第65話 魔族の追憶
前回の誤字報告もありがとうございました。一向に減らない私の誤字を指摘してくださり感謝しています。
第65話~魔族の追憶~
はるか昔。神により放たれた伝説の魔物が世界に生きる大半の生物を滅ぼしたというのは魔族の中でも有名な話だ。
だがそれはあくまで過去の話であり、つい最近生まれたばかりの魔族にとってはどうでもいい話。所詮はおとぎ話でしかなかった。
サイモン・イルムクラ。
イルムクラ家という、魔族の中でも有数の貴族。侯爵家にあたるイルムクラ家の次男として生まれた魔族は、何不自由なく日々を過ごし大人になった。
治癒魔法の得意だったサイモンは、診療所のようなものを営む傍ら、傷ついた人を救うために来る日も来る日も研究を続けた。
助けることが出来る人がどれだけ増えても、必ず手の隙間から零れ落ちてしまう命がある。それがサイモンには我慢ならなかったのだ。
寝る間も惜しみ、貪欲に命を救う方法を求めた彼は、ついに命の根源に辿り着く。
それは魂への干渉。生きとし生けるものの根幹は魂であり、肉体という器に魂が定着しているに過ぎないのだ。生物が死ぬというのは、魂の死。魂が修復不能になったから死に至るのだ。
そこに気づいたサイモンは魂の研究にのめりこむ。ただ誰かを救いたい。その真っ直ぐな思いは、ついに実を結ぶ寸前までに至る。
『今すぐその研究をやめよ』
あと一日。最後の工程。そこまでたどり着いたサイモンの前に現れたのは天使だった。
『魂への干渉は神への領域を犯すこと。人の身に許されたことではありません。直ちに全ての研究を放棄しなさい』
天使からの勅命。その事実は瞬く間に魔族たちの間に広まった。
そもそも天使とは神に仕えるいわば側近のような者。その天使からの言葉は事実上の神の言葉に等しい。当然、他の貴族。王族、さらには家族であるイルクラム家全てがサイモンの敵となった。
無理もない。神に逆らえば何をされるかわからない。下手をすれば全てがまた滅ぼされてしまうかもしれないのだ。それならサイモン一人を犠牲にする方がどれだけましなことだろう。
天使が告げたのは研究をやめることだけだったはずが、いつしかそれはサイモンを殺せというものにすり替わっていた。
そうなればもはやサイモンに研究する暇などない。逃亡生活を余儀なくされたサイモンだが、それでも研究の完成を彼は諦めていなかったのだ。
その原因は彼の婚約者だった。
ありふれた話だ。サイモンの婚約者だったリーシャは幼少の頃から呪われていた。生まれた時から死へのカウントダウンが始まる呪い。そのカウントダウンはいかなる解呪でも止めることは出来ず、彼女が25回目の誕生日を迎える時にはゼロになる。そんな呪いだった。
それを止めるため、サイモンはただひたすらに研究を続け、あと一歩でそれを打ち破るまでに至ったのだ。当然諦めることが出来るはずなどない。
逃亡を続けながらもサイモンは研究を続けた。設備もない、材料もない逃亡生活では碌な研究などできなかったが、それでもサイモンは着実に研究を進めていたのだ。
だがその生活はある日突然終わりを迎えた。流れ着いた町は、気が付けば魔族の住む大陸の一番端。いつの間にか婚約者のいた王都から相当離れた場所に来てしまっていたのだ。
しかしその町に入ったサイモンを出迎えたのは、これ以上にない絶望だった。
街へ入ってすぐの広場。そこにつるされた一人の影。
『リーシャ!?』
ぽつんと立つ街の風景に不釣り合いな絞首台に無残にもつるされていたのは、自分が誰よりも救いたいと願った婚約者だったのだ。
サイモンがいつまでも捕まらず、さらには研究をやめないことに業を煮やした魔王が、彼の最愛であるリーシャの処刑を命じ、さらには彼の逃走ルートである場所に晒すことで逃走する気力を奪おうとしたのだ。
変わり果てた婚約者の前で崩れ落ちたサイモンの周りを取り囲む軍の兵士達。
動くことのないサイモンを包囲し、元凶を殺せとの指令を忠実にこなそうとしていた。
だが次の瞬間だった。サイモンを囲んでいた兵士、それどころかその町にいたすべての住人が一瞬で死に絶えたのだ。
命を治すということは、壊すことと表裏一体だ。治すことを追い求め続けた彼は、いつの間にか壊すことに最大限に精通してしまっていたのだ。
全ての命を奪った彼は、婚約者の亡骸と共にどこかへ消え、魔族による必死の捜索もむなしくついにその消息を得るには至らなかったのだった。
◇
「私は誓った。あの時まで私に散々救ってもらいながら、簡単に裏切った奴らを許さないと」
魔族、サイモンの言葉を否定することが出来なかった。言っていることは当然で、そんな理不尽が許されるはずはない。許していいはずもないのだ。
「そして何よりも許せないのは、自身の領域を犯すというふざけた理由で私の研究を踏みにじった神だ!!だから私は神を殺すのだ!!私から何もかもを奪った元凶を!!この世界にふんぞり返っている諸悪の根源を!!」
絞り出すように叫ぶサイモンに、俺はかける言葉を見つけることが出来なかった。
スケールは違えど、俺もサイモンも世界の理不尽に晒された当事者だ。そこにはどうしても共感をしてしまう。その感情を否定しきれはしなかった。
だが。
『たの……む……。息子を……』
「龍牙槍」
手に持つ方天画戟に金色の龍が宿る。俺の持つ全魔力を槍に込め、全てを貫く一点突破の槍を形成する。
「私を否定するか?」
サイモンが俺に聞いた。
「どうだろうな。否定はしないよ」
俺自身、理不尽な過去があったから、その思いをもって奮起することが出来たのだ。今だってその思いは消えていないし、復讐心だってもちろんある。だからサイモンの気持ちを否定はできない。
「だけどな!だからってその思いを関係ない奴らにぶつけていいことにはならないんだよ!!」
ギレ―火口で殺した魔族の姿が蘇る。やっていたことから殺したことへの正当性はあるつもりだが、それでも拭えない感情があったのはきっとそういうこと。
例え理不尽に対し復讐を誓おうとも、関係ない者に八つ当たりすることが是であるわけではないのだ。
「なら示せ。私が間違っていると」
「言われるまでもねぇよ!!」
その言葉と同時、ついに激闘の火ぶたが切られたのだった。
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