寮の部屋
寮の部屋の構造はこんな感じだ。
扉を開けて右手に靴入れ。
左手の白い扉を開けると洗面所があり、その奥の扉の向こうはシャワー付きのお風呂。
白い扉の隣の茶色の扉はトイレ。
二つの扉の前を通ると、部屋となる。
部屋の真ん中にはシングルベッド。
壁際には机があり、小さな冷蔵庫も備え付けられていた。
大きな窓が二つあり、すでに青色のカーテンがあった。
窓の外は学院前の通りになっていて、街並みが見渡せた。
一見は本当に普通の街なのにな…。
「ふう…」
何度目かになるため息を吐きながら、視線を部屋に戻す。
部屋にはテレビもエアコンもあり、パソコンやプリンターまである。
クローゼットもあって、ホテルそのものと言っても過言じゃない。
電話もあり、その近くには番号表があった。
番号表には管理人部屋に通じるものから、先生達や生徒達のもある。
「…ケータイ、取り上げられたしな」
ここに来る前のことだった。
転校先では携帯電話は禁止されていると親父が言うものだから、渡してしまった。
まあ妨害電波とか流れて、外部とは通信不可能の可能性が高いから、持っていてもあんまり意味はなかったかもしれない。
だけど腹は立つ。
「あんのバカ親父っ!」
犯罪遺伝子を研究していると、ムメイは言っていた。
…何の為に?
自分の身を政府から守る為に、か?
それともオレの中で目覚めるのを防ぐ為か?
「…分からない」
分からないことが多過ぎる。
疑問が多過ぎて、頭が痛くなってくる。
「あ~、かなり参ってんな。オレ」
フラフラしながら、持ってきたカバンからお茶のペットボトルを取り出し、飲んだ。
「温い…」
けれど体に染み込み、何故か甘く感じられた。
親父に対しての怒りはあった。
けれど一番の問題は、オレ自身のことだ。
オレが…考えたくもないが、犯罪者として目覚めることは、今後あるのだろうか?
それが一番の心配で不安だった。
ムメイに見せられた書類が、全ての真実とは限らない。
隠されたり、誤魔化されたりされている部分はあるだろう。
しかし自分自身で、それを探る術はない。
「…いや。今のところは、か?」
この街には犯罪者としての優秀者がいくらでもいる。
彼等と親しくなれば、もしかしたら分かるかもしれないけれど…。
「分かったところで、どーにもなるもんでもないかも」
知ったところで、ここから出られるワケがない。
それに将来のことにも不安がある。
ここで学校を卒業するまでは良いだろう。
しかしその後、就職とかはどうなる?
今まで普通の人間として生き、特に秀でたところのないオレが、この街で働く所なんてあるんだろうか?
「…せめて何か特技を持っていればなぁ」
ムメイに見せられた書類には、先祖が鍛冶師だったり医者だったりと、専門職だったことが書かれていた。
…だからと言って、今のオレには何にも関係ないところが悲しいと言うか、嬉しいと言うか。
非常に微妙な気持ちになる。
「…ダメだ。考えがループしてる」
一人で悶々と考えていると、落ち込みそうだ。
オレは立ち上がり、荷物の整理をはじめた。
とにかくここで生きていくことを決めたのだから、生活する環境は作らなきゃいけない。
とは言え、荷物は少なかったので、一時間も経たないうちに終了。
下手に生活能力が高いと、変なところで損をするな。
壁にかけてある時計を見ると、そろそろ夕方だった。
窓の外もオレンジ色が広がっている。
「夕飯には早いだろうけど、タカオミとちょっと話してこようかな?」
寮のこととか、聞きたいことはいろいろある。
オレはカードを持って、部屋を出た。
そして隣の部屋に移動する。
プレートには『TAKAOMI』とあるし、間違いはないことを確かめて、扉をノックした。
「タカオミ、いる? サマナだけど、ちょっと話良いかな?」
「サマナ? いいよ」
返事が返ってきたので、オレは扉を押してみた。