第98話 ロータスの反乱
第98話~ロータスの反乱~
帝国領は広大で、南北にも広いその領土だが、どちらかといえば東西の大きさの方が大きい国だ。
地球で言えばロシアを想像するとわかりやすいかもしれないが、その中でロータスの街は国の南東部に位置している。
そして帝都は国の中央やや西よりに位置しており、降りやまぬ丘陵を越えたさらにその先といったところだろう。
今回の黒死病のアウトブレイクは帝国東部でその猛威を奮った。すでにパンデミックになっていた黒死病は、東部の街の多数の命を刈り取っていき、降り止まぬ丘陵に向かう前に俺が作った抗生物質が届くころには半数以上の人たちが死んでいたという有様だった。
しかし帝国西部は状況が違う。そもそも帝国内で東西を移動しようとした時、その中間点にある帝都を必ず通ることになる。だが今回の黒死病によってその中継点である帝都が結界により封鎖されてしまったので東西の往来がなくなってしまった。
黒死病はあくまで感染症である以上、感染者がやってこなければ感染は広がらないのは道理だ。ゆえに帝国西部では感染が広がらず、今回の黒死病に対しては他人事というよりは、そもそもよく知らないといった有様なのである。
「だからそれを利用する」
俺はセレスにある頼みをしていた。それは帝国東部の街に対し、今回の病について帝都がとった対応に対する事細かな詳細を書いた手紙を書くように頼んだのだ。
「なんのためにそんなことするんです?私たちがいまから帝都に赴いて全部燃やしてお終いじゃないんですか?」
「俺達はそれでいいが、残された人たちがそれじゃ困るだろ」
「なるほどのう。他人からの施しでは受け入れられなくとも、自分たちの手でそれを成せば、と言ったところかの?」
「まぁ、そういうことだ」
カナデの疑問に遠まわしな答えを返す俺に、その考えを理解したエリザがそう言った。
俺達は今、ロータスの街を出発して帝都を目指し西へと向かっていた。
メンバーはいつも通り、俺、カナデ、エリザ、スルトの四人だ。
トールもついて来たそうにしていたが、流石に封印の鉄塔を持って帝都へ襲撃に行くわけにもいかない。それに再び天使による攻撃もあるかもしれないということで、トールにはロータスでの留守番をお願いしたのだ。
「二人だけで通じ合わないで私にも教えてくださいよ~!!」
一人だけ俺の行為の意図を理解していないカナデがそうわめく。
「少しは自分で考えろよ」
「考えてもわからないから聞いてるんです!!それに答えがそこにあるのにわからないことをいつまでも考えるなんて非効率的です!!」
一理ある様で考えることを放棄しているカナデに対し、俺は苦笑しながらも説明をすることにした。
「いいか。俺達はこれから帝都に向かい、恐らくだが皇族とそこにいるだろう権天使を潰す。ここまではいいか?」
「もちろんです!あの町をあんなにした奴らですからね!!その存在ごと燃やし尽くしてあげますよ!!」
「頼もしい限りだがまぁそれはいい。とにかく俺達は言ってしまえばこの帝国の中枢を潰すだけだ。そうなればこの国はどうなると思う?」
「普通に滅ぶんじゃないですか?それか代わりの人が統治することになるかですけど、きっと後継者争いでも起こるんじゃないですかね?」
「その通りだ。今の皇帝が死んだとしても、カリスマを発揮できる奴が後任にいるなら話は別だが、ナターシャから聞いた話だとこの帝国は皇族の一強だ。皇帝亡き後にまとめられる奴はいない。必然、内乱は必至だろうな」
そうなったとき、後継者の椅子に座ろうとする者は何をするだろうか。おそらくだが、何か大きな手柄を立てることで皇帝の椅子を手に入れようとしてくるだろう。
では、その状況で一番功績の大きな手柄とはなんだろう。そんなものは決まっている。帝都を襲撃した犯人の捕縛が一番わかりやすい大手柄だ。
「そうなれば帝都の目はロータスに向くのは間違いない。何せ帝都が若い兵士を殺し、その上で天使を伴って破壊活動を行ったことを知っているのは実際の被害を受けたロータスの街だけなんだからな」
「つまり帝都はロータスの街の人を犯人とするってことですか?いくらなんでも横暴がすぎるんじゃ」
「権力者なんてそんなもんだ。自分の都合のために弱者を利用する。いつの時代もどこであってもそれは変わらない」
それは元の世界での歴史がきっちりと証明をしているし、人としての性質がこの世界でも一緒なのだから、当然同じことが起こるのは既定事項であろう。
「だからこそキョウスケは今回の黒死病の被害にあった街に詳細を伝えたんじゃよ。詳細を知った東部の人々の感情を利用するためにの」
エリザがまだ理解をしていないカナデにそう告げた。
つまりはこういうことだ。
事の詳細を知った東部の人々は、当然帝都に対して大きな反感をもつことだろう。自分たちを見捨て、助かったと思えばそれは神の裁きに反すると皆殺しにしようとしたのだ。次は自分達かもしれないと思えば、そのとき住人たちはどうするだろうか?
「かならず帝都に対し反旗を翻す。その上で俺達が帝都を攻め始めたと知り、その上でセレスという聖女がその感情を煽ったらどうなると思う?」
「即席の反乱軍のできあがりというわけですね」
「そういうことだ」
東部の街々による反乱。それが起これば帝都の目は住人達に向き、俺達への注意は脇に逸れることとなる。しかし天使とつながりのある帝都が攻勢に出れば、東部への被害は甚大なものとなるのは間違いない。
「別に私は構いませんが、恭介さん的にそれはありなんです?」
「もちろん被害は出るだろうがそうなる前に事は終わらせるつもりだし、何より」
「自分達で反乱を起こしたという意識が残る方が、儂らがこの国から去った時に都合がいいんじゃよ」
俺の言葉をエリザが引き継いだ。
俺達は帝都への襲撃が終わればまたどこか別の国へ移っていくことになる。ではそうなった後、東部の人たちはどうなるだろうか。
もしこのまま俺達だけしか動かなければ、ただ新たに発足する帝都の執政者にいいように潰される結果となるだろう。
だが反乱を起こしたとなれば話は別。帝都がその機能を失えば、東部はまとまりながら自治領のような形をとることになるはずだ。仮にならなくても俺がそう導くつもりなので問題はない。
「つまり恭介さんはロータスやその周りの人たちのことを考えてるってことですか。優しいですねー。怖い顔しながらそんな優しさばっかり見せるから私の好感度が天元突破しちゃうんですよー」
天元でもどこにでも突破すればいいが、カナデの言うような優しさなどでは別にない。あくまで自分のすることに対する責任くらいはとろうというだけのことだ。
俺達が帝都を攻撃した結果、東部の人たちが殺されましたなんてことになれば寝覚めが悪い。だからそうならないように最大限配慮したというだけのこと。これでももちろん多くの人が死ぬ可能性はあるが、それはもう運が悪かったと諦めてもらうしかない。カナデの言うような優しさは特にないのだから。
「照れ屋ということじゃな」
「納得です」
聞こえてくる言葉は無視しつつ、その話から話を逸らすために、俺はもう一人の仲間に話を向けることにした。
別に逃げたわけではない。ただ都合の悪い話題を切り上げたかっただけだ。普段は基本俺の味方なカナデだが、時折エリザと組むと非常にめんどくさい。だからこれは逃げではなく、戦略的撤退なのだ。
「新しい器の調子はどうだよ?」
「なんか変な感じだな……」
「お前の注文通りだと思ったけどな。ちゃんと人型の器だろ?」
「いや、確かにそうなんだけど、できればもう少し大きい方がいいというか、なんでこんなに小さいのかというか」
「恭介さんの趣味ですよ。受け入れてください」
「ふむ。人にはいろいろな趣味嗜好があるからの。儂は気にしたりはせんぞ?」
「待て、俺にあらぬ性癖があるように話すのはやめろ」
なぜか俺に新たな性癖が付与されたその原因に目を向ければ、そこには赤茶けたボブカットの見た目5,6歳の少女が、どこか恥ずかしそうにしながらもじもじとしているのだった。
ロリっ子スルトちゃんの降臨です!!新たな器により土偶から幼女へランクアップ!!果たして今後、スルトちゃんはどんな活躍を見せるのか!?こうご期待です!!(爆
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。
【お知らせ】
ブックマーク100人に到達したので、かねてより書き進めていた新たな作品の連載を開始します。
タイトルは【物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~】
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