はじめまして! 魔破街!
母親は小さい時に亡くなった。
とても優しく良い人で、母が死んでからあんなにオレを可愛がってくれた父は仕事人間になってしまった。
ほとんど家に帰らないクセに、親戚や施設にオレを預けることは一度も無かった。
だから少しは愛情があるんだろう…と思っていたオレは、間違っていた。
父から一週間前に、引っ越すと言われた。
元々転勤族だったので、特に驚きもしなかった。
ただ、今回の引っ越しはいつもと違っていた。
オレは学校の寮に入る、というところだ。
父は会社の寮に入り、二人は別々に暮らすことになった。
それでも時々は会うんだろうな、と思っていたオレはバカだった。
大きな荷物は先に送って、オレは手荷物だけを持って父に街まで連れて行かれた。
山の中に入り一時間。そして長い洞窟を通ると、高い岩の壁の前に出た。
それこそ10メートル以上はある壁の向こうが、目的地のようだった。
…壁には木の扉があり、扉の上のサビだらけのプレートには『魔破街へようこそ!』と書かれていたからだ。
「サマナ、ここからはお前一人で行きなさい」
表情一つ変えず、父は言った。
「良いケド…。街に入ったら、どこ行けば良いの?」
「ムメイという男に会え。学校に行けば分かる」
「学校って…」
「街の中心にある。行けば分かる。それじゃ、私は行く」
言いたいことだけ言って、父はとっとと車で帰ってしまった。
…それでも父親か。
と普通の人間なら思うだろうけど、オレは慣れたもんだ。
扉には何故か、取っ手が無かった。
だから両手で扉を押して入った。
―魔破街。
オレはこの街の異常さに、まだ気付かずにいた。
そして父のことも、この時はまだ、信じていた。