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リンガーハットの冷やしちゃんぽん

 宮崎に移り住んでから十数年になるが、実はリンガーハットのちゃんぽんをはじめて食べたのはここ最近のことだった。一年経つか、どうかというくらい。

 系列店である、トンカツの浜勝にはしばしばお世話になったが、ちゃんぽん屋としてのリンガーハットはなぜだか足が遠かった。単純に、立地の問題かもしれない。

 ちゃんぽんというものを初めて食べたのも、前の職場でまかないとして食べたのが初めてで、それまで私はちゃんぽんというのが何者なのかよくわからないでいた。まかないで食べても、何というか、いまいちよくわからないものであった。

 大体このようなものだろうというのはわかるのだが、いざちゃんぽんとは何か説明しろと言われると、ちゃんぽんとしか答えようがなかった。

 うまいはうまいと思うのだが、私の半生に渡ってかかわりのなかったこの食い物はいまだに判断に困る。

 冷やしちゃんぽんという名に惹かれたのは、べつに暑さのためではなかった。雨続きで湿気は酷かったが、ここ数日は肌寒いくらいに涼しい日が続いていた。何としてもちゃんぽんが食いたいというちゃんぽん欲が出てきたわけでもなかった。

 ただたまたま通り道にあって、この機会を逃すとちゃんぽんを食いに行くことはしばらくなさそうだな、さらに言えば季節ものである冷やしちゃんぽんなどもう来年まで食うことはなかろうよという思いが、まあ寄っていくかという妥協につながったまでである。

 全然名に惹かれていないな。うん。

 ともあれ、私は席に着き、タッチパネルで冷やしちゃんぽんを選んだ。麺は大盛りだ。

 それからおもむろにサイドメニューを眺め出し、あれこれ悩んで結局餃子五個と、ミニ豚丼とやらをつけた。正直、ちゃんぽんにしようという考えが頭になかったら、餃子定食にサイドメニューの餃子をつけていたかもしれない。

 しばらくして出来上がった冷やしちゃんぽんは、成程涼し気な見た目である。ガラスの鉢に盛られた、白い麺に、乳白色のスープ。それに新鮮な緑の水菜が散らされ、きくらげのプリンとした黒さが鮮やかだ。

 ざっくりと全体を混ぜ合わせて一口すすってみると、成程、さっぱりしている。さっぱりしているというか、いささか物足りない。

 暖かなちゃんぽんを食う時は、湯気に乗ってそのうまさを含む香りが鼻に届く。しかし冷たいと匂いは立たない。この差はやはり大きい。味わいも、冷たいとなかなか開かないものである。

 そこで早速、付属の辛味噌とやらを全量溶かしこんで、改めて混ぜ合わせてみる。こうしてみると、途端に味わいは変わった。全然変わった。

 ぴりりとした辛さの他には、まったく付け足すようなところのないシンプルな辛味噌なのだが、それが加わるだけのことで、なんだかぼやけたようでもあったちゃんぽんは途端にメリハリを持ち始めた。もきもきとした麺の歯ごたえも、さらに立体感をもって歯茎に触れてくるようでさえある。

 水菜のしゃきしゃくとした歯触りも、きくらげのぷりぶりとした感触も、歯に嬉しく、耳に楽しい。

 鼻に抜けるような香りはないのだが、冷たい分、麺がよくよくしまっているようで、全体に歯応えを楽しむ風情である。

 そうして冷やしちゃんぽんを楽しむ合間に、餃子をつまみ、ミニ豚丼に手を付けてみたが、これは少々外れだったかもしれない。

 餃子はまあ、こんなものだろうといういつも通りのまあ餃子なのだが、ミニ豚丼が、少しくどい。味自体は悪くない、いたって普通の味わいなのだが、豚を炒めた時の脂だろうか、それが飯にたっぷり沁み込み、茶碗の底ににじむほどだから、いささか以上に、重い。

 味は良い。良いのだが、それが程を過ぎると、途端にバランスが崩れる。

 この味であれば、具だけを飯に乗せて、そこから脂が滴るくらいが丁度良い。しかしこれはただ肉に絡んでいた以上の、炒める鍋に脂が浮かんで見えただろうほどに、たっぷりと脂が飯に沁みてしまっている。

 確かに豚の脂はうまい。炒めて味の入った脂は実にうまい。だがやはり、物事はバランスなのだ。

 冷やしちゃんぽんがまあ楽しめるだけに、これは少し、残念だった。

 まあ、どのみちしばらくは、ちゃんぽんを食いにこようとは思うまい。

 いまだに私はこれの正体がつかめないでいる。

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