出会い
「おいおい、ただのでかい亀じゃねえか」
男の前に立ちはだかるのは、全長が百メートルほどにもなろうか。まがまがしい見た目のこうらを持った一見亀のような見た目をした魔物であった。なにやら瘴気のようなものが出ているようだ。
「この程度で国が滅ぶだと? 期待して損したぜ」
【炎鎧】
そう男がつぶやくと、たちまち炎が男のからだを覆い、よろいになった。瘴気から身を守るためだ。動きやすいよう、無駄がないように出来上がったよろいはもはや芸術ともいえる出来だった。
そしてよろいが出来た直後、魔物の頭上に飛び上がったと思えば炎でできている大剣を一振りし、帰路につく。
魔物はというと、百メートルもあろうかという巨体が頭からしっぽにかけて甲羅もろとも真っ二つになっており、瘴気も燃やし尽くされていた。
その晩のこと、
「またなんか出たのか。ギルマスさんよ」
鍛え上げられたからだに大剣を携えた一見チンピラにも見える風体をした男、ガロウは夜中に突然呼びだされ、見るからに不機嫌そうであった。
「突然呼びつけてすまないね、ガロウ君」
対して、覇気のないひょろっとした体つきにぼさぼさの頭の男、ラルクはひょうきんに答えた。
「はぁ、雑魚だったらぶっ飛ばすからな」
「その点は大丈夫、今回はドラゴンだからね」
「ほう」
ドラゴンは普段、姿を見せない。ドラゴン族が本気を出せば世界を滅ぼすことが出来るらしい。ガロウは珍しくワクワクしていた。
「ドラゴンが一匹、人里に降りてきていてね。何が目的かわからないんだけど」
「とりあえずドラゴンをぶっ飛ばせばいいんだな?」
「いや、まだ敵意があるかわからない。だから調査を頼みたい」
「はぁ? 戦うんじゃねえのかよ! ほかのやつに頼めよ!」
「ほかのSランクは手が空いてなくてね」
「チッ」
「アハハ」
ガロウは不機嫌そうに部屋を飛び出し、報告の入ったという場所にめんどくせえなあと小言をブツブツと呟きながら、どのように間違えて攻撃するか計画を立てつつ全速力で向かう。
「ここらへんなはずだが、・・・?」
ついたはいいもののドラゴンの気配どころか魔物の気配一つ無い。ガロウは帰ったらラルクをぶっ飛ばすことを心に決め、引き返そうとした。が、そのとき
「おぎゃあー! おぎゃあー!」
あかごが泣いている声がした。面倒なことになりそうなのでそのまま無視して引き返そうとも考えたが、ため息まじりになんとか思いとどまり声のするほうへ向かう。
あかごを見つけ、様子を見ようと近づいた瞬間
「がしっ」
あかごが腕にしがみついてきた。
「うわっ! おい、離れろ!」
引き離そうとするが、まったく引き離せる気がしない。かなりの力でしがみついている。
「・・・くそっ」
これがショウとの出会いだった。
「おい、ショウ!」
いつもの怒号が家に響き渡る。家とはいっても洞穴の壁に穴を開け、そこを部屋にして住んでいる。
「俺の部屋を勝手に漁るなと、何度言えばわかるんだ!」
「うるせー、いいだろ別に! ガロウいつもいないし!」
「このガキっ!」
「いでっ!」
ずいぶんなまいきに育ててしまったなと後悔するのも、もう慣れたものだ。怒るのにも疲れたガロウがいつものようにげんこつをショウに見舞ったのちに自分の部屋に戻ろうとした、そのとき
「ねー、いるんでしょー」
洞穴の入口から聞こえてくる聞きなじみのある声を無視してガロウは部屋に戻る。
「勝手に入るわよー」
「うげっ、ヴェルおばさんが来た」
「そうよ〜、ヴェルおねえちゃんが来たわよ!」
いかにも魔法使いのような見た目をし、神々しい杖を持った女性、ウィズ・ヴェルガノート、通称ヴェルはガロウと同じSランクの冒険者である。魔法の力で見た目を若い状態に保っている。魔法の天才であり、ショウに戦い方を教えている一人である。
「見た目が若くても中身がおばさんじゃん!」
「うるさいわよ〜」
「いたい、いたい! ヴェルおねえちゃん、分かったから笑顔で頭グリグリしないで!」
「ふふっ、分かればいいのよ♪ それはそうと、ショウにプレゼントがあるのよ」
「マジで!? なになに!」
「はい、これ」
そういって渡されたのは問題が書かれた紙であった。
「なにこれ?」
「みたとおり問題よ」
「い、いやそうじゃなくて」
ヴェルは真剣な顔になり答えた。
「これは卒業試験の問題よ」
「へ? 卒業って?」
「あなたは私たちのもとを離れて暮らすのよ」
この時、ショウは七歳であった。
「どうして!?」
「今ギルドでは悪いやつらを追ってるの。もしかしたらショウに危険が及ぶかもしれない。私はそれを望んでないわ」
「このババ・・・、ヴェルとかジジイに鍛えられてんだろ。それにこの俺がみてやったんだ、お前はもう一人で大丈夫だろ」
いつのまにか出てきたガロウがそういうと、ショウは家を飛び出してしまった。
「ちょっとかわいそうかしら」
「ほっときゃいいだろ」
とその直後、
「うわあああああ!」
ショウの悲鳴が聞こえた。急いで家の外に出てみると、青年のような見た目をしたなにかがショウの前に立っていた。
ガロウとヴェルは立ち会った瞬間、震えた。ガロウは武者震いだろうか。そんな二人の青年に対する感想は同じく、こいつはヤバいだった。
読んでくれたかた、感謝します。