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第114話 帝都での戦い⑭

第114話~帝都での戦い⑭~


 わめく皇帝がうざったくなったので、適当に建物の屋上に転がした俺が、エリザに今の状況と合わせて先ほど気になったことを質問する。


「エリザ、依り代ってどういうことだ?」


皇帝によれば、今まさにスルトにフルぼっこにされているのは皇帝の娘でもあり、第一王女のリシティーという女性らしい。だがその姿はどう見てもこれまでの天使と同様であり、背中から翼が出ている時点で人間とは認めにくい。


「何、簡単に言えば天使が住んでいる天界から降りて、下界で力を奮うための器ということじゃよ」


 何気ない様子でそう答えるエリザだが、そんなものは初耳な俺にとっては決して聞き流していい話ではない。そう思いエリザに詳細を促すと、エリザは視線は今まさに行われているスルトと権天使の戦闘に向けながら、依り代について話してくれた。


 その間にも二人の戦闘は激化していくが、どうひいき目にみてもそれは一方的な戦いとなっていた。


「たかが魔物の分際で神の使いたる天使に歯向かうなっ!!」


 権天使が翼を羽ばたかせ、薙刀を上段に掲げながらスルトに突撃する。しかしあえてそれをよけようとはしないスルトは、上段から振るわれた薙刀をその身に受けるが、どうやらそれはまったく意味を成していないようだということは遠目から見ても分かった。


「スルトの炎身化にダメージを与えるのに、あやつの武器では力不足じゃの」


 エリザの呟きの通り、通らないダメージにさらに怒りを募らせたらしい権天使は薙刀を返し下から切り上げ、さらに自身の回転に合わせて遠心力ののった一撃をスルトへと繰り出すが、その全てがダメージを与えるには至らない。


「終わりか?」


 一言だけ呟かれたスルトの言葉。だがその一言で権天使は咄嗟に身構え、そしてあろうことかスルトの傍から飛び退き後退をしてしまう。それは言ってしまえば逃げ。この場において、権天使自身が引き込んだこの場においては絶対にしてはいけない行為だった。


「ふざ……けるなっ!!」


 その事実に権天使の怒りが限界を突破する。おそらく権天使は封印された状態のスルトになら勝てるとでも思ったのだろう。だからこそ、エリザではなく先にスルトに狙いを定め攻撃をしかけた。不意打ちも行い、確実に仕留めるために汚い手も使った。


「神の鉄槌を受けて見ろ!!」


 再び上空へと飛翔した権天使は、その両手を頭上に掲げるとまばゆい光をその上へと集めだす。未だ朝には程遠い時間のはずなのに、その光は周囲一面を照らし出し、どこか太陽を持っているようにすら見える光景だった。


「聖十字!!」


 光は収束し、スルトへ目掛けて降り注ぐ。その形は権天使が叫んだ言葉そのままに、まるで巨大な十字架のようにスルトを呑み込むように突き刺さる。


「光の十字は全てを浄化し、全てを無へと帰す!例えお前がどれほど強かろうと、どれだけの熱量を誇ろうとそこに例外なんてない!!」


 そう叫ぶ権天使にもはや余裕など微塵もない。依り代にしているリシティーの赤い髪は振り乱れ、化粧をしていたのであろう顔はスルトの放つ熱でどろどろ。さらに吹き飛ばされた衝撃であちこちに擦り傷や泥がついており、優雅さなど欠片も残ってはいない。それでも自身の技でスルトを葬ったと確信する権天使は、目をそむけたくなるような狂った笑い声をあげはじめたのだ。


「ぎゃはっ、ぎぃやぁあははっは!?倒した!伝説の魔物の一柱を倒した!!これで、これで私はさらに強くなれる!!ついに壁を越えられるんだ!!」


 虚空を見上げ高笑いを続ける権天使の目は血走り、もとはきっと美しかったであろうリシティーの顔が、どのようにすればそうなるのかと思うくらいに醜くゆがんだ。


「何がそんなに面白いんだ?」


 しかし、そんな権天使の笑いも今自らが放った光から聞こえる声に一気に止まる。


「どうしてそんなに笑ってるのか、私に教えてくれよ」


 権天使の表情が、それまで興奮で赤かったように見えたのだが一気に血の気が引き青く染まる。


 その時だった。権天使自ら放った光の十字の末端。地面へと突き刺さった部分に真紅の揺らめきが漂い始める。その揺らめきは段々と大きくなり、光の十字架を徐々に侵食していく。そしてその浸食が半分を超えた時、それまでゆらゆらと十字架を覆うだけだった揺らめきが、突如として劫火へと変貌を遂げて一気に十字架を包み込んだのだ。


「あ……、あ、ばか……な……」


 真紅の炎により取り込まれた光の十字架は、もはや見る影もなく消えていった。そしてその後にその場所にいるのは当然ただ一人。先ほど権天使が自身の最大の攻撃で葬り去ったと確信したその人。炎の体が小さく動いただけで、権天使はまるで金縛りにでもあったかのように動きを止めた。


「もういいだろ」


 スルトが短く放った一言に権天使が我に返った時にはもう遅い。権天使の周囲には、幾何学模様かのような炎で彩られた魔法陣が展開されていたのだ。


「炎魔陣」


 上下左右、権天使の周りを包囲した炎の魔法陣が一斉に輝き始める。当然権天使は危険を悟り退避をしようとするが、周囲を包囲されてしまっており逃げられない。そこで今権天使が出来る全ての魔力を防御に回し防御結界を張ったのだが、それが功を奏する結果となる。


 炎の魔法陣が一斉にスルトが纏っている炎と同色の真紅の炎を噴き上げる。以前、ロータスを最初に襲撃した天使たちをまとめて運んだ炎牢も同じように敵の周囲に炎を展開させる技だが、炎魔陣はそれを攻撃に特化させたものである。


 周囲の魔法陣から吹き上がる炎はその中にいるものに、逃げ場を与えることはない。上も下も右も左も前も後ろも炎。避けることのできない炎の結界に囚われた者は、ただ真紅の炎に焼き尽くされるのみ。


「しぶといな……」


 しかしその技を使用して尚、スルトの怒りは収まらない。炎の魔法陣が攻撃を終え消えていく中に、かろうじではあるが生きている権天使を捉えたからだ。


 しかし生きているとはいえ権天使の全身は火傷で爛れ、真っ白だった翼は黒く焦げ付いている。もはや飛翔することもままならず、地面へとゆっくりと落ちていくその様は、かのイカロスを連想させるようなそんな光景だった。


「ぅ……ぁ……」


 落ちた権天使へ歩み寄るスルト。もはや勝負は決したのは間違いない。いや、そもそも最初から勝負にすらなっていなかった。権天使の敗因はただ一つ。これまでに弱者である人間としか対峙してこず、真の強者という者を知らなかったということにつきる。過去に伝説の魔物を退けることが出来たのは相応の理由があったということを忘れてしまったのだから、この結果は当然のことだったのだろう。


「気は済んだか?」


 そう言ったスルトの言葉に返答はない。地に着いた権天使はスルトを見上げ睨みつけるが、もはや声を発するだけの力もないのだ。今権天使が瀕死とはいえ生きているのは単に運が良かっただけ。権天使が全ての力を防御に回したということと、スルトの力が完全には程遠いということだ。もしこれが仮に、かりそめの器ではなくスルト本来の体だったとしたら、今頃権天使の体は塵すら残らずに消え去っていたことだろう。


「終わりだ」


 スルトに慈悲はない。当然命乞いを聞く気もなければ、謝罪の言葉を聞くつもりもない。スルトに今あるのは、ロータスの街をあんなにし、ナターシャたちを殺した権天使を殺すことだけなのだから。


 スルトの持つレーヴァテインが無常に振りぬかれ、権天使の首を跳ね飛ばそうとしたその時だった。


「待ってくれ!!」


 剣を振るおうとしたスルトと今まさに殺されようとしていた権天使の間に一人の影が躍りだす。


「頼む、待ってくれ!この子は私の娘だ!権天使などではない!私の娘なんだ!!」


 その人影は皇帝だった。


 剣を直前で止めたスルトの目の前に、皇帝が手を広げて立塞がったのだ。いつの間にやら俺がその辺に投げ捨てた建物から下に降り、権天使を殺そうとしていたスルトの前に躍り出たのだから頭が下がる。俺ですら今のスルトの前に立つのは躊躇するというのに、それをああも簡単にしてしまうというところが皇帝なのだろうか。違うな、きっとあれは親が子を守りたいと願う純粋な気持ちなのだろう。俺には一度として味わうことのなかったそんな温かい思いに、一抹の羨ましさを感じていたのだが、隣のエリザの険しい声に我に返る。


「まずいぞ、スルト!早く権天使を殺れ!!」


 これまで黙って静観していたエリザがまさかそんなことを言うとは予想もしなかった俺は、すぐさま警戒を強めるが既に遅かった。


「……え?」


 皇帝の胸から飛び出る純白の刃。それは一気に皇帝の体を貫くと、大量の血を噴出させながら引き抜かれる。


「くっ、くく……」


 赤い血が舞い、崩れ落ちる皇帝と対照に権天使が立ち上がった。その身に皇帝の血を浴び、恍惚の表情を浮かべながら立ち上がったのだ。


「あは、あははははっは!!どうやらまだ神は私を見放してはいなかった!!」


 再び狂気にも似た笑い声をあげる権天使。帝都での戦いはまだ終わらない。


スルトさんの無双回でした。ですがこういう時って必ず最後に邪魔が入る者なんですよねー。それが皇帝っていうのは一体なんの皮肉か。

次回、権天使が豹変します!どうぞお楽しみに!!


いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。

もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。

評価方法がシンプルになったようで、下の星を押してもらうだけでいいそうです。ぜひお願いします!!


また、下に現在連載中の他の作品のリンクを貼ってありますので、もしお時間ありましたらそちらもよろしくお願いします。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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