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第5話:「墜落」

 私の耳に風を切る音がびゅうびゅうと聞こえる。

自由落下をする私と彼と杖は、一塊になりながら地面に向かって飛んでいた。


 突然感じなくなった重力に私は顔を歪める。

身体の内臓がふわりと浮いた感覚になるのは、あまり良い気持ちではないだろう。


「ひいいいぃぃぃぃ!!」


 風切り音に混じり、後ろから悲鳴が聞こえる。

私の魔力枯渇に巻き添えを食らった、淳の悲鳴だろう。


「ええい! 五月蠅(うるさ)い!! 男なんだから少しは静かにしろ!!」


 後ろで私に抱き着きながら喚く彼に私はイラつく。

この状況を打開するために集中しているのだから、少しは静かにしろ!


「静かにしろって……。こんな状況で黙ってられるかああぁぁ!!」


 後ろの彼は、私の耳元で喚く。


「どうにかするから、少し黙っておれ!」


 私は彼に向けてぴしゃりと言い切った。


 そんなやり取りをしている間にも、土色と緑色の地面が視界に迫る。

後ろからは、「もう終わりだー」「死ぬー」といった断末魔の叫びが聞こえる。

全く、五月蠅(うるさ)い!


 さて……。やるだけやってみるか……。

私はため息をつくと、考えていた打開策を実行に移す。


「……私達を守れ。『ウォール』!」


 枯渇する魔力のせいで、沸き上がる嫌悪感に顔をしかめながらも、私は魔法を詠唱した。

この魔法により私達の後方に魔法の膜が発生し、それが空気と接触して私達の落下速度を下げる。


 まだだ。もう一発必要だな。

瞬時に状況を把握した私は、次の魔法を唱える。


「……風よ。巻きあがれ。『ライズカレント!』」


 この魔法により、眼下の木々がざわざわと騒ぎだす。


 そして、木々から風が沸き上がり、私達に衝突した。


「うっ」


 容赦なくぶち当たる空気に私は顔をしかめる。

しかし、その空気が先ほどの防御膜とぶつかり、私達の落下スピードがさらに下がる。

 先ほどまで感じていた内臓の浮遊感も感じなくなる。

私はその感覚に安心しつつ、後ろの彼へ声をかける。


「私にしっかりとつかまれよ?」


 私は彼にそう伝えると、風の操作に集中する。

今ここで少しでも気が抜けて、操作を誤れば、地面に直撃だ。


「…………!!」


 しかし、先ほど無理して放った魔法のせいで、頭が痛い。

ガンガンと打ち付ける片頭痛に私は顔をしかめながら、風を操作する……。

 そのせいだろうか。

普段こんな初級魔法でミスをしない私は、ここでミスをしてしまった。


「…………っあ」


 左方の風の出力を誤って強めてしまう。

それにより、私達は川から離れ山の方へ流される。

眼下には地面が迫る。

後10m程で地面だ。


 私たちは果樹園から離れ、隣の茶色い地面に吹き飛ばされる。

目の前には地面に盛られた砕石が目に入る。


「…………!!」


 私は瞬時に判断すると、地面との間に防御膜を張った。

その防御膜が障壁になり、私達をやさしく地面へと導いてくれた。


「……なんとかなった」


 私は、地面に着くと砕石の上に倒れる。

頭がガンガンと痛い。少し寝て魔力を回復せねば……。


 そんなことを思っていると、後ろにいた彼が心配そうに私を見つめていた。

私はぼんやりと霞む彼の顔を見つめていると、彼の顔が突然焦ったものに変わった。


「アイシアさん!! まずいですよ! 早くここから退かないと!!」


 そういえば先ほどからやけに周りが騒がしい気がする。

近くから、周期的に金属を打ち付けるような音が聞こえるな……。


「……失礼しますね?」


 彼はきょろきょろと周りを見た後、意を決したような顔に変わり、私を抱き上げる。

彼は、私と一緒に桜色の杖も抱えた。


 かなりの重さのはずだが、彼は難なく私と杖を抱えあげる。

そして、歩きずらそうに砕石の上を進み始めた。


 遠くから「プアン……!」と大きな音が聞こえる。

私は彼に抱きかかえられながら、音が聞こえたほうを見ると、その先にはオレンジ色の帯を巻いた金属の塊が高速でこちらに向かってきていた。


「……な、なんだあれは!?!?!?」


 私は頭の痛みを忘れ、声を荒あげてしまった。

あんな巨大なもの、見たことがないぞ。


「逃げますよ!!」


 彼は叫ぶと、砕石から駆け下りその先の果樹園を走る。

先ほどの物体は、金属がこすれる音を出しながら、速度を緩めていた。


 そして、私たちが果樹園を走り切る時には、あの金属塊は静止していた……。






「頭の痛みが引いてきた。そろそろ歩けそうだ……。降ろしてくれ」


 五分後。淳に抱っこされたままの私は、狭い路地で彼に伝える。

地面は鼠色をしていて、何かで固められたかのような状態だった。


「……そうですか」


 何故か残念そうな表情をした彼は、私にぼそりと呟くと地面へと降ろした。


 私は地面へ足をつける。

私の世界とは違う質感に訝しげな気持ちになりながらも、地面に足を付けられることに満足をした。


「……すまない。迷惑をかけたな」


 私は俯きながら、ぽつりと彼へと伝える。

しかし、すぐに彼から返事はない。

私は心配になると、彼をちらっと見た……。


 しかし、そこには顔を歪める淳がいた。


「ふふふ…………。ははは!!」


 突然笑い出した彼を見て、私は肩をびくっと震わせる。

その後、彼は笑いながら悠長にべらべらと喋り始めた。


「いやーー。びっくりしましたよ! 突然落ちたと思ったら電車に轢かれそうになるんだもの! いやーーすごい!!」


 言い切った後も、彼は肩を震わせながらクククと笑い続ける。


 私はそんな彼を見て、気がふれてしまったのかと若干恐怖を感じながらぽつりとつぶやいた。


「いや、本当にすまなかった。だからその気味の悪い笑いをやめてくれ……!!」

営業線の線路内立ち入りは、鉄道営業法第37条で禁止されています。

違反すると、10000円以下の罰金です。

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