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お食事処くろだるまの唐揚げ定食(大)とアジフライ

 近頃、というにはいくらか前に、くろだるまなる店が宮崎に進出してきた。お食事処くろだるま。

 建設中から、何やらできるべなと思ってみていて、店の外装が出来上がってくる頃には、早速気になって、是非食べに行こうと思っていたのだが、いろいろと時期や事情が重なって、そちらまで足が伸びなかった。ようやく落ち着いて、そう言えばこんな店があったなと思い出して、よし行くかと足を運んだのは今頃になってからだった。

 微妙に飯時を外していたこともあって、まだ空いていた。食べ始めるころには、次々に客が入っていたので、ちょうどよい頃合いに来れたものだ。

 店内は、真新しいのは勿論だが、清潔感があり、快適そうだ。案内された席は、カウンター席と言っていたが、驚くことに合皮張りのソファのような柔らかい椅子に、広々としたスペースの確保された席で、衝立があればネカフェの個室ブースの様でさえある。席と席の間も広いし、箸や調味料、お冷やのポットもそれぞれのスペースにあるものだから、気兼ねがなくてよい。コロナ流行のご時世においても、この距離感は良い。

 Wi-Fiも通っていて、これは作業するに丁度良いのではという気もしたが、飯屋で書くのは、どうにも落ち着かないし、悪い気がする。喫茶店で同じことをしても、同様に店に悪いはずなのだが。

 メニューを開いてみて、また驚かされる。というのも、安い。実に安い。

 あんまり安かったので、値段の話ばかりになるが、今後も同じ値段かは知らない。

 例えば定食なのだが、白飯に、味噌汁、小鉢、漬物がついて、ひとつとして千円を超えるものがない。税込みでだ。飯大盛りが五十円増しなので、それを含めるとギリギリ千円を超えるものもあるが、それとて千三十円だ。

 私は安かろう悪かろうの精神で生きているところがあるので、安いなら安いでまあそこそこだろうと期待を抑えて楽しめるのだが、どうにも落ち着かない。席料とってもよさそうな快適な席なのである。実に洒落てもいる。ドリンクバーを追加したとしても、食事につければ二〇〇円。たかが知れている。

 大方味が大したことがないのだろうと自分を励まし(?)、よし、それじゃあ量で勝負しようかと私は唐揚げ定食を飯大盛りで頼んだ。唐揚げ定食は小、並、大とあって、大だ。写真で見るに、小は唐揚げが四つばかり。並は六つ、大は九つといったところか。この大に飯を大盛りにしたって、八二〇円。どうせ小さくころっとした唐揚げなのだろうと高をくくり、久しく食べていなかったアジフライを単品で追加した。これが五四〇円。合わせて一三六〇円だ。そこそこ良いお値段になった。これで安心だ。なにが安心なのだかは、自分でもわからない。

 少し待ってやってきたのは、なかなかにボリューミーだった。はっきり言ってビビった。

 まず飯大盛りだが、よくよく見れば、これが、四五〇グラムある。一ポンドある。飯大盛りはいつでも嬉しいのがデブの心得だが、数字として重量が出るとなお嬉しい。私は体こそまだまだだが、心の根っこにはデブが棲んでいるのだ。真正のデブではなく、若いころ、運動をしていた頃のアホほど食っていた記憶がこびりついているだけだが。

 そして唐揚げだが、確かに唐揚げを自慢する店舗によくある大振りな唐揚げとは違い、やや小ぶりだが、それでも立派な唐揚げである。一口で頬張るにはちょっと苦労する。それが九つ。千切りキャベツが一掴みに、コーンが少々、それにマヨネーズ。マヨネーズは、嬉しい。

 小鉢はひじきで、漬物はたくあんだった。

 アジフライも立派だ。私は精々薄っぺらいのが来る程度だろうと思っていたのだが、肉厚で、十分立派なサイズのアジフライが、二枚。それがキャベツを枕にどっしり構えているのである。なるほど、これは定食にすれば十分満足できるアジフライだ。

 まあ、しかし、見た目だけではなとこの時は侮っていたのだが、食べてみると、悔しいことに味も良い。

 唐揚げは、表面がやや粉っぽい、片栗粉の立つスタイルのもので、柔らかめ。味付けは濃すぎず大人しいが、十分に飯の進む味付けで、小振りなサイズが、かえってバランスを調節しやすい。

 確かに大振りな唐揚げは満足感がある。がぶりとかじりついて、ジューシーな断面がのぞくさまは恍惚とする。だが小振りな唐揚げは、全体としての衣を味わう面積が増えるから、唐揚げならではの味わいが強い。一つ丸々口に頬張った時の、大きすぎず、しかして物足りないということもない、このサイズ感の妙よ。

 アジフライは、そのままかじると、やや物足りない。しかし、パン粉が立つほどからりと揚げられた衣に、罪深さを覚えるほどにたっぷりとソースをかけてやり、おもむろにかじりつくと、これがたまらない。衣が良いから、ソースをたっぷりかけても、まだザクリとした歯ごたえ。物足りないかもと思ったアジも、ソースをしっかりと受け止めて、口の中で膨らむじゃあないか。アジフライ定食でも、よかったかもしれない。

 これらを心地よい驚きとともに食べ進めていくと、後半戦では苦しくなる程の満腹感があった。特に唐揚げは、残りの二つばかりが辛いほどだった。揚げ物ばかりなので、口の中が重くもなる。そこでマヨネーズだ。たっぷりとまぶしてやると、ここでまた胃袋が少し復活する。そう言うの好き、そう言うのもっとちょうだいと言わんばかりだ。すかさずアジフライもマヨネーズで祝福する。これで勝てる。

 私はマヨラーではないが、しかしマヨネーズのまったりと心地よい酸味は、揚げ物に救いを与えてくれる。

 食べ終えた時の、苦しささえ感じるほどの満足感は、得も言われぬものがあった。

 アジフライは、要らなかったかもしれない。唐揚げ定食だけで、十分に満足したことだろう。いや、だが、それでも、アジフライはうまかった。唐揚げ定食でも、アジフライ定食でも、そのどちらかだけでは決して味わえぬ、いわばバカの満足感があった。バカの考えるご馳走が、これだ。

 支払いをする時も、こんなに安くていいのだろうかと不安になるほどだった。

 もちろん、ここより安くて大盛りの店はいくらもあるだろう。だがチェーン店で、こんなに心地よい席で、そして待たされることもなくスムーズに飯が食えて、腹の好き具合も良くて、満足したらあとは家に帰って寝るだけという、天と地と人の理がすべてそろった好条件だったのである。

 また来よう、と素直に思った。

 だが結局、またしばらくは来ないのだろうなというのは、経験則であった。

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