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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者パーティーを追放された道具職人〜実は魔王すらワンパンで倒せる武器の造り手でした〜

 

「お前はクビだ、穀潰しの職人気取りが」

「……は?」

「聞こえなかったか? なら何度でも言ってやる……卑しき平民レグスキン! 今すぐオレの前から失せろ! この役立たずのゴミクズめ!」


 鬼の形相で口汚く俺を罵るのは、国の推薦により選ばれた勇者クーフェイ。

 燻んだ金髪と赤目が特徴的な優男だ。


 俺と同じ村出身の平民だが、勇者の称号を貰ったと同時に叙爵されたので一応貴族である。

 一代限りの爵位でしかないが、余程嬉しかったのか何かと理由をつけては俺を平民と罵っていた。


 何故ただの村人が勇者に選ばれたのか?

 早い話が戦争だ。

 人間と魔族の戦争が始まって数年経つ。


 これ以上長引くと勝っても損害の方が大きいと考えたのか、国王は突如女神からの神託がとか言って、ただの村人でしかなかったクーフェイを祭り上げた。


 そして魔王討伐の使命を彼に与え、僅かな援助だけして放り出すという前代未聞の暴挙に出た。

 しかも歳が近い同郷出身という理由だけで俺をサポート役に任命する横暴ぶりも発揮して。


 確かに俺の『スキル』はサポート向けの生産能力だが、俺にだって自分の意思はある。

 はいと答えるだけの人形ではない。


 とは言ったものの、実際王の命令には逆らえず……今日までの半年間、勇者のサポート役に徹していた。

 因みに俺のステータスはこんな感じ。




 レグスキン レベル1


 スキル

 ・道具作成(真)

 ・武器作成(真)

 ・防具作成(真)




 この他にも筋力とか敏捷とか、細かな身体能力が数値化されているが……そんな事は瑣末な問題だ。

 問題なのはレベル。


 まさかまさかの初期レベルそのまま。


 レベル1から少しも成長していない。

 これは俺がレベルを上げる事で叛旗を翻す事を抑制する為、レグスキンが戦うなと命じたからだ。


 俺は自分が作った武器を持つ事はおろか、防具さえ身に付ける事を許されてなかった。

 パーティー内での役割は囮と雑用が殆ど。


 サポーターと言えば聞こえはいいが、実際の役割は貴族が購入して使っている奴隷とそう変わらない。

 奴隷紋が刻まれているかどうかの違いだ。


 閑話休題。


 要するに俺達は捨て駒だった。

 国民を納得させる為、女神に選ばれた勇者でも勝てなかったという理由が欲しいから。


 しかし、ここで一つ誤差が生じた。

 国の上層部が誰も期待していなかったクーフェイが、次々と魔族の実力者を倒し始めたのである。


 レベルも上がり続け、戦う度に強くなる勇者。

 国民も湧き、誰もがクーフェイを讃えた。

 新たな仲間も加わり、今も彼の隣には二人の少女が並んで立っている。


 勇者、英雄、救世主。

 人々はクーフェイを神のように崇めたが、殆どの人間が彼の本性を知らない。


 金と名誉に飢えた獣……それがクーフェイの正体。

 旅の途中、何度彼が村娘や町娘へ強引に迫ろうとしたのを命懸けで止めたことか。


 戦闘もワンパターンなゴリ押しばかり。

 失敗しても「お前が手を抜くからだ!」と、ありもしない嘘を並べて俺に責任転嫁する始末。


 しかも彼の取り巻きが擁護するので、いつも俺ばかりが責任を取らされていた。

 クーフェイの人生という物語に、失敗はない。


 何故ならその失敗は、全て俺の所為だから。


 ……十五歳を迎え、ようやく自分のステータスを手に入れた直後に訪れた災難。

 自らの不運を呪った日は一度や二度では無い。


 クーフェイにパーティーの離脱を幾度となく進言したが、使い勝手の良い雑用係を逃したくないのか、いつも「そんな勝手は許されない、もし逃げたら国王に頼んで地の果てまで刺客を放ってやる」と脅された。


 その頃には彼の名声は頑固たるものになっていたので、もし俺が逃げていたら、勇者の機嫌が悪くなるのを恐れる国王は素直に従っていただろう。


 終わりの見えない絶望。

 未来の無い毎日。

 ストレスで頭髪の一部が白髪化したくらいだ。


 ……だけど、もし本当に魔王討伐を成し遂げたら、俺もパーティーを支えた立役者の一人として富や名声が手に入るかもしれない。


 そんな淡い希望に縋っていたが––––現実は、常に予想した最悪の一歩先を進むようだ。

 ニヤリと下品に笑いながら、勇者は告げる。


「オレはこれから魔王城に乗り込み、魔王を始末する。オレの実力なら一人でも余裕だが……万が一を考えてコイツらを連れて行く」


 クーフェイは横目で少女達を見る。

 彼女らは魔法スキルが得意だった。

 実力はあるが、俺を空気のように扱う者達である。


「だったら何故、このタイミングで俺を追い出す? どうせもう終わりだろ」

「くくっ、分かってねえなあ平民……」


 お前もなんちゃって貴族なだけで平民だろ、と言いたい気持ちをグッと堪え、彼の言葉を待つ。

 そして彼は、歪な笑みを浮かべながら言った。


「魔王討伐の栄光に、お前のような役立たずの平民が混じってたら気持ち悪いんだよ。だから雑魚は、ここで切り捨てる。くくっ、合理的だぜ」

「意味が分からない。俺が平民なのは当然だが、役立たずと言ったのは看過できないぞ。日々の雑用に、戦闘での無理な囮……お前が普段使っている武器や防具だって、少ない素材で俺が作った物だ。そのおかげで金も節約できて」

「うるせえっ!」


 全て言い終わる前に、殴り飛ばされた。

 街の中で盛大に転がる。

 レベル1の俺にとって、効きすぎる程のダメージ。


 何だよ、これ。

 最後の最後にこの仕打ちかよ。

 こっちが辞めたい時は脅迫してでも阻止したのに。


 ……ああ、分かったよ。

 無言でゆっくりと立ち上がる。

 憎悪を煮詰めながら、再びクーフェイと相対した。


「自惚れんな、お前の代わりなんて誰にでも出来るんだよ、動く道具屋!」

「プッ! アハハ!」

「動く道具屋って、ほんとその通り……! アハッ、クーフェイってお笑いの才能もあるんだ!」


 それは俺に対する、最大級の侮蔑だった。

 こいつらは、俺を人だと思っちゃいない。

 文字通りの『道具』。


 歩いて喋る、便利な道具。

 その程度の価値しかないと本気で考えている。

 理解できない、したくない。


 どうしてそこまで人を馬鹿にできる。

 クーフェイ、お前俺と同じ村で育ったよな?

 力ってのは人をあっさり変えてしまうのか?


 はは、いいよなぁお前は。

 俺も人が変わるくらいの力……手にしてみたいよ。

 さぞ気持ち良いんだろうな。


 俺はクーフェイ達に背を向けながら言う。


「……分かったよ、消えればいいんだろ」

「そうだ、そして金輪際、オレの前に姿を現わすな。モンスターと間違えて殺しちまうかもしれねえからよ! ハハハハハハハッ!」


 天下の往来で行われたクビ宣告。

 住民達は何事も無かったかのように歩き続ける。

 勇者の存在は絶対だ。


 勇者のやる事、その全てが正しい。

 狂った思想が国全体に浸透していた。

 それだけ戦争で疲弊しているのだろう。


 民衆は常に、敵となる悪を求める。

 今この場の悪は、俺だった。

 周囲の視線を無視しながら歩く。


 悪と思うなら、勝手に思えばいい。

 侮蔑と嘲笑に塗れながら、この日……レベル1の道具職人は、勇者パーティーを追放された。




 ◆




「……こんなもんか」


 勇者パーティーから追放された翌日。

 俺は自らのスキルを使い武器と防具を作っていた。

 売るも良し、装備してモンスターと戦うも良し。


 とにかく必要なのは金だ。

 クビ宣告を受ける直前に、勇者と愉快な仲間達に俺の持ち物は没収されている。


 つまり今の俺は無一文だ。

 昨日は野宿して過ごしたがずっと続けるのは嫌だ。

 故郷へ帰るにしても、旅費が必要なのだから。


 しかし出来上がった物は粗悪な木剣と木の盾だけ。

 タダで手に入る物をかき集めて作ったが、ロクな作業具も無いこの状況ではこれが精一杯だ。


 冷静に考えて、売り物にはならない。

 そうなるとやはり、自分でモンスターと戦って、素材等を売って金を稼ぐしかないが……


「……死ぬ未来しか見えない」


 情けない言葉が漏れる。

 レベル1の俺と、貧弱な装備。

 最弱モンスターにすら勝てるかどうか怪しかった。


 だが、手段を選り好みしてる暇はない。


 俺は急いで冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドとは沢山の仕事が依頼として集まる施設で、登録料さえ払えば誰でも冒険者として活動できる。


 俺も登録だけはしていたので、一応冒険者だ。

 主にクーフェイが倒したモンスターの素材を売るために利用していたっけ。


 勿論、個人的に依頼を受ける事は禁止されていた。

 どれだけ俺を冷静すれば気が済むんだよ。

 くそ……アイツの事を考えても時間の無駄だ。


「これ、お願いします」

「––––はい、確認しました。依頼内容はゴブリン五匹の討伐でよろしいでしょうか?」

「問題ありません」


 ギルドに着いた俺は早速依頼を受ける。

 選んだのはゴブリン五匹の討伐。

 ゴブリンは知性があるようで無い下級モンスター。


 本当は最下級モンスターの討伐を受けたかったが、今日は無いようなので仕方ない。

 モンスターはその脅威度でランクが分かれている。


 下から最下級、下級、中級、上級、そして最上級。


 上級モンスターはレベル40超えのベテラン冒険者が複数人で討伐に挑む程強く、最上級に至っては国軍や騎士団が出動するレベルの生きた災害だ。


 並みの冒険者が相手をするのは中級まで。


 それでも種族によって手強い相手はいる。

 自分の力量とモンスターの力量、二つの見極めが出来ないと冒険者稼業はやってられない。


 力量の見誤りは、死に直結するからだ。


 そんなワケで恐らく現在地上最弱冒険者の俺は、万全を期して最下級モンスターの依頼を受けたかったが……ゴブリン相手ならギリギリ相手にできる。


 一体ずつならという条件付きだが。

 元よりどんなモンスターが相手でも、多対一で挑むつもりは無かったので構わない。


 こうして俺の初依頼は幕を開けた。






「はっ……はっ……! くそ……! ツイてなさすぎだろ、俺……!」


 数時間後。

 俺は息を切らしながら、森の中を走っていた。

 そんな俺の背後に迫るのは……ゴブリン。


「グギャギャギャ!」

「ギ、ギギ!」

「ギャッギャッギャッギャッギャ!」


 ゴブリンは緑色の肌をした小人だ。

 腰に布を巻いているだけで、あとは裸。

 手には木製の棍棒を持っている。


 数は全部で十匹以上。

 依頼の五匹を完全に上回っている。

 運悪く大所帯の群れと遭遇してしまっていた。


 ゴブリンは通常、三匹前後で群れを成す。

 だが稀に知能の高い個体が生まれると、リーダーシップを発揮して十匹以上の群れを作る。


 その稀な群れに追いかけられている状況だ。


「はあっ、はあっ……!」

「グギャギャギャ!」

「っ!……あ」


 どうにかして脱出しないと……そう考えた時、盛り上がった木の根に引っかかって転んでしまった。

 顔面から地面に突っ込み、口内に土の味が広がる。


 その隙を見逃す馬鹿は、この場に存在しなかった。


「ギギ! ギャギャア!」

「くそがああああああ!」


 迫り来るゴブリンの群れ。

 最早逃げる事は叶わない。

 だったら……抗ってやる。


 俺は木剣を握る力を強めた。

 ずっと我慢してきた半年間。

 いつか良いことがあると願って。


 でも、違う。

 夢や目標、欲しいもの、成し遂げたい事は……待ってるだけじゃ手に入らない!


 ––––自分の手で、掴みに行かなければ!


「うおおおおおおおおおおっ!」

「グギャギャギャア!」


 一匹のゴブリンが特攻隊長のように飛び出した。

 俺はそいつに照準を合わせ、木剣を振るう。

 完全に素人の振り方だった。


 無理もない、まともに剣を振ったのはこれが初めてなのだから。

 だが––––


「ギ、ギャ……?」


 ––––ズガアアアアアアアアアアアアッ!


 木剣から凄まじい斬撃が放たれる。

 飛び出して来たゴブリンを一刀両断し、更にはその背後に控えていた群れも一匹残らず切断した。


 斬撃はゴブリンを斬るだけでは飽き足らず、木々や巨大な岩石までも斬り裂き続け……剣を振るった先が、あっという間に広野と化す。


「………………は?」


 その光景に一番驚いていたのは、俺だった。


 レベルが急上昇しているのが感覚で分かる。

 多分、森に生息していた他のモンスターも、今の斬撃で纏めて倒したのだろう。


「な、何だよ、これ……」


 震える右手を左手で抑える。

 しかし身体そのものが震えていたので、大した意味は無かった。


「まさか……」


 俺は周囲に人がいないのを確認してから、もう一度……今度は控えめに木剣を振るう。

 結果、再び斬撃が放たれた。


 先程よりも弱めの。

 また視界の先に潜んでいたモンスターを倒したのか、レベルが軽々と上がる。


「は、はは……そうか、そういう事か……」


 得体の知れない力に驚く。


 同時にずっと抱いていた疑問がようやく解消した。

 何故ただの村人であったクーフェイが捨て駒の勇者に選ばれた途端、実力が覚醒したのか。


 ……アレは奴の実力などでは無かった。

 クーフェイが使っていた武器や防具は、節約の為に店では買わず、全て俺が作った特注品。


 つまり––––凄いのはクーフェイでは無く、俺の作った武器や防具の性能だった。

 この粗悪な木剣が証拠になる。


 俺にあんな斬撃を放つ技術は無いし、そういう特殊なスキルも保有してない。

 そうなると武器の性能としか言えなくなる。


 なんだ、そういう事かよ。

 俺はずっと戦うことを禁じられていた。

 調子に乗っている阿保勇者の所為で。


 だから今日まで気づけなかった。


 俺の武器や防具の、真の性能に。

 そしてクーフェイは勘違いをしたのだ。

 道具の性能を、己の実力であると。


「……は、ははははははははははは! ははっ、はははははははははははははははははははははっ!」


 笑いが止まらない。

 歪な表情で狂ったように笑い続ける。

 だが許してほしい。


 ––––『力』はずっと、俺の中にあったのだから。






 ◇






 ––––数日後。


「これでトドメだ! 死ね魔王!」

「く……!」


 勇者クーフェイと仲間達は魔王を追い詰めていた。


 自分達の実力を勘違いしたまま。

 二人の少女が魔法で魔王の動きを封じ、そこにクーフェイが最大火力の光の斬撃を斬り放つ。


 魔王は纏っている鎧の防御力を信じ、耐える。

 だが神々の技巧すら軽く超えるレグスキンが造った魔剣は、魔王の鎧をあっさりと粉々に砕いた。


「……へぇ」


 クーフェイが意外だと表情を緩める。

 無骨な鎧と兜の中から現れたのは、長い金髪と尖った耳、紫色の瞳を持った美少女だったからだ。


 今の魔王の姿は首元と胴体だけを覆う黒色の薄いインナー姿で、両肩から伸びた腕と手はガラス細工のように美しく、スラリとさらけ出された両脚はスタイルの良さをこれでもかと強調している。


 途端、クーフェイの目的が魔王討伐から、目の前の女をどう弄ぶかに変わっていた。

 対して魔王は消えぬ闘志で勇者を睨む。


「勇者よ……まだ勝負は終わってないぞ」

「その顔で睨まれても、全然怖くねえなあ〜? 寧ろ嬉しくて俺の息子が元気になっちまう」

「……下品な男だ」

「その下品な男にお前は今から遊ばれるんだよ!」

「っ!」


 飛ぶように駆けるクーフェイ。

 魔王は魔法を唱えて迎撃しようとしたが、圧倒的な速度に追いつけず、あっさりと背後を取られた。


 そしてクーフェイはニヤニヤと笑いながら、魔王の豊満な胸を撫で上げる。

 生理的な嫌悪感に苛まれる魔王。


 彼女は強い口調で彼を非難しようとしたが。


「無礼者! 戦いを何だと思って––––」

「喋るな、これからお楽しみタイムなんだからよ」

「がっ……!」


 背中に強烈な打撃を受け、体がくの字に曲がる。

 クーフェイはそのまま魔王の髪を乱暴に掴み、床へ叩きつけると馬乗りになった。


 そして魔王の纏っているインナーを雑に破る。

 巨大な果実が外気に触れ、先がピクリと揺れた。

 鎧の中で蒸されていたのか、若干湿っている。


「き、さま……!」

「うひょっ、良い乳してるなあ〜こりゃあ食い甲斐があるってもんだぜ」

「やっ、やめろ!」


 静止の声虚しく、揉みしだかれる魔王の胸。


 彼女は抵抗の為魔法を唱えようとしたが、魔法封じの指輪によりクーフェイが魔王の体に直接触れている間、彼女は力を行使する事が出来なかった。


 指輪も当然、レグスキンが作った物。


「ぐっ、あ……この、ニンゲン……! お前達は……いつも下劣で卑怯だ……!」

「ああ? オレらは戦争やってんだぞ? 戦争ってのは人の嫌がる事をした方が勝つんだ」

「ふざ、けろ……! そもそもこの戦争自体、お前らニンゲンが……戦士でもない、ただ平和に暮らしていただけの魔族を、一方的に殺戮したからだろうが! この、クズ共があああああああ!」


 悔しさのあまり涙を流す魔王。

 だがクーフェイにとって、彼女の涙も興奮をかきたてるスパイスでしかなかった。


「は、俺の手にかかれば、魔王と言えどただの女に成り下がるな。んじゃま、食うか」

「呪ってやる! 貴様の末代まで呪ってやるうううううううううううっ!」

「やれるもんならやってみろ、魔王ちゃん♡ それが出来ねーからこうなってんだろ」

「……ニンゲンンンンンッ!」


 怒りと悔しさ、何より処女を奪われる事への悲しさに、魔王の感情はぐちゃぐちゃにされていた。

 こうなったら、舌を噛み切って死んでやろう。


 薄暗い思考に支配されかけた瞬間。


「……あ? 何だこれ……? 力が……抜ける?」


 クーフェイの体から『圧』が消えていく。

 さっきまであった強者特有の気配が、今では少しも感じられない事に困惑する魔王。


 だが、チャンスが回ってきた。

 即座に思考を戦闘モードに戻した魔王は、素早く魔法を唱えてクーフェイを弾き飛ばす事に成功する。


「《ブラックウェーブ》!」

「ぐあっ!?」


 黒色の波動に吹き飛ばされたクーフェイ。

 今までならダメージにすらなってない攻撃。

 しかし、今の彼は……


「あ、ああっ!? い、痛い痛い痛い!? なんだコレなんだコレなんだコレ!? なんで今更こんなので痛いんだよ、意味分かんねーよ!」

「く、クーフェイ?」

「どっ、どうしたのよ……」


 痛みに悶絶するクーフェイ。

 その様子を見て驚く二人の少女。

 こんな勇者を見るのは初めてだと動揺している。


「……理由は分からぬが、今の貴様からはなんの力も感じない。その命、貰い受けるぞ」


 左腕で胸部を隠しながら立ち上がる魔王。

 彼女から放たれるビリビリとした魔力に、勇者パーティーは震える事しか出来なかった。


「せめてもの慈悲だ、貴様ら二人は一瞬で終わらせてやろう」

「え」

「それってどういう」

「《ライトニングエッジ》」

「「––––」」


 雷の刃が、二人の少女の首を切り裂いた。


 噴水のように吹き上がる鮮血。

 彼女達の血をモロに浴びるクーフェイは、恐怖で動かない両足にどうしてと疑問を投げかけていた。


(さ、さっきまではオレの圧勝だったのに……! 分かんねえ、何がどーなってんだよ! 大体魔法封じの指輪の効果も発動してねえ! あの道具屋、不良品渡しやがってえええええ!)


 現実を直視出来ず、心の中ですらレグスキンに責任をなすりつけようとする哀れな勇者。

 その命のカウントダウンは、始まっていた。


「貴様の仲間は、苦しみを与えずに殺した。しかし、貴様は違う……」

「ひ……!」

「私も女だ、この体に働いた数々の無礼……その身を持って償ってもらうぞ、勇者」

「ま、まて! 分かった、降参する! オレはもう魔族には関わらない!」


 この期に及んで自らの非を認めないクーフェイ。

 無論、何を言ったところで魔王の行動は変わらず、苦しみの果てに彼は死を迎えるのだが。


「《ウィンドエッジ》」

「あぐっ!?」

「《アイスエッジ》」

「ひぎっ!?」

「《ライトニングエッジ》」

「あ、が」

「《ウォーターエッジ》」

「……が、が」


 数々の魔法でクーフェイの四肢を切断した魔法。

 そして火属性の魔法で傷口を焼き、失血死しないようにしてから、仰向けに倒れる彼の前に立つ。


 そして……勢いよく足を振り落とし、クーフェイの股間を踏み潰した。


「フンッ……!」

「ぎいああああああああああああっ!?」


 悶絶するクーフェイ。

 ありとあらゆる痛みが全身を駆け回り、気絶しては痛覚で目覚め、また気絶してを繰り返す。


 その様子をつまらなそうに眺めていた魔王は、トドメを刺そうと彼が使っていた剣を手に取る。


(奇妙な武器だ……今思えば、勇者ではなく、この武器やアイテムから強烈なプレッシャーを感じたような……まあよい)


 剣をクーフェイの喉元に突きつける魔王。

 紫色の瞳は震え上がる程の冷たさで彼を見下ろす。

 クーフェイは命乞いすら出来ず、既に虫の息。


「愚かなニンゲン、その象徴のような男よ。来世では慎ましく生きるんだな」

「あ……」


 剣の切っ先は、容赦なく勇者の喉元を貫いた。






 ◇






「ふぁ〜あ……今日も暇だな」


 俺が自らの力に気づいて三年が経つ。


 遠隔操作で勇者の装備を機能停止に追い込んだ俺は、クーフェイの影響力が届いてなさそうな町の町長に恩を売り、そこで道具屋を営んでいた。


 あらから勇者の噂は聞かない。


 魔王に寝返ったとか、死亡したとか……とにかく噂が噂を呼び一時は大混乱した民衆だが、戦争が落ち着くと次第に勇者の事を忘れていった。


 奴の末路を正確に知っているのは、俺と奴にトドメを刺したであろう魔王だけ。


 あの日、武器を通じてクーフェイが魔王と戦っている事を知った俺は、遠隔操作で武器や防具、その他マジックアイテムを全て機能停止にした。


 道具頼りのアイツらに魔王が倒せるとは思えないし、実際クーフェイの生命エネルギーは少しも感じ取れなかったので、まず間違いなく死んだだろう。


 遠隔操作はやろうと思ったら出来た。


 無意識の内に仕込んでいた機能らしく、気づいた時はどのタイミングで仕掛けてやろうかとワクワクしていたと記憶している。


 しかしそれももう三年前。

 流石に勇者の事などどうでもよくなっていた。

 今は店を営みながら、悠々自適に暮らしている。


 生涯の趣味も見つけたしな。


「あのー、誰かいませんかー?」


 そんな時、店の扉が開かれた。

 来店を知らせる鈴がなり、風と共にひとりの客が俺の店にやって来る。


「いらっしゃい、何の用だ?」

「はい。実は私先日この町に来たばかりの新人冒険者で……町長さんに相談したら、このお店へ来ればきっと店主さんが力になってくれると」

「へぇ、新人冒険者なんだ」


 来店した人物をカウンターから眺める。


 十五歳くらいの少女だ。


 桃色のセミロングに大きな瞳。

 黒タイツに包まれた太ももは、肥満と言うほど膨れてはいないが、平均よりもやや太い。


「男が好きそうな良い足だな……」

「あ、足……? っ! い、いきなり何処見ているんですか、もう!」

「ああ悪い、仕事柄つい」


 自分の太ももを両手で隠す少女。

 顔も申し分なく可愛い。

 初々しく、正直言ってかなり好みの美少女だ。


「新人冒険者なんだろ? だったら俺の作った武器や防具を貸してやる。世界一の品物ばかりだから、大切に扱えよ?」

「え……? そんな、いいんですか?」

「ああ、勿論。ただし……防具はこれを着てもらう! この前作ったばかりの新作だ!」


 カウンターの下から、ヒラヒラした布を取り出す。


「それ、なんですか?」

「まあまずは試着してみてくれ。試作品だし、気に入ったら持って帰ってもいいから」

「そういう事なら……着させてもらいます」

「おう、試着室はあっちだ」


 戸惑いながらも町長の言葉を信じているのか、素直に俺の用意した『防具』を身に付けようとする少女。

 そして数分後……


「な、何ですかコレ!? これで一体なにが守れるんですか!? おっ、教えてください店主さん!」

「おお〜、似合ってる似合ってる」

「や、感想とか要らないですから!」


 顔を真っ赤にしながら叫ぶ少女。

 彼女が下半身に纏っていたのは、タイツのように肌に貼りつくタイプの黒色の布防具だった。


 それだけならただのインナー用衣服に思えるが……サイズが極限まで彼女の体と一致しているので、尻や股の間にあるほにゃららがくっきりと見えていた。


「いや〜、その太ももの張り具合、最高だな。我ながら良い仕事をしたぜ……」

「意味不明です!? あの親切な町長さんの紹介だから来たのに、こんな……うぅ!」

「はは、こんなの軽い冗談だって。ちゃんと初心者用の装備は貸してやるからさ。ほら、金を取らない代わりの目の保養ってやつだ」


 それに実際、その布防具も凄い性能を秘めている。

 身に纏っている間は敏捷の数値が爆発的にアップし、水の上すら歩行可能になる優れものだ。


「うう、ほんとですかあ?」

「勿論だ。ところで君、名前は? 俺はレグスキン、見ての通りただの道具屋だ」

「ただの変態さんにしか見えませんが……私はシウラです、田舎から来ました」

「そうか、よろしくシウラ。そして出来る事なら、今後とも俺の新作の実験台になってくれ」

「さようなら!」

「あっ、待ってくれよおい! てかお前、そのカッコのまま外出ていいのかよ!」

「キャアアアアアアアッ!?」


 店から飛び出すシウラを追いかける。


 ––––太ももが少し大きい彼女と出会った事で、俺の日常はまた変化するのだが……まあ、それは別の機会があったら話すとしよう。

お読み頂きありがとうございます。

この作品は単体でも完結していますが、評判が良かったら連載化も視野に入れています。


短編版との差別化としては設定や描写の追加、レグスキンの三年間の詳細やシウラとのドタバタラブコメ等を案として考えています。また今回はテンポ優先で魔王ちゃんに勇者を処してもらいましたが、連載版ではレグスキンと勇者の直接対決からのざまぁも考えています。


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