第63話 地下施設の悪魔
第63話~地下施設の悪魔~
俺は知らなかったのだが、エリザ達が破壊した労働所で行われていた人を悪魔へと変える行いは、あくまで実験だったらしい。
本番の前の前座。労働により使えなくなった駒を、感情のない戦う悪魔に変える最低の所業。
しかしそれすらもリッチモンド伯爵にとっては計画の前段階に過ぎなかったらしい。
「現れろ!!そして私に力を与えろ!!私を見下し、卑下した者を全て見返してやるのだ!!」
地下の空洞から何やら機械音が聞こえてくる。ローラーが回転し、何かを巻き取るような音がするところを見ると、どうやら地下の空間が持ち上がってきているらしい。
正直待つ必要があったかと問われれば答えはノーだ。この隙にリッチモンド伯爵を攻撃し、拘束でもなんでもしてしまえば問題はあっという間に解決する。
だがそれをしなかったのは、多分俺の慢心だったのだろう。いつも誰かに蔑まれ、底辺を生きて来た俺がこの世界に来て圧倒的な力を手に入れた。そのせいか一度を除いてここに来るまで戦闘において苦戦をしたことなどなかったのだ。
だから俺は今回もどうとでもなると高を括っていたのだ。何が出てこようとも、周囲に多少の被害は出るだろうがどうにかなると。
「なんですあれ?大きなプールですか?」
地下から出てきてのは、怪しげな緑の水がなみなみと入った大きな容器。正円の形をしたそれは、カナデの言う通りプールに見えなくもない。
「落ちた奴らはみんなあの中。だとするとあの水がいいものだとは考えにくいな」
「でしょうねー。あんな色の水。夏前の掃除前のプールくらいでしか見たことありません」
まさに的を射た例え。あんな水、例え人体に無害であったとしても触れたくはない。
「さぁ現れろ!偉大なる悪魔よ!!」
リッチモンド伯爵の言葉に呼応するかのように、緑の水面が大きく波打つ。何が飛び出してくるのか。どこか期待しながらそれを眺めていたのも、やはり俺の慢心ゆえだったのだろう。
そしてそれは現れた。
『お前か、私を呼びだしたのは』
現れたのは、龍に跨り毒蛇をもった一人の美女。姿かたちはこの場にそぐわない異質その物。だがそれよりもさらに異質なのは、見ただけで足が後退してしまうほどの圧倒的なオーラだ。およそこの世のものとは思えないその雰囲気に、俺は完全に委縮してしまっていた。
「そうだ!私だ!古の秘術によりお前を呼び出した!私に全てを否定する力をくれ!!」
こうなる前に止めるべきだった。内心で後悔するがすでに遅い。俺は、いいや、俺達はリッチモンド伯爵と謎の美女のやり取りを黙って見ている事しかできないでいるのだから。
『強欲だな。私よりもマモンの方が適役であっただろうに』
「御託はいい!私がお前を呼び出したんだ!お前は私に力を貸せばいいんだ!!」
『……言葉が過ぎるぞ。消されたいのか?』
言葉を荒げるリッチモンド伯爵に美女がそう呟く。その一言で世界が凍った。凍ったというのはあくまで比喩に過ぎないが、俺はそう感じてしまったのだ。
『確かにお前が契約者だが反故にすることもできる。たかだが人の身で勘違いするなよ』
「わ、私は鬼人族だ!あんな人間風情と一緒にするな!!」
『人間も鬼人も私にとってはさして変わらん。どちらも矮小な種族であることに違いはない』
俺はこのときリッチモンド伯爵に少なからず賞賛を送っていた。あのでたらめな存在に例え言葉に詰まりながらでも反論したのだ。あの圧倒的な存在にだ。いかに強い目的があるとはいえ、その精神力には拍手を送る他ないだろう。それほどに美女の姿をしたそれはおかしいのだ。
『まぁいい。契約は契約だ。お前は既定の魔力のこもった魂を私に差し出し、私はそれに応じて現れた。なら余計な問答は無用だ。私はお前に力を与えよう』
「おぉ……!!」
美女がおもむろに手をかざす。その手に溢れるのはどす黒い力の塊。美女はそれの塊をリッチモンド伯爵に向ける。
『我が名はアスタロス。過去と未来と秘密の番人の名において、貴様に力を授けよう』
次の瞬間、黒い塊がリッチモンド伯爵を包みこむ。それと同時に大ホールもまた真っ黒な闇に包まれた。
「カナデ!警戒を怠るなよ!!」
「当たり前です!警戒MAXです!!いつでも全方位燃やせますよ!!」
それは数秒のことだった。その数秒が命取り。次に視界が戻った時には、空間の全てが変わっていたのだ。
「これが悪魔の力……。これが望んでいた力……。これがあれば私は全てを変えることが出来る!!」
闇が晴れた先にはリッチモンド伯爵が同じ場所に立っていた。だが明らかにその様子が違う。放つオーラはまさにさっきまでいたはずの美女のもの。美女は忽然と姿を消し、まるで力が乗り移ったかのようにリッチモンド伯爵の力が増していたのだ。
「ゲイ・ボルグ!!」
「収束焼却!!」
もはや対話の時間は必要ない。決めるなら今。そう思わせるほどの力を感じたからこそ、俺もカナデも言葉を交わすことなく渾身の一撃を叩きこんだのだ。
あれは危険だ。本能がそう告げていたから。
「そうだったな。ここにはお前たちがいたんだったな」
どうやら俺達はとんでもないミスを犯してしまったようだった。俺とカナデの攻撃を正面から受けたにもかかわらず、リッチモンド伯爵は無傷でそこに立っていたのだから。
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