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第9話:「日本でのお仕事①」

 あの後、ベッドから起き上がった私は、魔法結界に捕まったままの彼へ「なぜそこにいるのか」と何度も詰問した。 

 しかし、彼はつま先立ちをした状態でするすると要領を得ない言い訳を繰り返した。

 結局しっかりとした回答を得られないまま、彼を解放することとなった。

 

 彼が私の結界に引っかかっていたということは、彼は私が寝ている間にあの部屋に入ろうとしたことになる。つまり、彼は私の寝込みを襲おうとしていた可能性が大いにあった。

 しかも、先ほどまでの彼の言い訳がましい発言が、私の「彼は私を襲おうとした」という疑念を更に深くしてしまっていた。

 しかし、私は結局襲われてはいない。

彼が私の部屋に侵入して行おうとした事について、確定的な証拠が存在しないのも事実だった。

 そのため、詰問に失敗した私は取り急ぎ彼を泳がせることにした。


 寝床の部屋に結界を張っておけば魔法使いが私の魔法を抵抗(レジスト)しない限り侵入することはできない。

彼が魔法を使えないという事実が、私を安心させてくれた。



 


「……え? 仕事で力を貸してほしい?」


 私は彼から借りたジャージ姿のままリビングで朝食を食べ終わると、ぶすっとした表情の淳にお願いをされた。

 彼がそんな表情をしているのは、朝の言い訳から察するに「泊めてやっているのに何であんな仕打ちを受けなければならないんだ」と思っているからだろう。


 しかし、泊めているからと言って女子の寝床に音もなく忍び込もうとするのは良くない。

普通ならば、そんな表情をされたらこちらが激高する立場だろう。

 だが、彼は私を無償で泊めてくれている。

彼の負担を考えれば、こちらが激高するのも何か違う気がしていた。

だから、私は彼の表情に少しイラっとしたが、静めて水に流すことにした。


 表情の晴れない淳が口を開く。


「……はい。私が無償で貴方を泊めるのも何か違う気がするので、私の仕事を手伝ってほしいのです。対価は……あの部屋を好きに使える権利です。後、多少ですが給料もお支払いしましょう。アイシアさん、泊まる家がないのでしょう?」


「そうだが……。な、なぜそれが分かった」


 驚いた私は彼へ声を荒あげる。

しかし、彼はさも当然のように口を開く。


「昨日、俺が部屋を提供すると言った時に、アイシアさんは最初こそ驚いていましたがその後ホッとされていましたよね? それを見て、住める家がないんだろうなぁと思っていました」


 私はそれを聞き、少し安心する。

 もし今回の件により、私が彼の家から追い出されれば私は行く当てが無くなってしまう。

この世界のことをほとんど知らない私は、生活の仕方さえ分からない。

結果、路頭に迷って最悪死んでしまうかもしれなかった。


 しかし、仕事をすればこの家にずっといて良いと彼は提案してくれた。

それは、この世界で衣食住の住を手に入れたことになる。

お給金の額によっては、他の二つも安定して手に入れられるかもしれない。


 何より、淳の近くにいれるならば、この世界のことを安全に学ぶことができるだろう。

 もしかしたら彼が私に対して怪しい行動をするかもしれないが、その時は私の魔法で何とかすればよい。彼は魔法が扱えないし、できることは限られている。

だから、私の力でどうとでもなるだろう。


「なるほどな。流石淳だな……。だが、ここに住むかどうかは仕事の内容を決めて決めたい。まずは仕事内容を教えてくれるか?」


 私はにっこりと微笑むと、彼へと頷いた。





「こちらでご説明しますね」


 彼は、私を家の二階のある一室へ招いた。

私は彼に促されるまま部屋に入ると、そこには無機質な異音をたてる黒い箱と、光輝くテレビモニタが5台程並べられていた。

 テレビモニタには沢山の数字が並び、次々に表示が更新されている。


「おー! なんだこれは!!」


 私は壁いっぱいのモニタを見て興奮する。

何が表示されているのかは良くわからないが、この世界の技術を駆使した物だとすぐに分かった。

このモニタで昨日見たテレビを放映すれば、さぞかし迫力がありそうだ。


「これは……パソコンというものです。後、表示されているものは、今日の為替です」


「パソコン? 為替?」


 私は、彼を見つめて首を傾げる。

そんな私を見て彼はどきまきとしながらも、言葉を続ける。


「パソコンは……高性能な計算機です。人間の頭だけでは難しい計算や作業を自動でやってくれる機械ですよ」


「ほー。そんなものが。この世界の技術はやはりすごいのだな……」


 私の発言に彼は一瞬顔を強張らせながらも、説明を続ける。


「……で、為替というものは、金銭の価値を数字で表したものです。この世界には沢山の貨幣の種類があるのですが、その貨幣たちを交換したときに、どのくらい交換できるかを表したものです」


「ん…………。よくわからないな」


 私は彼の目を見て首を傾げる。

それを見て、彼は一瞬口ごもる。


「えっと……。じゃあ仮定の話をしましょう。例えば、A国とB国に別の貨幣があったとして、A国の貨幣がバナナで、B国の貨幣がリンゴだとします。そしてバナナ2本とリンゴ1個が同じ価値だとしたら、A国の貨幣を使ってB国の貨幣を手に入れる場合、バナナ2本をリンゴを持つ人に渡せばリンゴ1個が手に入ります。ここまでは分かりますか?」


「うむ。なんとなく」


 私は彼へ頷く。


「この時、バナナ2本とリンゴ1個は相互に交換できます。これが為替です」


「なるほど……。私の住んでいたトルクマニア帝国では貨幣の単位にルビーを使っていたが、隣のマネティア王国は青水晶を使っていたな。2個のルビーで1個の青水晶と交換できたが、それが為替ってことか」


「そう、それですね。後、その為替なのですが、日々変動しているんですよ。その変動を利用して、俺はこの機械――パソコンを使って、自分の資産を動かして、変動の差分で儲けているんです」


 彼は、私を見つめながらさらさらと説明を続ける。


「それを活用して、アイシアさんに重要な仕事をしてもらおうと思いまして」


 彼は私を見つめると、話を続ける。


「アイシアさんの力を使って、この画面に表示される未来の数字を、私に教えてほしいんですよ」


 彼は、私を見つめてニッコリと微笑んだ。

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