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ようこそ! 魔破街へ  作者: saika
7/15

寮生達

「寮のことについて、聞きたいことが…」


奥の寝室に顔を出した時、オレは自分自身が固まる音を聞いた。


その音は言葉にすると、こう。


ビシッ!


…例えるならば、雷を直撃したような、自分自身にヒビが入ったような音だった。


「寮のことについて、分からないことって?」


タカオミは先程と変わらず、爽やかなイケメンスマイルを浮かべる。


けれどオレの表情は張り付いているだろう。


理由はベッドにいる二人のことだった。


一人はタカオミで、もう一人は見たことのない青年。


問題は…二人が裸で寝ていることだ。


それはつまり…。


「ぎっ…」


「ぎっ?」


「ぎやーーーっ!」


生まれてはじめての絶叫だった。


オレはそのまま部屋から飛び出し、寮からも出た。


「うわーーーっ!」


絶叫を上げながら、とにかく街の中を全力疾走。


「ぜぇぜぇ…」


そして辿り着いたのは、魔破街の入り口だった。


鉄の扉に両手をつき、激しく息切れをしながら考えをまとめようとした。


しかしいくら考えても、男子高校生として辿り着きたくない答えに、どうしても行きついてしまう。


「って言うか、タカオミのヤツ。あの状況でよくオレを招き入れたな」


ぞわわっと立つ鳥肌を、手でさする。


…正直言えば、ちょっと受け入れがたい。


けれどそういう人がいることは、知っているし理解もできる。


人を愛せないことの方が、問題だとオレは思っていた。


だから別に同性愛者でも、偏見は全くなかったんだが…流石にああいう場面は見たくなかった。


しかし考えてみれば、タカオミにとって何でもないことなのかもしれない。


…実際、タカオミと一緒にベッド寝ていた青年も、平然とオレを見てたしな。


「やっぱりオレ…馴染めないかも」


ああいう場面を多く見ても、決して慣れることはないだろう。


「はあ~」


重いため息をつきながら、何とか立ち上がる。


すでに空は暗くなり始めているし、そろそろ夕飯時だろう。


走ったせいかお腹も減ってきたし、帰ろうか。


しかし…タカオミにはどう対応すればいい?


しかも同じベッドにいた相手とも、食堂で顔を合わせるかもしれない。


想像すると、頭から足まで一気に血の気が下がった。


「ううっ…! でも腹は減ったしな」


街からは良い匂いがしている。


それに流石に引っ越し初日に、顔見せしないのは寮生としてはマズイだろう。


仕方なく歩き出すと、こちらに向かってくる女の子に気付いた。


「サマナー!」


「あれ? サラ」


私服に着替えたサラが、こちらに走ってきた。


「良かった、見つかって」


息を切らせながら、サラはオレの前で立ち止まった。


「あっ、もしかして探してくれてた?」


「ええ。いきなり絶叫しながら寮を飛び出すサマナを見かけてね。何事かとイザヨイに確認してもらったら…あのバカオミ!」


サラは忌々しげにタカオミのことを、別名で言い放った。


「ビックリしたでしょう? アイツ、自分の好みだったら老若男女関わらず、部屋に引っ張り込むのよね。サマナは大丈夫だった?」


「アハハ…。まあオレは彼の好みじゃなかったみたいだから」


オレは引きつった笑みを浮かべる。


「ったく…。アイツがサマナの隣の部屋に来ると知っていれば、先に忠告できたんだけど。ゴメンね?」


サラは申し訳なさそうに頭を下げた。


「いっいやいや! サラのせいじゃないだろう? でもタカオミって前からあの部屋じゃなかったんだ」


「ええ、転校生は珍しいからね。おもしろがって、隣の部屋に越したみたい。前はサマナの向かいの角部屋にいたの。部屋は余っているから、空室であればどこでも移動可能だし」


…なるほど。本当に自由にさせてくれる街だ。


「サマナ、もしかしたら帰っちゃうのかもしれないって思って、ここに来たの」


「えっ? ああ、ここに来たのは偶然だよ。走っている時は無我夢中だったし」


正直、自分でどこをどう走ってきたか何て覚えていない。


「良かった…。サマナが帰っちゃったら、寂しかったし」


そう言って弱々しくサラは微笑む。


「―帰らない。オレはここで生きていくことを決めたから」


強い意志を込めて、オレは言った。


それは正直な気持ち。


どうせここから出ても、行くとこも住む所もない。


ましてや待ってくれている人も…いない。


なら強制的にとは言え、ここに住むのも構わないと思う。


まともじゃない分、退屈はしなさそうだ。


「あっありがとう、サマナ」


サラの眼が少し赤かった。


もしかしなくても、心配をかけてしまったか。


オレがこの街を去ってしまうかもしれないことと、…もしかしたら住人に何かされたかもしれないことを。


「あっ、でも寮には戻り辛いでしょう?」


「うっ…。まっまあね」


「良かったら女子寮で時間潰さない?」


「へっ? 女子寮で?」


それは流石に…と思っていると、サラはクスクス笑った。


「ロビーまでなら大丈夫なの。女子寮に顔見せするってことで、ね?」


「でも男子寮の寮生にもまだなのに、女子寮を先にしたらからかわれそう」


「あら、大丈夫よ。あたしが強引に誘ったと言えば、誰も何も言わないわ」


得意げに胸を張るサラの姿を見て、昼間のイザヨイとタカオミの表情を思い出した。


どうやらサラに逆らえる人物はあまりいないみたいだ。


「それにこう言っちゃなんだけど、女子寮の寮生の方がまともなコは多いわよ。男子寮って別名・魔窟って言われているし」


「魔窟っ!?」


言葉はアレだが、…何となーく意味が理解できてしまうのが悲しい。


「そっ。この街でも特に変わったコが集まっているの。だからサマナも気を付けてね?」


「わっ分かった…」


とりあえずこの街を知る以前に、自分の身を守る方法を知る方が先かもしれない。


「あっ、何だったら女子寮に来る? こっちも空き部屋あるし、サマナだったら大歓迎されるわよ?」


「サラ~。それは流石に男子高校生としてカンベン」


「ふふっ、残念。それじゃあ夕飯だけでもね?」


「まっ、女子寮の管理人さんがOKしてくれるなら」


「サマナだったら大丈夫! 安全な人だから」


そういう認識のされ方はちょっとと思うけど、サラがあんまり楽しそうに言うから、何も言えなくなってしまう。


その後、サラと手を繋ぎながら女子寮の前まで来た。


「とりあえずロビーまでは男女どっちの寮でも行き来できるわ。エレベータや階段には監視カメラがあって、流石に止められるけどね」


「そっか。だからサラはオレが逃げた理由を、イザヨイさんに調べさせたんだ」


「ええ。よりにもよってカミヤがいたなんてね。アイツ、見られてもふてぶてしかったでしょ?」


…確かに冷静だったけれど、何故それをサラが知っている?


表情で問うと、サラは肩を竦めた。


「タカオミとカミヤって、そういう仲なの。いわゆるセフレってヤツ? それでいて場所を気にしないタイプだから、厄介なのよね」


「…っ!」


一瞬気を失いかけたが、何とか精神力で立ち直る。


「そっそう…」


「あたしも何回かバッタリになっちゃって。いっくら怒っても懲りないというか、直らないというか」


やっぱりサラって強いな。


…オレなんて絶叫を上げながら逃げたのに。


サラに引っ張られながら、ロビーに入る。


すると一人の美女が、こちらに気付いてやってきた。


グラマラスな体つきに、長い髪をアップにまとめ、メガネをかけている。


美女はオレとサラを見て、眼を細めた。


「お帰り、サラ。そのコはサマナか?」


「ええ。シュリ、今夜の食事、彼も一緒で良い?」


シュリというのか、この女性は。


女性に見つめられたので、オレは頭を下げた。


「はじめまして、サマナと言います。これからお世話になります」


「ほお。久しぶりにまともな礼儀を知っているヤツに会ったな」


…何だかデジャブを感じるぞ、この反応。


「さっきの絶叫は凄かったな。お前、足早いな」


ニヤニヤと笑いながら言うのだから、オレが逃げた理由を知っているんだろう。


「…咄嗟のことだったので」


「免疫がないのか。清々しいほどに純粋だな」


「…いえ、表の世界ではオレみたいなのがまっとうです」


「だろうな」


「タカオミみたいなヤツが異常なのよ!」


サラはどうやらタカオミを苦手としているみたいだ。


「まっ、アレでもカリスマ性が強いからな。個性の強い寮生達をまとめられるのは、あやつしかいないのは知っているだろう?」


「知ってはいても、理解はしたくないわ」


サラから物騒なオーラが立ち上る。


「と言うことで、サマナは女子寮で食事させても良いわね?」


「まっ、構わんだろう。サマナも男だらけのとこより、女だらけの方が食事も美味かろう?」


「ははっ、そうですね」


…さすがにタカオミやカミヤの顔を見ながらの食事は、味が感じられないだろうな。


「ああ、紹介が遅れたな。私はシュリ。女子寮の管理人を務めている。以後よろしくな」


「はい」


「イザヨイとは挨拶を済ませたか?」


「ええ、寮に入った時にすぐ。…寮長のタカオミともその時に」


後半の声が、どうしても沈んでしまう。


まだあの時は普通に友達になれそうで、喜んでいた自分が今は悲しい。


「イザヨイと私はイトコでな。まあアイツもアイツで問題のあるヤツだから、何かあれば私の所へ来るといい」


…とても頼りがいのある言葉のはずだが、その笑みからは邪悪な雰囲気が出ている。


さすがイザヨイの血縁者だな。


妙なところで感心していると、サラが眼をつり上げ、オレの前に庇うように立った。


「ちょっとシュリ! サマナに変なことしないでよ!」


「少なくともイザヨイやタカオミほどじゃないぞ、私は」


どれだけ男子寮って魔窟なんだっ!


オレは思わず頭を抱えた。


「まっ、男の方が精神的には成長が遅いと言われているからな。女の方がまともとは言えないが、理解力はある。そう思っておけ、サマナ」


「…了解しました」


どちらにしろ男女共々まともではないと、オレは理解した。



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