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The BEACH BURGER HOUSEのコンビーフサンドイッチとビール衣のオニオンリング

 夏と言えば海らしいが、私にはあまり馴染みがない。記憶がないくらい小さなころに、ハワイに行ったらしいが、記憶にないのだから、行っていないも同然だ。覚えている限り海水浴に行ったことはないし、行こうとも思わない。焼けた砂は熱いし、人が多くて疲れるし、なにが浮いているんだか分りやしない。海は見ているくらいが丁度良いし、それも人がいないところが良い。

 そんなひねくれた私なのだが、所用あって、臨海公園に赴くことがあった。この夏、二度目である。一度目の話は、これを書いている時に思い出したので、また今度。

 一度目の頃は、まだ長雨が続いているころだったが、この時は空も良く晴れ、海水浴客も多かった。駐車場も、満車だったのではないだろうか。

 私は海水浴にはちっとも興味もないし、海水浴にくる人々のことも眼中になかったのだが、そのど真ん中にある店が前から気になっていた。ハンバーガー屋である。アメリカンな雰囲気のある、ハイカラなハンバーガー屋である。わざわざ来るような用事もなかったのだが、この度その用事が出来たので、寄ってきた。

 中はもちろん大混雑で、人も並んでいた。並びながらメニューを眺めて、ハンバーガーを選ぼうとしたのだが、ここまできてちょっと待てよとなったのである。

 というのも、それは、そう、ハンバーガーが売りなのであろうが、正直なところ、他と比べてそこまでの違いがあるかというと疑わしかったのである。上を見れば上に、下を見れば下にキリはないものであるが、尋常の店が売るものとして、その品質にそこまで大差は出てこないはずである。よほどこだわりがあるとか、特色があるとかであれば別だが、バイトたちが必死こいて肉を焼いて流れ作業している、いわばお洒落な海の家である。

 落ち着いて食えそうにもないし、海の家価格というか、全体的に渋るほど高い。えらく、高い。

 それは、海水浴に来て、腹を空かせて、気分も盛り上がっている人々にとっては、そういうものなんだという気持ちもあるだろう。

 ところが私は海水浴に来たわけでもなく、腹は空いているが運動したわけでもなく、気分もまあ、新しい店が気になるのと並ぶのがだるいのとで相殺されている程度の心持ちである。お値段分、マイナスがかかっていると言ってもいい。

 なので、折角だからあんまり見かけないようなものを頼もうとメニューを上から下までじっくり眺めた。定番以外のものを頼むことで厨房にかかる負担は、この際気にしないことにする。注文されるときは厨房主体、注文するときはお客様面というのが私のクズ・メンタル・ムーブメントだ。人類の、と言ってもいいが、主語が大きすぎるか。

 その中で見つけたのが、コンビーフサンドイッチである。普通にうまそうだが、そう言えば、他所で見かけたことがない。自分でも、作ったことがない。

 これだけでは物足りぬかもしれないと思って、ニューイングランドクラムチャウダーとか、オニオングラタンスープとか気になる名前も見つけたのだが、暑いし、汁物は運ぶのが面倒という思いもあって、結局オニオンリングにした。ビール衣というのが、決め手だった。

 番号札を渡され、座るところもないので、隅の方で何とも落ち着かない気分で、待つ。水着姿や、いかにも夏らしい装いの人々の中で、なんだか自分一人だけ場違いで、浮いていて、なんだこいつはという目で見られているような気さえして、スマホを覗き込んで誤魔化し誤魔化し待つこと、実に四〇分。待った。実に待った。

 受け取った二つの紙皿を抱えて、車まで逃げて、そこで頂くことにした。合わせて二千はいかなかったが、むしろ二千いきそうなのかよと言う思いがないでもなかった。ゴリクソ高い、とまでは言わない。言わないが、海水浴客でも何でもない人間が払う金額ではない気がする。店側がということではなく、なんでこいつ泳ぎもしないのに海水浴場来て四十分も待ってこんな金払っているんだという、私がバカである案件である。つまりいつものだ。

 幸い、味は良かった。これで味が悪かったら真正のバカ案件だが、味は実によかったのである。

 コンビーフサンドイッチは、トーストに、嬉しい厚みのあるトマトの輪切り、葉物、刻んだピクルスだろうか、それにコンビーフが挟んである。それもちょっと驚くくらいたっぷりと。自分でコンビーフを買って、サンドイッチにしようと思ったら、何しろコンビーフ缶というのはあれで結構なお値段がするから、このお値段で売る自信はない。原価ほぼコンビーフじゃねえのか。高いとか言って、ごめんなさい。でも高い。コンビーフ、もう少し安くならないか。

 しかもこのサンドイッチが二つあって、フレンチフライもついているのだから、ただただ、嬉しい。

 オニオンリングは、お前これで八〇〇円するのかよと思わないでもないが、揚げ具合も良く、見た目もボリューミーで嬉しい。

 食べてみると、先にも言ったが、味が良い。コンビーフサンドは、下手な調理など加えていない、まさしくトーストに具材をはさんだだけなのだが、それが、うまい。コンビーフ、うまい。汁気があって、刻んだ具材もあって、うまく食わないとぼたぼた落ちるが、包み紙もついていたので、これでなんとか。トマトやら、葉物やら、自分で用意しようと思うと、意外に手間だし、一食分だけ用意するのはあとが困るし、独り暮らしだとなんだかんだ面倒なので、その手間も嬉しい。

 サンドイッチは簡単な料理だと思うかもしれないが、大いに面倒だ。面倒極まる料理だ。それを高い金払ってよそで食うというのは、ある種の贅沢である。贅沢であるが、その分の時間と手間を金で買う、納得の贅沢だ。

 試しに、おもむろに台所に立って、一食分のサンドイッチを作ってみるといい。挟む食材をどうしたものかと冷蔵庫を覗き込んで悩むだろうし、余った食材をどうしようかと困るだろう。色々な種類を作って、それも何食分かまとめてる苦労と思えば、食材を余らせることもなくなるかもしれないが、ねえ、あなた、考えてごらんなさい。それを食べるのはあなただ。あなたなんですよ。すぐに食べるんでなく、冷蔵庫にしまっておいて、挟んだ具材の湿気でしっとりして、何なら横から液漏れもしているサンドイッチを消費するのはあなたなんですよ。トーストしてサンドしたら、もっと情けない気持ちにもなる。

 第一、トーストでサンドするって言うのが、言葉以上に面倒だ。うまいことトーストが焼きあがる頃合いに具材を準備して、冷めぬよう手早く挟んで、食べて、後片付け。たまったものではない。トーストだから、挟んだ後重しをして馴染ませたりもできず、今回のように、具材もぼとぼと落ちる。うまいが、難しい。

 フレンチフライも、自分で作るのは手間だ。一食分のために油を用意するのはしゃくだし、大量に揚げても、そいつはどうすればいいのだ。途方に暮れる。ざっくりとうまく上がったフレンチフライというのは、店で食うに限る。

 オニオンリングの、ビール衣って言うのが、正直なところよくわからないが、しかし、うまい。衣は良い具合にざっくりと歯切れよく、言われてみれば、なんだかビールらしい、香ばしい苦味があるような気もする。

 第一、オニオンリングは、心がわくわくする。リングって言うのがいい。イカフライも、リングがいいだろう。味は多分、切り方を変えても、そこまで変わらないだろうに、もしかしたら食感も、他の切り方の方がおいしいかもしれないだろうに、この輪っかが、どうにも心をくすぐる。一口で頬張れないし、うまく噛み切れないと、中身ばかりずるりと抜けて、衣だけをザクザク食うことになるのだが、それでも、なんだか、楽しい。

 海の魅力を多分一割だって感じていないだろうが、それでも、出先でこういうハイカラなものを食うというのは、なんだか楽しい。その分の料金だと思えば、この値段もそのうちだろう。こう言っているうちは、やっぱり高かったなと薄くなった財布を思っているわけだが。

 足りぬやもと思っていたが、食べ切れば程よい満足感で、舌も腹も満足した。

 ただ、まあ、また来るかと言えば、それはわからない。

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