第134話 サンドルの街の冒険者ギルド
第134話~サンドルの街の冒険者ギルド~
目的地であった古代遺跡からさらに砂漠を西に十キロほど行った先にある街。
オアシスの街サンドル。
古代遺跡からそこまで歩いてきた俺達は、ひとまず仮の拠点となる宿をとり、その中で今後の方針を決めるために話し合いを行っていた。
「全部燃やして中に入ればいいんじゃないですか?」
「却下だ」
「なら夜にでもこっそり侵入すればいいだろ?」
「それもいいんだが、なるべく強引な手段を使う気はない」
俺達がせっかく到着した遺跡からわざわざ近くの街へと移動してきた理由はただ一つ。単純に遺跡への入場を断られたからに他ならない。
遺跡の前にいた兵士に詳しく話を聞いたところ、やはりトールの言っていた通り、遺跡の中には非常に強い魔物が潜んでいるとのことだ。しかも魔物は遺跡を深く潜れば潜るだけ強くなり、ある程度熟練した者でなければ引き際すらわからずに無駄死にする結果となるらしい。
最初こそ未知の遺跡に対し、新たな発見をとたくさんの冒険者や研究者が遺跡に赴いたのだが、そのあまりの死亡率についに国が入場制限を設けたのだという。
その制限は分かりやすく、冒険者ランクで緑以上を有する者、あるいはその同伴者に限ると言ったものだ。
最初こそその制限に反発をした者がいたのだが、目に見えて減った死亡者の数に、結局は国の方針に落ち着いたというのがここ数年のことなのだそうだ。
「不正や理不尽が横行してるならともかく、あそこの門番は自分の仕事しているだけだし、なにより国も間違ったことをしてるわけじゃない。それを力で押し切るのはノーだ」
そういった俺の言葉にカナデとスルトが、何か俺をおかしなものでも見るような目で見るのだが、基本的に俺は何もかもを力で押し通すつもりはない。
無論俺達であれば、その力で門番など容易く蹴散らすことは可能だが、そんなことをすれば俺達こそが理不尽の権化となってしまう。世の理不尽に対して抗うと決めた俺にとって、その行いを許容するわけにはいかないのだ。
さらにいえば、アーネスト公国で決めたのは無闇に殺しはしないということだ。何一つ悪いことをしていない門番を殺すのは、そう決めた俺の心に反することになる。ゆえにあの場は一度引き、こうして宿で今後の方針を考えているというわけだ。
「ならどうするんです?大人しく冒険者ランクを上げるんですか?」
「その辺りは冒険者ギルドに行ってみての判断だな。正攻法ですぐランクが上がるならよしだしな」
「上がらなかったらどうするんだ?」
「上がらなかったらって、それはお前」
イフに対してイフで問うスルト。それに対し、俺は自分でもわかるくらいに非常に悪い顔をしてその問いに答えた。
「きっとナイジェルやシュライデン、マリオット公爵あたりがなんとかしてくれるさ。持つべきものは権力者のコネってな」
そう言って笑う俺に対し、カナデとエリザが何とも言えない表情を浮かべたのはきっと仕方のないことだったのかもしれない。
◇
サンドルの街は砂漠の中のオアシスを中心として作られた街であり、カンビナ王国の中では割と多い形態の街だ。国土のほとんどが砂漠であるカンビナ王国において、オアシスは非常に重要な場所であり、過酷な環境の砂漠においてそこを中心として人が集まったのは道理と言えるだろう。
中央のオアシスを起点に周囲に建物が立ち並び、人が行きかう道を挟んでまた建物が立ち並ぶ。円状に広がった街は周囲一キロ、直径にして二キロほどの小さな街であるが、それでもカンビナ王国においては規模の大きな街の部類にあたる。それほどまでカンビナ王国の環境は厳しく、人類が生き抜くには適さない環境である国なのだ。
そんなサンドルの街にある冒険者ギルドはオアシスに一番近い区画にある。オアシスに近いほど地価は高く、冒険者ギルドが街において高い地位にあるということはそんなところからもうかがえる。もっとも、仮にそんなものがなくともまるで宮殿のような石造りの立派な建物である冒険者ギルドを見れば、街におけるギルドの地位など一目瞭然なのだ。
「で、冒険者のランクを上げるにはどうしたらいいんだ?」
「そうですね。ランクをあげるにはいくつか方法がありますが、大きく分けて二つです」
そのギルド中に入った俺達は、見慣れない者への視線を軽くスルーして空いてる受付でそう尋ねる。アーネスト公国で最初の説明を受けてはいたが、あの時は日銭を稼ぐのに照準を合わせていたため余計なことは聞き流していたのだ。それゆえのこの質問だったのだが、ギルドの受付をしていればこのような質問など日常茶飯事なのだろう。受付担当の職員は俺達に丁寧にランクアップの方法を教えてくれる。
「一つはギルドの依頼をこなしていくことです。ギルドの依頼には大きく採取と調査、そして討伐の三種類がありますが、ランクはギルドへの貢献度のポイントに依存します。ゆえに自身の身の丈にあった依頼をこなし、その貢献度が一定の基準に達すればランクの昇格となるのです」
冒険者とは何も力が全てではないのだとギルドの職員は言う。採取による希少な薬草や食べ物などの需要は非常に高く、それらを採取するということはギルドにしてみれば非常に助かる話というわけだ。
調査に関しても未だ世界には未開の地が多く、人の手が届かない場所の生態系や地理を調査するということは、今後の人類の発展のためにも必要不可欠なのだそうだ。
どちらも必要最低限の戦闘技術の持ち合わせは必要にはなるが、ベテランになればなるだけ魔物との遭遇を避ける技術を持っている。それゆえそういった仕事を生業にする者達は、採取や調査の結果を持ってランクを上げていくらしい。
だが、それでも力なくして上がれないランクもあるらしく、なんでも黒以上のランクには非常に高い戦闘能力が必要になるらしいのだが、それは今は関係のない話なので置いておく。
「しかしこの方法は堅実であるがゆえに時間がかかります。あなた方のギルドランクは黄、しかもギルドへの貢献度は記録されていませんので、地道なこの方法ですと、最低でも次のランクへは一年はかかるでしょう」
一年。今の俺達にとってはとてもじゃないが看過できない数字だが、それも仕方のないことなのだろう。実際、冒険者というのは生涯をかけてつく仕事であり、しかもランクの昇格ともなればギルド側も慎重を期しても仕方がない。あまりに無能な者をなんでもかんでもランクアップさせてしまえば、それは冒険者の質を下げることに繋がり、依頼の達成率を下げるだけでなく冒険者の死亡率の増加を招いてしまうことになるのだ。
それゆえ力のない者がランクを上げるには時間がかかるのは道理にかなっている。だが今のような話し方をしたということは、もう一つの方法とやらがランクを上げるには手っ取り早いのだろう。そう判断した俺は、黙ってギルド職員に続きを促した。
「もう一つの方法ですが、こちらはあまりお勧めできません」
「いいから続けてくれ」
予想はしていたが、基本的には一つ目によるランクアップが冒険者にとっての普通であるのだろう。つまり言ってしまえばギルド職員が言いよどんだ二つ目は特例。それも俺の予想通りであれば、こっちこそが俺達にとってはぴったりな方法なはずであった。
「わかりました。もう一つはほとんど特例のようなものです。具体的に言いますと、強大な魔物の討伐が挙げられます」
それは俺の予想と一致していた。現に俺達がアーネスト公国でランクアップしたのは、ゴウロン山で起きたスタンピードを止めたことによる貢献のおかげだ。そうであるならば、同様の功績を上げればこれまた同じようにランクアップする公算は高い。そしてこの場でそれを提示してきたということは、それに見合った魔物がいるということに他ならない。
「砂漠の北、大陸の端に位置する場所で大型の魔物が出現したとの情報が入っています。当然、国もギルドも調査のために人を派遣しましたが、誰一人として帰ってきてはいません。もしこの魔物を調査し有力な情報を持ち帰る。さらに討伐できるのであれば、ランクアップは確実と言えるでしょう」
やはりちゃんと正攻法の道があった。俺はその情報について、さらに詳しく情報を聞くことにしたのだった。
ここに来てようやくファンタジーものではお馴染みの冒険者ギルドというものが再び出てきました。以前登場してからどの程度たつのか。設定を読み返すのが一苦労でした。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
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