第154話 地下最奥の巨大施設
第154話~地下最奥の巨大施設~
「えー、この度はご心配をおかけしまして大変申し訳ありませんでした。なぜかくらっと来てしまいまして、理由は自分でもわかりませんが、今は非常に元気なので全く問題ありません!!」
「一日以上寝たわけだしな。惰眠を貪る幽霊とか、今までの幽霊の概念を覆す存在なのは間違いない」
「もしかして非常に稀有な存在です私?なんとかファイルとかで取り上げてもらえますかね?」
「その前に謎の黒服秘密組織に連れ去られて解剖じゃないか?」
「大丈夫です!そうなったら恭介さんが助けに来てくれるんで問題なしです!!」
「それ以前にお前なら自分で燃やしそうだけどな」
「一理あります!」
目覚めたカナデは特におかしなところもなく、いや、性格的にはおかしいがいつものことなのでそれはいい、とにかく倒れた理由に関しては自分でも思い当たるところはないようだった。
「でもなんかすごく懐かしい夢を見た気はするんですよねー。誰かと一緒に手を繋いで歩くみたいな?でもでも、私生前の記憶なんかないですし、あれはいったいなんなのやら?」
そう首を傾げるカナデだが、少し考えてわからないものは分からないとすぐに話題を俺が手に入れたマスターキーの方へと移してしまった。
本人が気にしていない以上、俺とスルトにしてもそれ以上追及することも出来ず、ひとまずは経過観察ということで予定通り施設の探索を再開することとなったのだ。
「しかしこの階段長いですねー。下には何があるんでしょうか?」
「どこぞの地下の労働施設とかだったら私は全部燃やすからな」
墓地があったフロアからさらに下。まだ未探索の階層に向けて足を延ばした俺達だったが、あれからまたいくつか階層を降りた先にあった階段。これが他のものと比べて異常に長いのだ。
それに疑問を呈したカナデだったのだが、答えたスルトの言っているのはアーネスト公国での話の事だろう。
魔大陸から自身の研究のために人間が生活している中央大陸、その中の小国であるアーネスト公国に拠点を置いた魔族、サイモンが行っていたことの一環である魂の作り替えを行っていた地下施設。エリザの逆鱗に触れて吹き飛んだらしいその施設だが、おそらくスルトが憤っているのはそこで出会った二人の幼い姉妹に起因することからだろう。
サリーとリリーというエルフの姉妹。スルトが可愛がっていた姉妹の両親の末路を聞けば、誰でも似たような施設があるとしたらいい気持ちはしないはずだ。
「気持ちはわかるが手当たり次第燃やすなよ?日記の主の作った施設だ。悪趣味な施設の可能性は低いはずだからな」
「わかってる。言ってみただけだから本気にしなくていいよ」
そう言うスルトに肩をすくめた俺達は、さらに階段を降りていく。階段がこれだけ長いということは、それだけこの下にある階層が広いということだ。上の空間を大きく取りたいがために階段を長くするというのはよくある手法であり、そう考えればこの下にあるものがそれだけ巨大なものであるということは想像に難くない。
「ここか」
さらに数分階段を降ると、そこに現れたのは巨大な扉であった。扉というよりはシャッターのような下から持ち上げるタイプのそれは、非常に巨大でありその大きさはゆうに五メートルを超える。
『管理者を確認。扉を開きます』
不意に聞こえた音声だったが、どうやらシャッター横についていたセンサーが俺の持つマスターキーに反応したものだったらしい。
ゆっくりと持ち上がっていく扉に、俺達は一応何が待ち構えていてもいいようにと各々がすぐにでも戦闘へと移行できるように警戒態勢をとりながら扉が開くのを待った。
しかし、その向こうで待っていたのは俺達が想像していたものとはまるで違う光景だった。開ききった扉の向こう、そこにあったのはこれまでと同じように何かの施設で間違いはない。
ベルトコンベアが動き、ロボットたちが見える範囲でも十数体は休みなく働いている様子が見える。一体ここは何の施設なのか。その答えはすぐにわかった。
「ここは、そうか。食料の生産工場だ!!」
ベルトコンベアの一つに流れているのは、元の世界では珍しくもない缶詰。そして他のラインには真空パックで保存されている肉や野菜が流れているのも見える。
確かに疑問ではあった。上の階層にあった家畜や農作物といったものが、収穫された後はどのようになっているのか。ロボットがそれらを食べているとは考え辛く、ならそれらは一体どこへと消えていくのか。その答えがここにあった。
「籠城戦の一番の問題は食料だ。たとえどれだけ強固な砦に籠城したとしても、食料が尽きれば結局待つのは死だけだ。だからこそいかにして食料を手に入れるのかが鍵になるわけだが、流石は稀代の錬金術師だな。作って加工までこの施設内で行うとか、どれだけなんだよ」
もはや脱帽以外にここを作った彼に送る言葉はないだろう。それほどまでに完成されたこの施設。そこをそのまま丸ごと譲り受けた形となった俺は、彼に尊敬と感謝の念を抱くことしかできなかった。
魚の干物やローストビーフ。なじみの深い食事が流れていくその様子に、ここで俺は新たな疑問を覚えた。
「ここが作られてからだいぶ時間が経っているはずだが、その間に作られた食料はどこにあるんだ?」
今も絶え間なく作られ加工されている大量の食糧。数千万年もの過去にここが作られたということを考えれば、ここに備蓄されている食料はもはや天文学的数値になっている可能性が高いのだが、少なくとも俺の見える範囲にはそのような倉庫のようなものは見えない。
「なぁ、キョウスケ。私少しだけ嫌な予感がするんだが」
この階層に来てから、なぜか一度も言葉を発していなかったスルトが突然そんなことを言い出した。スルトという伝説の魔物が嫌な予感などという言葉を使えば、それはもうそのまま不吉な予感にしかなり得ない。
「なんだよ」
警戒のレベルを一気に引き上げた俺は、それでも表面上はそんな思いを出すことはなくスルトへ問う。
「なんか知ってる気配をこの階層から感じるんだよ。具体的にはあの機械の影の方に」
言われた通りにその方向に目を向けてみれば、確かに何かが蠢いている気配がある。しかもよくよく耳を澄ませてみると、ベルトコンベアなどの機械が稼働する音に交じって、何やら咀嚼するような音まで聞こえてくるではないか。
「いるな」
「ああ、間違いなく」
「燃やしますか?」
「やめとけ。絶対に良い結果にはならないから」
こちらから攻撃を加えようかと提案したカナデに、スルトが待ったをかけた。スルトをして攻撃を躊躇う存在。もうあまり会いたくなく類のものがそこにいるということは確定だ。
だからと言って、それをそのまま放置しておくというわけにもいかないのだから、俺達にできるのはその何かにコンタクトをとるということのみ。
槍をすぐにでも振るえるように握り直した俺は、その物陰にゆっくりと、慎重に忍び寄り、そしてそこで見た。
「ん、美味しい。寝てても勝手に食事が運ばれてくるここはきっと天国」
加工された食料が運ばれてくるベルトコンベアの終点。おそらくそこから貯蔵庫へと運ばれていくのであろう、食料加工の最終地点では、その床に寝そべりながら運ばれてくる食料を次々と口へと運んでいく、緑色の巻き毛をくゆらせた少女がいたのだった。
「美味しい。これは味の革命。至高の一品」
「おい、何やってんだよヨルム」
「あ、スルトちゃん。やっほー」
どうやらその少女は、スルトと同じ伝説の魔物であるヨルムガントであるらしかった。思わず俺がこめかみを抑えてしまったのは言うまでもないことだと思う。カナデも同じようなリアクションをとっていたからきっと俺は正常だ。
なぜ伝説の魔物はくせの強いものしかいないのか。きっとこれは永遠の命題であると、俺は一人現実逃避をしながらそんなことを考えるのであった。
近頃ブックマークや評価など、これまでに比べて多くの方がして頂き非常に嬉しく思っています。本当にありがとうございます。
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