第79話 天使のお告げ
前回の誤字の指摘、毎回本当にありがとうございます。
後書きに少しお知らせを載せていますので、合わせてご覧ください。
第79話~天使のお告げ~
錬金術を使って大河に橋をかける。
対岸まではそれなりに距離があるが、材料となる土はいくらでもその辺りに転がっているのだ。材料があるのなら物質を構成することなど訳はない。それこそが錬金術の神髄なのだから。
『お前、子どもとか好きだったんだ。絶対嫌いなタイプだと思ったんだけど』
作り上げた橋を渡っているとスルトが不意に俺にそう声をかける。
「その偏見はどこから来るものなんだ?」
『これまでのお前のやり口とか見てると子どもが好きな要素なんて何一つなかったからさ。というかそもそも人間が好きじゃないよなお前』
「当たらずとも遠からず。否定はしない」
『ならなんであの親子は助けてやったんだ?しかも結構な好待遇で』
スルトが俺にそう問うた。
確かにこれまでの俺の態度を見ていれば、俺が情け容赦のないやつに見えても仕方がないだろう。
策で嵌め、力で屠り、両方で殺す。
そんな俺を見て、スルトがそう言う感想を抱くのもわからないでもない。もちろんそれが俺の本意かと言われればそう言うわけじゃないのだが、していることは事実なので余計な否定はしなかった。
「さぁな、ただなんとなくだ」
『なんだそれ。お前は気分で人助けをするってことか?』
「何か悪いか?」
『いや、悪くはないけど……』
俺のその気のない答えにスルトが口をつぐむ。こいつ、最初こそ尊大な態度で俺達に食って掛かってきたが、一緒に行動を共にするようになってその性格がまるで違うことに気づいた。
最初は子どもだと思っていた。実際子どものような性格なことに間違いないのだが、スルトは純粋すぎるのだ。
純粋=優しいというわけではないけれど、こいつは魔物の割に理性的で俺達の中で誰よりも命というものを軽んじてはいない。
だからこそカムイの街で出会ったあの姉妹を助け、戦いが終わった後は身寄りのない二人をシュライデンにきっちり世話するように頼んでいた。
あれが頼んでいたというより脅していたように見えたのはこの際置いておくとして、スルトの性格は実は結構温和だったりするのだ。
そんなスルトだから、俺が気分であの親子を助けたことに疑問を持つ。俺とて流石に気分で人助けをするつもりはないが、それでも明確な答えを持ち合わせていないのだから、あのように答えるしかなかったのだ。
ただ助けたかった。
聞けばあまりの理不尽さにその思いが強くなったのは事実だが、事情を聞く前から俺はすでにあの親子を助けるつもりだったのだ。
俺が与えられなかった親のぬくもりを見たからか。それともその懸命さに心を打たれたからなのか。理由はわからないが、とにかく助けたい気持ちに嘘はなかった。
「俺が助けたいと思うから助ける。気に入らないならそれで構わないさ」
『いや、だから、そういうわけじゃ……』
スルトが話を切ろうとした俺に、さらに何かを言おうとしたその時だった。
「止まりなさい」
そろそろ対岸につこうかという頃合い。橋の終着点にいた誰かが俺達にそう告げてきたのだ。
「なんだお前?」
「あなた方に話す権利はありません。あなた方はこれから私の話すことを黙って聞き、従えばいいのです」
高圧的な言葉に苛立つが、その容姿をみてとりあえずは話を聞くことにした。
白い純白の翼に同じく、真っ白なワンピースのような服を着た無表情な顔。男とも女とも判断がつかないその容姿は美しくも、どこか機械的な印象すら感じさせる。
「この地域を統べる大天使様のお言葉です。お前の成した所業は人の領域を超える行為である。ただちにその行為を停止し、速やかに自分の成したことを顧みなさい。とのことです」
「へぇ、大天使ね。それで、その天使様は俺が一体何をしたと?こんなに真っ当に生きている俺が悪いことなんてするとでも?」
話の内容に察しはつくが、俺は盛大にとぼけることにした。後ろで総突っ込みが入っている気がするが、善良なる俺にはなんのことだかさっぱりわからないな。後で3人ともデコピンだ。
「お前は神の裁きである病を治癒するという行為を行いました。病は神による正当なものであり、許可なき者がそれを治癒することは認められていません」
「それは知らなかったな。まさかあの程度の病気が治しちゃいけないもんだと思わなかったよ。それで、大天使様とやらは俺に何をしろっていうんだ?その神の領域とやらを犯してしまった俺に?」
「口を慎みなさい。あなたは神の使徒の前にいるのですよ」
どこまでもとぼけ、そして挑発すら含んだ俺の言い回しに天使が憤る。
“検索結果:対象のステータス。一介天使。天使の中で最下級に位置し、普段から下界での活動を主としている。上位の天使からの命令により、時に人を助け、時に裁きをくだす”
なるほどね。言わばこの天使はただのパシリ。上司の伝言を俺達に伝えに来たただのメッセンジャーってわけだ。
だとするとこいつをどう利用するのが効果的か。せっかくの神へといたる手掛かりがあちらから来てくれたのだ。これを逃すという選択肢はないだろう。そう思い、俺は脳内で策謀を巡らせる。はずだった。
「お前は確かにこの世界のルールを知らない。ゆえに大天使様は今回に限り罰を持ってお前を許すことにした。もちろん今後、神の領域を犯さないことが条件だ」
「お優しいことで。それで、大天使様は俺にどんな罰を与えると?」
できるだけ下手に出て応対しているつもりなのだが、どうやら天使は俺の態度が気に入らないらしい。無表情だったはずの顔をあからさまにゆがめて俺を睨む。
なんだ、感情表現豊かじゃないか。そんなことを考える余裕が俺にあったのもここまでだった。
「お前に与えられる罰はただ一つ。お前が神の領域を犯し救った娘を自らの手で殺しなさい。あの娘は神罰により死ぬ定め。それを覆すことは何人たりともゆるされは……」
天使が話すことが出来たのはそこまでだった。
当然だろう。声というのは声帯が震えることで、空気を震わせる音波がその主成分なのだ。音波の発生源である声帯が無くなってしまえば、声など出るはずがない。
「……っ!?……っ!?」
あまりに聞くに堪えない言葉を並び立てるものだから、つい先に手が出てしまった。
俺がしたことはなんてことない。ただ収納から槍を取り出し、思い切り天使の喉を穿っただけのことだ。
「悪い悪い。反応できなかったか?あまりに天使様がクズ過ぎて、つい攻撃しちゃいましたよ。でも意外ですね。まさかあの程度の攻撃も回避できないとはね」
穿たれた喉はぽっかりと円形の穴が開き、そこからおびただしい血が流れ落ちる。どうやら天使と言えど肉体構造はあるらしい。実体化の影響か、それとも受肉でもしているのか。どちらかはしらないが、そもそも知ったことではない。
「――っ!!――っ!?」
「何を言っているかわからないが、いいことじゃないことは確かみたいだ。カナデ、このうるさいの燃やしてくれるか?」
「かしこまりー!!」
俺のその言葉にカナデが嬉々として応じる。天使と言えば、逆に無表情なはずの顔に焦りの色を浮かべ狼狽えている。
「ゴミはちゃちゃっと燃やすに限りますねー。焼却―っと!」
もしかしたら天使は逃げようとしたのかもしれない。カナデの深青色の炎に包まれる直前、背の翼を大きく広げようとしていたのだから。
だが結局は全て無駄。喉に受けたダメージと出血。加えて上位者であるはずの自分が一方的にダメージを受けたことへの困惑。そういった要因が重なったのかは知らない。
俺達に警告を伝えに来た天使は、邂逅から数分の後、めでたく灰に帰ることになったのだった。
今回から天使さん達がたくさん出てきます。
神の部下と言えばやっぱり天使なので、このお話のサブタイトルが神に抗うって言っている以上、これから先もたくさん出るのでどうぞお楽しみに。
お知らせです。
本編も2章に入ったこのタイミングで、少しづつこれまでの話に加筆・修正を加えていきたいと思います。
もちろんいちいち読み直さなくてもこれから先に影響が出ないように修正を加えますのでご安心ください。
本編の更新は隔日で問題なく進めますのでそちらもよろしくお願いします。
最後にはなりますが、まだブックマークや評価をしていない方がいらっしゃいましたら是非お願いします。作者が一人でもブックマークが増えると泣いて喜びますので是非お願いします。
それではまた次回に。




