺の考えだけでなく、他の者達の考えも理解できるようになれば、間違いなく長親の成長へと繋がる。加えて学び舎で生活を送り、人脈を作るのも重要だ。将来的に大きな財産となるだろう。

 ちなみに来年は源五郎君も学び舎に入る。

 

 話を戻すが、今は城内で軍議の真っ最中だ。上座中央に神輿の公方。ギャーギャーがなり立てているが、喚くな。煩くてかなわん。

 で、下座には六角家メンバーと武田家メンバー達が揃っている。その中に俺もいる訳だ。

 ちなみに信玄パパの後ろに、義信兄ちゃんと一緒に座っている。


 「二人とも、何故決戦をしないのだ!ここまで来たというのに、京は目の前ではないか!」

 信玄パパも、義賢さんも、公方を宥める事に必死だ。この男を三好に押し付ける為には、負け戦を行って領内にお持ち帰りを強制される訳にはいかないからだ。

 何より、戦う事になったらプロレスの準備をしていた意味が全く無くなる。

 ……仕方ない、冷や水ぶっかけるか。


 「恐れながら発言の許可を求めます」

 一斉に視線が集まる。まあ憎まれ役は俺の仕事だ。

 下手に武田家に擦り寄られると、良いように使われかねないからな。そもそも見返りも無しに働いてやる義理は、こちらには全く無いんだ。

 

 「其方は誰だ?」

 「武田大膳大夫晴信が次男、二郎信親と申します」

 「ほう?其方が長島を落とした兄弟の弟の方か。で、何を申したいのだ?」

 俺は盲だが、分かる事はある。俺を睨んでいるな?無位無官風情が、と言った所か。

 ボンバーマンから聞いてはいるが、こいつ馬鹿なのか?今まで三好に見逃されていただけで、自分直轄の兵はいない。それで何とかできる、命じれば何とかなる、なんてよく思えるな。

 こいつの守役とかは、何を教えていたんだ?

 

 「今、直接攻めるのは愚か者の所業に御座います。三好に指を指されて笑われたくなければ、堪えて頂きたく願います」

 「この無礼者が!余を何と心得るか!」

 「帝を敵に回した逆賊になろうとしている者を、愚か者と言って何が悪いのでしょうか?」

 周囲は絶句。信玄パパ、多分、溜め息ついてるな。武田家臣団は慣れがあるかもしれないが。

 六角はどうだろう?義賢さんの後ろには六宿老が勢揃いしていた筈だが、凍り付いたかもしれんな。

 まあ、その辺りはどうでも良い。重要なのは俺が愚か者に憎まれる事だからな。代わりに恐いもの知らずと言われるだろう。


 「某は盲に御座いますが、公方様には見えぬ物が見えております。このまま戦端を開けば、京の住人全てが公方様の敵に回るでしょう。そして主上が公方様を朝敵として扱う可能性すら否定できません」

 「何故だ!」

 「仮に三好を撃破したと仮定します。しかし三好家が敗走する先には、京が御座います。腹いせに都に火でも放たれたら……御判り戴けますな?責任を求められるのは、公方様になりますぞ?何故、三好家を全滅させる事無く京へ逃がしたのだ、と。それでも武家の棟梁なのか、と」

 愚か者から感じる圧迫感が和らいだ。どうやら俺の言う事に一理あると判断したようだ。

 いや、もしかしたらどうしたら良いのか分からなくなったのかもしれない。

 半分は俺に対する怒り、もう半分は朝敵扱いされるという恐怖心だろう。それにしても、どうしてその可能性を考えないんだ?敗走する際、敵に対する嫌がらせとして、火を放つとか珍しい話でも無いだろう。


 「公方様、息子信親の無礼は親である某が謝罪致します!ですが信親の申す事にも一理御座います!何卒、今は堪えて頂きたく存じます!」

 「某も同じ考えに御座います!今は焦らず堪えるべきにございます!」

 信玄パパと義賢さんが加勢に入ったな。これで公方は堪えるという選択肢を採るだろう。

 そのストレスの矛先は俺に向く事になるし、意固地になって敵陣全軍突撃と言う可能性も消えた。

  

 「ええい、分かったわ!堪えれば良いのだろう!誰か、酒を持て!」

 ドカッと座る音が聞こえてきた。やれやれ、苦労知らずのお坊ちゃんの子守なんて、柄じゃないんだがな。

 やがて半刻としない内に、上座から寝息の声が聞こえてきた。同時に傍に控えていた者達がどこかへ移動する音も聞こえてきた。寝息も移動していたから、多分、寝所に運んだのだろう。

 全く、面倒な事だ。と言うより、足利義輝ってここまで馬鹿だったのか?何で戦力差とか全く理解していないんだよ。俺ですらパパの持ってた孫子とか目を通した事ぐらいあるんだぞ?


 「二郎!背筋が冷えたぞ!?」

 「憎まれ役は私の仕事ですから」

 「そういう事を言っているのではないわ!確かにお前の目論見は理解できるが、やり過ぎるな!」

 心配してくれるのは有難いんだが……信玄パパって過保護なんだろうか?

 耳を澄ましてみれば、小さい笑い声。これは勘助と典厩(武田信繁)叔父さんか。どうやらこの二人は俺の目論見に気付いてくれたようだ。

 義信兄ちゃんは『あまり心配させないでくれ』と俺を心配してくれている。こちらは気付かなかったのか。

 まあ義信兄ちゃんの魅力は、優しい人柄にある。次の当主である事を考えれば、この対応の方が良いだろう。皆も兄ちゃんは優しい人だと、改めて好意を向けるだろうしな。

 六角家は……まあ言うまでも無い。静まり返ってる。


 「全く、ここでお前が斬られてみろ!ゆきの腹の中の子をどうするつもりだ!」

 「常に最悪の事態を考慮して、三十年は食っていけるだけの財は渡してあります」

 「そういう意味では無いわ……」

 よし、信玄パパ諦めたな。これで説教を聞かずに済む。

 パパが俺を大事に思ってくれるのは嬉しいんだが……やり過ぎたかもしれん。

 次が有ったら、やり方を考えよう。


 「ところで、公方様も限界のようです。少し動く事を提案致します」

 「……申してみよ」

 「京の山科(山科言継)権大納言様に、仲介を御願い致すのです」

 武田家は六角・三好の仲介役。だがこれは裏向きだ。表向きの仲介役は別に必要となる。

 それには山科権大納言が最適だ。

 朝廷の中で、彼ほど大名家に顔の利く男は存在しない。


 「だが公方様が認めるか?」

 「講和の条件として、公方様が京へ戻る事を明記すれば宜しいかと。結局の所、公方様の頭にはそれしか御座いません。先程の遣り取りを思い返してみれば、納得も出来ます」

 ここまでは台本通りだ。信玄パパも義賢さんも、ちゃんと理解はしている。

 故に、講和が進む事に不安を持ったりはしない。

 だが家臣は、それも下に近いほど真実を知らないんだ。だから芝居が必要になる。


 「ふむ……近江守護(六角義賢)殿はいかが思われますかな?」

 「良き考えかと。私も甲斐守護(武田晴信)殿に賛同致します」

 朝廷の官位では上下が明確となる為、信玄パパは気を遣って同格になる幕府守護という役職名で呼び掛けたな。義賢さんもその気遣いに気付いて甘えさせて貰った、と。

 こういうやり取りは、俺も身に着けるべきかな?でも、俺ってそういうのはあんまり得意じゃないんだよな。

 でも苦手だからと言って、身に着けない訳にもいかないか。


 「使者を信虎御祖父様に出して、動いて頂きましょう」

 「分かった。其方に任せる。山科権大納言様への御礼は俺の方で用意しておく」

 「心得ました。では席を外します」

 『源五郎』と呼び掛けると、廊下から『はい!』という返事が返ってくる。そんな源五郎に手を握られて、俺は評定の間を後にした。



永禄元年(1558年)六月、山城国、四手井城、三好長慶――



 「これは権大納言(山科言継)様、ようこそお越し下されました。麦湯を用意させましょう」

 「感謝するでおじゃる、筑前守(三好長慶)殿。ところで本日の用事でおじゃるが、公方との和議の件で伺わせて頂いたのでおじゃる」

 「心得ました。条件はどのような物で御座いますか?」

 和議の条件は筋書き通り。

 公方が京へ戻る事。

 三好家は六角・武田家に領地割譲などを要求しない事。

 三好家が北面の武士を復興させる事。

 ……うむ、問題はない。特に最後の条件。これは三好家が北面の武士を復興させるという文字通りの意味ではあるが、北面の武士に武田や六角を入れる事とは書かれていない。

 つまりは北面の武士を三好家で独占出来るという意味だ。

 公方はきっと、この思惑に気付かぬであろうな。


 「権大納言様。この和議、受け容れましょう。畏れ多くも主上の御膝元で、これ以上、騒ぎを起こす訳には参りませぬ。主上の御為、三好家はこの和議を受け容れる事を誓います」

 「話が早くて助かるでおじゃる」

 用意された麦湯に手を伸ばして、口に運ばれる権大納言様。権大納言様は此度の筋書きについて何も知らされておらぬのだから、一先ず用件を済ませる事が出来た、と安堵なされたのも不思議は無い。

 だが、権大納言様は各地の大名家と色々と折衝を行っておられる御方だ。

 筋書きについて気付かれても不思議はないのだが……


 「ところで、筑前守殿。此度の和議、本当は話が済んでおられたのでおじゃろう?」

 「……やはり、気付かれましたか」

 「西国の情勢を知る事が出来るのならば、それぐらいは、のう?だが主上は何も御存知ではない。きっと安堵されるでおじゃろう。今後も忠勤、宜しく頼むでおじゃる」

 『ははっ』と短く応じる。

 やはり気付いておられたようだな。聡い御方だ。

 今後も権大納言様とは良い関係を築いておくにこした事は無い。それだけの影響力をお持ちの御方だからな。

 

 「それにしても、公方が哀れでおじゃるな。六角家にすら見放されるとは、な」

 「仕方御座いませぬ。以前の件が御座います故。雲光寺(六角定頼)殿の存在があったとはいえ、これ以上は関わりたくない、という事で御座います」

 「知らぬは公方ばかり也、という所でおじゃるか」

 頭を左右に振りながら、権大納言様が溜息を御吐かれになられた。

 この御方は公方様とも、それなりに付き合いがあるのだ。

 公方様が為してきた行為の結果とは言え、今の境遇に思う所はあるのかもしれぬな。


 「権大納言様、某は公方様を弑するつもりは御座いませぬ。家中の者達にも、よくよく言い含めておきますれば、その点については御安心戴きたく」

 「それについては宜しくお願いしたいでおじゃる……公方も、将軍家に生まれさえしなければ、幸せに生きられたであろうに」

 「それはどうでしょうか?確かに足利将軍家としての重圧からは逃れられたでしょう。ですが今は乱世。どこで命を落とすか分かりませぬ。公方様が幸せを手に入れるのに必要なのは、諫言を受け容れるだけの度量であると、某は考えますが」

 全てが己の思うがままになる。そんな旨い話は無い。必ずどこかで妥協は必要になるのだ。

 問題は、公方様がそれに耐えられぬという点。不満が溜まると逃げてしまう。踏み止まって堪えようとなされぬのだ。

 儂には公方を殺すつもりは全く無いというのにな。

 

 「ところで筑前守殿。今後の事でおじゃるが、どのようになされるおつもりかな?」

 「当面は武田、六角とは互いに不可侵、と言った所で御座いますな。六角はともかく、武田は敵に回すと危険過ぎる。地獄から這い上がってきた強み、と言うべき物を持つ者達。このような者達と戦うと、こちらの被害が大きくなりますからな」

 「という事は、六角にはそれが無い、という事でおじゃるかな?」

 権大納言様の問い掛けに、儂は重々しく頷き返した。

 ハッキリ言えば六角には恐怖を感じない。敢えて言うなら、要所に兵と将を配置しておけば十分。その程度でしかないからだ。

 今の六角家は牙を磨く事を忘れた獣も同然よ。


 「亡き管領代殿が優秀過ぎた。あの御仁であれば、天下を差配するだけの器量をお持ちであったと言えましょう。そのせいですかな、六角家は常勝に慣れ過ぎているように感じるので御座います」

 「常勝と言うのなら、武田もそうでは?」

 「武田は十五年程前まで、甲斐一国しか有しておりませんでした。つまり厳しい時代を潜り抜けてきた者達が、今なお現役で活躍し続けている。今を失えば、過去に戻るという現実を理解している者達。だからこそ、某は恐怖を感じますな。武田家は常に背水の心構えで戦っているも同然だからに御座います」

 そこが六角との大きな違いだ。

 かつて話をした武田二郎信親。あの若者が良い例だ。

 あれ程の覚悟を、元服して間もない、それも当主の息子が有していたのだ。

 恵まれた生活を送って来たであろう男が、だ。


 「某は、六角家はいずれ滅びると見ております。理由は二つ、一つは人。もう一つは野心の無さ故に」

 「詳しい事を聞いても良いでおじゃるか?」

 「他言無用でお願い致します。まずは人。当代の当主、左京大夫(六角義賢)殿は努力を重ねた男。このような男には油断が無い。加えて家臣は亡き管領代殿に鍛えられた者達。まさに鉄壁の布陣と断言できます。しかしながら、後継ぎ(六角義治)が危うい。六角家は人によって腐り落ちると見ております」

 そこが六角家の弱点だ。

 当代は守成の男と儂は見ている。乱世においては物足りないとは思うが、それでも御家を維持するだけなら十分な実力を有するだろう。

 だが儂が草に集めさせた話から推測する限り、跡継ぎは明らかに違う。

 次男はまだ判断がつかぬが、嫡男は明らかに問題児だ。先の事を考えれば、寺にでも押し込めておくべきだろう。


 「二つ目の理由は、此度の和議において、武田家に北陸侵攻を許した事。武田は飛騨を有している。北陸に出るなら越前か越中しか道が無い。もし武田が越前に進出すれば、どうなると思われますか?」

 「越前の隣は加賀と若狭でおじゃりましたな。若狭守護武田家は、甲斐武田家の分家」

 「その通りで御座います。この状態で若狭武田家を攻める覚悟が六角にあるとは思えませぬ。しかも若狭武田家には、左京大夫殿の姉が嫁いでいる。伊勢北畠家もまた縁戚。伊賀越えで紀伊南部を奪うにしても、あまりにも旨味が無い。恐らく、美濃を手に入れた事によって満足してしまったのでしょうな。つまり六角家は詰んでいる」

 六角家が御家拡大を望むなら、武田か三好、どちらかを敵にしなければならなかったのだ。

 だが左京大夫殿はそれを選ばなかった。

 両家と和を結ぶという選択肢を選び取った。それは野心の無さを示しているのだ。


 「故に六角家は敵として扱うに値しない。放っておけば、勝手に腐り落ちる。恐らくは武田も、それを視野に入れているでしょうな」

 「気の長い話でおじゃるな。左京大夫殿はまだ四十にもなっていなかった筈」

 「人生五十年と申します。ならばあと十年。大した時間では御座いませぬ」

 故に、警戒すべきは武田家。

 今川家、長島一向衆と強大な相手を降してきた者達だ。

 戦も知恵働きも人材に困る事は無い。兵は歴戦の猛者。厄介な者達よ。


 「三好家も武田家も、今はぶつかりませぬ。互いに時期尚早と見ておりますからな」

 「ぶつかる日が来ぬ事を願うでおじゃるよ」

 「某としてもぶつかりたくは御座いませぬな」

 だが、そう都合良く行くとは思えぬ。

 日ノ本を采配出来る席は、一つしか存在しないのだから。



永禄元年(1558年)六月、近江国、六角義治――



 「手配は済んだな?」

 「はは。仰せのままに」

 「よし。良くやってくれた。後は放っておけば勝手に踊ってくれる。其方も手の者を引かせておくのだ。疑われると面倒な事になるからな」

 俺の声に、同意を返してくる男。

 場所は三好と睨み合い中の陣中。

 俺は催したフリをして陣の外にある草むらへ入り、そこで報告を受けていたのだ。


 「右衛門督(六角義治)様」

 「対馬守(三雲定持)、どうした?」

 「本当に宜しいのですか?御屋形様の御指示も仰がずに」

 三雲は祖父の代から六角家に仕えている、甲賀忍びを束ねる男だ。

 表には出せぬ仕事もこなしている。

 俺は策の目的までは教えておらぬが、察していてもおかしくはない。

 

 「対馬守。本当にこのままで良いと思っているのか?確かに六角家は美濃を獲って大きくなった。だが、この先、どうするつもりだ?」

 「……」

 「三好か武田、どちらかを潰さねばならん。そして三好家は公方様を手中にする……それとも、其方には代案が有ると言うのか?」

 そうだ、ある訳が無い。

 父上は近江と美濃だけを守れば良いと考えているようだが、俺は認めん。

 六角家はもっと大きくなるべきなのだ。

 俺の手によって、だ。


 「心配はいらぬ。長島の民が、恨みと怒りで動いただけ。復讐など、よくある話ではないか。違うか?」

 「そうであれば良いのですが」

 「問題は無い、どこに穴が有るというのだ。あとは放っておけばよい」

 そう。家族を殺された恨みによる復讐。

 その標的が武田二郎信親というだけの話。

 何も珍しい話ではない。よくある話に過ぎないのだからな。


 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは上洛戦、公方陣営から。

 いきなり主人公、公方に喧嘩を売るの図。お前、自分の我が儘で朝敵になるん?

 武田家苦笑い&心配。六角家は絶句。

 でもね蒲生さん。貴方、そんな問題児に次郎君を近づけちゃったのよ?


 ちなみに長親君の名前が史実と同じなのは偶然ですw


 次は長慶&山科さん。

 公方哀れだねえからの、今後はどうすんのよ?って話。

 長慶さん、読みは的確。今後、どうやって武田を利用し、矛先を三好から逸らしつつ動けば良いか?を考えていく事になるでしょう。

 三好にとっての最大の敵は武田です。


 最後はみんな大好き義治君w

 欲望からの読みで情勢を把握。

 邪魔な奴、殺しちゃえw駒なら長島にいるじゃん、俺って天才!

 こんなノリに付き従わねばならない三雲さん、御愁傷さまです。


 次回は新キャラ登場回。


 それでは、また次回も宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
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[良い点] いつも面白い話を読ませてもらってます、安定して更新されている事が素晴らしい! [気になる点] 長島が動いている→一定数人が動く以上、現地にいる信長が知る→信長が報告する→対策する 信長が…
[気になる点] 三好さんと山科さんの会話 しかしながら、後継ぎの右衛門督(六角定治)は危うい。 ここ六角義治では? [一言] なるほどね。 長島の感情を利用するのか。信長さん、ご愁傷さま。 これ…
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