第131話 新たな目的地
第131話~新たな目的地~
エリザの話題がひと段落したところで、俺は当座の問題について口にする。
「俺達は強くならなきゃいけない」
そう言った俺に対し、全員が同意を示してくれていた。
実際問題、能天使に勝てたのは運がよかったとしかいいようがない。瀕死の重傷に陥ってからの力の覚醒など、それこそ都合のいいファンタジーの中のお話だ。
サイモンとの戦いも、今回の戦いも運よくそうなったからいいものの、これから先も同じことが起こるという保証はどこにもない。むしろそんなことは起こらずに、そのまま死んでいくという可能性の方が圧倒的に高いくらいだ。
だからこそ俺達は強くなる必要がある。最終的な目標を神として掲げている以上、その部下である天使、しかも中位に位置する能天使に後れをとるようでは話にならないのだ。
「私ももっといい器を用意してもらいたいな」
『俺もこの封印が解ければ主にもっと貢献できるかと』
スルトとトール。伝説の魔物である二人がそう言った。
過去に天恵を持つ勇者たちに封印されてしまったスルト達は、その力のほとんどを抑え込まれてしまっている。スルトは俺が仮の器を作ることでその中に精神を乗り移らせることで戦っているが、その強さは器に依存する。俺がこれまでに手に入れた素材の中ではそれなりのものを使っているが、やはり本来のスルトの力を引き出すには器がお粗末すぎるのは否めない。
片やトールの方は封印された鉄塔が問題だった。龍戦士から龍騎士に進化した俺は、改めて鉄塔を破壊しようと試みたのだが、その結果は五メートルあった鉄塔が四メートルになったというもの。それによりトールの力も少しは向上したのだが、それでもやはり本来の力には遠く及ばない。
ゆえにまずは全員が力をつけることが急務。そう思い提案したのだが、その方法はトールが提示してくれた。
『力をつける、つまり修行が必要ということであれば、カンビナの大砂漠がいいのではないかと思います』
トールがそう言って提示したのはキュリオス帝国の西方、カンビナ王国にある広大な砂漠だ。
カンビナ王国。その領土のほとんどを砂漠に支配された大きさだけで見れば帝国をも凌ぐ西方の強国。その国にある大砂漠の中に、なんでも古代の遺跡があるらしいのだ。
「その遺跡に何かあるのか?」
『俺も実際に行ったことはないので何とも言えませんが、以前たまたま俺の封印された場所近くに迷い込んだ人間が言っていたんです。カンビナの大砂漠の遺跡には能力向上の秘宝が眠っていると』
なんでもたまたま機嫌のよかったトールは、その冒険者を見逃す代わりにその情報を詳しく聞いたそうなのだ。曰く、能力を向上させる秘宝が眠るその遺跡には、強大な魔物が多数潜んでいるらしい。これまでもその秘宝を求めて多数の冒険者が遺跡に挑んだらしいのだが、その多くが帰ってはこなかったそうだ。
数少ない帰還した者の証言によれば、『あそこは地獄だ』と口々に言い、そのまま二度と冒険者として再起することはなかったという。
『眉唾の可能性も大いにありますが、現状目的地がない以上、行ってみるのも一考かと思います』
そこで言葉を切ったトールに俺は思案する。確かに現状目的地はないが、それでもそのような話を鵜呑みにしていいものか。もし行ってみて何もありませんでしたでは、ただ時間を無駄にしただけ、最悪の場合はそこで天使たちの襲撃を受ける可能性すらある。
神の思惑に反し病気を治療し、その上で天使たちをそれなりの数殺したのだ。言ってしまえば俺達はお尋ね者のようなもの。しかも神という世界を超越した存在から目をつけられた、はっきり言ってこの世界にいれば逃げ場などどこにもない指名手配犯と言っても差支えはないのだ。
「恭介さん。私は行ってみてもいいんじゃないかなって思いますよ?」
さてどうすると、思考の沼に嵌りかけていた俺にカナデが何の気なしにそう言った。
「理由は?」
「そうですね。強いて言うなら勘ですかね?」
悪びれもせず、特に考えなどないと言った感じでカナデは言う。
「理由をつけるならいろいろありますよ?実際にそこに行った冒険者の人たちが強い魔物がいるというのなら、それを倒せばレベルアップもできるかもです。それに新しい場所に行ってみたいのもありますし、またあの天使たちが私たちを狙ってくるとしたらここが戦場になる可能性もあります。せっかくみんなが復興にいそしんでいるのに、そこが戦場になるなんて私は嫌ですよ?」
そう言って窓の外に目を向けたカナデに、少しばかり感心しようとした矢先、「見ず知らずの人たちなら少しばかり巻き込まれてもそんなに気になりませんしね」などと言葉を付け加えたせいで台無しだった。
とはいえカナデの言うことにも一理ある。俺のステータスの源といっても過言ではない身体強化の魔法はレベル依存だ。その倍率はレベルが上がるほど上がるわけなのだから、強さを求めるにはレベル上げが一番効率がいい。俺達の知る限り、今の俺達の強さにあった魔物がいる場所など知る由もないのだから、だったらその可能性がある場所に赴くというのは非常に理に適っている。
「だがここの守りがな」
カナデの後押しもあり、カンビナ王国の古代遺跡に行ってみることはやぶさかではなくなった。だがそうすると俺達が旅立った後のこのレヴェルという新たな国、ひいてはこのロータスの街をどう守るのか。
確かにこの国を支配していた能天使は倒したが、それだけで天使がもうここに住む人々に手を出さないかと言われてしまえば答えられるはずがない。俺達が出発した矢先、前と同じように大襲撃を受けないという可能性はないのだ。
『それなら心配にはおよびません。俺がこの街に残ります』
「お前がか?」
『はい。主の心配の種は俺が責任を持って取り払って見せます。なので主はより強くなってまた戻ってきてください』
そう告げたトールであったが、トールとて俺達に同行をしたくなかったわけではない。だが現状、トールは未だに勇者たちに封印された鉄塔周囲から離れられない以上、長距離の移動をするには問題が残る。
降りやまぬ丘陵からロータスに来た時のように、俺が鉄塔を持って歩くのもいいが、その大きさは小さくなったとはいえ未だ四メートルはあるのだ。この先カンビナ王国へ行った際には街へも立ち寄ることを考えれば、あまり現実的な行動とは言えないことは明白だった。
『主のおかげで封印は確実に弱くなっています。この街の範囲位であれば自由に動き回ることも可能ですのでご心配なく。力の方も能天使位ならどうとでもなるくらいには戻ってますから』
そこまで言われては俺もこれ以上迷う理由もない。だからトールには一言だけ告げ、俺達は一路カンビナ王国へ旅立つことを決めたのだった。
「必ず戻るからこの街を守り切れ」
『御意』
◇
その知らせが俺達にもたらされたのは次なる目的とへと向けて出発を控えた前日の事だった。
「キョウスケ様!まだおられますか!?」
俺達がロータスの街にいる間に拠点としている教会に飛び込んできたセレスが、俺を見つけるなり叫んだ。
「大変なんです!!昨日、カンビナ王国から帝都へ救援要請があったそうなんです!!」
「カンビナ王国からか?」
「そうです!!現在、カンビナ王国の西端先の海洋ではすでに戦闘が始まっているとのことです!!」
カンビナ王国の西端、それはつまり今俺達がいる中央大陸の一番西の端ということで、セレスが海洋で戦闘が行われていると言ったということはシルビアス王国は海から攻めてきたということだろう。
この中央大陸は以前俺達が越えて来たように、大陸の中央には南北を分断するかの如く死骨山脈と永久の森が居を構えている。いかな大国と言えども、その二つを超えて軍を動かすのは難しい。だがそれを解決するための策が海。海から船によって西回りで大陸に沿って進んでしまえば、その二つの防波堤も意味をなさない。そうやってシルビアス王国はカンビナ王国に侵略を仕掛けたということだろう。
「シルビアス王国……。あいつらのいるところか」
俺はその国を思い出し、そっとため息を吐く。この世界に召喚され、そして魔族という謂れのない罪で投獄され、殺されかけた国。そして思い出したくもない俺の天敵、木山がいるであろう国だ。
なぜこのタイミングで。そしてどんな理由でシルビアス王国が侵略を進めたのかは分からない。だが、少なくとも俺達がこれから向かう先も同じである以上、きっとどこかで衝突は避けられないのだろう。
「望むところだ」
その時を想像し、俺はこれまでの借りを清算すべく、ひそかに闘志をみなぎらせるのであった。
これにて第二章もお終いとなります。ここまでいかがだったでしょうか?第一章ではファンタジー色が強めとなっていましたが、第二章は少し科学よりに話を進めてきました。
そしてこの物語のタイトルにある神との全面抗争。天使との戦いが本格化する第二章は、物語の核心へと迫る第一歩となっております。
トールという新たな仲間を加えたところでのエリザの離脱もあり、いろいろと盛りだくさんの二章でしたが、みなさまに少しでも満足していただけたなら嬉しいです。
この先はいよいよ第三章。そこでは新たな伝説の魔物と共に、かつてのクラスメイトとの再会もあると思います。さらにこの世界の深層に少しづつ踏み込む次の章。是非ともお読みいただけると作者としてこれ以上嬉しいことはありません。
今日までしばらく間連日で投稿をしてきましたが、第三章からはまた隔日での更新へと戻ります。ストックが溜まり次第再び連日の更新としますので、これからもよろしくお願いします。
是非、ブックマークや評価もして頂けると嬉しく思います。皆様の評価の一つ一つが私の糧となります。ぜひともワンクリックをよろしくお願いいたします。




