第32話 スタンピード
第32話~スタンピード~
そもそもスタンピードとはどういう意味なのか。
某検索サイトによれば、家畜などの集団暴走や人間の群集事故を表す英語とのことだ。
この言葉もまたファンタジーでは頻出の単語であり、ほとんどの物語で一度は起きる事象であろう。その証拠に、俺が読んできた物語でも何度もそれは起きているのだ。
「これはまた壮観ですねー。ところでスルトさんって戦えるんですか?」
『馬鹿にするな!!さすがに本来の力は使えないけど、その辺の魔物くらい余裕で消し炭にするくらいわけないんだから!!』
「ということはやっぱりスルトさんも炎系統の魔法を使うんです?」
『もちろんだ!!目に物を見せてやるから楽しみにしてろよ!!』
何やらカナデとスルトが物騒な話をしているが、すでに仲良くなっているようで何よりという物だ。正直なところ、スルトを連れてきたことでひと悶着あるかと思ったのだが、意外と受け入れはよかったのだ。
「しかしスルトに懐かれるとは、流石は儂が見込んだ男よな」
「エリザはよかったのか?あんまり仲良さそうじゃなかったけど」
「最深部の部屋から一緒に出て来た時は流石に驚いたがの。じゃがお主がいいなら儂は一向にかまわんよ。スルトはどうかは知らんが、別に儂は嫌いとかそういう感情はないんじゃ。強いて言うなら出来の悪い妹を見ている感覚じゃな」
「なるほど」
確かにスルトの印象は最初に出会った時に比べて大きく変化した。
最初はその圧から畏怖の対象、ただただ凶悪な存在なのかと思ったのだが、なんのことはない。こうして接してみれば、ただの寂しがりやな子どもそのものだ。
こうしてカナデやエリザだけでなく、俺も簡単に受け入れることが出来ているのはそのせいなのだろう。
「あんた達、何やってんだ!早くルグナン村まで退避するんだ!ここはもうお終いだ!早く逃げなきゃ死ぬぞ!!」
宿の外、ゴウロン山へ続く道に立つ俺達4人に宿の店主がそう叫んだ。
ゴウロン山の山道には、ギレー火口までの道すがらにいくつか見張り小屋のようなものがある。生息する魔物が危険と言われるゴウロン山だ。滅多に麓のこの小屋周辺まで現れる魔物はいないとはいえ、たまにここまで降りてくる魔物もいる。
そんな魔物を発見し、いち早く討伐するために設けられたのが見張り小屋なのだが、つい先ほど、山頂に一番近い見張り小屋から火口の洞窟から大量の魔物が溢れ、一気に山道を下り始めたとの連絡が入ったのだ。
「ギルドには連絡を入れたが、ルグナン村には火山の魔物に勝てる高ランク冒険者はいない!仮にいたとしても間に合いやしないんだ!!だから早く逃げろ!!こんなところで若い命を無駄にしちゃだめだ!!」
どうやら店主は元冒険者らしく、ゴウロン山の魔物についても詳しいようでその強さもわかっている。だからこそこうやって俺達に逃げろと必死に叫ぶのだろう。表向きは新人冒険者である俺達では、たとえ束になったところで魔物に勝てないと思っているから。
この人もいい人だ。
山を登る際にグローインから聞いたのだが、宿は店主が冒険者時代に稼いだ金を全て使って建てたものらしい。まだギルドが入山規制を始める前、若い冒険者がこぞって山へ入り命を落とした。
それが見ていられなくなり、少しでも何かを出来ないかと考えた末に出した答えが麓で宿を構えるというものだった。
ここで少しでも休んで英気を養って欲しい。冒険者の憩いの場となれば、若い冒険者がベテランの意見に触れることができるかもしれない。
店主はそう思ったそうだ。
実際、宿が出来てからというもの、入山規制が入る前にも関わらず死亡者は減少傾向にあったそうだ。店主の想いが通じたのかはわからない。だが一つだけ確かなことは、この麓の宿がゴウロン山へ挑む冒険者達にとって、大切な場所であるということだろう。
だというのにこの店主はその大切な宿を見捨て、俺達を逃がすというのだ。
なんの迷いもなく、ただそれが正しいことだと疑うこともせずに。
「お主なら結構あっさりと見捨てるかと思ったんじゃがの」
「スタンピードの原因は俺達かもしれないしな。流石にここで見捨てられるほど性根まで腐ってはいないんだよ」
今回のスタンピードの原因。確実なことは言えないが、洞窟内での急激な環境の変化が最も可能性が高いのだ。
魔族がゆっくりと洞窟内の温度を下げただけでも、山道に洞窟内の魔物が現れるという現象が起き、洞窟内部には氷河地帯の魔物が溢れた。
それなら逆のことを、しかも一瞬で行ってしまった俺達の行動はどういう結果を生み出すのか。
スルトの封印が解けるのを防いだという大義名分はあるが、凍り付いた炎柱をカナデの焼却魔法で再び燃え上がらせたのだ。帰路では洞窟内部の温度が上がり始めていたことを考えても、環境の変化が起こったと考えていいだろう。
その変化による魔物の大量発生。考えられない事態ではない。
「いくら来ようが私が全部燃やすので問題なしです!!」
『なんか私のせいな気がしなくもないから私もやる!』
「気がするじゃなくてそうの間違いじゃろ?」
『うるさい!!どうしてお前はそうやって昔から私をいじめるんだ!!』
どう見てもふざけているようにしか見えない3人だが、戦力が一級品であることは間違いない。その3人が参戦を表明している。加えて俺もそこに加わるつもりなのだ。
おそらく現時点で考えられる最強の戦力。相手が伝説の魔物でもない限り負けはないだろう。
「お前たち何言って……!?」
「あんたは宿の中の二人を見てやっててくれ。未だに起きないみたいだし、流石に誰かが見てやってたほうがいいだろうからさ」
「お前たちはどうする気だ!!」
「決まってるだろ」
収納から槍を取り出す。今までの槍に洞窟内で採取したミスリルを組み込んだ新しい槍。丈夫さも切れ味も今までよりはるかに上だ。
その槍を持ち構える。
山道のはるか向こうに、魔物と思われる影が見えた。それと同時に聞こえてくる地鳴りのような唸り声の数々。戦闘開始まではもうわずかもないだろう。
「あいつらは俺達が全部殺しつくしてやるよ」
さぁ、ゴウロン山での死闘の開始だ。
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