第6話:「家」
「着きましたよ! ここが俺の家です!」
淳は、私を見据えるとニコニコ顔で宣言した。
その建物は木造2階建てで、木目調の塗装が施されていた。
付近には木々が立ち並び、木洩れ日がその家の塗装を心地よく照らしてくれていた。
「お、おう。ここか……」
私はその建物を見て、顔を引きつらせながら答える。
何故なら、その家が私の常識ではかなりの豪邸に見えたし、何より私が殿方の家に入るのが人生で初めてだったからだ。
なぜこのようなことになってしまったのか? 時は少し遡る。
電車と呼ばれる鉄の塊から逃げた私達は、流れで肩を並べて小道を歩いていた。
その時、淳の地元だからなのか、声のトーンが上がった彼は、周りにあるものをいろいろと紹介してくれた。
まず、「道路」という物から始まり、道を走る「乗用車」、道横に立つ「電柱」、それを伝う「電線」、「通信線」、道にぽつぽつと存在する「街灯」……。
それらは聞いていてとても新鮮だったし、とても興味深いものだった。
淳は、それらの動く原理も端的に説明をしてくれた。
いまいちわからないところが多々あったが、後でそれらが紹介された本を貸してくれると言ってくれたので、私はほくほく顔で承諾をした。
その時、彼が言ったのだ。
「じゃあ、本貸すついでに俺の家寄って行って良いですよ。お茶ぐらいは出せますので……」と。
私はその時、一瞬たじろいだが、他に行くところもないので承諾をした。
そのまま、30分程山道を歩いた。そして今、私は彼の家の前に佇んでいた。
「ささ、遠慮せずどうぞ~」
彼は、ニコニコ顔で玄関の戸を開くと、私を案内する。
この家の周りには他の家はないようで、私をじっとりと見る奴らはもいない。
私はそれに少し安心しながらも、ニコニコ顔の彼にどきまきしつつ家へと入った。
玄関を潜ると、その先には廊下が続いていた。
その壁は白色で、上品な印象を受ける。
所々には花瓶が置かれており、そこには華やかな花がささっていた。
私が住んでいた世界の家は、石を積んで作ったような家が大半だった。
そこに木で作った扉をはめ込み、外との出入り口や部屋ごとの区切りとしていた。
なお、石を積んで漆喰を塗りつけただけなので、隙間風で冬は寒いし、扉を開ける時もギーギー音を立てるし、扉は砂が詰まって開かないことがあったりと最悪だった。
私は、彼に促されるまま玄関で履いていたブーツを脱ぐと、素足で廊下へと上がる。
そのまま、部屋の中へと入ると、彼が引いてくれた椅子へと腰かけた。
「……はあ」
杖を壁にかけた後、私は感嘆の声を上げた。
部屋の壁には大きな透明な板がはめ込まれ、そこから外の日光がさんさんと降り注ぐ。
部屋の中の家具は、どれも洗練されたデザインをしており、それらは日光を反射しきらきらと輝いていた。
それらを見た私は、心の中に秘めていた恐怖心を好奇心でかき消してしまった。
「す、すごいな淳!! 大金持ちなのだな!!」
ただただ感動した私は、私の横に腰かけた彼を見つめる。
そんな私を見た彼は、少し顔を赤らめながらぶつぶつと言葉を紡いだ。
「確かにこの世界では稼いでいる方ですけど、そこまでお金持ちではないですよ……」
その後、私は彼から色々と教わった。
時計、冷蔵庫、洗濯機……などだ。
その中で、特に驚いたものがある。
そう、テレビだ。
彼は道具の説明している最中、突然いたずらっ子のような顔になったかと思うと、細長く黒い棒を持ち、私にこう言い放った。
「今から魔術を使いますね。驚かないでください……」
「……は? お前は魔法なんぞ使えないと言っていたではないか……」
私がそんなことを呟いている間に、彼は持っていた黒い棒の突起物を押す。
それに呼応するかのように、目の前の黒い板に光が灯った。
私は、信じられないといった気持ちで、目の前の画面を見る。
何度も目をパチパチと瞬きするが、結果は変わらない。
そう、そこには人間が映っていたのだ。
その人間は何でもないような表情で横の人間に話しかけていた。
私は驚きつつも、確かめるためにその元黒い板へずんずんと歩みを進める。
そして、その板をペタペタと触る。
その人間は、板から映像だけが映し出されているようだった。
「板に人間の像を映し出しているのか。よくできているな……」
私はポツリと呟くと、ニコニコ顔で私を見つめていた彼の顔が一転ジト目になった。
「なんだ……。『に、人間が板の中に捕えられておる! 助けなくては!』とテンプレのように騒いでくれると思ったんですけどねー」
途中で私の声真似をしている彼がちょっと気になったが、私はあまり気にしないようにして得意げに答える。
「魔法を学んでおるからな。そのぐらいで取り乱したりはせぬぞ!」
「そうなんですか……。つまらないですね……」
得意げな私の声を聞き、彼はげんなりとした表情を浮かべた。
それから一時間後。私は出されたお茶を飲みながらテレビで映画を見ていた。
内容は、西洋の時代劇? と呼ばれるものだった。
それを放映するとき、彼は「アイシアさん、日本語わかるから字幕なしのやつでよいですよねーー」と言っていたが、私は字幕というものがそもそもよく分からなかった。
私は気になって彼に聞いてみると、「映像の下にしゃべっているセリフを表示するものですよ」と説明をしてくれた。
私は彼の言葉を聞き、一つ気になることに気づいた。
確かに、私はこの世界の言葉を理解しているし、読めるものも多い。
この世界は、トルクマニア帝国もなければタレスもない、異世界のはずだ。
普通ならば、私に異世界の言語を理解することができないはずだ。
しかし、私はこの世界の言語を読むことができるし、理解することもできる。
彼に意味を確認することもあるが、この世界の文字は私の知っているそれの意味と大体一致していた。
その結果から、私は一つの結論にたどり着いた。
『まさか、この世界と私がいた世界。何か大きな繋がりがあるのではないだろうか……』
そんなことを思いながら映画をぼんやりと見ていると、私の鼻腔をとても良い香りがくすぐった。
その匂いに導かれるように私は後ろを見やると、淳が何か作業をしているのが目に入った。
彼は私の視線に気づくと、にっこりと微笑んだ。
「もう少しで晩御飯の時間ですよ。良ければ何か食べていきませんか?」
しばらくこんな感じでほのぼのストーリを進めていきます。
なんか2045年問題とは正反対ですね笑
次の更新は3月24日(日)の予定です。
書ききれれば、3月17日(日)更新するかもしれません。
よろしくお願いいたします!