第75話 ユーリシア川で出会った親子
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第75話~ユーリシア川で出会った親子~
どんなファンタジー、特に異世界ものには顕著なのだが、必ず盗賊という者が存在する。
そんなテンプレともいえる存在に俺達が出会ったのは、そろそろアーネスト公国とキュリオス帝国の国境というところにきたときだった。
ユーリシア川。
中央大陸の北東から南西にかけて流れる巨大な川だ。死骨山脈が大陸を南北に分けているとすれば、ユーリシア川は大陸を東西に分けている。死骨山脈から流れ出た水がその両側に川を作ったというのが定説らしい。
この巨大な川を国境としているおかげでアーネスト公国はキュリオス帝国から自国を防衛できたという話もある。海とまではいかはないが、対岸が霞んで見えるほどに大きい川幅だ。軍が攻めるにも労力が必要だったことは想像に難くない。
そんな大河に俺達がたどり着いたところで発見したのが、どう考えても戦えないであろう親子を取り囲んでいる盗賊の集団というわけだ。
「た、助けてください……」
「なぁ奥さん。俺達は何も取って食おうってわけじゃないんだよ。ちょっとお金をくれればそれでいいんだぜ?後はそうだな。奥さん美人だからな。俺達と少しだけ遊んでくれたら見逃してやらないこともないかもな」
一人の盗賊の下卑た声に、周りの盗賊が同調して笑う。いつだったか俺達を襲ってきた盗賊もいたが、まさにそいつらの焼き増しだ。台詞まで丸被りな辺り、盗賊というものの程度が知れるというものだろう。
「お願いします!私はどうなっても構いません!ですがこの子を、この子を帝国の教会に連れて行かないといけないんです!!」
必死にそう叫ぶ母親。どうやら腕の中で震えているのがその子どものようだ。なにやら親子にも切羽詰まった事情があるようだが、当然盗賊はそれにとりあおうとはしない。
「そいつは残念だ。俺達と会っちまったことを運がなかったと思って諦めてくれ」
後ずさる親子に迫る盗賊たち。そこに慈悲はなく、ただ己の欲望を満たそうとする腐った下心以外には何もない。
「同情の余地はないよな」
盗賊の手が親子に触れる寸前。その盗賊の体が一気に凍り付いた。驚く間も認識する間もない。他の盗賊たちもそれは同様だ。太陽のように真っ赤に燃える炎弾に押し潰される者。深青の炎で灰すら残らず燃え尽きる者。そして、どこからか現れた槍により細切れにされる者。
全ての盗賊が息絶えるのに、数秒と時間はかからなかった。
◇
誰かを殺すことにハードルを設けようとは思ったが、盗賊のような奴らに関しては話は別だ。
聞けばこの世界における盗賊というのは、最初は金のない貧困に喘いだ人たちがやむに已まれず罪を犯すそうなのだが、大半の人たちは一度目で罪の重さに手を引くそうだ。
しかしそうならずに盗賊を続ける者というのは、人を殺すこと、略奪することに快楽を覚えた者だ。罪に罪を重ね、戻れないところまで行ってしまった堕ちた者の集団。
「本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
深々と頭を下げる母親のこの表情を得られるのだから、やはり盗賊に容赦をする必要などはない。この先も盗賊はできるだけ殲滅していくことにしよう。
「でもこんなところで二人きりでどうしたんです?あまり多くないとはいえこの辺りは魔物も出ますよ?」
カナデが親子にそう問い掛ける。確かにそこは俺達も疑問だった。キュリオス帝国に入るためにはユーリシア川を越える必要があるのだが、そのためにはここからもう少し行ったところにある船着き場に行かなくてはならない。アーネスト公国からその船着き場まではきっちり街道も整備されていて魔物も寄ってはこない。ゆえに一般の人ならそこを利用するはずだ。
ちなみに俺達が街道を使っていないのは単に遠回りだからだ。魔物の生息地を避けて作られた街道は回り道でしかなく、俺達にとっては無駄でしかないので直線的にここまで来たというわけだ。
だからこそ、この場所に戦闘力を持たないこの親子がいるのはおかしい。そう言う意味をこめたカナデの質問だったのだ。
「それは……」
「別に儂らは詮索をするもりはないでの。答えたくなければ答えなくてよいぞ。ほれ、船着き場まで送ってやろう」
「ダメです!!」
エリザが母親にそう促し、安全な場所へ送っていこうとした時だった。途端に母親が激しい剣幕でそれを拒否したのだ。
「あ、いえ、すみません!でもダメなんです!助けて頂いて本当に申し訳ないのですが、あなた方も私達から離れたほうが……」
急変した態度をすぐに改めた母親。困惑するエリザ達だが、俺にはなんとなくこの親子の置かれている状況が分かった気がしていた。
「その子は一体何の病気にかかっているんだ?」
俺の言葉に心底驚いた表情を浮かべた母親だったが、すぐにその表情を改めた。
「な、何を……」
「ろくに戦えないのに魔物や盗賊のいる場所にあえている。人の多い安全な場所にはいきたがらない。一応は恩人であるはずの俺達を遠ざける。導き出される答えはふたつ。一つはあんた達が犯罪者の場合だが、偏見だけどそれはないと思っている。だとするともう一つの理由だ」
母親に抱えられ、震える子どもが目深に被っているフードに手をかけ一気にはぎとる。母親が止めようとするが当然そんなものは意味をなさない。
子どもの顔は一部が黒くなっていた。よく見ればそれは腕や足にも広がっていて、おそらくは衣服で隠れている体にも現れているのだろう。
「離れてください!!呪いが、神の呪いがうつってしまいます!!」
半ば半狂乱になりながら我が子をかばい、そして俺達から遠ざけようとする母親。
これはどうやら、キュリオス帝国に入る前にやることが一つできたようだ。
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