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第118話 帝都での戦い⑱

第118話~帝都での戦い⑱~



 過去と未来。連続する時相にありながら決して交わることのない二つの時間。


 右目で未来を。そして左目で過去を視る。


 両目でまるで違う時を見るという通常ありえない現象に脳が悲鳴を上げるが、俺はそれを無視して能天使と対峙した。


 能天使が振り上げた拳が辿る軌跡を未来視で先読みし、その場所を正確に知る。だがそれだけでは相手のスピードが速すぎて回避が不可能となってしまうため、過去視を併用し自身のいた場所に干渉する。


 自分が立っていた場所から数センチ右へと立ち位置を改竄する。それにより回避不能だった能天使の攻撃をかろうじてだが回避することに成功した。


「きっついなこれ!!」


 だが攻撃を一度回避するだけにもかかわらず、その負担は俺の脳へと計り知れないダメージを与えていた。左右で違う時相を見るという行為は頭が割れるかと思うほどの頭痛を誘発し、目からは出血が見られる。だがそれでも未来視と過去視の併用をやめるわけにはいかない。これをすることでしか相手の攻撃を回避できない以上、続けることで勝機を見出すしかないのだ。


 しかし俺にとっては負担のきついスキルの併用も、対する能天使にとっては同じではない。それもそのはずで、相手はただ自身のステータスを最大限に発揮して殴るという行為をしているだけなのだ。当然だがどちらの方が負担が大きいかなどわかりきったことだった。


「あははははははっ!!」


「進化して強くなったはいいけど自我が崩壊したとか笑えねぇんだよ!!」


 笑いながら攻撃を繰り返す能天使に対し、こちらは躱すことで精いっぱい。時折なんとか槍を繰り出そうとはするのだが、無理な体勢から打ち出されたせいか、力が伝わり切らず全て空を切るに終わっていた。


 やまない攻撃を躱しながらも俺は勝機を手繰り寄せるために能天使を観察する。


 能天使にはもはや自我など存在しないように見えた。進化を終えてからの能天使は、ただ笑いながら目の前の敵を殲滅する方向で動いているようだった。その証拠に、能天使は戦いを始めてから常に一番近い場所にいる者に対して攻撃を繰り出していることから見てもそれは明白だ。ただ手近にいるものを攻撃し、その敵を倒すことに全力を傾ける。これまでエミレーツとの契約の件から計画と策謀を巡らせていた相手とは全く逆。ただ己の本能に従って動くだけの殺戮マシーンと化しているようだった。


 そう聞けば、こちらとしてはいい情報のように思えるが、実際にはそれは悪い方向に働いてしまう。なまじ自我がなく本能で動いている分だけ手加減がない。もしこれが知能のある相手であれば交渉の余地もあり、言葉という武器を使うことも出来るのだが、知能がない相手にはそれもできない。


 実際にサイモンとの戦いのときはそうだった。あの戦いも圧倒的な格上との戦いだったにもかかわらず勝利できた理由をあげるなら、それはサイモンが非常に理性的だったところだろう。理性的、そして知能が高かったからこそこちらを格下だと思い油断した。加えて言葉での揺さぶりに動揺し、手痛い一撃を見舞うことも出来た。


 右腕でのフック気味の拳をよけ、左からの打ち下ろしを槍でいなす。しかしここで思いがけない攻撃が飛んでくる。これまで両の拳での攻撃しか行ってこなかった能天使が、ここにきて蹴りを交えて来たのだ。


「くっそ!?」


 ただ単純に放たれた前蹴りだが、能天使のスピードの前では全てが命取りの一撃と化す。両腕での戦いのみを想定しながら防御の手順を決めていた俺にすれば、仮に未来視による先読みをしてもそれを回避するのは厳しいものがあった。


 喰らえば終わる。それが分かっているからこそ、ここまで過去視での消費を極力抑えるために最小限の過去への干渉で済ませていたのだが、そんなことを言っている時ではない。過去視を発動し、能天使の蹴りを正面から喰らうはずだった体を能天使への背後へと移す。


 どうせここでの過去の改竄は魔力を多く使うことになるのだ。それならば出し惜しみすることなく、こちらの有利になる方向に使うべき。そう判断したからこその大胆な改竄。


「ロンギヌス!」


 この場で召喚する魔槍はロンギヌス。神を殺し、悪魔をも滅ぼすと言われる神殺しの槍。悪魔の力をも手に入れた圧倒的な力を持ったサイモンをも貫いた必殺の槍だ。


 しかし、ここまでの戦いを経ても俺は能天使の実力を正確に把握できていなかったらしい。


 完全な死角である背後に過去を改竄することで移り、その上で未来視を発動して俺の攻撃を回避しようとする能天使の動く方向をも考慮してロンギヌスの一撃を放った。


「……まじかよ」


 放った槍は能天使の肩を掠め、わずかな血を噴出させながらもむなしく空を切る。


 過去視で完璧な位置に移り、未来視で予測をして尚、能天使はその圧倒的な回避スピードでこちらの攻撃を掠るだけで躱して見せたのだ。


 呟いた俺に、体を回転させることで攻撃を躱した能天使がその遠心力をのせて蹴りを放つ。もはや俺にそれをどうにかする余裕はない。度重なる未来視と過去視の同時発動と、多大な過去への干渉による魔力の損失。そして完全にとらえた攻撃を躱されたことによる脱力感が、一気に俺に襲い掛かりそこからの反撃を不可能としてしまったのだった。


「恭介さん!?」


 能天使の蹴りが脇腹付近に突き刺さり、そのまま抵抗すらできずに吹き飛ばされる。そのままどこかの建物へと体が激突するまでのわずかな時間、カナデが俺を呼ぶ悲痛な叫びが聞こえた気がした。


 ◇


 カナデとスルトはその光景をただ見ていただけではない。恭介から隙を見て能天使へと攻撃をしろと言われ、その隙を探し続けていたのだ。


 互いに魔力を高め、自身の持つ最大の火力で能天使を焼き尽くすため、劣勢の恭介が能天使を引き付けるのを我慢し、すぐにでも飛び出したくなる体を押さえつけてその隙を探し続けていたのだ。


 しかしその甲斐はなく、渾身の一撃を放った恭介はその攻撃を躱され無残に吹き飛ばされた。あの衝撃から見て、どう見ても戦線に復帰することは難しい。冷静に分析をするならば、戦いに戻れないどころか死んでいてもおかしくないほどの攻撃をその身に喰らったのだ。その様子を見ていたカナデとスルトが冷静でいられるはずがなかった。


 それでも二人は魔力を高めたまま能天使を見つめ続ける。目下の標的を倒し、次なる相手を探す能天使の様子を逃すまいと目を凝らしていた。


 怒りで頭に血が上り、すぐにでも攻撃をぶっ放したいにも拘らずそれが出来ない理由。それは能天使と恭介の戦いに二人が手を出せないでいた理由と同じものだった。


「スルトさん、あれ、目で追えますか?」


「かろうじて、と言いたいところだけど残像で精一杯だ。多分反応はできない」


「ですよねー。私もあの速さ冗談でも追えるとはいえません」


 そう、単純に二人では能天使の動きの早さに対応が出来ないのだ。素早さのステータスがずば抜けている上に、神速のスキルのせいで上方修正が半端ではない。恭介もまたスキルの力で無理矢理対抗していたが、今の二人にその速さを捉える術はないのだ。


「キョウスケの所に行くか?」


「あっちはエリザさんが行くでしょうから大丈夫です。それに今あれから目を切るのは自殺行為も同然ですよ?」


「だよな」


 そう言う二人に対し、獲物を探し彷徨っていた能天使の視線が向く。恭介を倒した能天使の次なる獲物は、どうやら二人に決まったようだった。


「来るぞ」


「返り討ちにしてやりますよ!」


 圧倒的素早さをもつ能天使とカナデとスルトとの戦いが始まったのだった。


当たらなければいかなる攻撃もどうということはないを地で行く能天使。果たしてこいつにどうやって勝つのか。能天使の強さに少しばかりやりすぎた感があります(笑


いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。

もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。

評価方法がシンプルになったようで、下の星を押してもらうだけでいいそうです。ぜひお願いします!!


また、下に現在連載中の他の作品のリンクを貼ってありますので、もしお時間ありましたらそちらもよろしくお願いします。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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