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第327話 人類と魔族は再び手を取る

第327話〜人類と魔族は再び手を取る〜


 魔王ラヴァーナは恭介の要請により天使と対するために中央大陸にやってきていた。


 長年魔族を、魔大陸を支配していた天使を滅ぼした恭介に対する恩は計り知れない。本当なら恭介が戻るタイミングで一緒に中央大陸に来たかったのだが、天使との抗争で荒れてしまった魔国をまずは立て直す必要があった。


 それでなくとも恭介が方々で天使に喧嘩を売りまくり、魔国の街の多くで被害が少なくなかったのだ。もちろんそれも魔国を取り戻す必要経費であると考えてはいるが、どうしても復興に時間を取られてしまったことは否めない。


 だからまずは魔国の情勢を落ち着かせ、自分が出ても問題ない程度にした。その後急いで中央大陸に渡ったのだが、そこで待っていたのは全てが終わった状況という事実だったのだ。


「なるほど。そう言ったことになっていたか」


 ラヴァーナはナイジェル達からことの次第を聞き少しばかり思考を展開する。


 魔王が人類のテリトリーにいるなど本来であればあり得ない。そもそも召喚者である勇者とは魔王を倒すために現れるのだ。そんな人類の大敵である魔王を警戒こそすれど邪険に扱わないのは、偏に魔王の口から恭介の名が出たからだった。


『私はお前達の盟主であるサイトウキョウスケに大恩がある。ここにはそれを返すためにやってきた』


 その一言でこの部屋にいた全員が魔王ですらも同じなのだとすぐに納得をしてしまったのだ。


 恭介が魔国に行っていたのは周知の事実であり、だからこそ魔王であるラヴァーナの言葉とも矛盾はない。そもそももしここで魔王がその気になれば、人類などたやすく滅びるのだ。それほどラヴァーナから発せられる圧は凄まじいものがある。


 さらに魔王に付き従っている従者達ですら、人類の中では最高峰の力持つセレスであっても勝てる気がしない。


 信じるしか選択肢はない。恭介への信頼と、信じるしかない状況の逼迫。そんな要因から、各国のトップはラヴァーナへ警戒はしても反発することはなかったのだ。


 重苦しい沈黙が部屋を包み十数秒がたった。だがラヴァーナを除いた者にはその十数秒が一分にも一時間にも感じられた。


何せこの部屋に魔王がいるのだ。その事実だけで十分すぎるほどの事件なのに、その上恩があるという恭介はこの場にいない。最悪、恭介がいないことに怒り狂う恐れすらある。


 そんな思いを知ってか知らずか、ラヴァーナはゆっくりと口を開く。


「あれほどの者が、魔国を救うほどの活躍をした者がそれしきの爆発で死ぬわけがない。もし死んでいるなら今頃魔国はガブリエルにいいようにされていただろうさ」


 ガブリエルという世界でも文句なく最強と言われる熾天使の名前が突如出たことに戸惑う各国のトップだが、少なくともラヴァーナは恭介が死んでいないと確信を持っているらしい。


「その場で何があったかはわからぬが、恐らく何かしらの事情で表に出れないと考えるのが筋だろう。何せ相手は神だ。それくらいの事態は想定して然るべきだ」


 熾天使の次は神。一応、恭介から目的自体は聞かされていたが、こうして魔王という存在から改めてその言葉を聞くと、自分たちが相手にしている存在の大きさに思わず目眩がしてくる。


 それは王という国を預かる身ですらそうなってしまうのだ。もしこれが一般の者であれば卒倒してしまっていた可能性すらある。


「どちらにせよ私のすることは変わらん。私は人類の北部大同盟と同盟を結び、そして共に天使を打ち倒すためにここにきたのだ。恩人がいなくともそれをなすことに障害はないだろう」


 わかってはいたが、魔王という存在から改めて聞かされたスケールの大きさに動揺をしていた王達ではあったが、同盟という言葉を聞きその居住まいを一気に正した。


「今のは魔族と我々が同盟を組むと、そう言ったと考えていいのですか?」


「無論だ。恩人の頼みというのはもちろんあるが、もはや現状は世界中が協力しなければならないほどの状況だ。天使達が撤退したと言ったが、確実に何かしらの狙いがあると思った方がいい。今はキョウスケ達が数を減らしはしたが、それでもまだ多くの天使がこの世界にはいる。あっちがその気になればその被害は甚大となるのは間違いない。それに対抗するにはもはや魔族がどうの、種族がどうのと言っている場合ではないのだ」

 魔族との同盟。これまで考えたこともなかったその言葉に対し、思わず自分の耳を疑ってしまったナイジェルがそう聞き返したが、ラヴァーナの正論によって再び口を閉ざしてしまった。


 各国のトップ達はもちろん様々な未来を考え、そしてそれを回避するために思考を巡らせていた。だが、ラヴァーナとの短い会話の中で、いかに自分たちの考えが浅はかであったかを思い知ることとなったのだ。


 神と天使が相手であるという現実。自分たちはまだその事実をどこか軽く考えていた。あれだけの被害を出し、帝国に至っては国を支配されていたにも関わらず、神というこの世界の支配者を相手にするのにどこかなんとかなるのではという楽観的な考えすら持っていたのだ。


「我々人間は弱い。それでも同盟を結んでくれるというのか?」


 カンビナ国王レックスはそう問う。先の召喚者との戦いで自分たちの無力さは嫌というほど思い知った。そんな弱い人間に対し、魔族が手を組むメリットなどあるのか。レックスは言外にそんな意味を込めて問いかける。


「魔族は武力に秀でてはいるが個体数が少ない。天使と真正面からぶつかれば数の暴力の前に圧殺されるだろう。確かに人間は魔族よりは弱いかもしれないが数は魔族など比べるべくもないほどに多い。それに人間は下級天使とはいえ互角に戦って見せたのだろう?ならば我々が同盟を結ぶに足りる損材であるのは間違いない」


 魔王からのその言葉はレックスの胸を熱くさせた。魔王といえば人間にとっての恐怖の象徴であり忌むべき相手。それははるか過去から延々と連なってきた歴史の中でも同じこと。


 だがなぜ魔王を、魔族を倒すべき相手と定めたのかは誰も知らない。歴史を辿ればその理由は全て神によるものだということがわかるのだが、実際に知るものはもはやほとんどいないのだ。


 それでも魔王という存在が圧倒的な強さを持っていることは誰もが知っている。たとえそれが倒すべき相手だったとしても、その強さに憧れを持ったものは少なくはないのだ。


 もし自分に魔王ほどの力があれば。そんな歪んだ憧れの対象である魔王が人間を認める発言をしているのだ。しかも恐怖の対象、そして忌むべきものという印象すら違ったのかもしれないということになれば、強者からのその言葉はここまで天使にいいようにやられてきたレックス達にとっては何よりの賛辞となる。


「我らの大切なものを守るためには協力が必要だ。これまで啀みあっていた者がいきなりそれをするのは難しいだろうが無理を承知で頼む。私はキョウスケという人間のおかげで再び王としての責務を果たすことができるのだ。そのためにできることはなんでもするつもりだ。人間の王達よ。私と一緒に神と戦ってはくれないか?」


 そこから先は信じられない光景だった。魔王であるラヴァーナが頭を下げ、そして付き従う魔族達もまた同様に頭を下げる。


 その気になれば帝城など片手間で吹き飛ばせるほどの力を持った者が、神と戦うために自分たちよりはるかに弱い人間に頭を下げているのだ。


 これに応えないのであれば、もはや自分たちに王たる資格はない。


 頭を下げるラヴァーナ同様、ナイジェル、レックス、マリオット、そしてセレスもまた頭を下げる。


 人類はこれまで種族間で諍いをおこし、そして理解をせぬままに国を作りそこに閉じこもってきた。裏で神が理不尽を振りまき、それをなすために天使が動く。そんなことを知る由もなくこれまで生きてきたのだ。


 だがそれももう終わり。人類は神と争うことを決めたのだ。ならばどうして人類同士で手を組まないことがあろうか。


 対する敵は神と天使。この世界で生きていく権利を勝ち取るため、神の理不尽に抗うため。今この時、人類が初めて真の意味で神に戦いを挑むと決めた瞬間だった。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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