100時間カレーの辛口チキンスペシャル
いつごろか、モールのフードコートに100時間カレーなるカレー屋が入っていた。
御多分に漏れず、私もカレーは好きだ。カレーがそこまで好きでない方は、多分それなりの数いらっしゃると思うし、カレーは好きでも好みのカレーがはっきり分かれているということもあるだろう。
なので一概にカレーを語ったりはしないが、カレー好きの贔屓目がいくらかあるだろうことは最初に言っておく。
メニューの写真をざっくり眺めてみると、色は、どうも黒っぽい。いかにもたっぷりの材料を煮込んで溶かし込みましたよというような、そんな色だ。その中で淡い色合いを見せるバターチキンカレーに心ひかれもしたが、ここは店の定番であろう黒っぽい方のカレーを頂くことにした。
それにしてもバターチキンカレーというのはずるいと思う。例えばカツカレーも大概ずるい魅力がある。なにしろカレーに、さらにトンカツまで乗っけてしまうのだから、不味いわけがない。バターチキンカレーは、バターにチキンにカレーと三種のうまいものセットといった欲張り具合で、しかもその三種の相性が実にいい。ポークとバターと、チキンにバターであれば、間違いなくチキンだろう。
ポーク・オア・チキン。チキンだ。バターチキンカレーの強さだ。
半分心がバターチキンカレーに残っていたのもあって、カツカレーを見送って選んだのはチキンスペシャル。何とチキンカツと、唐揚げまで乗っている。いいのか。そのような暴挙が、許されるのか。そしてさらにご飯とルーを大盛りにした。許されるのか。
許されるのだ。
いや、許す。大いに許す。
もちろん、辛口にした。
私は辛さが選べる場合、一等辛いものを選ぶことにしている。ココ壱番屋の10辛は、後々しんどいのでしばらくやっていないが。
しばらく待って受け取ったカレーは、あれだ。あの、カレーを入れる、こう、魔法のランプみたいなやつに入っていた。こすれば青い魔神が飛び出てきて、いまならウィル・スミスの顔と山寺宏一の声で願いを三つ叶えてくれそうだ。
この手の容器にカレーを入れて供する店は随分久しぶりなのだが、私は実はこの様式があまり得意ではない。というのも、どうやって食べたものだろうかと開始初手から悩みが混じるからだ。スプーンで一口分ずつ取っては飯と食べるべきか。ある程度かけては食べ、ある程度かけては食べを繰り返すべきなのか。まあ悩んだところでいつだって私は全量をだばあするだけなのだが。
容器の中のカレーは、写真通り、どろりと黒っぽい。カレーという知識なしに出されたら、毒だと思うレベル。つまりマーマイトのような。しかし実際に対面すれば、その香りの良さは素晴らしく食欲を誘うものだ。正直名古屋の味噌かよと思うくらいには黒いが。
私はルーをかける前に、チキンカツをひと切れ口にしてみた。味は、チキンカツだ。普通のチキンカツといった具合で、歯切れも良く、味も主張しすぎない。素直なチキンカツだ。
確かめてから、おもむろにグレイビーボート、そう、そういう名前だった。カレー関係ない奴。そのグレイビーボートを傾けてルーを全てたっぷりとかけまわし、早速いただいていく。
味は、成程濃厚だ。溶け込んだもろもろが、すっかりなじんでまろやかにまじりあい、落ち着いた味わい。単に一つの味が強いというだけのものではなく、様々な風味、味わいが隙なくしっかりと持ち上げてくる。
辛口を頼んだが、そこまで辛くはない。食べているうちに、じんわりと辛さを感じるが、ファッキンホットという程の辛口ではない。むしろ、自然なスパイシーさ。甘みの強いルーの中で、喧嘩せず、薫り高いスパイシーさを楽しませてくれる。
まあ、それでも、やはり甘いが。
つまむように唐揚げも頂いてみたが、まあ、唐揚げ、だ。ややがっちりと揚げており、ジューシーさには乏しい。肉もやや硬く感じる。これが揚げ方の問題なのか、こういうものなのかはわからないが、やや弱いなという気もする。カレーに対抗するように味を強くしてしまうと喧嘩になるが、しかしチキンというものはもとより味が淡泊であるから、もう少し主張があってもいいとは思う。これはチキンカツにも言えるが。
難しいところだ。私も冒険するくらいなら、抑えめにするだろう。
大盛りだからか、後半、やや飽きも来るが、嫌な飽きではない。奇妙な言い方かもしれないが、飽きるにも嫌な飽き方とそうでもない飽き方がある。
前者は全くうんざりして喉を通すのもおっくうだというものだ。これは嫌いだとか不味いとかいうのではなく、むしろうまくても、量は食えないというものによくある。
後者は確かに段々と新鮮味も失われて、そこまでうまいとも思わなくなってくるのだが、食べ切るに不安のない飽きである。諦めに似た満足ともいえる。
食べ終えてみれば腹も十分に膨らみ、舌も、物足りないということもなく、ちょうどよい具合であった。
余談だが、私はカレーライスを食べるとき、フォークを使う。フォーク一本のみで、スプーンは使わない。これはレストランでの給仕などを教えてくれた方がある時教えてくれたもので、成程、さらさらしたものは難しいが、どろりとしたルーを、ご飯と絡めて食うのに、フォークでなにも困ることはない。またスプーンよりも平坦だから、平皿に残ったソースをさらうのにも、都合がよい。カツなどを食べるのにも、便利だ。洗い物も少なくていい。
是非一度お試しあれ。