第150話 宛名のない手記
第150話~宛名のない手記~
“ハイミスリルの材料はミスリル、鉄、魔石粉、そしてタングステンのようです”
倒したとロボットを解析したら欲しかった材料が手に入った。しかもその作り方までわかってしまったというのだから、棚から牡丹餅という言葉はこんな時にこそ使うべきなのだろう。
「カナデ、スルト。今まで倒してきたロボットを全部集める。手伝え」
「えっと、恭介さん。それはここまで三階分で倒した全部ということでよろしいですか?」
「そうだって言ってんだ。早くしろ。時間がもったいない」
「ぎゃー!スルトさん!恭介さんが鬼です!まさにブラック企業ここに極まれりですよ!!」
喚くカナデを放置して、俺は人たちの手で破壊されたロボットたちを一つ一つ収納の中に放り込んでいく。確かにカナデ言う通り、ここまで倒してきたロボットの数は数えきれない程であり、それを全て回収するのは手間だ。
だがはミスリルという貴重な材料を使っている以上、それをみすみす放置しておくのはまさに宝を目の前にして無視する程の愚かな行為だ。
「何かいい材料が手に入るのか?」
「ああ、これ以上ないほどにな。お前の新しい器も作ってやれると思うぞ」
「カナデ、すぐ集めるぞ!何をぐずぐずしてるんだ!早く動け!!」
「スルトさんが一瞬で篭絡されてしまいました!?」
そう言いながらもしぶしぶと言った様子でカナデもロボットを集め始める。
全てを集めれば非常に大量のロボットなりそうだが、ここに来て俺の収納のスキルが威力を発揮した。これまでもとりあえず何かを手に入れれば収納の中に放り込んでいたのだが、この異空間への収納を可能にしたスキルはレベルのアップととともに、その収納量をとんでもないものにしていたらしい。
数時間を使い、全てのロボットを集め終わったころには、その数は三百を超えるほどになっていたのだが、全てを収納に閉まってもその容量はまったく溢れることはなかったのだ。
“現在の収納スペースの使用量は五パーセント未満です”
インデックスがそう言うが、これだけ入れてそれだけの量にしかならないとは一体俺の収納にはどれだけの物が入るというのか。便利なのだから文句はないが、自分のスキルながら恐ろしいものである。
◇
全てのロボットを集めた俺達は、さらに奥へと進んでいく。その間ももはやルーティンのように現れるロボットを倒しては仕舞いを繰り返し、さらに二階層を下に降ったころだった。
「ここは、書斎か?」
これまでに建物内にあった部屋はどれもただの空間であり、中に何かが置かれているということはなかった。あっても机だったものの残骸などで、手掛かりになるようなものなどは残されていなかったのだが、どうやらこの階層は違うようだ。
「この階に来る前に倒したおっきなロボットが門番みたいなやつだったんですかねー」
「カナデが一瞬で蒸発させたあいつな」
「何言ってるんですか!その前にスルトさんだってその小さな剣で切り刻んでたじゃないですか!!私はそのお掃除をしただけですよ!」
「人聞きの悪いこと言うな!私はただなんか攻撃してきそうだったから先手を打っただけだ!少しばかり力が入りはしたけどそれだけだからな!」
ぎゃーぎゃーと姦しい二人だが、その予想は概ねあっていると言っていいのかもしれない。
この階層に降りてくる前、俺達はこの建物に入ってから一番大きな空間に出た。またロボットが山ほど出てくるのかと思った俺達の前に現れたのは、確かにロボットなのだがこれまでの物に比べて何倍も大きなロボットだったのだ。
フォルムは人型ではなく西洋の竜そのものであるが、体がやはり金属製のためメタルドラゴンとでも言ったところか。しかもその大きさゆえか、体内に装備されている兵器や銃火器の類も多く、どう考えてもここまできた侵入者を抹殺する防御装置にしか見えなかった。
とはいえ、これまでのロボットと同じ材料を使ったものであることには変わりなく、いかに大きさが変わろうが兵器を満載しようがそんなものは俺達の敵ではない。
翼と思しき所から一斉に放たれた弾丸がこちらに着弾すると同時、打って出たスルトがレーヴァテインにてメタルドラゴンを一気に細分化。それを後ろからカナデが一気に燃やして勝負あり。
あまりの短期決着に戦闘の様子を描写しても短くしかならないので回想となっているのだが、やはりさっきのがこの施設を守る要であったのかもしれない。
上の階層に比べてさらに劣化の少ない通路を進み、書斎と思わしき部屋へと警戒して入っていく。どうやらトラップの類はないようではあるが、警戒は必要だろうと思ったのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
部屋の広さは一般的な家庭のリビングよりも少し広いくらいであり、中央に机が置かれ、その周囲を書棚が囲うといういかにも書斎と言った感じの部屋だった。
「この字、どっかで見た覚えがあるんですよねー」
書棚の本に真っ先に寄っていたカナデがそう言うと、スルトも同じくそれを見る。
「これ古代文字じゃないか?確か私が封印される前に一部の人間が使ってたはずだけど、少なくとも一般的な文字じゃなかったはずだぞ」
そう言うスルトに続き、俺もまた書棚の本に目を向け、そこでもはや何回目になるかわからない驚愕をすることとなる。
「おい、これ日本語じゃねぇかよ……」
書棚の本という本の背表紙に書かれていたのは俺に非常に馴染み深い漢字とひらがな、そしてカタカナで書かれた日本語。この世界に来てからはまるで見ていない文字がそこには羅列されているではないか。
スルトの言う通り、この世界にはこの世界独自の文字があるのだが、どういうわけか俺を含めた召喚されたクラスメイト達は最初からその文字が読めていた。それについて俺はファンタジーあるあるだと特に深く考えてはいなかったのだが、まさかその言葉の違いがここに来て意味を成すとは思いもしなかった。
「やっぱり過去に召喚されたのは地球人、しかも俺達と同郷の奴で間違いない。だけどどうして……」
なぜ日本人なのか。ここにいたのがたまたま日本人だったという可能性はあるが、そんな偶然が起こりえるのだろうか。日本人が召喚され、こんな地下に施設を残し、後に召喚された日本人である俺がそれを発見する。
あまりに出来すぎている。
再び思考の沼に嵌っていく俺の目に、部屋の中央に置かれた古ぼけた日記帳が見えた。
「なんです、それ?」
「日記、か?」
この部屋にあったおかげか、古くはあるが劣化の少ない日記帳。俺達はそれを開き、中に書かれた誰かの日記を読んでいく。
『この世界に召喚されて早一年。今だ地上では伝説の魔物が暴れているようだがそれも時間の問題だろう。仲間たちがすでに半分は封印してくれているのだから。俺は俺でできることをすることにしよう』
「おい、これ……」
「まさかこの日記、スルト達伝説の魔物が封印される前のものだっていうのかよ!?」
前に話を聞いた限り、スルト達が封印されたのは今から数千万年は前だと聞いた。だとしたら、この施設はそれほど前からここに存在していたということになる。
『今日全ての伝説の魔物が封印されたと知らせが届いた。一緒に召喚された仲間の多くが死んでしまったみたいだが、それでも俺達は生き残った。これから帰ってくるはずの生き残った仲間を笑顔で迎えよう』
この日記の内容を見るに、これを書いた誰かはどうやらスルト達を封印するために最初にこの世界に召喚された異世界からの者だったようだ。
神から天恵を授かり、圧倒的な力を持って伝説の魔物と戦った勇者たちだが、やはり全員が無事だったというわけではなかったようだ。一体全員でどれほどの人数が召喚されたのかはわからないが、それでもこきっと過半数以上が死んでしまったのだろう。
『どうやら例の夫婦二人は帰ってこなかったようだ。生まれたばかりの赤ん坊を置いてこの世界に召喚されてしまった夫婦だったが、彼らが一番元の世界へ帰ることを願っていたように思う。だからこそ最前線で戦っていたというのに、最後の戦いでその命を散らしてしまった。これ以上の悲劇があるのだとしたら俺は想像もしたくない』
日記はさらに続いていく。どうやら最後の伝説の魔物との戦いは壮絶だったらしく、戦っていた召喚者たる勇者たちはその戦いで一番多く死んでしまったようだ。
子どもと離れ離れになりこの世界に召喚されてしまった夫婦。元の世界に戻るという道半ばでこの世界に没してしまった無念を考える、とどうしようもない気持ちが俺の中に去来した。
『やはり俺の最悪の予感は当たってしまったらしい』
それからの日記は帰還した生き残りの勇者たちとともに、互いの生を喜び、そして元の世界へと戻る方法を模索しながら生活していた様子が書かれていたのだが、ある日を境にその文章は一変することとなった。
『神は俺達を元の世界に返すどころか生かしておくつもりもなかったんだ。かつて最後に戦った伝説の魔物が言っていたと聞いた言葉が蘇る。
“お前らも用が無くなれば殺される”
神にとっては俺達はもはや用済み。後は消されるのを待つだけなのか』
その文字は震えていた。必死で書いたのであろう日記の文字は震え、ところどころにじみも見える。この日記の主がこの時何を思い、どういった気持ちでこれを書いたのか。俺は無意識的に思い切り歯を食いしばっていたらしい。
「キョウスケ?大丈夫か?」
日本語が読めないスルトが日記を読む俺の表情を心配そうな表情で見つめてくる。伝説の魔物であるスルトに心配されるか。なんとも贅沢な状況ではあるが、俺はその指摘に表情を改めるとスルトの頭を一度撫でて言う。
「ああ、心配ない。もう少しで読み終わるから少し待っててくれ」
まだ心配そうなスルトであるが、俺は強引にスルトの視線を切ると再び日記へと戻る。
『天使の軍勢が毎日のように攻めてくる。みんなが必死に戦っているが、日ごとに仲間が減っていくのにもはや耐えられそうにない。俺に戦う力がないのが悔やまれる。俺にできるのは作ることだけ。だから出来ることをしよう。この施設をさらに広げ、堅牢なものにして、いくらでも立てこもってやる』
そこまで読んで俺はようやくこの地下街、地上から見た古代遺跡の意味を知った。
つまりこの遺跡はこの日記の主が作ったものなのだ。ひとつの街と言っていいほど広大な施設。それはかつてこの世界に召喚された俺と同じ地球の人間が作った、いわば遺品だったのだった。
近頃ブックマークや評価など、これまでに比べて多くの方がして頂き非常に嬉しく思っています。本当にありがとうございます。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
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