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ようこそ! 魔破街へ  作者: saika
11/15

女子寮・再び

…とは言え、女子寮に堂々と入るには勇気がいる。


オレは箱を持ったまま、女子寮の前を行ったり来たりしていた。


「サラ、出て来ないかな」


シュリでも良いのだが、そもそも人気が無い。


「明日にしよっかな」


あんまり女子寮の前をウロウロするのも、気持ち的に辛い。


いくら非常識な街とは言え、怪しいものは怪しいし。


「…帰ろう」


引き返そうとした時、目の前に二人組の女の子が来た。


「あっ、転校生のカルマくんだ」


「あら、本当。どうしたの?」


オレを知っている?


…と言うより、高等部のセーラー服を着ているし、二人の顔には見覚えがあった。


一人は天然パーマの茶髪の女の子、もう一人は黒い髪に三つ編みをしている女の子。


「えっと…サラに会いに来たんだ。悪いけど、呼んでもらえないかな?」


「サラ? 彼女、今日は実家に用事があるとかで、外出しているわよ」


天然パーマの女の子が、顎に指を当て、可愛らしく首を傾げる。


…可愛いな。


ふわふわした髪に、女の子特有の色白の肌。


外国のお人形みたいだ。


「サラに用事なら、伝えましょうか?」


三つ編みの女の子は眼鏡をかけていて、ちょっと昔の雰囲気を感じてしまう。


だけど凛とした空気が、彼女の美しさを際立たせる。


二人ともタイプは正反対なのに、何だかお似合いってカンジだ。


「えっと、カミヤからクッキーを貰ったから、一緒に食べようかと思ったんだ。いないなら、いいよ。ありがとう」


「えっ? カミヤのクッキー? ヤダ、食べたぁい!」


「へ?」


天然パーマの女の子が、オレの持っている箱を見て、瞳をキラキラさせた。


「カミヤの家って、料理人が多いの。特にカミヤ自身もパティシエとして優秀だから」


三つ編みの女の子が淡々と説明してくれた。


「えっ? じゃあコレってもしかしてカミヤの手作り?」


「だと思うわ。その包み紙、彼が自分の手作りのお菓子を包む時に使用するから」


「そうだったんだ」


「でもあなた、カミヤに気に入られたのね」


三つ編みの女の子はオレを見ながら、意味深げに微笑む。


「あのコ、基本的にはタカオミ中心に生きているから。手作りのお菓子をタカオミ以外の人間にあげるなんて、はじめて見たわ」


「あ~、そう、なんだ」


思わず遠い眼をしてしまう。


…彼が手作りのお菓子を作ってくれたのは、タカオミの命令だっただろう。


そしてその理由を思い出し、再び全身に鳥肌が立ってしまう。


「いいなぁ~。カミヤの手作りクッキー」


相変わらず天然パーマのコは、熱い眼差しを向けてくる。


「…キミ達はそれでも食べたことあるんだ」


「うん! オミくんがお裾分けしてくれたの!」


タカオミの名前を略し、ニコニコと満面の笑みを浮かべる。


これは流石に無視はできないな。


「…良かったら、どう?」


「えっ? 良いの? やったー!」


「悪いわね。じゃあロビーに行きましょう。お礼に紅茶を淹れるわ」


「あはは…」


オレは苦笑いを浮かべながら、女子寮に入った。


ロビーにはソファーとテーブルのセットがいくつか置かれてあった。


壁際の席に座ると、三つ編みの女の子は紅茶の用意をするからと言って、食堂へ行った。


「あっ、自己紹介がまだだったわね。アタシはミツキ。黒髪のコはムツキ」


「よろしく」


オレは包み紙を剥がし、箱を開けた。


「うわぁ♪ 美味しそう~!」


「ミツキ、ヨダレヨダレ!」


「あら、いけない」


ハンカチで口元を抑えながら、ミツキはそれでも箱の中身を見ている。


箱にはさまざまな種類のクッキーが、所狭しと入っていた。


甘い匂いがロビーに広がる。


「でもスゴイわね、サマナくん。カミヤがこんなに作るなんて、珍しいことよ」


「あっ、うん。そうなんだ」


理由は言えない。…特に女の子相手には。


「まあ転校生は珍しいからね」


銀のトレーに紅茶のセットを載せて、ムツキが戻ってきた。


そして慣れた手付きで紅茶を淹れてくれる。


「ムツキの淹れてくれるお茶は美味しいのよ!」


「そうなんだ。頂きます」


オレは温かい紅茶を一口飲んで、びっくりした。


紅茶の良い匂いが体に満ち、ほんのり甘い味が口の中に残った。


「ホントに美味しい」


「ありがとう。バイト先が紅茶喫茶店だから、慣れているのよ」


「バイト? この街では金銭的な束縛がないのに、バイトしているんだ」


オレの問いに二人は顔を見合わせ、苦笑した。


「まあ確かに金銭的な束縛はないんだけどね」


「それでも社会性は身に付けておくにこしたことはないわ。今もバイト帰りだったし」


「そうなんだ。じゃあミツキも同じバイトを?」


「うん! でもアタシは接客中心。何かを作るのは苦手なの」


そう言ってクッキーに手を伸ばし、一口頬張る。


「ん~、やっぱりカミヤのお菓子って最高!」


花が開いたような明るく可憐な笑みを浮かべる。


この二人がいる喫茶店になら、行ってみたいな。


そう思いながら、オレもクッキーを一口。


バタークッキーは口の中に入れるとすぐに溶けてしまう。


けれどバターの良い匂いと、歯触りが何とも言えない!


「んっ、カミヤのお菓子って本当に美味い。タカオミはいつも食べているのかな?」


「まああの二人はそういう関係だしね」


「ぶっ!」


ムツキがあっさりと言った言葉に、思わずふき出した。


「昨日、サマナが悲鳴上げながら走って行ったのも、そのせいでしょう?」


「…サラに聞いた? ムツキ」


「と言うより、寮生の間ではすっかり噂になっているわよ。あんな反応したの、あなただけだもの」


…それはつまり、今までの発見者は…とまで考えて、思考を中断。


そんなカオスな想像、したくもなかった。


「まあ幽霊でも見ちゃったと思って、忘れた方が良いわよぉ」


上機嫌に両手でクッキーを持ちながら、ミツキが言った。


幽霊…確かにそのぐらい、タチは悪かった。


「タカオミが洋食好きなのは聞いた? それでカミヤの料理の腕前は、そっちに上がっていったの。タカオミの口にするモノは、ほとんどカミヤが作っているし」


「…そうなんだ」


こういう情報は知ってもあんまり嬉しくないな。


でも今朝のことを考えると、タカオミは彼なりに気を使ってくれたんだろう。


常識は無いようだが、人を思いやる気持ちはあるみたいでほっとする。


「まあオミくんはまーだ人間らしい考えの持ち主よねぇ」


「他の奴らは外見だけは人間で、中身は化け物っていうパターンがあるから、気を付けてね。サマナ」


…爆弾をボッカンボッカン投げ付けないでほしいんだが。


「それって、コクヤ以上?」


オレの問い掛けに、二人は顔を見合わせた。


「ん~。危険度で言うなら、コクヤくんが上かな?」


「そっちは濃いけど、あっちはくどいって感じかしら?」


そっちはコクヤで、あっちは中身が化け物タイプのことだな。


「でもサラに気に入られているのなら、大丈夫よ。きっと守ってくれるわ」


「アタシ達も見かけたら助けてあげる。サマナくん、良いコだもん」


ムツキとミツキの言葉に、少し心の中が温かくなった。


「ありがとう、二人とも」


「どういたしまして」


「アタシ達も猟奇殺人犯罪者の遺伝子の持ち主だし、強いからね!」


…ミツキの最後の言葉はいらなかったな。


「『アタシ達も』って言うことは、サラもそうなんだ?」


「サラから聞いてなかったの? 私達とはまた種類が違うけど、あのコも猟奇殺人の遺伝子を持っているわ。だから強いの」


ムツキの言葉に、昨日の出会いを思い出す。


確かに大人の男性の首を斧で切り飛ばすんだから、強いだろう。


「ちなみにタカオミはいわゆるアカサギってヤツ。知ってる?」


「いや」


「自分の美貌を活かして、相手からいろんなモノを奪うのよ。タカオミの先祖はかなりの美形だったらしく、世界まで裏で操っていたらしいわ」


ムツキの説明に、とても納得。


あの容姿とカリスマ性は、只者ではない証拠だったか。


「あっ、ちなみにカミヤは毒を操る殺人者の遺伝子を持ってるの。だから料理を作るのが得意なんだねぇ」


「ぶっー!」


ミツキの言葉を聞いて、オレは下を向きながら紅茶をふいた。


よりにもよって、5枚目のクッキーを紅茶で流し込んだ時だった。


「ゴホケホッ!」


「ああ、大丈夫よ。カミヤは滅多なことでは毒を使わないから。特にお菓子作りはタカオミが関係していることもあって、絶対毒なんて入れないから。安心して食べて良いわよ」


ムツキは無表情でクッキーを食べすすめる。


「あっ、そう…。ゴホッ」


しかし食欲は失せてしまった。


クッキーは二人がかなりの勢いで食べていったこともあり、あっという間に残り少なくなった。


「…とと、残りはサラに残しておきましょうか?」


「そうね。サマナが届けてきてくれたものだし」


ムツキはクッキーに蓋をした。


「コレ、サラが帰ってきたら渡しておくわね」


「ああ、よろしくムツキ。それじゃあそろそろオレは寮に戻る」


「うん、また明日ね。サマナくん」


「また明日、ミツキ」


二人に手を振り、オレは女子寮を出た。


「はー…。何か微妙に食欲失せたかも」


クッキーは絶品だった。


しかしカミヤが毒を操る犯罪者の血縁者だったとは、な。


タカオミは物凄く納得できる。


彼の血縁者なら、老若男女美形だろう。


美貌を活かして、人や政治・経済を裏から操ることなんて造作もないだろうな。


「おっ、サマナ。お帰り」


「お帰り、サマナ」


男子寮のロビーで、ムメイとイザヨイが声をかけてきた。


「ただいま。二人とも、どうしたんですか?」


「俺はお前を待っていたんだよ。どうだった? 転校初日は」


「えっと、まあこんなもんかな?と」


「コクヤに早速眼を付けられたんだって? ギリギリに寮を出て行ったから、忠告することも出来なかったんだ。ゴメンね?」


イザヨイは申し訳なさそうな顔をした。


「あー、だからクラスメイト達も逃げ遅れたんですね」


「クラスにもギリギリ到着しただろう。まあキミの顔を見たいコもいただろうから、逃げるに逃げられなかったというのもあるだろうね」


顎に手を当て、イザヨイは遠い眼をした。


「コクヤには何もされなかったか?」


「大丈夫ですよ、ムメイさん。少し話はしましたが、午後から彼は帰りましたし」


「そっか…なら良かった」


ムメイは心底安心したように、深く息を吐いた。


しかし苦しそうに眉を寄せ、絞り出すような声を出した。


「…こう言うのもアレだが、あんまりコクヤには関わらない方が良い」


「それはさんざん周囲の人から言われました」


「そうか。まあ向こうが近付いてきても、上手く避けるようにな。関わらない方が、お前の心の為だ」


そう言うムメイは真剣そのもの。


オレが来る前に、犠牲になった人々のことを知っているからだろう。


「…そうですね。気を付けます」


「ああ、そうしろ」


「ところで夕飯まで時間がありますよね。オレ、部屋で休みたいんですけど…」


「あっああ。引き止めて悪かったな」


「いいえ。あっ、ムメイさんは食事はどこで?」


「俺は自炊しているんだ」


「そうですか…。良ければ寮の食事を一緒にと思ったんですけど」


「そうだなぁ。まあたまには良いか。んじゃ六時頃に食堂でどうだ?」


「はい、それでお願いします」


「分かった。んじゃな」


オレは二人に頭を下げて、エレベータに乗り込んだ。


「ふぅ…」


実は少し疲れていた。


けれど保護者代理人のムメイを無下にはできないから、食事に誘った。


「…バレバレだったかな?」


それでも会話はした方が良いだろう。


…特にあのバカ親父については。


ムメイはどうやら親父と付き合いがあるらしい。


昨日の様子を見ても、事務的な関係だけじゃないだろう。


それに担任のキバラは言っていた。


ごくまれにだが、この街を出て行く者がいる―と。


もしかしたら親父はそのパターンじゃないかと、オレは思っていた。


実はこの街の出身で、ムメイとはその頃に知り合ったんじゃないかって。


でも今のところは、たんなるオレの想像でしかない。


だから聞かなければならない。


親父の本当の姿を。


そしてオレについて、どう思っていたのか。


別に今更親子の感情は求めていない。


だけどいろいろと複雑なところはあっただろう。


犯罪遺伝子は父方のもの。


母とはどういうふうに出会ったのか、何故結婚したのかというのも、聞いたことがなかった。


全ては犯罪遺伝子のことを隠す為だとも言えるが、…何か匂う。


親父がオレに、何を求めているのか。


それをハッキリさせたかった。



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