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7 パクリだろ?

 カウンセラー乙丑いっちゅうは咳払いをしてから、代案とやらを語り始める。

 


「タンブラーが駄目なら、”テーブルナプキン”。最後に持ってきた予備のナプキンに、毒を染み込ませて、そのことを知らない被害者が、ナプキンで口を拭いた時、青酸カリを取り込んでしまった……と、見ていいでしょう」


「それは無い。被害者は花見の時はテーブルナプキンを使わなかった。なにより致死量の青酸カリだ。口に着けたくらいなら絶命しない」


「でしたら、染み込ませた青酸カリを部屋へ持ち運び、ナプキンを絞ってタンブラーの中へ入れれば、お酒に混入できます」


「それは不可能だ。仲居は”素手”でテーブルナプキンを運んでいたんだ。激薬が染み込んだ布を素手で持つなんて、馬鹿だろ? それにナプキンは"撥水性"のある生地だ。液体はなかなか染み込まない」


「あらやだー。いい線いってると思ったんですけどぉ……なら、他の可能性ですね」


「さり気なくスルーしてるが、周囲に人がいる空間で、ナプキンを絞ってタンブラーに異物を入れるなんて。すぐにバレるだろ?」


「…………ですね」


 カウンセラー乙丑は人差し指を顎に当て、目を明後日の方向へ向けて考えこむ。

 私見だが、初老の男が見せるその姿は、非常にキモチ悪く不快極まりなかった。

 カウンセラー乙丑は何かを思いつき、こちらへ語りかける。


「お酒の割り方かもしれません。"ウィスキーフロート"なんてどうでしょう?」


「ウィスキーフロート? 同じグラスに水と酒を注いで、混ぜずに"ウィスキーを浮かせたまま"飲む、アレのこと?」


「えぇ。持ち込んだ青酸カリを、お水の入ったピッチャーに混ぜておきタンブラーへ注ぎます。その上に無害なお酒が浮くように注ぎます。その際、被害者のタンブラーだけマドラーで、お酒と毒のお水をかき混ぜます」


「被害者以外の三人は、ウィスキーフロートで、無害なウィスキー部分のみを飲むわけか……」


 カウンセラー乙丑の渾身の見立ては――――。


「つまり、犯人は"マネージャー"」


「そうか……その線も無い」


「あらやだぁ」


「端的に言うと、水が注がれた四つのタンブラーを鑑識係が検査したが、毒の痕跡が見つかったのは主人である夫のタンブラーのみだ。他、三つのタンブラーから青酸カリは出なかった。マネージャーが犯人とは断定しづらい」


 丙馬ひのえま刑事は肩をすくめて続けた。


「そもそも、小瓶から出された毒をどうやって持ち込む? 持ち込んで水へ混入しても、酒と水が混ざらずにウィスキーフロートを飲むのは難しいだろ? タンブラーを傾けた時に、どうしても混ざる」


「そうでしたか……残念ですねぇ。となると……」


 カウンセラー乙丑は、再びキモチの悪い不快な顎当てポーズを見せた後、ひらめきを口に出す。


「―――――――”氷”。青酸カリはかなり前に、小瓶から何かの容器に移されて冷蔵され、凍った青酸カリをアイスペールに入れて置くのです。その氷は全てのタンブラーへ入れられます」


「全て? そんなことしたら、四人全員が毒物で……いやまてよ」


 丙馬刑事にある、ひらめきが浮かぶ。


「”毒の氷が溶ける前”に酒を飲み干せば、先に飲み干した人間は、体内に毒を摂取せずに済む」


「はい。それを踏まえると、犯人は氷を持ち込んだ”マネージャー”。それか、毒物の摂取を回避した”妻”。いえ……もしかしたら妻とマネージャーは通謀していてたかもしれません。今回のお事件は”共犯”の可能性が……」


「待て待て? ミステリーの見過ぎだ。先生の妄想が肥大している。順を追って説明すると、氷が溶ける前に酒を飲み干したのは被害者である”主人”だ。他の三人が半分ほど飲む頃には、主人は二杯目を飲もうとしていた」


 カウンセラーは少女のような、つぶらな瞳を見開かせ動揺する。


「なな、なんですってぇ! 氷が毒ならば、むしろ主人以外の三人が絶命していないと、理屈が合いませんね」


「それと、不純物の混じった氷を凍らせたら、”白い濁り”ができる。旅館で使っている氷は”透明度の高い氷”だ。すぐ異変に気づくだろ?」


「おっしゃるとおりです」 


「それに乙先生が言う毒の氷は…………FBIの入局試験に出てくる問題じゃないか?」


「あらやだ。バレました? さすが警察の方ですね。では今のお話は無かったことにして、お次は……」

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