第56話 カムイの街の影
誤字の指摘ありがとうございます。自分で気づけないところを指摘していただきとても助かっています。
第56話~カムイの街の影~
商人たちの荷車の中に置いてきたのは、一言で言うなら死体だ。
道中に襲ってきた盗賊たちの死体。わざわざこいつらを収納に入れてきたのはこの時のためなのだ。
カムイの街がここまで要塞化されており、そのうえこんなにも厳重な警備がなされているのは予想外だったが、少なくとも俺達が街にすんなりと侵入できるとは思っていなかった。
手配書が出ている以上、リッチモンド伯爵が自分の懐である街の中に俺達を入れたいとは思えない。そんなことは簡単に予想できたので、それに対する手を考えて居たというわけだ。
『しかしそのための刺客の死体ですか。もし自分がやられたらと思うとぞっとしますね』
俺の作った通信機の向こうで、クジョウの街の再編に当たっているシュライデンが呆れ交じりの声を上げた。
俺のしたことはそう難しいものではない。力ずくで押しとおってもいいが、できれば穏便に街に入りたかったので門番の兵士の目を他に向けたかっただけなのだ。
あれだけの警備を敷いている以上、例え商人の積み荷だろうが確実にその中身を検閲する。ではその積荷の中に死体があればどうなるか。
当然兵士の目はその積荷、ひいては商人に向くことになる。それが複数個所で同時に起こればどうなるか。
結果は今俺達がすんなりと街に入っているのを見ればわかるというものだ。
『あなた方のステータスがあってこそとも思えますが、それでももし強引に通れば市民に被害が出る可能性もありました。重ねてお礼をさせていただきます』
「お礼はいい。それよりも街の様子だ。カムイの街はどうしてこんなにも要塞化されている?そりゃ帝国との防衛ラインと言えばそれまでだが、いくらなんでもこれはやりすぎだろう」
カムイの街の廃墟街。流石に普通の宿などは避けて、俺達はひとまずの拠点としてこの場所に潜んでいた。
そこでまずシュラインに連絡をし、疑問に思っていることを聞いているのだが、その答えははっきりしないものだった。
『それがわからないんです。数年前から急に父の人が変わったということはすでにお伝えしましたが、それと同時に街の防備の増強も図るようになったのです』
「また数年前の話か。一体その時何があったんだよ」
『僕も不審に思い方々手を尽くして調べました。ですが情報が一切出てこないんです。普通は何か少しは出てくるものですが何もない。何もなさ過ぎて逆に怪しさが増すほどですよ』
通信機の向こうのシュライデンの声色を聞くに、きっと父親のことを徹底的に調べつくしたのだろう。執政の不信感を理由に南部に救援を求めようとしたくらいだ。そのシュライデンが何も情報がないというのだから、どうやらリッチモンド伯爵は相当厳重に隠蔽をしているようだ。
『それにもともと街を取り囲む壁自体はありましたが、今のような立派なものではありませんでした。城壁のような工事など、普通に考えれば数年で終わるわけはないんです。その資金や労働力などの出どころも謎。現状のカムイの街はとんでもない秘密の温床と言って過言ではないと思います』
謎が謎を呼ぶカムイの街とリッチモンド伯爵。目的地までたどり着いたはいいが、ここまで来てさらに謎が深まっていくことになるのだった。
◇
3人と一体で路地裏を歩く。
どんな立派な街にでもその裏には必ず影がある。それを表すのが今俺達が歩いているスラム街だろう。
家と言うにはあまりにもボロボロで、人が住むには安全面から見ても衛生面から見ても推奨などできるはずもない建物が立ち並ぶ。
まばらに見える人影に活気はなく、ここがスラム街であることをさらに強調しているようだった。
俺達がここに来た目的は情報収集。元来、情報というのはその街の影の部分に集まるというのが基本となっている。表に堂々と出られないというのも一つの理由ではあったが、とりあえずこのスラム街で情報を得ようということになったのだ。
「北部は鬼人が多いと聞いていたけど、ここにはあんまりいなくないか?」
『エルフや獣人、それにドワーフ。人間もいるが鬼人はいないみたいだ』
門番や少しだけ見た街中にいたのは大半が鬼人族だった。シュライデンから教えてもらったのだが、鬼人族の特徴として額に角が生えている。
男性は角が長く、女性は少し盛り上がる程度というものらしいが、少なくともここにいるものにその特徴がある者はいない。
「リッチモンド伯爵は鬼人族至上主義とシュライデンが言っておったからの。そういったところも影響しておるのじゃろ」
なるほど。エリザの言うことはもっともだ。だとすればよっぽどのことがない限り、鬼人族に生まれたということが勝ちにつながるということになる。スラム街になどいるはずがないというわけだ。
「視線がうっとうしいですねー。燃やしますか?」
うん、カナデはどこでも相変わらずなようで何よりです。
しかしそんなカナデの気持ちもわからなくもない。実際このスラム街にはあまりに不釣り合いな俺達。実体化して人間にしか見えないが、黒髪に白のワンピースという出で立ちの美少女と、青髪のスタイル抜群の美女。さらに空飛ぶ土偶と地味な男という、普通の場所でも目立つ俺達なのだから、スラム街という場所で目立っても当然だろう。
「おにいちゃん。ごはんください」
そんな時だった。不意に足元でズボンのすそを引っ張る感触に足を止めた。
「おにいちゃん。なんでもします。たべものをください」
足元に目を向ければ、そこには二人の子どもがいた。俺に話しかけて来た方と、もう一人手を繋がれた子だ。姉妹だろうか、髪の長さからでしか判断できないがスラムに住む物乞いなのだろう。
「いもうとにごはんをあげたいんです。おねがいします」
頭を下げる少女の様子に、俺はただ息を呑むことしかできなかったのだった。
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