第144話 古代都市ウール
第144話~古代都市ウール~
ヒュドラを倒し、龍化したままの俺を見たマリアは俺を魔族と勘違いをして切りかかって来たのだが、キックスの名を出した途端に態度が豹変し俺達をヒュドラから隠れていたと思われる地下に招いた。
すでに龍化を解き、人の姿に戻った俺は、マリアに今回の事の次第の説明を求めた。
「キックス様からどの程度お聞きになってらっしゃいますか?」
「先に調査に出た兵士が命がけで情報を持ち帰ったところまでだな。そこから先、あんた達があれとどうやって戦い、その上で避難していたここがなんなのかが知りたい」
俺の問いに、マリアは説明を始める。
「先遣隊が持ち帰った情報を聞いた私は正直、手遅れだとすぐに感じましたの」
「手遅れ?」
「はい。私の耳にも街の北部で大型の魔物が確認されたという話は入っていましたわ。もちろんその調査のために斥候を何人か放っていたのですけど、その誰もが帰ってこず仕舞い。そんな中の魔物が街に向かっているとの知らせですもの。とてもじゃないですけれど、街が無事に済むとは思えませんでした」
マリアによれば、当然ウールの街は魔物、つまりヒュドラが確認されて以降手を講じていなかったわけではない。話にもあったように調査の手はいくつも放っていたし、冒険者ギルドにもすぐに討伐の依頼を出していた。現にいくつかのパーティーが討伐に乗り出していたらしいが、いずれも吉報を持ってきた者はいなかったらしい。
「街からの避難という選択ももちろん考えました。ですがこの国においては街から街への避難はあまり現実的ではありませんの」
「なんでです?危険が迫っていて、それに対抗できないなら逃げるのが普通じゃないですか?」
「そうですわね。それができればよかったですけれど、この国、砂漠の大国であるカンビナだからこそそれは悪手なんですのよ、お嬢さん」
カナデの疑問にそう答えるマリア。しかし当のカナデと言えば、『聞きましたか恭介さん!?お嬢さんですよ!私がお嬢さんです!!』などと完全に的外れな事を言っているので放っておき、マリアの言葉に耳を傾ける。
「ご承知の通り、この国は砂漠が国土の大半を占めてますわ。冒険者や旅慣れた者ならいざ知らず、オアシスで暮らす人々にとって砂漠越えは危険でしかありません。もちろん万全な準備をすれば危険度は下がりますが、街全体の避難となればやはりその危険度は跳ね上がってしまいますの」
それは砂漠という過酷な環境においては当然の判断であろう。日中は容易に熱中症に侵されるほどの気温と容赦ない太陽光が降り注ぎ、夜となれば逆に気温は氷点下まで落ちることで下手をすれば凍死のリスクまででる危険な場所、それが砂漠なのだ。
もしそこを大量の人が移動するということになったとしたら。間違いなくヒュドラにより街が襲われる前に、砂漠の環境で人が大量に死ぬのは避けられない。それほど砂漠にすむ人たちにとって、オアシスという場所は重要な拠点となっているのだ。
「街からの討伐軍に望みをかけることもしましたが、私は街長として、最悪の事態を想定して動かなければいけなかったんですの」
先に放っていた斥候は帰らず、冒険者も同様。調査隊に動かした軍もほぼ全滅でかろうじて帰ってきた兵士の持ち帰った情報は最悪。残りの軍を総動員してもおそらく魔物の討伐は難しいが、何もしないわけにはいかないというまさにジレンマ。その時のマリアの心中を察すれば同情しか湧かないというものだ。
「この街には本当の非常時に限り使用する施設があるんですの」
「それがこの地下施設か?」
「はい。街の地下に張り巡らされた古代の遺跡の跡地。このウールの街はその遺跡の真上に立てられた街なんですわ」
その言葉に思わず俺達は顔を見合わせることとなった。そもそも俺達がこの国に来たのは、トールの言う古代遺跡に眠る秘宝が目的だ。だが生憎とその遺跡へ入るには冒険者ランクが足りないと来た。それゆえにギルドの依頼をこなしてとっととランクを上げようと画策していたのだが、思わぬところで話が繋がって来たではないか。
「その古代遺跡ってのはなんなんだ?ザンビナの近くにある遺跡と一緒の物なのか?」
「それが、私も詳しいことは何も。遺跡の内部に古代文字で書かれた文章はあるんですが、誰もそれを解読した者はいませんの。それどころか私達も、遺跡の内部構造の全ては把握しておりませんわ」
マリアによれば、遺跡を見つけたのもたまたまらしく。新しい建物を建てようとした際に、偶然に入口を見つけたとのことだ。流石に街の下に遺跡があるとなれば見過ごすことは出来ず、いろいろと探索をしたのだが、中には魔物が複数生息しており、なんとか今使用している三ブロックほどを解放するので精一杯だったらしい。
厳重に封印された扉の向こうには、未だに多くの魔物が潜むエリアが広がっているらしいのだが、それがどこまで続き、そもそもこの遺跡がなんなのかすらわからないとのことだ。
「幸いにもこの遺跡は強度が非常に高く、正式な入口以外からの侵入に対して非常に強い結界が張られていますの」
ヒュドラが街に近づいてきたのは深夜も遅く。それゆえに気付いて地下への避難を開始した時には全員を助けるには時間が足りなかった。それが街の外周部の家に住んでいた人たちの気の毒な結果となったのだが、それでも街に住む人の三分の二は救って見せたのだから、ヒュドラの襲撃という絶望的な状況での成果としては相当なものだろう。もっとも、それを本人がどう思っているかは、外周部の様子を俺から聞いたマリアの表情を見れば察するに余りあるが。
「ですが、魔物が外にいる以上、遠からず備蓄した食料などが尽きれば私たちは死んでいましたわ。その状況を救ってくれたあなた方に街を代表して感謝を」
そう言って再び頭を下げたマリアだったが、すでに俺の頭は他のことに思考が行っていた。
「この遺跡、俺達で奥を調べてもいいか?」
「遺跡をですの?ですが奥は危険な魔物が……」
「その魔物とやらはヒュドラよりも強いのか?」
「あ、いえ、それは……」
確かに魔物の巣窟と化している遺跡はマリアからしてみれば危険だろう。しかしそれでも普通の人間のレベルでいくつかのエリアを顔移封するには至っているのだ。だとするならば、少なくとも俺達の力があれば危険があるとは考えにくい。
「わかりました。ですが今晩は少しでももてなさせてくださいませ。この街を救ってくださった方たちに、何もお礼をせずに行かせるわけにはいきませんの」
というマリアの勢いに押され、すでに夜もだいぶ遅くなっていたのだが、地上に出てマリアたちのもてなしを受けることになったのだった。
ちなみにヒュドラの毒は戦いの中で全てカナデとスルトが焼いてしまったようで、ウールの街の毒はきれいさっぱり取り除かれていた。
◇
明けて翌日。俺達はマリアにくれぐれも気を付ける様に言われ、古代遺跡の未踏破部分へと入っていった。
「それで、何か気になることがあるんだろ?」
未踏破地帯に入ってすぐに襲ってきた鼠型の魔物や蝙蝠型の魔物などをさくっと殺しつつ、周囲を観察している俺にスルトが問い掛ける。
「ああ、どうにもこの古代遺跡とやら。見たことあるような気がするんだよな」
暗闇であった古代遺跡の通路の両側、壁の上方に設置されていた見覚えのあるものに、カナデが一つずつ炎を灯していく。
「これは間違いなくガス灯だ」
ガラスの容器に収めらた火口に火が灯り、通路を煌々と照らす様子はまさに異様。魔法による光が夜の光源となっているはずのこの世界で、なぜ元いた世界の技術が使われているのか。
違和感はそれだけじゃない。確かにこの世界ではコンクリートやレンガなど、地球と同じような建築容姿が使われていることは確認しているし、ファンタジーではよくある中世ヨーロッパを彷彿とさせるような建物もいくつも見ていた。
だがしかし、この古代遺跡はそうではない。内部の構造は遺跡とは名ばかりで、通路の両側にはいわゆる商店の残骸のようなものが見て取れた。通路の幅は十メートルはあり、その両側に整然と配置された商店の数々。
「まるで地下街じゃねぇかよ」
そう、目の前に広がる古代遺跡と言われた建造物はまるで地球の都市部の地下街。もしここが全盛期の姿を保っていたとするならば、きっと数多くの人々が行きかっていたに違いない。
もう見ることはないと思っていた景色。インデックスに記憶を復元しておいてもらってよかったと思いながら進んでいく通路の先で、俺はさらに目を疑う光景を見ることとなる。
「これは、改札ですか?」
「なんでこんなもんがあるんだよ……」
通路を進んだ気に合ったのは、少し開けた区画にあった紛れもない地球でよく見た駅の改札機。その様子は地下街直結の地下鉄駅といえばいいのであろうか。
戸惑いを隠せない俺だが、それでもここで探索を辞めるわけにはいかない。相変わらず魔物は襲い掛かってくるが、飛槍が自動で迎撃してくれるのでそれに任せている。人工知能に進化したインデックスなのだが、どうやら俺のスキルにも一部干渉できるらしく、今はそのおかげで飛槍などは俺が操作せずとも自動で操れるのだ。考え事をしたい今は非常に便利といるだろう。
「間違いなく地下鉄じゃねぇかよ……、まじで何がどうなってんだ!!」
改札をさらに進んだ先。そこにあったのは予想こそしてもこのファンタジーが謳歌する世界においてはあまりにも認めがたい光景。
横に伸びたホームに暗闇の先へと延びていく長い線路。そして駅と思われるところに止まっていたのは、時間の経過で朽ちたと思われる、かつては線路の上を走っていたと思われる電車の残骸だったのだ。
近頃ブックマークや評価など、これまでに比べて多くの方がして頂き非常に嬉しく思っています。本当にありがとうございます。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
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