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第136話 自業自得

第136話~自業自得~


 突如として俺達の部屋に遠慮の欠片もなく入って来たのは一人の少年だった。年のころは十二ないし三くらい。思春期に入りたてにしか見えない褐色の肌の少年は俺達を見るやよくわからないことを言い出した。


「お前たちが冒険者ギルドで派手に暴れた奴らであろう?お前たちが倒した奴らはこのサンドルの街でも腕利きの冒険者だったんだぞ?それをあっという間に倒したお前たちの腕を見込んで俺が自ら来たというわけだ」


 ふんぞり返ってそういう少年だったが、言葉を発することが出来たのはそこまでだった。


「うるせぇよ」


 人の部屋に無断で入り込み、好き勝手にわめき散らす糞生意気なガキ。俺のイラつきは一瞬で臨界に達したため、そのガキの首根っこをひっつかむと一気に部屋の外へと放り投げた。


「ぶぎゃっぁあ!?」


 扉が開いていたとはいえ、宿の廊下はそれほど広いわけではない。当然廊下の向こうには他の客室があり、投げ飛ばされた少年は向かいの扉を突き破って隣室へと姿を消していく。


「なぁ、店主。こんなこと言いたくはないんだが、俺達はきっちり提示された金額を払ってここに泊まってるわけだ。特に迷惑をかけたつもりもないし、普通にしてたつもりだ。それなのに勝手に俺達の部屋を教え、あまつさえ許可すらしてないのにそんな馬鹿を連れてくるとはどういう了見だ?」


 ゆっくりと、だが最大限の威圧を込めて俺は宿の店主に向けてそう呟いた。


 その言葉を受けて途端に顔を青く染める店主。最初、粉砕した扉を見て憤慨したような様子を見せていたが、こちらの威圧に気付くとその様子はすっかりなりを潜めていた。


「も、申し訳ありません……」


「謝って済む問題か?俺達は明日の予定に向けてゆっくりと休息をとる予定だった。それなのに馬鹿のせいでそれを邪魔され、それを排除すればあろうことか他の馬鹿どもが剣まで抜いてくる始末。この落とし前、お前はどうつけるつりなんだ?」


 どうやら俺がぶん投げた少年は一人ではなかったらしい。隣の部屋へと消えていった少年を追うように一人の男が駆け寄り、さらに三人ほどの兵士らしき者が剣を抜き放ちながら部屋へと押し入ってきたのだ。


 鋼鉄製、いや、ところどころミスリルを使用した兵士達が着る鎧は全員同じものであるところを見ると、この兵士達は同じ所属であると考えるのが妥当か。


“兵士の鎧の模様を見るに、カンビナ王国の正規兵であると考えられます”


 人工知能となり受動的だった対応がより能動的になったインデックスの分析を受け、兵士の鎧に目を向ければ、胸元辺りになるほど、紋章のような模様が見えた。


 砂と太陽があしらわれたその模様が恐らくカンビナ王国の国旗のようなものなのだろう。だとするとこの兵士達、さらには今しがた投げ飛ばした少年は国の関係者という可能性が高い。


 そこまで考えたところで視線を兵士に向けると、どうやら兵士達は抜いた剣をこちらに向け、なにやら酷く怒りをあらわにしていた。


「貴様!一体自分が誰に対して手を上げたかわかっているのか!!」


 そう言って怒号を飛ばすのは一番先頭にいた兵士。被った甲冑の隙間から見える顔からは老獪な顔が覗いているが、その雰囲気から察するに、それなりの手練れなのだろう。初老のその見た目に惑わされれば、手痛いしっぺ返しをくらう。おそらくはそんなタイプの兵士だ。


「人の部屋に無断で入り、その上で人を勝手に従者だなんだとわめいたクソガキだ。本来なら不法侵入で即殺でもいいところを部屋から放り出すだけで済ませてやったんだから感謝しろ」


「不法侵入で即殺って、流石は恭介さんですね。かのハンムラビ法典も真っ青な処罰っぷりですよ」


 後ろでカナデが煩いが、それを無視して老齢の兵士に向き直る。


「ガキの躾は親、もしくは保護者の責任だ。つまりはお前たちにその責任があるわけだが、店主ともどもどう落とし前をつけるつもりだ?」


 俺は再度問う。勝手に客の部屋に招かれざる者を入れた店主と、剣まで抜き放ってきた兵士。双方にどういう形でこの状況を収束させるのかと。


 俺としてはこの提案は非常に平和的なつもりだった。なにせ悪いのは相手であり、こちらに落ち度は何一つない。だからこそ相手が素直に謝罪してとっとと出て行くなら許してやるくらいの気持ちでいたのだが、どうやら店主はともかく兵士にとっては気に入らない提案だったらしい。


「黙れこの無礼者が!!王族に手を上げた者が許される道理がどこにある!!」


 気になるワードを口にしたかと思えば、問答は無用とばかりに老齢の兵士は俺に向けて一気に抜き放った剣で切りかかって来た。三人で使っている部屋とはいえ所詮は宿の一室。それほど広くない部屋の中であるのだから、兵士が俺に肉薄するまでには一秒もかからない。


だからと言って、その斬撃を俺が喰らうかどうかと言えば別問題だ。


「は……?」


「殺意を持って攻撃してきたんだ。死ぬ覚悟くらいは出来てるんだろうな?」


 老齢の兵士は自分の攻撃が間違いなく当たることを確信していた。ほぼ不意打ちにも似たタイミングで、しかも相手が構える前に切りかかったのだ。当たらない方がおかしい。いや、長い兵士としての経験で数多くの命を切って来たのだ。この攻撃が当たるのはほぼ決定事項だった。


 だが世の中いつだって想像をはるかに超える事態というのは起こるもの。でなければ、今まさに放った剣先が、指先一つで止められるはずなどないのだから。


「馬鹿なっ!?」


「馬鹿はお前だ。ガキがガキなら保護者も保護者だ。全員動いた瞬間に殺すぞ」


 その言葉に老齢の兵士も残りの兵士も一気にその身をこわばらせる。それもそのはず。全員の喉元に向けられたのは一本の槍。しかもそれぞれの槍には使い手がおらず、全てが宙に浮いた状態で、にもかかわらず寸分たがわない精度で兵士にその切っ先をむけているのだから。


「もう一度聞くぞ?先に手を出したのはお前らだ。死んでも文句はないよな?」


 槍が徐々に兵士たちの喉元へ迫っていく。一秒ごとに数センチ。だが突きつけられた方としてはたまったものではない。わずかその数秒が、刻々と迫る命のタイムリミットに等しいのだから。


「ひっ!?」


 度の兵士かは知らないが、恐怖にひきつった声が上がった。すでに槍の切っ先が喉に触れ、一筋の血が兵士たちの杭筋に流れ落ちたその時だった。


「やめてください!!」


 部屋に響く高い声。声の方を見れば、さっき隣の部屋へ放り出した少年を抱えたもう一人の兵士が俺を真っ直ぐ見つめ、そう叫んでいた。


「謝罪ならいくらでもします!従えと言うなら私があなたに従います!!死ねと言うなら死んでも構いません!ですから、ですからどうか剣をお納めください!!」


 声の高さから考えれば女性だろうか。震える声で、だがそれでも自身の身を代償に俺の怒りを鎮めようとするその兵士に、俺は少しだけ興味が出た。


「悪いが俺が使ってるのは槍なんでな。収める剣は持ってない」


「っ……!?で、では、槍をお納めください!」


 揚げ足をとるような非常にこの場にそぐわない言葉だが、それでも律儀に自身の言葉を訂正して懇願をしてくる。その様子に他の兵士を見てみれば、もはや恐怖心しかないのか全員が俺に対し恐れをなした目をしていた。唯一老齢の兵士のみが、恐怖の中に諦め以外の色を見せていたが、それでもこの状況に明確な死を感じているようだった。


「ならその馬鹿なガキにきっちりと事の次第を謝罪させろ。許す許さないも含めてまずはそこからだ」


 そう言って急に矛先を向けられた少年は、最初にこの部屋に入って来た時とは違い、目に涙を浮かべて俺にすがるような目を見せるのだった。


毎度おなじみ生意気な兵士さんがぶっ飛ばされる回でした。ですがこの少年の登場により、いよいよ三章も本番となります。この先の展開をお楽しみに。


いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。

もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。

評価方法がシンプルになったようで、下の星を押してもらうだけでいいそうです。ぜひお願いします!!


また、下に現在連載中の他の作品のリンクを貼ってありますので、もしお時間ありましたらそちらもよろしくお願いします。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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