校内で最大の権力を持った生徒会長の私が頭を打って早退した翌日、登校したら権力を握っていたのは生物委員会だった話
「お母さん、お父さん、行ってきます。」
「なあ、本当に大丈夫なんだな?」
「具合は悪くないのよね?」
「大丈夫ですよ。それでは。」
おろおろと私の事を心配する両親にかまっていたら、遅刻してしまう……申し訳ないが、話を早々に終わらせて家を出た。
私は絶対に遅刻してはならない立場の人間……そう、生徒会長なのだ。
如月 和美、高校一年生。
彼女は一年生にも関わらず教員からの強い勧めにより、夏休み明け……一カ月前から私立羽場海学園高等部の生徒会長となった。
小中高一貫の羽場海学園では、初等部・中等部での成績優秀者が高等部の一年目から生徒会役員や風紀委員に抜擢される事が少なくない。
それでも、いきなり生徒会長に推薦される事はかなり稀なケース。
理事長の方針が『生徒の自立を促す教育』なもので、基本、自由な学校だ。
ただ、その『自由』の範囲を決めるのは高等部生徒会であり、範囲を超えた者を管理するのが高等部風紀委員会。
そう……この学校は、高等部の生徒会と風紀委員会が実質的権力を握っているのだ。
しかし、その座を狙う者も多く、委員会同士の仲はかなり悪い。
いつの日か、自分の所属する委員会が学園の権力を握る……そんな夢を実現させる為に、犯罪に走る生徒すらいる程。
そして、如月 和美も被害者になってしまい……。
「な、何よ……コレは何なのよ!!」
私が校門前に着くと、そこは昨日……早退した時とは全く違う世界になっていた。
毎日生徒が拭き、いつでも綺麗な鉄格子の門は。
「なんで柄が……しかも、なんで兎に!?」
なんと、真っ直ぐだったはずの格子が、まるまるとした兎型に変わっていて、人参や草花まであしらわれている。
ボトッ……とスクールバックを地面に落とし、ただただ立ち尽くしていると。
「かっ、会長ぉぉおおおっ!!」
門からかなり離れている校舎から、同じ生徒会の副会長羽場海 秋菜と会計草木 花果、書記光島 光喜が全速力で走ってくる。
私も皆の元へ駆け寄ろうとしたが、校内に入った瞬間……羽場海学園名物桜並木の一際大きな桜から、目の前に一人の生徒が落ちてきた。
「きゃぅっ!?」
「やあ、変な悲鳴の会長様! いつも通り美人だね!」
ウインクをしながら言われても、そんな事どうでも良い位気になる事がある。
「……尻、大丈夫?」
この生徒……金髪の男子生徒は、一番低い枝からとはいえ思いっきり尻から落ちていて……正直、とっても痛そう。
私に対しての失礼な言動よりも、遥かに気になって仕方がない。
「おや、心配してくれるとは。敵に情けをかけるタイプだとは思ってなかったよ。」
金髪の男子生徒……略して金髪は、意味の分からない事を言い始めた。
勿論、立ち上がって制服に着いた土を掃いながら。
「敵? どういう事?」
「俺の事を知らないのかい? 悲しいなぁ~、そうかぁ~。」
なんなのよこいつ。
いちいちオーバーリアクションなのがムカつくわ。
見た事が無い訳じゃないと思うのだけど……どうしても、記憶から抹殺したい位憎たらしい顔だから、思い出せない……うーん。
「生徒会長! その糞野郎から離れてっ!!」
「秋菜? 流石に本人の前で糞野郎はやめましょう。そういうのは、心の中に収めていた方が嘲笑ってスッキリする事があるのよ。」
「流石会長! その通りですね!!」
「副会長、今は糞野郎の事です。一旦会長の素晴らしいお言葉は置いといて、糞野郎の事を説明しなければ。」
「草木、糞野郎をそこまで連呼されると、もはや清々しいわ。光島はどう思う?」
「最高であります!!」
「……って、ちょっとちょっと! 俺の事を忘れないで!!」
おっと、すっかり金髪の存在を忘れていたわ。
私とした事が情けない。
だけど、皆が糞野郎を連呼してくれたおかげで、私の脳内データベースに入っている全校生徒名簿から金髪の名前を導き出せた。
「金髪、あなた……高等部生物委員会委員長の二年生、花道 薫先輩ね。」
「おおっ、思い出してくれた! 何々、女みたいな名前だから憶えてた?」
「いいえ、夏休み中に名簿を見て全校生徒の写真と名前は憶えていたのだけれど、花道先輩は一番新しい写真が黒髪だったから思い出せなかったの。先輩に失礼な事を言って悪かった、生徒会長として権力があるとはいえ相応しくない言動だったわ。」
いくら力があっても、年上の方に失礼な態度をとった事はかなり反省している。
だけど、髪を染めるのは校則違反。
今にも風紀委員会が来て、取り締まるはず……。
「あ、風紀委員は来ないよ。」
「へ?」
「だって、頭髪に関する校則を無くしたから。」
何を言っているの、この男。
全く理解できないわ。
「会長……もう、私達に権力は無くなってしまったんです……!」
「秋菜、何を言っているの?」
「……この糞野郎、バナナの皮で滑って転んで頭を打って気を失っている会長の指から指紋採取して、校則を変えてしまったんです……。」
なっ……。
「卑怯よ! 糞野郎じゃなくて卑怯野郎だわ!!」
「あんっ、俺にご褒美をくれるなんて、生徒会長のいぢわる♡」
「やめろ。」
「すみません。って、後輩に謝る俺の気の弱さがヤバイな。」
正直、もう先輩後輩はどうでもいい。
まさか、バナナの皮で滑って転ぶ……そんな古いネタを実際にやってしまった自分が恥ずかしくてたまらない!
「ま、会長の指紋がある限り、この学校の権力は俺達生物委員会が握っているも同然なワケ☆」
「くっ……。」
例え、この状況が絶望的だとしても。
「私は絶対、権力を取り返してやる!!」
「いやぁ~、怒る顔も可愛いね! 俺の恋人になったら、権力は渡すかもしれないなぁ~。」
決して、そんな手に乗るか。
生徒会メンバーはそう決意した。
8年後、秋菜・花果・光喜の元には『新郎 花道薫 新婦 花道和美』から始まる白い葉書が届いたらしい。