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第304話 アイラV S木下③

第304話〜アイラV S木下③〜


 ステータスの上で差があるアイラと木下ではあるが、片方が無抵抗だと言うなら戦い方はいくらでもある。


「一分間動かないでね」


「一分後までに私を殺せなかった時には覚悟してください」


 木下は万物変性で周囲の材料を変化させていく。鉱物の中で一番硬いものは?と聞かれれば、ここはファンタジーの世界なのだからオリハルコンやアダマンタイトといった言葉が出てきそうだが、木下はそんなものを見たこともないのだから流石に作り出すことはできない。


 ならば何を作り出したのか。


「僕の知る限り一番硬い物質はやっぱりダイヤモンド、金剛石なんだよね」


 そう。元の世界でも硬度という意味では最強の硬さを誇ったダイヤモンド。炭素という元素が共有結合をすることで生まれた、あらゆる金属や鉱物よりも硬い物質。


 それを作り出した木下は、さらにそれを編成させていく。次出したのは皮肉にも恭介が使う様な槍の群れ。木下は恭介が槍を使うことを知っているわけではない。単純に攻撃をするのに剣よりも槍の方が使い勝手がいいと判断したからに過ぎない。


「……」


 だがそれを見たアイラの中で、怒りのボルテージが静かに上がった。


「さぁ、いくよ」


 言葉とともに一気にアイラに迫りくるダイヤの槍の群れ。本来なら避けることなど容易いその攻撃だが、今のアイラにそれを回避することはできない。


 木下により縛られた条件下。別にただの口約束であり、そんなものを守る必要など皆無。だが敬愛するマスターである恭介が守ろうとしているものに危害を加えられることを考えると、アイラがその約束に従わざるをえない状況に木下は持ってきた。


 高硬度をもつダイヤの槍だが、最初の一本はアイラの腕に当たり弾かれる。高いステータスを持つアイラの前では一度くらいの木下の攻撃などあまり意味がない。だがその攻撃も回数が増せば話は別。


「くっ……」


 腕から足、腹部から頭部に至るまで降り注ぐダイヤの槍の攻撃に、いかにステータスで勝るアイラといえど次第にダメージを負っていく。


 一度であれば傷がつかなかった皮膚も、同じ場所に攻撃が続けば破損する。皮膚に傷かつかなくても衝撃は内部に伝わり、数を増すごとにそれは蓄積していきダメージとなる。


「まだ十秒だけどそんな様子で一分も耐えられるかな?」


 槍の雨の向こうで笑みを浮かべながらそうのたまう木下。鋭い視線をそこに向けるアイラだが、積み重なるダメージを前にそれ以上は言葉を発するのも難しい。


 正直なところ、アイラは約束を守る様に見せていたが場合によってはそれを反故にする事も視野に入れていた。アイラが動けないのはあくまで人質がいるからであり、そこに被害が及ばないなら木下の取引に応じる理由など何もない。


 鍵は木下の命令であり、それさえさせなければどうという事はない。ならば木下が無抵抗なアイラに攻撃を加えにきたところで、一瞬で命を刈り取ればいい。そう考えていたのだが、対する木下も甘くはなかった。


 嘘を己の本質とする木下だ。アイラがそう考えていることくらいは容易に想像がつく。だからこそ安全マージンを確実に取った上で、安全圏からの攻撃に終始することにしたのだ。


 無論、安全圏からの攻撃ではどうにもならない時は他の手も考えてはいたが、今のアイラの様子を見るにこれで十分だと判断した。


 設定された時間の半分、つまりは三十秒が過ぎた頃にはすでにアイラはボロボロだった。致命傷となり得る場所、頭部や胸部こそ防御をしていたが、それ以外の場所には槍が突き刺さっている。一番前面で防御をしていた右腕に至っては千切れて地面に転がってしまっている。


 何より血を流し過ぎた。恭介の眷属となり悪魔となったアイラだが、それでも生きている以上は血液が少なくなれば活動を停止することになる。今はまだ気力で持ち堪えているが、それでもその気力も限界は近い。


「その様子だと一分もいらなかったかな?」


 距離をとり、安全圏からの攻撃に終始していた木下だが、アイラのダメージの受け方に流石に問題ないと判断し、ゆっくりと近づいていく。


 もちろん警戒は怠らない。本来ならこのまま殺すべきなのだろうが、木下には妙案があったのだ。


「どうやら斎藤にご執心の様だし、君の体を使って新たな配下を作ったらきっと斎藤も油断すると思うけどどう思う?」


 先に向かっていた恭介は、この後木山と激突する。木下はその戦いの結末が五分五分であると見ていた。木山が勝てばいいが、もし恭介が買った場合は木山サイドの自分は危険。だからこそアイラという保険を用意しようと考えたのだ。


「こ……、く……」


「ん?何か言ったかな?あぁ、そんなところに槍が刺さってたらまともに声なんか出せないよね」


 このクズが。アイラはそう言いたかったのだが、千切れた腕のせいで無防備になってしまった喉付近にも今や槍が突き刺さっている。そのせいでまともに声も出せなくなってしまっていたのだが、その様子に木下は満足そうに笑みを浮かべた。


「そろそろ一分だけど、何か言い残す事はあるかな?君はここで死ぬ。だけどその死体は僕によって都合よく扱われ、最悪斎藤に対する切り札になる。斎藤のために戦っている君には最高の結末だろうね」


 薄ら笑いすら浮かべる木下に視線だけで殺せそうなほどの殺意を向けるアイラだが、背後から飛来した槍に腹部を貫かれその目からも光が失われていく。


「安心していいよ。何も君だけが死ぬわけじゃない。この後斎藤もきっと死ぬだろうし、何より君が守ろうとしていた人たちもみんな死ぬ。ちゃんと後を追わせてあげるから心配しないでよ」


 そう言って木下は上着にしまっていた通信機に手をかけた。最初から木下は当然だが約束など守る気はなかった。嘘を心情とする木下は、ただ自分の手札を最大限有効に使いアイラの動きを止めるために動いただけ。


 すでに各国にいる配下から北部同盟がシルビアス王国に向けて動き始めたのは聞いており、このままでは自分は大丈夫でも面倒なことになるのは目に見えている。


 そこを撹乱するためにも配下に暴れてもらうのはすでに決定事項。だがそれをうまく利用すれば、こうして格上の相手でもどうにかする事はできる。まさに嘘と話術を利用した木下ならではの戦い方というわけだ。


「おっと危ない。その体でまだ動けるのは称賛に値するけど、だけど終わりだよ」


 木下が出した通信機に反応したアイラは残った力を総動員し、通信機に向けて残った腕を伸ばすが、再び飛来した槍によって残りの腕も吹き飛んだ。さらにもう一本の槍がアイラの頭部へと止めの一撃を見舞う。


 舞い散る鮮血は辺り一帯に降り注ぐ。その血溜まりの中で、その血を浴びながら木下は愉快そうに抑えきれないとばかりに笑い声を上げていた。


「っ……、ククッ……。本当に救いようがないよね。こんな見え見えの嘘に騙されて、しかもそのせいで勝てる戦いにも負ける。その上で守ろうとしたものも全部殺されるんだから、本当に救いようがないよ」


 嘘は悪い事であろうが、それに騙される方も悪い。所詮この世は嘘で満ちているのだから、それを利用しなければ損。対応できないほうが悪いのだ。


 顔にもかかったアイラの血を舌舐めずりしながら、勝利の余韻を味わう木下。一頻り満足したのか、通信機に向けて配下に動く様に指示しようとしたその時、木下は自分の体の異変に気づいた。


「あ、れ……」


 言葉が出てこない。通信機に向かい、今まさに周囲の人間を殺す様に指示を出そうとした声が出ない。


 症状は次々と現れる。次第に手足の感覚がなくなってきているし、思考も覚束なくなってきた。視界も狭くなってきている上に、体のあちこちから痛みまで出てきている。


「な……で……」


「なんで、ですか?そんなもの、あなたが全て私の思惑通りに動いたからに決まっているじゃないですか」


 そして聞こえてくるあり得ない声。霞む視界をなんとか声の方に向ければ、そこには間違いなく致命傷を負ったはずのアイラが無傷でそこに立っていたのだ。


「ちょうど一分です。ここからは私も攻撃をさせてもらいます。もっとも、私が何かをするまでもなくあなたはもう死ぬでしょうけど。あぁ、約束を反故にするならどうぞ。誰かを動かすならそれでも構いません。できれば、ですが」


 薄く笑うアイラ。しかしその笑いに暖かさなど少しもなく、木下はそれを見て悟る。もう自分は助からない。何がどうなったのかはわからないが、自分は死ぬ。


 それだけは間違いないと悟った木下だったが、視界が暗転する前に見えたのはアイラが手に持つ弓を自分に向けて一気に放った光景だった。


「そのまま死ぬのを待っててもいいのですが、やっぱり止めは自分の手での方がいいですね。散々やってくれましたし、このくらいしないと私の気が治りませんので」


 先ほどアイラの体に突き刺した槍と寸分違わない場所に次々と刺さる矢。ただでさえ感じている痛みにプラスされた激痛を感じた木下は、最後に頭に飛んできた矢によってあっという間に絶命したのだった。


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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
― 新着の感想 ―
[一言] どうやって逆転したのか、全く説明なし!!これでは、何でもありですよ。
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