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第105話 帝都での戦い⑤

第105話~帝都での戦い⑤~


 エリザが西区画の大天使たちを殲滅し、スルトがナイジェルと邂逅した時を同じくし、恭介とカナデもまた中央区画で手厚い歓待を受けていた。


「雑魚がどれだけ群れても結果は同じってどうしてわからないんですかね?」


「俺達がどういうやつかなんて相手はわからないんだから当然だろ?人程度の実力なら、最下級の天使に大天使が数体いればどんな奴でも問題ないとか考えてるんだろ。大きな間違いだけどな」


 遠距離から炎や氷、果ては雷の属性による魔法が飛んでくるが、それらは全てカナデの深青の炎で防がれ、逆にそれを放った術者が跡形もなく燃やされる。


 遠距離がダメならと戦槍を持って突貫してくる天使たちは、俺の周りを飛翔する槍によって全て細切れに姿を変えていた。


「まずはどこに向かいます?」


「とりあえず玉座でいいんじゃないか?夜だし寝室にいる可能性も高いけど、他に心当たりもないからな」


「なるほど。権力にふんぞり返る愚か者を恭介さんが串刺しにするんですね!!相変わらずのバイオレンスっぷりです!!」


 なぜ皇帝と話をしに行くのが目的のはずなのに、そこまで話が飛躍するのかは分からないが、カナデにとってはいつものことなので特に突っ込みを入れることはない。


 それに相手の出方によってはそのパターンも十分に可能性としてはあるだけに、否定するのも違う気がしたのだから仕方がないだろう。


「権天使の不意打ちの可能性もあるからな。油断はするなよ」


「するわけがありません。それでこの前は痛い目にあいましたからね。出てきたら即燃やすくらいの気持ちの厳戒態勢です!!」


 カナデの言う痛い目とは、先日のサイモンとの戦いの事だろう。油断から来る慢心によりサイモンに悪魔の力を得る機会を与え、互いに死のギリギリまで追い込まれたあの戦い。


 結果的に新たな力を得ることで勝てたからいいものの、毎回そんなにうまくいくとは限らない。その反省を生かし、カナデがそう言ったのは成長の証といえるだろう。


 俺とカナデのいる中央の区画はいわば帝城の中枢部という表現が正しいのではないだろうか。


 皇帝のいる玉座に始まり、執務室や会議室、来賓を迎える客室や、晩餐会などが開かれる大ホール。サイモンのいた屋敷に近いものがあったが、その規模は比べるまでもない。片や公国の一領主の屋敷と巨大な帝国の首都に位置する城だ。その規模が天と地ほどの差があったとしてもなんらおかしいことなどないのだ。


 そんな巨大な城の中を歩く俺とカナデだったが、行く手を阻む天使たちを撃退していく中でおかしなことに気付いていた。


「誘導されてるな」


「だから天使の動きに偏りがあったんですねー。うざったいんで全部燃やしても良かったんですけど、恭介さん、わざと誘いに乗りましたよね?」


「むやみやたらと歩いても時間がかかってしょうがない。だったら相手の誘いに乗った方が時間の節約になるだろ」


 そう言う俺だがもちろん懸念がないわけではない。相手の誘いにのるというのはそれだけでリスクなわけで、出来るなら避けた方がいいに決まっている。


 それでも俺がリスクを犯してでも時間の短縮をしようとしているのは、帝都の攻略を今夜で終わらせるために他ならない。


 明日になれば、この帝都に帝国東部の蜂起した人々が押し寄せてくるだろう。自分たちを見捨て、さらには皆殺しにしようとした国を許すまいと、怒りに身を任せてこの帝都に襲い来るはずだ。


 そうなれば結界の破壊された帝都は自らの力でもって東部の住人達から身を守るしかなく、そうなれば多くの血が流れるのは目に見えて明らかだ。


 襲撃を加えた東部の人々はもちろんのこと、帝都で暮らす今回のことに対して無知な人々も多くが犠牲になるだろう。


 その構図を描いたのは俺ではあるが、そうなることを望んでいるわけではない。あくまで東部の住人に蜂起をしてもらったのは、俺が帝都を落としたあとのことを考えたうえでの都合のためだ。


 どちらにしても俺の都合で振り回されている東部の人々には悪い気もするが、黒死病で死ぬ運命だった命を救ったのだから多少のことは大目に見てもらおう。こちらとしても悪いようにする気はないのだから。


 そんな理由もあって、俺はこの襲撃を今夜中に終わらせたい。そのためには後処理もろもろを考えると、余計な時間を使うわけにはいかないというわけなのだ。


「鬼が出るか蛇が出るか。天使が出てくるんでしょうけどそろそろ飽きてきましたからねー。少しアクセントを加えた何かを所望します」


「アクセントが強すぎて大味になるのは勘弁だぞ、俺は」


 そんな軽口をたたきながらも、合間合間に飛び出してくる天使を葬りながら城をどんどんと進んでいく。そしてどれだけ続くのかと思った城の探索も、どうやらひとつの区切りに到達したらしい。


「これはまた、いかにもな扉ですね」


「装飾の豪華さに扉の大きさ。城の高層部分ということも考えると、ここが玉座の間と考えるのが妥当だろうな」


「何がいると思います?」


「権天使と国王のセットが希望だ。ドリンクがオレンジジュースを氷無しで」


「なら私はポテトとナゲットでもつけましょうかねー。夜も深くなるとお腹が減るんですよ」


 俺とカナデのそんな軽口と同時、俺の横を舞っていた槍の一本が目の前の豪華絢爛な扉に向かい飛翔し、一気に貫き破壊する。


「お邪魔しまーす!」


「そばの出前ですよっと。代金はあんたの命ってことにしとこうか?」


 破壊された扉の向こうに続く赤いじゅうたん。そしてその先の階段の上にある玉座に座る一人の男の影。こんな夜更けに帝冠をかぶり、煌びやかなマントをつけ、手にはこれまた意匠をこらした剣を携えているその姿は、この国の皇帝以外に誰がいようか。


「あんたが皇帝でいいのか?」


「いかにも。余がこのキュリオス帝国皇帝、パトリオット・キュリオスである。野蛮なる賊がこの栄誉ある帝城に何の用か!!」


「とぼけんなよ。あんたがロータスの街に天使の軍勢を送ったんだろ?神の裁きたる呪い、いや、病気を治療したから」


 玉座の間は夜だというのに明るかった。まるでここに誰かが来ることが分かっていたかのように、玉座に伸びる絨毯の横にある灯篭には火が灯り、玉座にもまたそれよりもさらに明るい光が灯っていた。


「お前は自分が何をしたかわかっているのか?」


 皇帝がそう問う。


 どうやら玉座の左右にある灯は魔法を使った灯のようで、元の世界で言う白熱灯のような光を放っていた。


 そこに映し出される皇帝の表情は、まさに厳格そのものと言っていいだろう。


「ロータスの住民、ひいては帝国東部の人たちの命を救った。国のトップたるあんたにはむしろ感謝して欲しいくらいの功績だよな?」


「お前がなしたことのせいで国一国が滅ぶかもしれん。そうすれば救った人達よりもはるかに多くの人が犠牲になる。それを考えはしなかったのか?」


「それをなんとか止めるのがトップたるあんたの仕事だ。可能性の話をする前にそれを回避する方法を考えろ。それすら放棄するならあんたはもはやその座に収まるべきじぇねぇよ。とっとと引退しな」


 すでに俺達は今目の前の皇帝が主従関係はともかくとして天使と組んでいることを予想している。だとすれば皇帝が東部の生き残りを掃討しようとする可能性もかんがえているからこそ、これだけあたりの強い発言をした。


 加えて今の話から察するに、おそらくそうしなければ東部地方どころか、西部含めた帝国自体が危ういのだろう。おそらくは天使たちの力によって。


「力がないっていうのはむなしいな」


 その言葉は俺の本心から出た言葉だった。


 かつて力がなかったせいで木山に目を付けられ、そのまま底辺での理不尽な生活を送るしかなかった。もしあの時の俺にそれを跳ねのけるだけの力があったとするなら、俺の人生はあんなに灰色に染まらなかったかもしれない。


 もちろん力を振りかざし、他人に正当性のない攻撃を加える奴が悪いのは当然だが、相手がそれを理解できない馬鹿であるのなら自らの力でそれを打開するしか道はない。


 それを知っているからこそ出た憐みの言葉。


「貴様……、言うに事欠いて余が哀れだと申すか!!」


 しかしその言葉は皇帝の自尊心を傷つけるには相当なものだったらしい。剣を一気に抜き放つと、怒りの形相で俺達に切りかかって来たのだ。


 速い。


 剣を抜き放ち切りかかるその姿勢に一切の乱れはなく、踏み込んだ足が地面をける効率もなかなかだ。おそらくスキルを使用しているのか、それなりにあったはずの俺と皇帝の距離は一気に詰められ、上段から振り下ろした剣は瞬きする間もなく俺の体に襲い掛かった。


「なっ!?」


 しかしその次の俺の行動に皇帝は目を剥くことになった。


 振り下ろされた剣は、俺の指、しかも人差し指一本でぴたりとその動きを止めていた。皇帝がいくら力を込めようがそこから一寸たりとも前に進まない剣。皇帝の額に玉のような汗がにじむのが見える。


「あんたは強いよ。きっと血のにじむような努力をしてその強さを手に入れたんだろ。だがそれは、あくまで人間としてだけどな」


 指を軽く押し返す。ほんの少しの力を込めただけ。しかしそれは皇帝にとっては人外の暴力となってなんとかして押し込もうとしていた剣を逆に押し返され、しかも自身の体ごと数mの距離を吹き飛ばされる結果となった。


“検索結果:対象のステータス

  名前:パトリオット・キュリオス

  種族:人族

  レベル:43

  適職:皇帝

  適正魔法:風魔法 無属性魔法

  スキル:皇帝特権 筋力強化 剣技の極み 自己犠牲

  ステータス 攻撃:721

        防御:634

        素早さ:759

        魔法攻撃:667

       魔法防御:546

        魔力:612”


 人としては最高峰のステータスを持つであろう皇帝だが、そんなもは例外の前には無意味。


 吹き飛ばされ全身をしたたかに打ち付けた皇帝は、それでもなんとか立ち上がるがすでに体は満身創痍。さらに帝国選りすぐりの鍛冶師により手に入る限り最高の材料で作らせた剣は、刀身の真ん中からぽっきり折れてしまっている。


「一度だけ聞く。なぜあの兵士を殺した?権天使はどこにいる?」


 答えなければ死、あるのみ。それを言外に含ませた俺の言葉に対する皇帝の返答は予想外の物だったと言えるだろう。


「それがキュリオス帝国皇帝の責務だからだよ」


 言葉と共に光り始める皇帝の体。その表情は全てを諦め、しかしそれでいて何かから解放されたような安心感を見せるような、そんな不可解な表情だった。


 嫌な予感がする。


 その間わずかコンマ数秒の世界。俺はそこで未来視を発動させ、皇帝が一体何をしようとしているのかをすぐさま看破した。


「この大馬鹿野郎が!!」


 次いで発動させた過去視により、皇帝がそれを発動させる前に強引に割り込み干渉をする。その直後、それまで光に包まれていた皇帝の体が真横へと大きく吹き飛び、壁に激突し不自然に何度かバウンドをした。


「やりすぎじゃないですか?」


「この野郎。自分の責務から逃げて自爆しようとしやがったんだ。これでもまだ甘い方だ」


 過去に割り込んだ俺は、皇帝の横っ面を手加減したとはいえそれなりの力でぶん殴ったのだ。そのせいで最後に発動しようとしていたスキルを中断させられ、俺達の目の前に無様に倒れ伏すという事態となっている。


「とっとと起こして詳しい話を聞くぞ」


 皇帝のとろうとした手段に苛立ちを感じながら、意識を失っている皇帝をたたき起こすために歩み寄るのだった。


夜中に起きてるとふとポテトとかのファストフードが食べたくなる時ってありません?私はあります!!

それとドリンクはオレンジジュースが好きです!!ころりはいりませんのであしからず。


いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。

もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。


また、下に現在連載中の他の作品のリンクを貼ってありますので、もしお時間ありましたらそちらもよろしくお願いします。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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