THE SEAGAIA KITCHENの赤道直下のレッドカリー
前にちらと話した、臨海公園に行った時の話をしようと思う。前回のコンビーフサンドイッチが二度目で、こちらが一度目なので、時系列は乱れる。だがまあ、気にしている人はいないだろうし、私も気にせずに話していこうと思う。
所用あって臨海公園を訪れたその日は、まだ長雨が続く頃のことで、朝の内ははまだ雨は降っていなかったにしても、分厚い雲が空にかかっていて、結局後程バケツをひっくり返したような雨に見舞われた。
全然車の入っていない有料駐車場に、不意にぬっと入ってきたのは、真っ赤な大型車両である。それも、すぐに気づいたが、どうやらキッチンカーの類であった。まだ全然客は入っていないし、その日は結局警報が出て海水浴ができなかったようであるが、そういう客を目当てに出店したものらしかった。
出店の準備をするのを何とはなしに眺めていると、何とシーガイアのキッチンカーであるという。それは、まず、味に間違いはあるまい。そうなると気になってくるもので、俄然食べたくなってきた。昼は必ずここで買おうと、そのように心を決めた。
昼頃になって、いくらか雨が降ってくる中、のんびり歩いて買いに行ってみると、コルネだとか、カンパーニュだとか言ったパンの類は軒並み売り切れていた。それなりに客が入ったらしい。少し残念だったが、お目当てのカレーはまだ売っていた。
赤道直下のレッドカリー(辛口)。宮崎は別に赤道直下でも何でもないが、辛口であることや、赤っぽい色味、南国感などを合わせた名前なのだろう。確かにただレッドカリーと名乗られるより、赤道直下とついている方が、なんだか期待が持てる。お値段は、まあ、海水浴場値段でもあるのだろう、小振りなサイズだが、千円。まあそんなものだろうと思うお値段である。むしろ、シーガイアだし、場所もあるし、安いくらいかとも思う。
早速一つ買って食べてみたのだが、成程、うまい。
辛口とは言うが、真っ赤になるほどの辛さはない。あとからじんわりくるような、よい辛さだった。ただ辛いだけのカレーはいくらもあるが、辛くて、味も、よい。濃いといってもいい。たっぷりの野菜を煮溶かし、肉のうまみが溶け込んだルーは、それだけでもうまい。そこに、ごろりと大きな肉の塊が幾つも転がっている。これが、舌の上でとろけるほどに柔らかく、その脂の甘みとカレーの辛さとがお互いに引き立て合って、たまらない。
下の飯は、白飯ではなく、エピピラフであった。正直なところ、カレーの濃厚な味わいの中、エビピラフはそこまで自己主張してこないのだが、もしやすると白飯では物足りなかったかもしれない。白飯は確かにどんなものでも受け止め、受け入れてくれるが、エビピラフはそこでさらに共闘を申し込んでくる。淡泊であっさりとした、しかし確かな味わいのエビピラフが、赤道直下の熱い海の中で、沈み込むでもなく、派手に浮き立ってくるのでもなく、全体を底上げしてくれているように思う。
食べ終えると、エビいたか?となるのだが、いたのだろう。いなくても、いい。お前は確かにエビピラフだった。いい仕事だった。
雨脚はどんどん強くなって、いよいよ車軸のような雨がアスファルトに叩きつけられて行く。
そんな中、一人で黙々とカレーを食っていると、なんだか妙な気分だった。世界の終りの日に食うカレーは、こんな気分かもしれない。不思議な心地よさと、満足感だ。
底の底まですっかりさらってしまって、もう一杯食いたいなという気分もある。だが落ち着いて座っていると、それもじんわり落ち着いてくる。確かに、もう一杯食える。食えるが、それは、なにか、違う。もう一杯食えば、確かに同じようにうまいと感じるだろうが、それと同時に、飽きも来る。いくらでも食えそうなほどにうまいが、それでは、一度目ほどの満足感は、きっと来ないだろう。
だから、これはこの一杯だけで、きっと正しいのだった。
それはそれとして、カンパーニュも、食いたかったな。