第82話 帝国の皇女
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第82話~帝国の皇女~
「弁えなさい!!その方たちがどうしてそんなにわかりやすくこちらを挑発していると思うのですか!!あなた達が警戒ばかりするからやむを得ずに制圧しようとしているのがどうしてわからないのです!だからあなた達はいつも頭を使いなさいといっているでしょう!!」
「しかし、それは……」
「黙りなさい!私に歯向かうつもりですか!!」
「も、申し訳ありません……」
どこかで見たことのある光景だな。具体的にはアーネスト公国の南部地方あたりで。
そんなことを思う俺に、兵士を黙らせたドレスの女性が俺達の前へ躍り出る。
「大変失礼いたしました。状況が状況なものでこの者達も気が立っております。どうかご容赦ください」
「頭の悪い部下を持つと大変だな」
「なんだと貴様!」
「誰が勝手に話していいと言ったのですか!!」
「す、すみません!!」
どこまでもわかりやすい俺の挑発に馬鹿正直にのってくる若い兵士は、またも女性に叱責されて口を閉ざした。加えて上司と思われる兵士に殴られるというおまけつきだ。
「この状況で遊ぶでない」
「なんのことやらさっぱりだ」
エリザが少し咎めるようにそう言うが、マリオット公爵の部下の時のように手を出さなかっただけましというものだ。
「さて、いろいろと事情を聞きたいところだが、まずは自己紹介といこう。俺達は旅の冒険者。俺が恭介、こっちからカナデ、エリザ、そんでその土偶がスルトだ。ランクは一応“黄”。どうぞよろしく」
「ご丁寧にありがとうございます。申し遅れましたが私はこのキュリオス帝国の第二皇女をしております、ナターシャ・キュリオスと申します」
なんと。どうやらこの女性、貴族を通りこして皇族だったらしい。そうするとさらに疑問がいろいろと出てくるのだが、それはこれから詳しく聞けばいいだろう。
ナターシャと名乗った皇女は、俺達に恭しく一礼した。赤い、燃えるような髪がさらりとなびき、力強い目が俺達を品定めでもするかのように射抜く。なるほど、皇女というのはどうやら本当らしい。
髪の色と同じ赤いドレスはこの雰囲気の中ではことさら目立つが、本人はさらさら気にする様子もないようなところも、この女性がある程度の胆力がある証明でもあった。
「それじゃあ聞いていいか?どうして皇女がここにいるのか。そもそもなぜ呪いの浄化を行うはずの教会が引きこもりのような状態になってるのか。とりあえずはその二つを教えてもらっても?」
「その前にこちらからも聞かせてください。あなた方はどうしてこの国にこられたのですか?どこかで今の帝国の状況を聞いてこられたのか、もしくはギルドからの依頼があったからでしょうか?」
「どちらも違うな。たまたま帝国に用があったから来ただけだ。初めて立ち寄った街がこんな状態だったからな。とりあえず専門家の所に行ってみようってなった感じだよ」
「嘘をつくな!ならどうして貴様らのような一介の冒険者が教会への抜け道を知っている!!教会関係者でもほんの一部しか知らない抜け道だ!それを知っているお前らがこの異変の犯人である証拠だ!!」
またも若い兵士が口をはさんできたが、ナターシャは厳しい視線を送るも何も言わない。上司たる兵士も同様の疑問を抱いているからか先ほどのように殴ったりはしなかった。
確かに何らかの理由でここに引きこもっている者からすれば、俺達は怪しいを通り越して警戒する存在だろう。
なにせ兵士曰く、あの抜け道は本当に一握りの者しか知らないらしいのだ。俺だってインデックスのナビがなければ、ここに至るのはおろか、入り口を見つけることも出来なかっただろう。
「所持しているスキルのおかげとしか言いようがないな。詳細は省かせてもらうが、少なくとも俺達にそちらへの敵意は……」
「黙れ黙れ!!証拠もなく信じられるわけがない!姫様!私にそいつらを黙らせる許可をください!この状況下で姫様の前に現れた奴らを野放しにしておくわけにはいきません!!」
「落ち着きなさい。この方たちから敵意や害意は感じません。まずは話をするべきです」
「姫様!!そんな悠長なことを言っている状況ではないはずです!!ご自身の立場と身の安全をお考え……っ!?」
若い兵士が最後まで言葉を続けることはなかった。簡単に説明すると、あまりにうるさいので収納に入っていた槍を一本、軽く兵士に投げつけてやったのだ。
軽くとはいえ、俺のステータスでの軽くだ。投げつけられた兵士は思い切り吹き飛び、並べられた椅子を吹き飛ばして飛んでいく。
「勘違いすんなよ。俺達はあくまでこの状況で職務を放棄している奴らに事情を聞きに来たんだ。お前らの都合も事情もしったことじゃない。答える気がないならそれでもいいが、その時は正面の扉をぶち壊して出て行くだけだよ」
吹き飛んだ兵士はたちあがることなく倒れ伏している。死んではいないだろうが、どこかしら怪我を負った可能性は高い。あまりのことに残りの兵士は武器を構え飛び掛からん勢いだし、皇女ともう一人も警戒度が上がっている。
「前から思っとったが、お主もカナデと同様に短気じゃな」
「相手の態度が悪いんだから仕方がないだろ?だいたいこんだけ病気が蔓延してるのに、それを放置してる段階でこいつらこそ質が悪いんだから知ったことか」
自分でもあまりの言い分だと思うが仕方がない。そもそも俺がここまでこの街の異常を気にかけているのにはもちろん理由がある。
この街に来る前の天使の言葉、神の裁きというワードだ。
一体何に対する罰なのかは知らないが、天使の言葉を額面通り受け取るならこの街の異常は神、もしくはそれに近しい者がなしている可能性が高い。
圧倒的な強者が弱者をいたぶる行為。それが理不尽といわずに何というのか。だからこそ俺はそんな状況下に陥っている街を放っておくことが出来なかったのだ。
そのために少しでも情報を集め、その上で解決を図ろうとしたのだ。それなのに権力者によるこの態度。俺が少しばかり腹を立てても仕方がない。事情はあるのかもしれないが仕方がないのだ。
「だんまりを決め込むなら好きにしろよ。今すぐそこの扉をぶち壊してやるから街の人たちに誠心誠意詫びるんだな」
語気を緩めることなくそう言い切り、俺は教会の入口たる扉へと向かう。
しかしそんな俺の前に立ちはだかる者がいた。
「待ってください」
そいつはここまで一度も口を開くことはなかったシスターと思われる女性、いや、少女だった。
「あなた方は敵ではないのですね?」
「さっきまではな。だが今は立派な敵だろう?あんた達にとってしてほしくないであろうことをしようとしてるんだからな」
「事情を話せば協力していただけるのですか?」
「それはあんた達次第だ」
俺とシスターの言葉がそこで途切れる。他の連中は何も言わず、皇女までもがシスターの答えを待っているように見えた。
「わかりました。全てお話しますので扉を破壊するのはやめて頂けますか?」
「話の内容次第だな。その事情とやらがあまりに自分本位であればすぐにでもぶち壊す」
「それで構いません。少し長くなりますので、みなさんどうかそちらにお座りください」
シスターはそう言うと俺達を座るように促し、自分は俺が吹き飛ばした兵士の所にいきゆっくりとこう言った。
「まったく。だからあなたは短慮がすぎるというのです。相手との力量差を把握できるようになりなさい」
そう言うと同時、シスターの手があわい緑色に光り出す。その光は兵士をゆっくりと包み込むと体にできた傷を癒していく。
「すみません……」
「わかったならあなたも座っていなさい」
兵士に呆れたような、しかしまるで母親のような視線を向けたシスターは改めて俺達を見据えた。
「まずは自己紹介を。私の名はセレス・ノールヴェン。ロータスの街のシスターをしている者です」
そう言うセレスの目は、一介のシスターとはとても思えない程慈愛に満ちた、まるで聖母のような雰囲気を纏っているような、そんな気がした。
今話から新たなキャラが登場となります。
ナターシャさんとセレスさんの二人は帝国編での最初の登場キャラとして活躍してもらうつもりですので、続きをお読みいただけると嬉しいです。
二章も一章に負けず劣らず長くなりそうな気がしますが、引き続きお付き合いいただけると幸いです。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。




