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第302話 アイラV S木下①

第302話〜アイラV S木下①〜


 アイラは顕現した弓を何もいうことなく木下に向けて放つ。しかもその矢には自らのスキルにより精製した毒物も塗り込まれており、かすり傷の一つでも負えば即座に死ぬほどの猛毒だ。


「まずは言葉を交わす場面じゃないかなここは?」


「あなたと話す言葉の持ち合わせはありませんので。早々に死んでください」


 対する木下はその弓を目の前に出現させた鋼鉄の壁で弾く。ならばと上下左右から矢を放つアイラだが、同じ様に現れた鋼鉄の壁にその矢は尽く弾かれる。


「せっかちは嫌われるよ?」


「マスターの敵である以上、あなたが生きている理由などありませんから」


 あくまで即殺しようとするアイラだが、木下は余裕を持って攻撃をいなす。その余裕がアイラにはさらに不愉快に感じてしまい、表情をますます歪めるが木下は逆に貼り付けた様な笑みを深くしていった。


「マスターね。そのマスターというのは斎藤のことでいいのか?」


「だとしたらなんですか?」


「いや、ね。元の世界での斎藤の立場を知ってるだけにどうにもおかしくてね。君がどういう経緯であいつを慕っているのか気になったのだよ。そうだな、当ててみようか。金か、それとも弱みでも握られたかい?もしくは抱いてもらったとかかな?斎藤にそっちの才能があったとしたらの話だけど」


 まるでその言葉がアイラの神経を逆撫ですることがわかっているかの様に、木下の口からは次々と皮肉めいた言葉が飛び出してくる。


 もちろんそれが挑発に近い行為であることはアイラとてわかっているが、わかっているからと言って我慢できるかどうかは別の話。


「楽に死ねるなどと思わないことです」


 憤りを通り越え、すでに表情を消したアイラは再び矢を引き絞るが、やはりそれは木下が出現させた鋼鉄の壁によって阻まれてしまう。


 鋼鉄の壁。それが木下のスキルであることは明らかだが、一体どんな能力なのか。怒りを覚えながらもその反面、アイラは冷静に木下の能力を分析していた。


 金属を操る能力?ならばその金属はどこから取り出した?それともどこか異空間から取り出したのか?だとすれば空間系の能力か?


 あらゆる可能性を思考しながらもアイラは攻撃の手を緩めることはない。四方八方から矢を射かけていき、その全てが防がれていようともお構いなしに矢を放ち続ける。


 相手が防げば防ぐだけこちらには思考する時間ができ、一種の膠着状態を打開しようと木下が動けばそれも相手の手の内を知る手がかりとなる。


 アイラはもともと姉であるリーシャの死の真相を知るためだけに、あらゆる犠牲を厭わなかった過去がある。結果的に真相を知り天使に狙われることになったのだが、アイラの本質はそう言った根気強さと分析能力の高さだ。


 物事を読み解き自らの有利な展開へと持っていく。魔族から恭介の眷属となり悪魔となってもその本質が変わることはない。だからこそ今も怒りの裏側で相手を分析しようとしていたのだ。


「攻撃をしてくるのはいいけどいいのかい?君が攻撃をするごとに人が一人死ぬよ?」


 しかしその分析は思わぬ形で止めらることとなった。思考の外からの木下の言葉。その意味を捉えあぐねてアイラが攻撃を止めたところで木下はうっすらと笑みを浮かべて言葉を続ける。


「僕の配下を各国に仕込んでいてね。君が僕に攻撃をするごとにその配下が誰かを殺す様に今命令させてもらったよ。流石にそんな攻撃をいつまでもされていたら僕の身が持たないからね」


「そんなことを私が信じるとでも?」


「信じる信じないは君の勝手かな?信じられないなら試してみるといいよ。その証拠を見せてあげるからさ」


 木下の意味深な言葉にアイラはこのまま攻撃を続けるべきか迷うことになる。


 はっきり言って、アイラにしてみればどこかの誰かが死ぬことなどどうでもいい。アイラはすでに恭介に尽くす事のみに重点を置いているのだから、仮に木下の言葉が本当だったとしても特に問題はない。


 だがアイラは良くてもアイラの攻撃の結果として誰かが大量に死んだことをマスターである恭介はどう思うであろうか?


 アイラがマスターと仰ぐ恭介は、わざわざ中央大陸北部をまとめて同盟を作った。そして天使達や召喚者と戦う力を与え、さらには攻めいられれば自らの側近とも言える仲間達を戦場に送り込みもしたのだ。


 その結果、最も信頼のおける仲間であるカナデを失いかけるということになってでも恭介は大陸北部を守ろうとした。だとするなら、ここでアイラが無関係とばかりに動きそのせいで誰かが死ねば恭介はどう感じるか。


 そんな考えがアイラが次の攻撃を仕掛けることを出来なくしていた。


「いい子だね。君が攻撃をしてこない限り、誰も死なないことを約束しよう」


「それを信じろとでも?そもそもあなたの言っていることが真実であるのか疑わしいこの状況で、あなたの言葉を信じる意味がありません」


「それは確かにもっともだね。だけど現実に君は攻撃の手を止めた。そうするべきではないとわかっているのに君は今攻撃をしていない。それこそが君が僕の言葉を信じている何よりの証拠だとは思わない?」


「詭弁ですね」


 木下の言葉をアイラは切って捨てたが、この場で今場を支配しているのは明らかに木下だった。言葉だけでアイラの攻撃を封じ、実際にアイラの行動を縛っているのだ。


 未だ自らの手の内は明かさず、ただの言葉だけでアイラを封殺した。その巧みな話術にアイラは舌打ちをする。この状況をどうするべきか。その答えがどうにも出ないのだ。


 おそらくだが、何も考えずに正面から殺しにいけば勝負をそれほど時間をかけることなく終える自信はあった。召喚者の天恵は侮れないが、それでも目の前の木下から感じる雰囲気から察するにアイラとのステータス差は大きいだろう。


 だとすれば勝ちを拾うのは容易だが、そのせいで大勢が死ぬことになる可能性がある。ブラフかもしれないが、それを確認できない以上は無闇に動くわけにはいかない。


 答えのでない思考の迷宮に陥りかけていたアイラの心情を察してか、不気味な笑みを浮かべた木下はアイラに向かって言った。


「僕のいうことを聞いてくれるのなら、誰も殺すことなく君と戦うけどどうする?」


 信用できない相手から出た信用のできない言葉。仮にここでアイラがそれに応じたとして、果たして木下が本当にその約束を守る保証などどこにもない。かと言ってアイラに現状を打破するだけの手段もない。


「私に何をさせたいんですか?」


「別に難しいことじゃないよ。ただそうだね、一分の間でいいから何もしないこと。僕の攻撃に対して防御をすることはいいけど反撃は駄目。逃げることも避けることも駄目。一分の間は僕の攻撃を受け続ける。それができるなら君以外に危害は加えないことを約束するよ」


 あっけらかんと言ってのけた木下だが、その取引はどこまでも卑怯そのものだ。アイラに対し人質という手札で縛った上で、一方的な攻撃に身を晒せと要求する。


 アイラにとっては何一つとして利などない取引だが、恭介のことを考えれば応じないわけにはいかない。木下がどこまでを計算してこの取引を持ちかけたのかは知らないが、それでもアイラにとってあまりに分が悪い。


「いいでしょう。ですが一分後にはこちらも手を出させてもらいますよ?」


 だが応じるしかない。それが木下の掌の上であるとわかっていても、今の状況から従うしかないのだ。


「もちろんだよ。もし耐え切ることができたなら、そこからは正々堂々と戦うことを約束するよ」


 どの口が正々堂々と言っているのかと思うが、アイラは何も言わなかった。ただ不適な笑みを浮かべ取引の合意に頷く木下を見据え、アイラは木下の思考に考えを巡らせる。


 一分という短い様で長い時間。果たして木下はどの様な攻撃を仕掛けてくるのか。ステータスの上ではこちらが有利なのは間違いないが、果たして耐え切ることができるのか。


 未だに謎に包まれている木下の能力に対し警戒しながらも、アイラはただ耐え切るという選択肢しかない。


 戦う前から圧倒的不利な状況に追い込まれたアイラ。木下がゆっくりと動き出したことにより、一分の地獄が始まりを告げるのだった。


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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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