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1.プロローグ

はじめて小説を書いてみました!SF好きが書くファンタジーです!


 ダンジョン屋の朝は早い。開店前に、店にあるダンジョンの扉を一つ一つ丁寧に拭いておくのは、新人であるダン・ウィックの仕事だ。


 勿論、一日で店にある全ての扉を綺麗にできるわけではないので、ある程度の妥協は必要だ。客が訪れるまでの短い時間で、今日使うことになりそうな扉にいくつか当たりをつけて拭くことになる。


 ダンの勤める〈ボンド堂〉は、この街に三店舗存在するダンジョン屋の中で最も繁盛している店で、三百もの扉を備えていた。


 手のあかぎれが痛むのを我慢して、使い古された雑巾を鉄製バケツの冷水に浸す。扉全体を撫でるようにして軽く一周拭いて、≪回転扉≫のダイヤルを回し、次の扉も同じように流れ作業で片付けていく。


 ダンジョン遺物の一つであるこの≪回転扉≫は、複数の扉を一箇所に纏めて置いておく事が出来る優れた代物で、これのおかげでダンジョン屋は、狭い敷地内に膨大な数の扉在庫を抱えていても、自分たちの店の壁を破壊してまでスペースを空けないでよくなった。


 なぜこのような便利で荒唐無稽な珍品がダンジョン内に存在しているか、ダンは一度気になって調べてみたことがある。普通の町人や冒険者であれば「それはそういうものだ」として受け入れ、気にも留めないような事柄だが、好奇心旺盛なダン少年にとっては、わざわざ図書館に出向くだけの価値ある関心事だった。


 王都パッフェルベルクにある大図書館には三十三万三千冊もの本が収められており、その半分ほどが学術書や専門書で、さらにその半分はダンジョンに関する記述を擁していた。


 橙色の表紙にでかい太字で〈ダンジョンの遺物について〉と題された分厚い本は、読むものを遠ざける難解な言い回しで書かれており、当時幼かったダンは面食らった。しかし読み始めてみるとこれが面白く、ちょうど幼年の男児を魅了する興味深い記述で溢れていた。


 なぜダンジョンは遺物を生成するのか、小難しい文章とは裏腹にその結論は簡潔だった。それはダンジョンがなにより人の訪問を求めているからだという。愚かな例に事欠かない人類は、遺物欲しさにその命を自ら危険な深淵に差し出すのだ。


 だがそれも今日では過去の話となっていた。ダンジョン屋という画期的なシステムが、人類から無謀な未知への冒険という因習を奪い去ったのだ。


 未知のダンジョンはまず、下見役と呼ばれる斥候が安全を確保し、さらに複数回の事務的な手続きを経て、ダンジョン協会発行のカタログに収められ、それから初めて冒険者の立ち入りが許される。何を隠そうその下見役こそ、ダン・ウィック青年の一番の得意仕事であった。





 最初に≪回転扉≫が遺物として発見されてから十数年で、人類は≪回転扉≫の人為的な生産に成功した――といっても、ダンジョン内の鉱物や各種モンスターの素材を必要とするため、大量生産には至らなかった。


 一部の富豪や物好きが≪回転扉≫を個人所有しているらしいという噂は聞くが、どう考えても現実的な話ではなかった。≪回転扉≫だけあっても肝心のダンジョンへ通ずる扉がなくては意味をなさないのだ。ダンジョンの管理は基本的にはすべてダンジョン協会に委ねられていたし、そのカタログにアクセスし、扉を購入することはダンジョン屋以外には不可能だった。


 これも噂話に過ぎないが、富豪たちの所有する扉は、協会に申請されずに横領された違法品であるというのが一般的な認識だ。違法な裏ダンジョンを所有して彼らにどんなメリットがあるのかは庶民の知るところではなかった。それが社交界で一種のステータスのような役割を果たすのではないか、というのがダンの推測だ。


 ダンも一度、扉の買い付けまでの工程に立ち会ったことがある。三日ほど前のことだ。


 〈ボンド堂〉の主人であるウィレット・ボンド親方は、昔気質の気のいいオヤジで、ダンの好奇心を放っておかない人だった。


「おい、ダン。前に扉をどうやって仕入れるか聞いてきたことがあったよな」


「ええまあ、扉のことで気にならないことはありませんから」


 ダンは将来自分の店を持ちたいと思っていたし、ボンドの下で長く働いていればその夢に近づくであろうと確信していた。ボンドもダンの仕事ぶりに満足していたし、その豊富な知識量と好奇心には感心すら覚えていた。だからこそ重要な機密である仕入れ作業に同行させようと思い至ったのだ。



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