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一と九十九の崖 -- 最後の一歩

作者: 未知未知

それは目と鼻の先     (辿り着いた人間は)?




虚言など存在しなく


また

虚言ではない物など

存在しない−−−−−−−−−−−



−−−




『これ、そこのお若い方。』



最初、誰かが何か話している、と気付く程度だったが、

『ああ、この道に今いるのは私だけか』


と気付いたので、


ある日、ある時、

道を歩いていた者は、

その---声の主---の方向へ顔を向けた。


そこに立っている声の主は、やはりどうやら若者へ話し掛けている様子らしい。


彼はまた、口を開いた。


『今、何処に行こうとするのだね?』


聞かれた若者は、

-これから、家へ帰る所だ-といった事を

----趣向を----伝えた。



『そういう事ではないよ、これから何処へ行くのかい?』



やはり言葉に詰まったが、聞こえていないかと思い

‐‐どうやら耳が悪そうかとも見えたので‐‐

また同じ事を、


今度はゆっくり、

話して聞かせた。




『この道の先には何があるんだい?』




若者は頭に浮かべた。

というのも、何度と無くこういった種の質問をされるのには、昔から慣れ切っていたし


----それは若者がそういった質問をされやすかったからかもしれない----


---ああ、もう、こういう人か。

こういうのはもう…嫌だなあ…‥

といった事----

だ。



『私の耳が悪いと言ったのかい?

こういった質問をされる事によって、一々答えるのは嫌だと言ったのかい?

何故、この道を歩いているのか、分かるのかい?


どうして私はあなたにこう聞いているのか、


その前提、前提があるという事が、

前提が大事だという事も、必要だという事も、


分かるのかい?』






若者は--やはりまた言葉に詰まったし、その言葉に対して理解を持つ事など出来るハズも無かったが、

『ああ、この道にいるのは私だけか。分かる筈だから、喋っているんだな』



と気付いたので、耳を傾けた。




『前提について、なんだが、今調度話す事が沢山あってね。

沢山尋ねたいんだよ。

何故、この道を行くんだい?


いやいや、

何故、

私は、

貴方に、

それを聞くんだい?


それが貴方にはわかるのかい?』






若者もまだ、黙って、

---全く関係無いような話だという可能性は高いのだが---

耳を傾ける。



『あなたは、何故歩けるんだい?

もし、その足が無くてもこの道を歩いていると思うかい?

いや、この際貴方がどう思うのかは関係無い。



貴方の価値観がどうであれ、



例え貴方の目が何個あろうと、



事実は、その形を変えないんだから。




貴方は、足が無くても道を歩くだろう、それは、私も既に知っているよ。


でも、何故それを私は、今こうして貴方に喋っているんだい?



この言葉に、重みを感じるかい?


貴方の人生において、重みのある言葉になっているかい?

なり得るかい?

貴方が相手じゃなければ、

他の人が相手なら、違う意味になるのかい?


その前に、貴方の人生は、重いのかい?


そして、仮に重かったとして、重い、という事に意味はあるのかい?


こうした言葉の羅列は、既に貴方も何回も聞いて来たんだっけね、それは知っているよ。


だからと言って、

言葉という武器にはなり得ても、注目を集める為の道具にはなり得ても、

それは嘘ばっかりだと、矛盾ばかりだという事も、貴方は知っていたっけかい?

知っていたならごめんよ、

でも私にはわかるよ、


貴方はそれを、言葉として知っているだけだね。


それも解るんだ。


もしそれが私に解らなければ、こうして会う事も無かっただろうしね。』






若者も、あいづちを打つ。


本心としては、

‐‐そんな話は沢山聞いてきたのだから、もう早く家に帰りたいんだが‐‐



といった所だったが、耳はまだ


‐今までの様に‐


傾けられていたし、聞きたいといった部分もあり。

(そんな話を聞いた所で、最後はどうなるかは解り切っているのだが)




何より



心が



しっかりと傾けられていた。







『五十歩百歩ということわざを知っているかい?』



『でも、ことわざが何の為のことわざか、という事も解っている様子だね。


貴方にとっての理由を、解っている様子だ。



じゃあこれはどうだい?







1と99がすぐ側だという事は解るかい?







それは、すぐ側にあるんだ。




それは、―その事実は―まるで何かの道の様さ。



でも、ここで今までの貴方なら行き止まりだ。

わかるかい?


貴方は今、きっと家に帰ろうとしてたんだろうが、貴方がその方向に、



―1と99の崖に―



行きたいと思った時は、そこから先が見えなかったハズだよ。』






若者は、その言葉を聞いて、何を感じる訳でも無いのだが、

涙がうっすらと目に滲んでいる事に気付いた。


―それは目では無いのかもしれないんだが―




『悔しいのかい?

正しい事など何一つ無いと、

そういう答えにたどり着く事が?

その先の可能性も解っているのに?

何を止まっているんだい?』




‐‐若者は、

‐‐‐いや、私は止まっていない。

これから家に帰るんです‐‐


という事を、伝えた。









『もう一度聞くよ』


『言葉に重みを感じるかい?』



『家に、本当に帰る筈だったのかい??』




若者は



―‐‐じっくり見て初めて気付いたのだが‐―


話している相手の目に涙が滲んでいる事に気付いた。



―それはきっと目だった。



でも果たして

その目が自分自身を見ているのかは解らない。


うつろな目。



それは、意識が別の場所を向いている可能性を表していた。―












若者は


『ああ、この道にいるのは自分だけか。

分かるハズだから、喋っているんだな。


そうか、

それだけでは無いのかもしれない。


ここに自分がいるという事だけでは無いのか。

今は目の前にこの人がいるんだ。』



と気付いたので、耳を傾けた。



と同時に



『この目はこの人を見れているけれど、

何かが見えていないんだ。


いや、逆かな?


この人の言葉は見れても、

この人を見れていないのかもしれない。






まあまあ、目が悪いってのも困りもんだな。

一ツの方向しか見えないからかな?



とりあえず眼科に行かなきゃいけないから、もっと沢山お金を稼がなきゃ。

次の日曜日も仕事を入れようかなあ』




とも思った。
















『そうさ、これは言葉をただ無茶苦茶に言っているだけさ!



いや本当は違うんだ!



でも、

貴方、相手にはそう聞こえるのかもしれない!



簡単な事!







事実は変わらないんだから!







ここに自分がいる!

そこに相手がいる!羅列して、廻るのさ!どういう事?とりあえずお金を稼がなきゃね!




でも違うんじゃないのかい?




いや、違うのは、違うんじゃないのかい?



さあ、最後の一歩をどう踏み出すんだい?







あの、

何度と無く見て来た、

99の崖の淵に辿り着いた時、


死ぬ程の思いでたどり着いた時、




そこから先が見えなきゃ



1と同じさ!



でも崖の向こう側を見るとするなら、

崖に落ちなきゃいけない!


命は無いだろうね!



さあ、







最後の一歩はどうするんだ!』












『でも、あの崖は霧がかかってよく見えないから、

崖をよく見る為にお金を稼いで眼科に行って、

目が良くなってから見れば、

そこはどう見えるだろうね。』










『あそこは、崖だったっけかい?




そうだよね、確か?







ハッキリは覚えていないねえ。』










--それから程なく時間が経った頃の若者は--






一人だったし、特に、さっき、




誰かに思い切り叫んだ、

という違和感も無かった。




そしてそれも、


この現象でさえ、



理由であり、

必然である、

という事も、



--もう何度目だろうか--


気付いていた。



だからと言って何も無いんだが…と

--もう何度目だろうか--

心の中で呟いた。






だが、記憶の中にある、

子供の頃の心境の内に、今日聞いた、老人の話は無かった。









そしてこれは







今日あった出来事に対する感想なのか




自分自身の記憶に基づく心境なのか




話し掛けられた内容についての気持ちなのか




はたまた、




あの場所だからこそ頭に浮かんだ事なのか(これはきっとそうだ、と後々思ったのだが)



自分は家に帰ろうとしていたのか













ここは家なのか







この言葉が何処にあるのか






何処から出て来たのか、













そして

あの老人は







老人だったのか










自分自身だったのか










すら解らなかった。
























程なくして、若者は落ち着いた。


END


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