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今荀彧編・第六話

 今荀彧編・第六話、更新します。


 今回から、水土更新に切り替えて、様子を見てみます。要は私がやっていけるかどうかの判断をする為です。無理そうなら戻しますので、その時は勘弁してください。


 あと以前に指摘の合った高機動部隊を、今回から弓騎兵部隊に変更しました。


 ちなみに文章量は、半分になります。

弘治二年(1556年)九月、遠江国、井伊藤吉郎――



 「おっ母!無事だったか!」

 「日吉(井伊藤吉郎)!日吉じゃないか!お前も無事でよかったよ!」

 一年ぶりの再会。

 二郎(武田信親)様の御配慮のおかげで、おっ母や小竹は舅殿の所領、井伊谷で生活を送る事が出来ていた。

 尾張中村に居た頃と比べると、表情も明るいし血色も良い。税が少ないおかげで、しっかりおまんまも食えるからだろう。


 「今度は泊まっていけるんだろうね!」

 「ああ、勿論だ!御役目が有るから、明日には出立して浜松城へ向かわないといけないけどな。俺にしか出来ない御役目があると仰せになられているんだ。ここで御期待に御応えしなきゃ申し訳ないからな」

 「うんうん、私はお前が元気でいてくれるなら、それだけで幸せだよ」

 おっ母は本当に優しい人だ。俺も早く出世して、生活を楽にさせてやりたいもんだ。

 綺麗なおべべを着させてあげて、美味しいおまんま食べさせてあげて、真冬に冷たい水で辛い作業をするような日々から解放してやりたい。

 そして孫をあやし乍ら笑い続けられる。そんな生活を早く送らせてやらないとな!


 「兄い!」

 「小竹、久しぶりだな!」

 畑の反対側にいた小竹が駆け寄ってきた。

 その隣には妹のあさひの姿もある。

 小竹は満面の笑み。あさひも前と違って、見知らぬ他人を見るような顔をしてはいない。きっとおっ母や小竹が話をしてくれたんだろう。


 「それにしても驚いたぞ、兄い!兄いの御主人様が、まさか武田家の御殿様の御次男で、この遠江国を任されているだなんて!」

 「二郎様はホンに凄い御方だ!俺の働きをしっかり見てくれているんだ!一緒に働いている連中も、俺と同じで百姓上がりだったり、人買いに売られたりした連中でな、俺に対しても分け隔てなく接してくれる。本当に運が向いてきたんだよ!」

 「兄い、良かったな。良い御殿様に出会えて!」

 小竹も喜んでくれている。そういえば、小竹に聞いておかないといけない事があるんだった。

 治水工事が終れば、俺も侍大将だ。そうなると家臣が必要になる。

 第一候補は身内、要は弟である小竹になるんだが、俺は戦場には出ない。内政専門だからだ。

 そうなると、自然と小竹も内政専門になる。それには読み書き計算が必須だ。


 「なあ小竹、お前は読み書きは出来るか?出来れば計算もだ」

 「あんまり、だな。計算はまだしも、読み書きとなるとなあ」

 「読み書きは身につけておけ。絶対に役に立つ。俺も独学で身に着けたけどな、出来るのと出来ないのとでは、大きく違うんだ。それにな、ここだけの話、威張りくさっている侍であっても、読み書きは出来ない連中がいるぐらいなんだよ」

 おっ母と小竹が『まさか!』と驚きの声を上げた。

 ああ、その気持ちはよく分かる。俺だって初めてその事を知った時には、心の底から驚いたもんだ。

 そりゃあ、あれだけ威張り腐っているんだからな。俺達みたいな無学な百姓より、頭が良くて当然だ。それが違った、となればなあ……


 「本当だ。祐筆って言ってな、書く事の出来ない主の代わりに、文を書く御役目があるぐらいなんだよ。まあ忙しすぎて書いてる暇が無いとか、俺の御殿様みたいに目が見えないから文を書くのが遅すぎて代筆させてる、という場合も有るけどな」

 「日吉、お前の御殿様は目が見えないのかい?」

 「正確には生まれつき、瞼が本当に少しだけしか開かないそうだ。おかげで文を書くにしても、物凄く時間がかかると仰っていた。でも幼い頃から必死になって読み書きを覚えられたそうだよ。頭は良いが、それ以上に凄い努力家な御方なんだ」

 実際に瞼の両側を摘まんで無理矢理目を開く真似をした俺を見て、『へえ』と感心したような声を上げるおっ母。いや、俺も嘉兵衛(松下之綱)様から話を聞かされた時には驚いた事を思い出す。

 そういえば、嘉兵衛様は今も御元気だろうか?二郎様が俺を譲って貰った礼として、貴重な砂糖を嘉兵衛様の所領で作るように手配をされた事は聞いたんが……いずれは御挨拶に伺って、感謝の気持ちを伝えたいわ……


 「でも、兄い。御殿様は大変、恐ろしい御方とも聞いたぞ?」

 「ああ、それも事実だ。民や御味方にはとても御優しい御方だ。面倒看だって良い。相手が百姓だろうが商人だろうが、分け隔てもしない。主として、これ以上の御方はいないと断言できる。だが一度敵に回った者に対しては、とことん冷酷非情になる事の出来る御方でもあるんだ。三河で盲目の殺戮者と呼ばれたぐらいだからな。敵対した一向宗門徒が皆殺し、三河の吉良家という、京の公方様の御一門ですらも、偽者として一族郎党皆殺しにされたというからな」

 「恐ろしい御方だなあ」

 自分を抱きしめるようにして、ブルッと体を震わせる小竹。

 だが、それだと困るんだ。俺の家臣となれば、二郎様に目通りする機会にも恵まれるだろうからな。

 となると、少し安堵させてやらないと。


 「敵に回らなければ何も問題はないぞ?例えは悪いが、冬眠から目覚めたばかりの母熊だと思えば良い。子熊が民や御味方だ」

 「ああ、それなら分かるな。俺も子熊を連れた母熊を敵にしようなんて、欠片ほどにも考えたりしないさ」

 「そういう事だ。だから二郎様は頼りに出来る御方なんだよ」

 納得できたのか、小竹が頻りに頷く。

 ま、こんなところだろうな。あとは実際にお会いして、御言葉をかけて戴ける機会に預かれば、実感できるだろう。

 二郎様を信じて間違いは無いのだ、と。


 「そもそも、お前達を避難させる事が出来たのも、俺の相談を二郎様が真剣に受け止めて、考えて下さったおかげだからな。俺には感謝の念しかないわ」

 「そういえば、おかげでみんな、無事だったよ」

 「そうか!みんな無事だったのか!」

 視線を逸らすと、離れた田畑から近付いてくる人影があった。目を凝らしてみれば、見覚えのある顔だ。

 俺が家出して以来、一度も見る事の無かった顔だ。

 だが、誰なのかはすぐに分かった。


 「智姉!智姉か!」

 「久しぶりだねえ、日吉!お前が家出したと知った時には心配したよ!無事でよかった!」

 「心配かけたな、でもこうして元気でやってるよ!」

 智姉にも、随分と心配をかけたみたいだな。

 便りの一つも出せず、顔見せもせず……うん、心配させて当然だな。

 自分の食い扶持稼ぐだけで精一杯だったとは言え……いや、これからしっかり顔を見せる様にすれば良いんだ。


 「そういえば、お前、嫁さん貰ったんだって?ここの御領主様の一人娘だって教えて貰ったよ?」

 「ああ、そうだよ。元は許嫁がいたんだが、今川の殿様がまだ元気だった頃に、今川から来た与力に殺されそうになって信濃へ逃亡していたそうだ。で、武田家が支配するようになってから戻って来たんだが、その時、許嫁の隣には信濃で結婚した奥方様がいてな」

 「あ……うん、何となく分かったわ」

 智姉は理解してくれたか。

 まあ智姉の想像は分かるぞ?

 虎が気落ちして、引き籠もったと思っているのだろうな。実際は引き籠もるどころの話ではなかった訳だが。


 「虎――俺の嫁の名前なんだが、虎は激怒して出家したんだ。次郎法師と名乗るようになってな、自分は生涯未婚を貫く!御家は戻ってきた許嫁に継がせれば良い!って。舅殿は娘を叱る事も出来ないし、かと言って戻ってきた婿の気持ちも理解出来なくもない、と板挟みになったそうでな」

 「ああ、御領主様、御優しそうな御方だったもんなあ」

 「舅殿は御優しい御方だぞ。それはともかく、二郎様が俺との縁談を持ち込んだのは、その事があった後なんだ。当時は出家して尼だったんだが、二郎様が説得して還俗して貰って、俺の嫁さんになったんだ。虎と言う名前は、還俗した時に名乗るようなった名前だな」

 それにしても勇ましい名前だと思う。

 何でまた、虎と名乗るようになったんだろうか?理由について尋ねた事はないんだけどな。

 夫婦になって気付いたが、虎は俺には勿体ない程の妻だ。気立ても良いし、細かい所まで気を遣ってくれる。武家の作法に疎い俺に、作法を教えてくれたりもした。


 「まあ確かに腕っぷしは強いんだけどな。槍と弓は使える、馬にも乗れる、って言っていたしなあ」

 「……日吉、お前より強いんじゃないかい?」

 「強いぞ。俺の腕なんて、たかが知れてる。二郎様にも戦働きはせんで良い、って言われてるぐらいだしな」

 喧嘩になったら、間違いなく俺は負ける。自信を持って断言できる。俺の奥さんは強いのだ。

 ……ちょっと情けなくなってきたぞ、俺。

 話を変えるか。これ以上話していると、自分が情けなく思えてくる。


 「おっ母、教えて欲しい事がある。おっ父(木下弥右衛門)の事だ」

 「あの人の事かい?」

 「ああ、二郎様からの御役目に関わる事でもあるんだ。おっ父が仕えていたという、蜂須賀って御家に用があるんだよ。俺個人は面識が無いからな、おっ母なら何か知っているかもと思ってな」



弘治二年(1556年)十月、尾張国、蜂須賀城、蜂須賀利政――



 「俺が蜂須賀利政、小六と呼ぶがよい。それで、其方が我が父、正利に仕えていた木下弥右衛門の息子か」

 「はい、仰せの通りで御座います。某は井伊藤吉郎と申します。今は遠江国を治める武田二郎信親様の配下として、足軽大将を拝命してございます」

 「ほう?なかなかに評価されておるようではないか。それで、此度は何の用があって、このような場所まで来たのかな?」

 そう、それが重要だ。

 死んだ親父の家臣の息子。まあ騙りかもしれんが、追い返す訳にもいかぬ。相手は皆殺しの信親の家臣を名乗っているのだからな。

 襟元を正し、気を引き締める。さて、どのような用件であろうな?


 「二郎様は蜂須賀殿の協力を望んでおられます。正確には、美濃川並衆の力を」

 「川並衆だと?確かに木曽川の水運を牛耳ってはおるが、今は六角と斎藤の争いのおかげで、木曽川の水運は死んでおるも同然。何も出来んぞ?」

 「はい、それは承知しております。協力して頂くのは、争いが終わった後で御座います。二郎様は美濃の戦が年内には終わる、と申しておられました」

 年内、となるともうすぐ終わる、と?

 確かに美濃領内は悲惨な状況だと、馴染みの連中から聞いてはいるが。それでも、あと二月足らずで終わるとは……何か根拠でもあるのか?


 「領内は戦で荒れ果て、国境は閉ざされて塩を絶たれている。斎藤家に対して、不満が溜まっているのは間違い御座いませぬ。二郎様はその限界が訪れると御判断なされておられるので御座いましょう」

 「まあ、言われてみれば、その通りだな。それで、争いが終ったら、という事か」

 「はい。木曽川を熟知した川並衆にしか出来ぬ仕事を頼みたい、との事で御座います」

 これまで俺は山城守(斎藤道三)様に忠実に仕えてきた。俺の諱、利政も山城守様の偏諱を戴いた物でもある。道三様が尾張救援の為に兵を募った時には俺も兵を引き連れて参じている。だが結果は誰もが知る通りだ。

 主、山城守様をお見捨てになった義龍には、何の義理も無い。それどころか斎藤家は六角家の侵攻を受けて存続その物が危ういだろう。その事は馴染みの連中から手に入る情報によって、簡単に推測できる。


 更には、この蜂須賀城の場所だ。この地は、一応は尾張国内にある。そして尾張国は武田家が支配しているのだ。

 そんな状況で、僅か四百貫の所領しかない蜂須賀家が、斎藤家の庇護すら無く武田家の命に反すること等、出来る訳が無い。やれば滅ぼされるだけだ。

 だが武田家の御次男、二郎信親様と繋がりが出来るというのは有難い話でもある。今は遠江国を任されていると聞いているが、そのような御方との繋がりは、そう簡単に得られる物でも無いからな。

 しかし、何をやらせようというのだろうか。


 「その御役目について、何か聞いておるか?」

 「某も、聞いてはおりませぬ。時期が来たら使者を送る、とだけ」

 「そうか、聞いてはおらぬか」

 となると、余程に重要な事という事になるな。策は密なるをもって良し、とも言う。面白い。しかし川並衆を必要としているとは、どのような思惑なのやら。

 ただ川並衆にしか出来ぬ事を遣り遂げれば、蜂須賀家に対する評価は間違いなく上がる。御家存続も考えれば、御期待には御応えしたい所だ。


 「二郎様に宜しく御伝えして戴きたい。使者を御待ちしており申す、と」

 「ははっ。必ずや御伝えいたします。ところで、やはり美濃は悲惨な状況なので御座いますか?」

 「まあ、その通りだ。馴染みの連中から伝え聞いてはいるのだが……」



弘治二年(1556年)十月、遠江国、浜松城、ゆき――



 「二郎様、井伊藤吉郎、ただいま戻りました」

 九月に二郎様の呼び出しを受けて登城した藤吉郎殿が、役目を果たして帰ってこられました。

 向かった先は美濃と尾張の境。少々危険な場所で御座いました。

 怪我をされた様子は御座いませぬ。本当に良う御座いました。


 「無事で何よりだ。後で湯殿を使うと良い。それで首尾は?」

 「蜂須賀小六(蜂須賀利政)殿の協力、取り付けました。使者を御待ちしております、との事」

 「うむ。六角家には領内で策を講じる許可は貰っている。これで長島は何とかなるな」

 これで後は梅雨を待つだけになりました。

 長島に潜伏中の味方の存在は、未だにバレてはおりませぬ。そして分かった事で御座いますが、やはり普段は城内の兵は少ないとの事。百姓兵主体ですから当然で御座いますが。

 おかげで策の成就に一歩近付く事が出来た、と二郎(武田信親)様も喜んでおられました。


 「ところで美濃の状況について分かった事はあったか?」

 「小六殿によれば、悲惨な状況だと申しておりました。干殺しにされるという噂が流れたところに、義龍による塩の没収と食料の高騰。民は美濃から逃散し、国人衆は斎藤家を見限り連合して刃を向ける者達も出てきている、と」

 「なるほどな。六角家も暴れるだけでなく、裏でも動いているようだな」

 流言飛語は六角家の仕業で御座いましょう。

 二郎様は動いていないからで御座います。それはともかく、斎藤家が降伏するか、或いは内乱に陥るかは時間の問題になったと申せましょう。恐らく年内には結果が出る筈。それを察したからこそ、明智殿に誘われた竹中殿も美濃を脱出したのかもしれませんね。


 竹中重元殿が仕官してきたのは九月半ばで御座いました。

 今では侍大将として、火部隊の弓騎兵部隊を任されております。そして明智殿は種子島の習得にかかりきりになっておられました。

 元より、才を秘めておられたらしく、種子島の腕はメキメキ上がっている、との事。それを聞かれた二郎様は、満足そうに頷かれておられました。


 ちなみに御二人とも、浜松へ来て一番驚いたのは銭湯の存在だったそうで御座います。一人八文で湯に浸かれる。営業時間は辰の刻から酉の刻まで。二郎様はこれを城下町に四ヶ所、お造りになられました。

 水源は東にある馬込川。二郎様は馬込川の途中に仕切りを設けて、高さ一間ぐらいの滝をお造りになられました。そこから十間ほど西側に水を引き込まれたのです。

 そこには大きな家のような物があり、中には二郎様が揚水水車と名付けた巨大水車が設置されておりました。外見は水車が五台横に並び、その力で水を汲んだ桶が高さ六間ぐらいの高さにまで昇って、中身を用水路に吐き出すのです。


 用水路は二郎様に『上水道』と名付けられ、高さを維持したまま浜松の城下町まで引っ張られております。用水路自体はローマン・コンクリート製で非常に頑丈で御座います。

 ですが二郎様は『地震が来た時に壊れると困るな』と仰られ、両側を土で階段状の斜面になる様に整地され、そこに竹を植えられました。また人の交通の妨げにならぬよう、上水道の下には所々に幅一間ほどの通路が設置され、行き来が可能にもなっております。

 上水道の水は幾つか枝分かれし、銭湯や城の堀、或いは井戸を確保できない場所での生活用水として提供されております。

 例えば銭湯へ入ってくる上水は、まずは煉瓦作りの給湯設備と名付けられた場所に入ります。竹炭を燃料にして、お湯にするのが役目になります。そこから木製の配管を通って銭湯の湯船へと注がれる、という仕組みです。

 この上水道はグルッと城下町を回って、馬込川下流に繋がっております。つまり使い切れなかった水は、そのまま馬込川に戻る仕組みなので御座います


 そして重要なのは、銭湯で排出される排水になります。

 まず銭湯自体は、少し高床の建物になっている。そして排水は床下に設置された『浄水槽』と呼ばれる装置でろ過された上で、上水道とは別に用意された『下水道』と呼ばれる排水路を通り農業用水の一部として使われつつ、こちらも馬込川下流に排水される仕組みなので御座います。

 何でそんな面倒な事をするのだろうか?普通に捨ててはダメなのか?二郎様に質問させて戴きましたが、よく理解出来ませんでした。とりあえず分かったのは、石鹸のカスを取り除く事と、垢とかが流れ過ぎると水が肥えて悪影響が出る、という事で御座います。水が肥えるのは良い事だと思うのですが、何故駄目なのでしょうか?


 尤も、二郎様の下で働く私として重要なのは、この銭湯の売り上げで御座います。

 利用客は日に千三百人前後。一人八文で月間三百十二貫文。それが四カ所で千二百四十八貫文。年間で一万五千貫文になります。

 浜松城城下で暮らす民の数はおよそ一万。民からも銭湯の増加の要望が出されており、二郎様は銭湯追加計画の案を山と計画中なので御座います。二郎様曰く『水源の確保が大変なんだよ』との事で御座いましたが。


 ちなみにこの銭湯、酉の刻から半刻、常備兵や直属部隊限定で毎日無償開放されております。

 特にこの処置を喜んだのは雷の硝石作り担当者達で御座いました。何せ集めた糞便相手に肥料作りや硝石作りを毎日行っているのです。臭くなるのは当たり前と言えば当たり前。毎日、石鹸で体を洗えると評判は非常に高う御座います。

 ……家族に気を遣わなくて済む、と聞いた時は思わず泣きそうになってしまいました。


 それとこの銭湯、湯沸かし担当は戦で傷を負って戦えなくなった人達が担当しております。

 幸い、二郎様直下ではそこまで大怪我した者達は出ておりませぬが、それでもかつての為政者の下で怪我した者達はいるので御座います。

 そういう人達が働ける場所という役目も持っておるのです。


 「ところで藤吉郎、甲斐の堤防はどうだ?」

 「かなり進みました。来年春には釜無川の施工は終了。用水路は二割ほどが完成しております」

 「ならば釜無川の人員は笛吹川に回そう。あちらの血吸虫も対処せねばならんからな。それと笛吹川は他の者に任せろ。お前は釜無川が終ったら、浜松へ来るのだ。良いな?」

 藤吉郎殿が『心得ました』と頭を下げられました。

 ここで堤防工事の陣頭指揮に拘らぬ、という事は、本当に大丈夫と言う事なので御座いましょう。

 それだけ自信を持って後を任せられるのなら、成果の方も期待出来そうですね。


 「藤吉郎は侍大将に昇格の上で秘書方に異動。俺の内政――特に浜松城下町の町作りを中心に励んでもらう予定だ。そうなると藤吉郎自身も家臣が必要になるだろう。心当たりはあるか?」

 「弟の小竹や、姉の旦那に声を掛けてみようかと考えております」

 「良いだろう。読み書き計算が出来ないなら、孤児達に教えている施設で学べるように手配してやる。その時は声を掛けてくれ」

 藤吉郎殿が退室し、執務室が静かになる。少し離れた所から、種子島の調練と思しき発砲音が連続で聞こえてきた。

 甲斐時代から聞き慣れた種子島の轟音。最初は顔を顰めてしまった物ですが、今はすっかり慣れてしまいました。

 

 「……秋か。次の梅雨になれば長島だな。飛騨から連絡はあったか?」

 「柴田殿から、美濃との境の砦で練兵を開始したと。数は二千五百、との事で御座います」

 「分かった。兵糧の代金はこちらで処理だ。これも策の一つ、頼むぞ」



 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 今回は藤吉郎による裏方工作&美濃国攻略編になります。

 藤吉郎の行動は次回に繋がるので割愛。

 美濃国は六角家に攻め込まれ、国境の街道は武田家が封鎖。道三亡き後の義龍が頑張るが、という状況です。ただし詰んでます、どう考えても。田植え時期に攻め込まれ、秋まで戦。兵糧無しで、これからどうすんのよ?って感じです。


 あと蜂須賀小六ですが、拙作においては尾張国蜂須賀村(400貫?)の領主で、川並衆に影響力を持っている。藤吉郎の父親、弥右衛門が親父の時に仕えていた、という設定を用いております(武功夜話準拠)。武功夜話だと、これが縁となって秀吉が織田家に取りなして、蜂須賀家は織田家に与したそうです。

 ちなみに少年時代の秀吉が橋の上で寝ていた所を、野盗の親分であった小六に蹴り起されて・・・という有名な逸話は創作との事。子供の頃に読んでた本だと、こっちだったな。


 次回は長島攻め。主人公がどんな攻略法を思いついたのか、是非考えてみてください。


 それでは、また次回も宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 月1300人じゃなくて日1300人かな?
[一言] 竹中半兵衛も来たか。人材厚くなってきたなー。
[一言] この世界の浅井家や六角家の観音寺騒動がどうなるかね。 色々と起こる史実との違いが楽しみだね!
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