第191話 王たちによる会議
第191話~王たちによる会議~
『えー、まずは何から話せばいいのかな?』
『そうですね。僕としてもあまりに突然すぎてむしろ流れについていけないのですが』
「あー、目の前で実際の様子を見てる私にも理解できないのだから、お二方においては余計だろうな」
「いいからとっとと内容に入るぞ。言っとくがそんなに時間はないんだ。今こうしている間もあいつらは攻めてくるかもしれないんだからな」
俺はホログラムのような形で、胸より上がカンビナ王国の王宮の一室に浮かぶマリオット公爵とナイジェル、レックスに向けて冷たくそう言い放った。
しかし当の三人はそうは言われても今目の前で起こっている事態に混乱をするのは必至だろう。
この世界の通信というのは、基本的に手紙が主流だ。一部の上流階級、それこそこの場にいるような王という立場においては通信石という相互通信オンリーの魔石を持っているが、どちらにしても元の世界よりも通信技術が遅れているのは事実だ。
それも考えれば当然で、この世界では魔法というものが全てを支配しており、それこそ戦いから生活までが魔法で完結してしまうのだ。しかも軍や貴族などならまだしも、平民の人生は生まれた街や村で完結することがめっぽう多いのだ。
となれば通信技術が発展するわけもなく、もとから存在する通信魔石で済ませてしまおうということになるわけだ。
だからこそ、俺が用意したホログラムを利用した多人数と同時にリアルタイムで会話するこの通信機器に度肝を抜かれているのだろう。
「北部大同盟の件、あんた達はどう思う?」
『どうもこうも、ここでその話を断る理由が僕にはありませんよ』
『右に同じですね。もしここで私達が決裂するなら、その時はシルビアス王国に大陸北部全てが乗っ取られるときですね』
俺の提案に対し、ナイジェルとマリオット公爵は即断でそう回答してきた。
「いいのか!?確かに私も必要な事とは思うが、一国の王がそのように重大なこの案件を即決してしまって!」
その決断に対し、レックスが二人に詰め寄るが、この場合はレックスの方が普通は正しい。俺の提案は確かに神と戦う上では必要だが、国家間の同盟など普通は長い月日をかけて決める話だ。
「それにだ!失礼だがマリオット公爵様に至っては、アーネスト公国の公王でもないではないか!なぜそのあなたがそんな決断を簡単に!?」
『今回の件、いや、サイトウ様に関することは公王から全権を委ねてもらっているものでね。まぁ、そんなものがなくとも今やアーネスト公国は私の思うがままなんですけどね』
そう言ってホログラムだというのにニヤリという音が聞こえてきそうな表情を浮かべるマリオット公爵。この男の事だ、俺がアーネスト公国に行くまでにも裏でこそこそしていたのだろうが、先の北部地域での戦いで俺に協力することでさらに国内での力を得たのだろう。
もっとも、いろいろたくらみはするタイプだとは思うが、マリオット公爵は国をどうこうするつもりはない。むしろ国をさらに豊かにするために尽力しているんだろうから、特に文句を言うつもりはないが、一応釘だけは刺しておくことにする。
「下手なことしたら攻め落とすけどな」
『は、はは。レヴェルが隣国であるというのに私がそんな愚かなことをすると思いますか?』
俺の一言で冷や汗を浮かべるマリオット公爵だが、とにもかくにもレックスにはマリオット公爵が正当なアーネスト公国の代表であることは伝わった。となれば後はこの同盟の結成に必要なのはレックスの意志一つ。小国も大陸北部にはいくつかあるが、この三つの大国が同盟を結べばそれらは後で追従してくるだろう。
『それで、カンビナ王国の国王はどうされるのです?この話を聞くに、僕はすぐにでも防衛の準備を始めるべきだと思うのですが』
「だが神と戦うなど……、そんな無茶な……」
無茶。無謀。無意味。
確かに国王とはいえ一人の人間。神などというそれこそ森羅万象にも等しい者と戦おうとするなど、本来ならありえない。しかも敵の中には一騎当千の猛者である神の与えし天恵を持つ召喚者達も複数いるのだ。万が一にも勝ち目はない。
『無茶ではありませんよ。現に僕はこの目で神の使徒である天使を屠る人の姿を見ています。長く天使に支配され、抗うことのできない日々が続いた帝国を救ったのは紛れもない人です。だから決して無茶ではありません。僕はキョウスケさんがいうことならそれに賛同します。もう帝国は二度と神などに屈したりはしません。戦って、必ず勝利を掴み取ります』
だが諦めないのもまた人だ。ナイジェルのその言葉に、マリオット公爵もまた黙って頷いた。
サイモンという一人の魔族により、危うく国を失いかけたことは記憶に新しい。だからこそ、マリオット公爵もまた戦うことに一分のためらいもないのだ。
「レックス。後はあんたの決断だけだ。国を侵され、民に被害があれだけでたんだ。その上であんたはどうする?まさかしっぽ巻いてこのまま逃げるわけじゃないだろうな?」
それはある意味の俺からの発破だった。先の戦いで及び腰になったレックスを焚きつけ、その上ですでに俺側についている二人を味方に話を決めるつもりだった。
「侮るなよ……」
しかしその俺の構想はいい意味で裏切られることになる。
「私が、このカンビナ王国がこのまま黙って引き下がると思うのか!!」
烈火のごとく、それこそ俺に掴みかからん勢いで怒鳴るレックス。その表情は最大の侮辱を受けたとばかりに赤く染まり、ついさっきまでの青ざめた表情がどこへやらと言った様子だ。
「いいのか?神と戦うなんて無茶なんだろ?」
「黙れ!砂漠という過酷な環境でもまれたカンビナ王国の力、神だか召喚者だか知らないが全てに見せつけてくれる!!」
勢いのままにそうまくしたてるレックスに、俺もナイジェルもマリオット公爵もが黙って頷いた。
この瞬間、レヴェル、アーネスト、キュリオス、カンビナによる、北部大同盟が結ばれたのだった。
◇
北部大同盟は結成され、各国のトップはそれを持ち帰りすぐにでも連携をとれるように調整に入っていった。
この先やることは山ほどある。
同盟は結成することが出来たが、このままではただの烏合の衆。蟻がどれだけ群れようと象には勝てないように、大陸北部の戦力が終結したところで天使はおろか元クラスメイトである召喚者達にも勝てはしない。
だからこそ、少しでも勝利の確率を高めるために各々のレベルを上げ、そして国家間の連携を高める必要があるのだ。
そしてまた、俺達もまた強くなる必要がある。
木山達の強さがどの程度かは知らないが、少なくとも三好以上と考えた方がいい。適職が勇者という、木山とは似ても似つかない職であり、その後どのように力を増したのかわからない。
さらにそこに天使が加わるのだ。俺達が相対したのは中位天使でも最下位の能天使。それに苦戦を強いられたのだから、最上位の熾天使が出張ればその時点で詰みと言ってもいいだろう。
「伝説の魔物が先か、悪魔が先か」
だからこそ自身の強さをさらに上げる必要があるのだが、短期間での強さを求めるなら、戦力の増強という意味で新たな伝説の魔物を仲間にするか。それともこれまでどういうわけか俺に力を貸している新たな悪魔から力をもらうため、その情報を求めるべきか。
「随分物騒な独り言ですね」
「神と戦うことを決めたんだ。多少な言動は物騒な内には入らないと思うぞ?」
「確かにそうですね。どうにも話のスケールが大きすぎて未だについていけませんよ」
そう言って俺が一人佇んでいた王宮のバルコニーに姿を見せたのは、カンビナ王国第一王子であるアックスだった。
「何か用か?必要なことはレックスに全部話したと思うが?」
「いえ、私があなたに聞きたいのはキックスのことですよ」
「キックスのこと?」
「はい。王都から逃がされ、その後にキックスが何をして、そしてあなた方に出会って何を話したのか。ここまで時間がなくて聞けませんでしたが、それを教えて欲しいのです」
「時間がないのは今も同じだと思うが?」
「そう、ですね。ですがどうしても教えて頂きたいのです」
アックスはそう言って俺に頭を下げた。
「私は、私はキックスに返しきれない恩があるのです。ですがキックスは私がそれを返す前に死んでしまった。だからこそ、私は知らなければならない」
アックスとキックスの過去。兄弟でありながら王族というしがらみのせいで歪んだ関係性となってしまった。二人の関係を、アックスは俺に話し始めたのだった。




