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コメダのコメ牛肉だくだく

 330グラム。

 そこらの自販機で売ってる350ml缶より少し軽いくらいだ。

 あるいはコメ一合を炊いたら大体350グラム。茶碗一杯あたり普通は150グラムくらいじゃなかろうか。大盛りで200とか、250グラム。

 何のことかと言えば、タイトルにあるコメダの季節限定バーガー、コメ牛の肉だくだくの重量だ。牛肉が330グラム。

 缶ジュース一本分より少し軽い程度と言えば、大したことないかもしれない。でもコメ一合というと少し多いかもと感じるかも。より具体的な比較例を出すと、ステーキは大体一枚150から200グラムじゃなかろうか。200で多いと感じる人もいるかな。

 デブの基本単位である1ポンドはおおよそ450グラムだ。普段ヤード・ポンド法は滅ぶべきだと考えていようと、デブは反射的に1ポンドを脳内で概算できる。よく見るからだ。ただこれは訓練されたデブの話で、ナチュラルに才能を持つデブはそもそもポンドを脳内で数字に変換しない。する必要がない。常に一番多いのを頼むから。なんなら1ポンド(いつもの)だ。グラムに直した時の数字は知らない。食べ終えた後は常にゼログラムだから、ゼログラヴィティ。皿の上はいつだってゼロカロリーだ。

 デブの国際単位系から見てみるとなんと120グラムも少ないのだから、330グラムは実際多くない気がしてくる。ステーキ一枚弱くらい少ないのだ。ご飯に換算しても、茶碗二杯ちょっと。

 普段オサレなカフェーでふわっふわのパンケーキにたっぷりクリームとフルーツなんて食べてる皆さんからすれば、意外といけるんじゃないかという気もしてくるんじゃなかろうか。

 それに、所詮は喫茶店のメニューだし、と。

 シャット・ファット・アップ。ここはコメダだ。

 実際のところのビジュアルがどんなものなのか、ざっくり説明しよう。

 皆さんも見たことのあるだろう、バーガー袋に収まって皿に乗っているから、一見してお行儀はいい。なにしろデブ飯界隈では皿に収まっているということは育ちがいいと形容されるからだ。皿からはみ出ないどころか、バーガー袋からもはみ出ていないのだから、親御さんの教育がよろしいのだろう。

 ではこのバーガー袋を覗き込むと何があるかと言えば、肉だ。肉に、パンが乗ってる。下のパンは見えない。肉の下にあるからだ。自分で注文したのだから、この下にパンがあることはわかっているのだが、第一印象がただただ肉一文字なので、もしかしたら下のパン忘れちゃったのかな、と一瞬思う。

 こうなってくると、むしろ上にパンが乗ってるのも何かの間違いのような気がしてくる。肉をパンで挟んでいるというか、本当に、乗っているのだ。浮いてると言ってもいい。あくまで紳士的に、ソフトに、肉の頂点にそっとパンが乗せられている。

 この時点での高さは、お冷やのグラスとほぼ同じ高さである。もしかするともう少し高いかもしれない。さすがにそんなことはないと思いたいが。

 だがこの時点ではまだ、心は穏やかなものだ。予想通りの肉が来たなといった心地だ。ボス部屋に入ったらボス戦が始まるくらいの気持ちだ。すでに直前のセーブポイントでセーブも済ませているし、回復も済んでいる。何も問題はない。

 私は最初、普通のバーガーに対するのと同じように、バーガー袋ごと持ち上げてこれを食べようと思った。確かに、一口、二口はいける。だがそれ以降は無理だ。何故なら肉が滑落するからだ。この肉雪崩を押さえ込むには、さしものコメダのパンも足りなのだ。もろもろと肉が落下する。

 仕方なく一度皿に置き、フォークとナイフを手にとる。そう、コメダでもわかっているから、最初からカトラリーがついてくる。アメリカンなバーガー屋でもよくついてるから、わかる。わかるが、自分はなにを食っているのだろうかという気持ちが強くなってくる。ボス戦中に急にムービーが始まった気分だ。

 味わい自体は、見た目通り、予想通り、期待通りだ。濃い目の味付け。甘辛の焼き肉ダレで味付けされた、たっぷりの牛カルビ。それがパンにはさまっている。というか、肉の上下になんかパンがいる。

 パンをカットしてみると、肉がもろりとはみ出てくる。パンと一緒にフォークに刺して食べると、肉雪崩がそこに残る。カットする。パンと肉を食う。肉を食う。パンを食う。肉を食う。肉を食う。カットする。肉を食う。なにを食べているんだろうか。

 肉の下には、千切りキャベツと、ニンジン、ピーマンのサラダがサポート役面をしてひっそりと構えている。だがあまりにも非力だ。物語中盤以降、主人公のパワーがインフレしはじめ、ついていけなくなった仲間たちのような存在感。あいつはこの戦いにはついていけない。

 だがこの仲間たちがいるといないとでは、話が変わってくる。切っても切っても傷口の再生するバケモノのようにあふれ出てくるカルビ肉、この中で、ふとした拍子に舌の上で踊るピーマンの味は心地よい。しゃきりとした新鮮な歯ごたえに、爽やかな苦味と甘み。君がいてよかった。君がいたからやっていける。君とならこの先まで。そんな気持ちになる。

 上のパンは、柔らかくカルビを包み込み、やや強い甘辛だれがいきなり舌に触れるのを防ぎ、ともすれば即座に飽きてしまうこの構成をうまく補っている。下敷きになったパンには、たれや肉汁がたっぷりと沁み込み、逃さず捕まえている。ちょっとくらい逃がしてもいいんだぞ。なにがお前をそこまで駆り立てるんだ。

 ヘヴィな中盤戦を乗り越えて、終盤戦は調整が難しい。肉が残り過ぎると、くどい。かといってパンだけ残ると、重い。どちらも程よく残ると、あと一口が辛い。

 食べ終えた後に残るのは、腹部のふくらみと、得も言われぬ満腹感。

 そして、自分は何屋に入ったのだろうかというひたすらの疑問。

 漬物か何か、欲しいかもしれなかった。

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