精霊
「おーい、起きてるー?」
何者かが、ガロウに呼びかける。周りを見渡すと、何もない真っ白な空間が広がっている。
「お前は誰だ。ここはどこだ」
うっすらと赤く、ぼんやりとした何かが答える。
「突然質問攻めだね~。僕は火の精霊のかけら、まあ火の精霊と思ってくれていいよ。ここは君の意識の中・・・かな? よくわかんないや」
ガロウは少しの沈黙のあと、口を開いた。
「・・・俺になんのようだ」
「なんのようって君が宝石に触ったんでしょ。まあ、僕も君を探していたんだけど」
「俺を探していた?」
「そうさ、僕の魔力とここまで合う人間はいない。僕と取引をしないかい、ガロウ君」
「名乗った覚えはないんだが」
「そんなことはどうでもいいのさ」
火の精霊は、楽しそうに答える。
「僕が君に力を与えよう」
「力だと?」
「ああ。見たところ君は力を欲しているようだ」
「・・・まあな」
「弱いことは恥じることじゃないよ」
「おい、俺が弱いって言いたいのか」
「だって負けたんでしょ。七星・・・だっけ? それに外の世界では君なんて虫けら同然さ」
「・・・」
「それに君は、君が思っているほど強くないよ。中の世界も意外と広いんだ」
ガロウは黙ってしまう。
「でも、それらに対抗できる力を君に与えよう」
「力・・・」
「欲しいかい? 仲間を守る力、父親を探す力、七星を倒す力、世界を知る力・・・」
「お前にその力があるっていうのか」
ガロウは、火の精霊を睨みつける。
「ああ、僕はかけらだからそれほどの力は無いよ。だから君には世界中にある僕のかけらを集めてほしい」
「いいだろう、集めてやるよ。それで力が得られるのなら」
「ははっ、その答えが聞けてよかったよ。あと、ちなみになんだけど僕の力は使うのに少し代償を貰うよ」
「おいおい、そういうのは先に言うんじゃねえのかよ」
「たいしたものじゃないよ。そう、ほんの少し命を貰う、それだけさ」
それを聞いてガロウは大声で笑った。
「ハッハッハッ! 確かに、たいしたもんじゃねえな」
「ふふっ、でしょ?」
そのやり取りのすぐ後にガロウの体が薄くなっていく。
「そろそろお目覚めのようだね」
「そのようだな」
「僕のかけらはフレアディアにもある、探してみるといいよ。あと僕と話したくなったら力を使うと話せるから覚えておいてね!」
「会話に命は、高い買い物だな」
「ははっ、そうでもないよ。それじゃあまたね」
「ああ」
ガロウが目を覚ますと宿のベッドに寝かされていた。もう周りは暗くなっている。
ショウはまだ寝ているようだ。
「やっと起きたわね」
「大丈夫?」
ララが心配そうに顔を覗き込む。
「ちょっとめまいがしただけだ」
「ちょっとのめまいで、夜まで寝ないでくれる? 運んでくるの大変だったんだから」
「はいはい、助かった助かった」
「はあ、大丈夫なら明日にでも出発するわよ」
そういうと、ヴェルは自分の部屋に戻っていった。
「あんまり無理しちゃだめだよ! 楽しいことも出来なくなっちゃう」
「ああ、わかったからお前もさっさと寝ろ」
「はーい」
そういってララも部屋に戻っていった。
その後、ガロウは火の精霊と会話をしようと、呼びかけるように念じた。
「おい、いるか」
「何かようかい?」
頭の中に響くように火の精霊の声が聞こえた。前のように意識がなくなるわけではないようだ。
「命を貰うってのはどの程度のものなんだ」
「あれ? 意外と臆病なんだね」
「戦い始めてすぐ死んだら元も子もないだろ」
「確かにそうだ」
そして火の精霊は知っていることをすべて説明した。どの程度かはわからないこと、ただしそんなすぐに死ぬことは無いということ、使う力が強ければ強いほど使う命も比例して多くなること、ほかにもいろいろ話した。
「あらかた分かったから、もう終わるぞ」
「えー、もう少し話そうよ」
「無駄遣いはできないからな・・・」
そういってガロウは眠りについた。
その翌朝、ガロウが目を覚ますと宿の外が騒がしいことに気づく。それに、まだ外は暗いようだ。
「祭りでもやってんのか」
そういいながら宿から出ると、空は黒く大きな雲に覆われていた。その中心に、とてもまがまがしい存在を感じる。
「おい、なにが起きてんだ」
ガロウは宿の外にいたヴェルに尋ねた。
「知らないわよ。突然暗くなったと思ったらなんか変なやつが高笑いしてたの、気味悪いったらないわ。それに・・・」
ヴェルは言葉を濁す。ガロウとヴェルはわかっていた、あのおかしなやつが自分たちよりも魔力の内包量が多いことに。
「とりあえず、ララとショウは教会に避難させてるわ。町の人もみんな避難したみたい」
「そうか。・・・・・・てかあいつ、お前より多いんじゃないか」
「ええ、そうっぽいわね。私も魔力の量には自信あったんだけど」
戦闘において、魔力の量がそのまま勝敗に直結するわけではない。だが、もちろん魔力が多いほうが有利であることには変わりない。
そんな会話をしていると、おかしなやつがこちらに向かってきた。近くで見ると体が黒く、大きさも二メートルはあろうか。頭に一本角が生えており、明らかに人間でないことがわかる。
「その見た目に魔力量、あなた・・・・・・魔人ね?」
「ああ、確かに俺は魔人だ」
「昔、人類との戦争に負けてもう滅んだと思っていたんだけど。まだ生き残りがいたのね」
「そんなことはどうでもいいんだよ! ここらで一番強いのはお前たちだな!」
「だったらどうだっていうの?」
「じゃあお前たちを殺せばここら一帯は俺様の物ってわけだ」
魔人はニタッと笑う。その瞬間、魔人は二人に飛びかかった。
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