第336話 久しぶりの再会
第336話〜久しぶりの再会〜
混沌のブレスはこの世界のどの属性にも属していない。全ての属性を含み、全てを含まないからこその混沌。理にそぐわず、そして理に従うことをしない属性は俺にのみ許された新たな属性。
「そのオーラはなんか嫌なんだけど!?」
『お前らと対極だからな。大人しく混沌に飲まれて死んどけよ!!』
「ならやってみるといいよ!熾天使相手にどこまでできるか見ものだね!!」
混沌は世界を蝕み、光は世界を再生させる。
まさに俺とラファエルは対極の属性を持ち戦っているわけだが、ここまでは互いにほとんど互角の戦いが続いていた。
素早さはラファエルが上だが、力は俺が上。神具と俺の腕が激突する度に衝撃が地形を変えていく。
「なんで神具の攻撃が通らないかな!!」
『お前の神具がそれだけ非力だからだろうがよ!!』
空中でラファエルが神具の槍を俺に対し突き入れるが、俺はその槍を片腕で防ぐ。この世界で最高峰の鋭さを持つ槍であるのは間違いないが、それでも今の俺の腕、龍と化し龍鱗に包まれた俺の防御を突破することは叶わない。
『いくら素早くても攻撃の直後は隙だらけだな!!』
龍鱗により止まる槍により、ラファエルの動きも一瞬だが停止する。当然俺はその隙を逃すはずもなく、槍を掴むとそのままラファエルごと地面に向かい叩きつけた。
「いっ……!?」
地面が陥没するほどの衝撃を受けて落下したラファエルは、一瞬だけその衝撃に声をつまらせるがすぐにそこから離脱すると再び空中へと躍りでる。
そのまま少しでもそこにいればブレスを浴びせようと思っていたので残念であるが、すぐに次の攻撃がくるためそれの対処に頭を切り替える。
ラファエルの攻撃はお世辞にも上手いとは言い難い。これでもこの世界で様々な敵と戦ってきたし、中には当然武器を使うものもいた。
そいつらは差はもちろんあるが、ある程度は自身の武器に精通していたし、何よりしっかりと武器を使っていた。
だが対するラファエルはといえば、一撃一撃が強力であることに間違いはないが、全ての攻撃がおざなりなのだ。槍の軌道や攻撃の後の体捌きもなっていなければ、持ち方一つとっても素人臭さが残っている。
もしこれが熾天使でなければ馬鹿にしているのかと怒鳴っているところだろう。神具を使っていなければ、たちどころに制圧できるだろう。そのくらいにラファエルの槍術は拙いのだ。
俺はスキルに槍術があるからこそそれが分かるし、扱えるがゆえにラファエルの隙も分かる。だからこそ先ほどからその隙をついて何度も攻撃ができている。今のところ互角の戦いができているのもそう言った要因が非常に大きいのだ。
逆に言えば、そんなお粗末な槍術であっても戦いになっているところがラファエルの恐ろしいところでもある。
使い手がお粗末でも抜群の威力を誇る槍の神具。そして隙を突かれても攻撃の一切を通さない光闘衣。何より熾天使というスペックは、そんなラファエルの弱点を容易に相殺するだけのポテンシャルを発揮する。
「本当、よく避けるよね!!」
『そんなお粗末な槍が当たるわけがないだろうが!!』
無茶苦茶な槍を避け、カウンター気味に攻撃をする。その繰り返しを一体何セットしただろう。ラファエルの攻撃は俺には当たらず、かと言ってこっちの攻撃もダメージを与えるには至らない。
まさに千日手。このままでは決着はしばらくつきそうにないが、流石にラファエルはそこまで甘い相手ではない。
俺が一番警戒している権能を先程のパシュパラストラの一撃を防いだ時以来、ラファエルは一度も使ってきていないのだ。
インデックスですら解析できない空間の亀裂。もしあれが別次元の入り口を開くようなものであるのなら。もしラファエルが次元を超越するような存在であるのなら、それを使われた時点で俺に勝ち目はない。
物理的な攻撃や魔法に対してなら対策を立てようがある。どれだけダメージを負ったとしても、最悪死ぬことになったとしても可能性はある。
だが次元を超えた攻撃に対処する術はない。もちろんこれは最悪の想定である上に、仮に次元を超越する力をラファエルが持っていたとしても何らかの制限があるのかもしれない。
今こうして使ってこないのもその制限の一つかもしれないし、ただ単に余裕を見せているだけなのかもしれない。
「やるねっ!!ここまで僕に拮抗してきたのはミカエルとの戦い以来だよっ!!」
『はっ!ならミカエルも大したことねぇな!!この程度なら熾天使もたかが知れる!!』
強がり。それは俺自身が一番よくわかっている。実際、いつラファエルが権能を使うか気が気ではないし、口ではこう言っているがラファエルと違って俺はいっぱいいっぱいだ。
いかにラファエルの攻撃がお粗末でも、そのステータスから繰り出される一撃は強力。読みやすい軌道であっても速度が早ければ回避には先読みが必要となる。必然的に常に神経を尖らせておく必要があり、俺の消耗具合は加速的に上がっている。
さらに今の龍化状態もいつまで維持できるかもわからない。どれだけ強力なスキルであっても今俺が龍となっているのはあくまでスキルゆえだ。
種族が龍になったとは言っていたが、それでも俺のベースは人の肉体であることに変わりはないらしく、この状態になるにはやはり魔力が必要となる。
龍が人になるのなら消費はそれほどもないが、逆は消費量が跳ね上がる。
今のペースで消費をしていれば、後十分もすれば俺の魔力は尽き、龍の姿を維持することは難しくなるだろう。
『死ねやっ!!』
そうなる前に決着をつけなければならない。ラファエルにどのくらいの余力があるのかは知らないが、俺に制限時間がある以上はリスクを承知で攻める必要がある。
だから俺はそれまでのカウンター主体の後の先での戦いをやめ、こちらから攻めるスタイルへと戦い方を変えた。
ラファエルの攻撃よりも先に腕をふるい、一撃を叩き入れる。大したダメージにはなっていないのかもしれないが、衝撃でラファエルは後方に少し下がっている。表情にも若干陰りが見えることからも、完全にダメージがないと言うわけではないのだろう。
ならば勝てる。ゼロではないのなら、積み上げれば規定値にいつかは届く。届く可能性があるのであれば勝機はある。
「うざったいな、もう!」
『丸見えだ!!』
すでにラファエルの動きは見切った。確かにスピードはラファエルの方が上かもしれないが、動きの先読みができればその差も埋められる。
確かに綱渡りの攻防ではあるが、それでもこっちに傾いた流れがある以上、それに乗っていれば神経を使う戦いであっても乗り切ることは容易い。
この瞬間に勝機を感じたからこそ、俺は一気に畳みかけた。魔力の消費など度外視。全身へ魔力を循環させ、ただでさえ破壊力の凄まじい龍の体をさらに一段上へと引き上げる。
「こ、のっ!!」
ラファエルも必死に防御をしてはいるが、すでに俺の攻撃に対応できていない。振るう右手の一撃が、もう何度目かわからないラファエルの胸部に当たった瞬間だった。
それまで俺の攻撃を完璧に防いでいた光闘衣。それがひび割れるかのような音を立てたのだ。
やはりこの戦い方は間違っていない。勝機と見た俺の直感は正しかった。そう感じたからこそ俺はここでさらに一歩を踏み込む。ラファエルを完全にここで葬るために。
「調子に乗るなよ」
だが踏み込んだ先に待っていたのは死地だった。俺が最大限に警戒していたラファエルの権能。使わせたくなかった次元を超越した何か。それが目の前でポッカリと口を開けていた。
「次元の彼方に飲まれて消えろ」
空間に亀裂が入り、それが開いた時、俺の体は一気にそこへと吸い込まれていく。
まずい。そう直感で感じ、一気に後方へと下がろうとしたが引かれる力の方がはるかに強い。なんとかしなければ待っているのは死よりもひどい何か。
そう感じたが、あまりの引力になす術なく亀裂へと引き込まれそうになった時だった。
「ラファエルよ。儂は殺すなと言ったはずじゃなかったかの?」
声の先に思わず視線を飛ばす。死の淵に立っているはずなのに、どうしてもその声の主の方は見ないわけにはいかなかった。
この世界にはあまりに不釣り合いな和服をきた妙齢の美女。かつて帝国で俺たちの前から消えた伝説の魔物、エリザがそこに立っていたのだった。




