8.冒険者4
ダンは支度にかかった。店の棚を物色し、道具を揃える。服も冒険仕様のものに着替えた。
「よし、じゃあさっそく出発しよう。親方たちに見つかると面倒だ」
仰々しく武装して出てきたダンを見てロッタは少し笑いながら驚いた。
「ちょっと待って、あなたも一緒に行くの?」
「もちろんそうさ。僕も竜ってやつを一目見たくなった。まあもちろん存在すればの話だけれどね。それに、一人じゃ危険だ。ダンジョンに関する知識には自信があるから、僕はなにかと役にたつと思うよ」
「ありがとう、ダン」
「じゃあ一応、ここにサインだけして貰えるかな」
ダンは同意書を机に置いた。同意書には、もしダンジョン内で怪我や死亡した場合でも、ダンジョン屋は責任を負わないという旨が記載されていた。ダンジョン屋は基本的には冒険者のレベルに合わせて、大きな危険がないと判断したダンジョンのみを紹介するのだが、ごく稀にその判断が誤っている場合がある。下見が十分でなかったとか、ダンジョン内での突発的な事故、冒険者の準備不足、その他にも様々な理由で、冒険者の何割かは戻らない。
同意書は会員登録のときにもサインをするが、毎回の冒険の前にも改めて確認することが決まりとなっている。
それから、前払いで料金も貰っておく。ダンジョン屋が前払いしか認めないのは、お察しの通り、ダンジョンで死なれては料金を回収できないからだ。
ロッタは役人の家というのもあってか、その年齢に似合わない大金を持ち合わせており、今回の莫大な利用料金を簡単に支払えた。
二人がさあこれから旅立つぞと≪回転扉≫の置いてある部屋のドアを開けた瞬間、反対側の壁に位置する店の入り口も開いた。なんとも間の悪いことに、親方とミリダ女史が出勤してきたのだった。
「お、新しいお客さんか?」親方がロッタを見つける。
「ど、どうも」ロッタが若干気まずそうに軽く会釈した。
「親方、今日は≪回転扉≫を一つ貸し切りにして貰えますか?こちらのお客さんのお目当てのダンジョンを探さなきゃいけない」
突然の提案に親方は事態を飲み込めないでいたが、冒険への期待感に目を輝かせているダンを見て何かを察したようすで、言った。「お代は沢山頂いたんだろうな?」
「ええもちろん、こんなに羽振りのいいお客さんは初めてですよ」
「よし」
親方の許しを得るやいなや、ダンは≪回転扉≫のダイヤルを適当な山岳ダンジョンに合わせて、ロッタと共に消えていった。
残された親方とミリダは顔を見合わせて困ったような眉で微笑んだ。
「あいつはいつも違う女を連れているな。しかも美人だ。一体どうなってる」
「後の仕事は私たちにまかせて自分はデートとは、いい御身分ですねホント」
仕方がないなといった感じで、二人とも自分の仕事にかかる。店内を一通り確認して回った後、ミリダが叫んだ。
「あの野郎、開店準備がてんで出来てねぇじゃねぇか!」
それもそのはず、ダンの朝の時間は、二人の美しい来客者に奪われていたのだから。
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