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第4話:「空中遊泳」

 その後、私達は飛行し続けた。

高度500m程の海上を飛行し続けた。


 私達の周りは、澄んだ青空をしている。

ふと下を見ると、輝く日光に照らされて、くすんだ水がきらきらと輝いていた。


「うっ」


 突然の強風に私は声を絞り出す。

吹き付ける風が私の体温を奪っていく。

私達の乗る杖は煽られ、左右に揺れた。


 後ろの彼は、落とされまいと私の腰にぎゅっと抱き着く。

背中を通じて彼の体温が私へと伝わる。

そんな様子に若干愛おしさを感じながらも、私はあることを思い出して彼に声をかけた。


「なあ」


 私は後ろに向けてぽつりと呟く。

私は前を向きながら喋る。私の呟きは流れる風により、後ろの彼へと届いた。


「さっきは助けてくれてありがとうな。助かったよ」


 私は、思ったことをそのまま言葉に乗せた。


 私は純粋に感謝していた。

あのままあいつらに連れ去られれば、捕まって牢獄に入れられていたかもしれない。

何故なら、あの工場の人たちから見れは、私は不法侵入者だからだ。


 私の世界でも、あのような場所に無断で侵入すれば捕まって牢獄行きだ。

そんな常識が私の頭の中にはあった。


「ああ……」


 後ろからか細い彼の声が聞こえた。

空気の流れに流されてよく聞き取れないが、相槌を打ってくれたのだろう。


「そういえば、自己紹介がまだだったな」


 ふと私は思い出すと、彼へ話を切り出す。


「私はアイシア=グレオチール。見ての通りウィザードをしている。お前の名はなんだ?」


すると、後方からふっという笑みが聞こえたかと思うと、彼からの返事が聞こえた。


「俺の名は……籾村淳(もみむらあつし)といいます」


 私は、それを聴くと、笑みがこぼれる。

だって、先ほど人生の危機を二人して逃げ切ったというのに、今更な自己紹介だ。

 見ず知らずの人に助けられたという事実と、このタイミングでの自己紹介に、私は少し可笑しく思ってしまった。


籾村淳(もみむらあつし)か。よろしくな」


 私は運転しながら、微笑した。






「ところで、(あつし)に聞きたいことがあるんだが」


 自己紹介の後、会話が途切れてしまったのを見計らい、私は疑問に思っていたことを彼に問うことにした。

私が問いかけた時、後ろから「へ!?」という驚きの声が聞こえてきたが、私は無視して話を続ける。

一体どこに驚くところがあるのだか……。

私は彼の反応に若干呆れた。


「目の前に変な四角い棟がいっぱい建ってるだろう? あれはなんだ?」


 私は、杖を掴んでいた左手でその塔たちを指さしながら質問をする。

 それに合わせて、杖がふらふらと揺れ出す。

後方から、「ひ、ひいっ」という悲鳴が聞こえてきたので、私はすぐに左手で杖を掴んだ。


 全く、そんなに驚くこともないだろうに……。

私は訝しげな気持ちになりながらも、後ろの彼の反応を待った。


「あ、あれは……。ビルですね」


 私の後ろで荒い息をした彼は答える。


「……ビル? それはなんだ?」


 言葉の意味が分からなかった私は、再度彼へと問いた。


「そうですね……。建物の一つで、人が暮らすスペースがたくさん重なり合っているんです。アイシアさんは何階建てまで見たことあるんですか?」


 私は、思案すると即答する。


「そうだな……。高くて3階建てだな」


「そうですか。えっと……。あのビルは、大体100階建てですね。つまり3階建ての約30倍の高さです」


「……な、なに??」


 私は驚く。

100階建ての建物だと? 一体この世界の技術はどうなっているのだ……。






 私達は飛翔を続け、海上から抜けた。

目の前には先ほどのビルがにょきっと生えており、目下には鼠色の地表が覗かせていた。


 飛んでいるとビルの屋上にいる人たちと目があった。

私達を見て驚いているようだが、私はスルーして飛行し続けた。

 後ろの彼は、「まずいですよ。早くいきましょう!」と焦っていたが、私は無視して飛行し続けた。

一体何にあせっているのだろうか……。


「は~……すごいな」


 私は感嘆の声をあげる。近未来的な世界に心を奪われてしまったのだ。

その時、後方から質問が飛んできた。


「あの……。アイシアさんって、どこ出身なんですか?」


 私はその質問に即答する。


「トルクマニア帝国だな! タレスという町から来た」


「と、トルクマニア……。タレス……?」


 私が声を発した後、訝し気な声色で彼は返答した。


「そうだ! トルクマニア帝国にタレスだ。何か知っていることはあるか?」


 私は興奮しつつ質問する。

もし彼がこれを知っていれば、私が元の世界に帰還する糸口になるかもしれないのだ。


「う、うーん……」


 彼は唸る。風にあおられた拍子に、ぎゅっと私を強く抱きしめても彼は唸り続けた。


「……すみません。聞いたことがありません」


「そ、そうか……」


 私は落胆する。

やはり私は別の世界へとやってきてしまったのだな……。

私は納得してしまった。





「俺からも続けて聞いていいですか?」


 私達がビル群を抜け、住宅地に囲まれた川沿いを飛行しているときに彼から問いかけがあった。

この川は、多摩川というらしい。

見慣れた川幅の川に安堵していた私は、彼の言葉を聞くと、「良いぞ、なんだ?」と返答した。


「ずっと気になっていたんですけど……。何で俺達は飛んでいるんですか?」


 私はこれを聞くと、得意げに答える。


「何でって……。この私の魔法で飛んでいるんだよ。普通の兵士なら20分程で魔力が尽きてしまうが、私は魔力量が多いからな。3時間ぐらいは飛び続けられるぞ」


 私は、得意げに聞かれてもいないこともペラペラと答えた。


「は、はあ。魔法……」


 それを聞いた淳は、訝しげな声で答える。

そして、若干間を開けると話を続けた。


「バスの中でも言ったかもしれませんが、私達の()()には魔法がありません。なので、信じることができないのです」


「でも、実際お前も飛んでいるだろう? これでも信じられないっていうのか?」


 私はすかさず返答した。私は魔法を信じない彼を理解することができなかった。


「いや、まあそうなんですけど……。どうしても何かの技術を用いているんじゃないかって考えちゃうんです。……頭でっかちなだけかもしれないですね」


「……そうかもしれないな」


 私は声のトーンが落ちた彼の声を聞き、ぽつりと相槌を打った。





「そろそろ俺の地元ですよ!」


 先ほどのやり取りから30分後。

川沿いをずっと飛翔し続けていると淳が宣言した。


 私達は、多摩川の支流の秋川に沿って飛翔をしていた。


 川沿いには乾いた地面や果樹園が広がり、所々に民家が点在している。

先ほどより見慣れた景色を見て、私の心にゆとりが生まれてきた。





 そして、彼の地元を目指してそれから5分程飛んでいた時だ。

私は、耐えられなくなって彼に宣言をした。


「まずい、私の魔力が切れた。すまない……」


「……へ????」


 突然の爆弾発言に、彼は気の抜けた返事をした。

その直後、杖に力がなくなると、ふわっと下に落ち始めた。


「……ちょっとどうなってるのおおお!!」


 彼の悲痛な叫びが私の耳に突き刺さる。

私達は、目下の果樹園に向けて、上空1000mぐらいから急降下を始めた。

落下地点はあきる野市引田(五日市線武蔵引田駅)付近です。

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