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序章:「魔力災害」

序章は第三者視点で物語を進めます。

 砂塵が舞う。戦場に砂嵐が吹き荒れる。

 荒廃した土地の中、敵対する2国の兵士達が大国の資源争いを1つ決着させる争いを始めようとしていた。

 その一方の隊列の後方、弓や杖を持った兵士が多数いる中に、杖を持ち青いローブを着た彼女――アイシア=グレオチールはいた。


 彼女は、舞い上がる砂塵を少し吸い込みむせる。

しかし、その時に見せた辛そうな顔はすぐに危ない笑顔へと変わった。

高ぶる気持ちが感じたはずの嫌悪感を全てかき消したのだ。


「ふ……。思い知るがよい」


 彼女は呟く。この戦場を皮切りにこれからのしあがり、最強ウィザードの名声を手に入れるのだ。

そしてゆくゆくは、魔鉱石を全て手中に収める……!

そんな意気込みを込めて、呟いた。


『遠距離隊。弾幕を張れ!』


 彼女の軍を指揮する男司令官が、味方軍全体へ思念波で指示を出す。

その声に従うように、周りの遠距離攻撃組が詠唱を始める。

彼女はそれを横目でちらりと見やった後、危ない笑い声をあげながらある魔法を発動すべく詠唱を始めた。


「ふふ……。ははは……! 愚かなトルメニア兵よ! これでも喰らうが良い!」


 彼女はこれから起こそうとしている魔法をイメージする。

この想像が、魔法発動の引き金となるのだ。

魔法を受けて苦しむトルメニア兵を想像しニタニタと笑う彼女は、発動する魔法がより高い威力となるように魔力を集中し始めた……。



 まさか、この時生み出した魔法があんな結果を生むとは……。

その時、彼女は知るよしもなかった。


◇◇◇

◇◇



 少しこの世界と過去の話をしよう。


時は帝国歴2600年。「この世界」の超大陸「アルカナ」には、大国が5つ存在した。

 北にトルメニア連合王国。西にナイアッツ同盟。南にサルジア共和国。東にトルクマニア帝国。そして中央にマネティア王国。

 この大陸には、魔鉱石と呼ばれる資源が大量に存在し、5大国の人々は、魔鉱石から得られるエネルギーを礎に豊かな魔法文明を築いていた。


 しかし、それはある時一変する。


 大陸中央のマネティア共和国内の鉱山で、大量の魔鉱石が発見された。

それに魅了されたマネティア国民は、我先にと資源開拓を始め、社会が混乱を始めたのだ。


 見かねたマネティア政府は、混乱した社会を鎮めようと、見つかった資源を国民から全て奪い去り、管理を始めた。

 しかし、それをただの略奪だと認識したマネティア国民は、「打倒政府!平等な資源の分配を!」と口ずさみながら、クーデターを起こして政府を潰したのだ。


 それにより無政府状態となったマネティア王国は、大いに混乱した。

そして、それを知った残りの4大国は、資源確保に向けて、政府不在のマネティア国へ進軍を始める。

民意がバラバラとなったマネティア国民は、共に近くの大国に懐柔(かいじゅう)され、マネティア国民と他国との間で大きな争いは起きなかった。


 だが、代わりに資源を求めた他4国がマネティア国内で衝突し、4カ国同士の戦争状態へと突入した。


「我がこの魔鉱石の所有者だ」


 各国軍の司令官が病気のように呟きながら、資源を求めた世界大戦へと突入した……。



 そんな中、東のトルクマニア帝国の一都市、「タレス」で一人の女性が兵士へと志願した。

 名はアイシア=グレオチール。

 尋常ではない雰囲気を醸し出していた彼女は採用試験で落ちそうになるが、異常な火力魔法の威力を見せつけて見事兵士へと合格した。


 彼女が落ちそうになった理由は、彼女自身の謎な言動にあった。

時々奇声を上げたり、急に何かブツブツと呟いたり……。はたから見てかなり危ない人物に見えたのだ。


 しかし、彼女は顔が可愛かった。

年齢は20歳前後。少し大人びた彼女の顔は、着ている青色のローブにより可憐な雰囲気を更に盛り上げてくれていた。


 そして異常な魔法性能。

性格の異常性を無視してでも採用すべき人材だったといえただろう。


 彼女は入隊すると、訓練を受けた後に戦場へと出陣した。

彼女の隊列は後列。後列は近接職のフォローや敵後列の妨害を行う役割を持つ。初陣を飾る兵士がまず配置される隊列だった。


 しかし、彼女は初陣でよからぬことを考えていた。

 皆に自分の力を見せつけ、名声をあげようとしていたのだ。

そのためには、皆に大魔法を見せつけ、敵陣に大ダメージを与える必要がある……。

彼女はそう考えていた。


 魔法の火力を上げるために、彼女は工夫もした。

マネティア王国製の魔鉱石をペンダントにし、首にかけたのだ。

こうすることで、魔鉱石からエネルギーが補給され、魔法の威力が何倍にも膨れ上がった。


そして男性司令官から与えられた戦闘許可……彼女はこのチャンスを逃しはしなかった。


「キタキタキタァ!!」


彼女は、震える体と杖を心で押さえ込みながら、最後の発動句を唱える直前まで詠唱を終える。


 周りの遠距離隊はすでに詠唱を終えており、彼女の詠唱を終わるのを待っていた。

アイシアの隣の裕福そうな15歳程の少年ウィザードも既に詠唱を終えていた。アイシアよりもずっと前に。


彼は詠唱を終えたアイシアをじいっと見つめると、気になることを問いかけた。


「おねーちゃん。詠唱長いね。何か特別な魔法でも放とうとしているの?」


「……ふっ」


 アイシアは彼をちらっと見やると、道端の小石を見るような目で彼を見つめた。

そしてすぐに視線を敵へと向けた。


 無視されたと認識した彼は、文句を言おうと再度彼女へ話しかけようとする。

しかし、男司令官の思念波がそれを邪魔した。


『遠距離班! 攻撃始め!!』


 男性司令官から発動許可が飛ぶ。待ってましたとばかりに、遠距離攻撃組が一斉射撃を始めた。


 皆が攻撃方法として選択しているのは、「弾幕」系の攻撃魔法やスキルだ。

弾幕系の攻撃は、敵と交戦する前に敵勢力の体力を削り、近接戦となった時に戦闘を有利に運ばせるための攻撃だ。

近接職が戦闘中の時は、サポートに回る敵遠距離職の妨害も兼ねる。

 戦争に勝つためには非常に重要な攻撃だった。


 弓兵は大量の矢を斜め45度上方へ一斉に放射し、敵陣へ矢の雨を降らす。


 魔法兵は、ある者は天空から雷の雨を降らし、ある者は小規模な爆発を起こした。

「弾幕系」の魔法は消費魔力が多く、制御が難しい。狙いが荒くてもよいので「敵に当てる」ことに関しては簡単だが、魔力を制御する術が非常に大事だといえるだろう。


 そして、あらかた味方の弾幕攻撃が終わった頃合い、攻撃が一段落したタイミングを見計らい、彼女は発動句を唱え始める。

 なぜこのタイミングまで発動を待ったのか? その理由はこれしかない。


「目立ちたい」


ただこれだけだった。


「ふふ……。くらえ。『滅却の業火!』」


不敵な笑いをこらえつつ、彼女は発動句を唱え終えた。


 彼女が先ほどまで想像していた攻撃魔法「滅却の業火」。

これは、この世界でも扱える人が少ない上級火属性攻撃魔法だった。

イメージした範囲を獄炎が包み込み、一帯を火の海とする……。そんな恐ろしい魔法だった。


 唱え終えた時、彼女はあることに気づく。

首にかけてあった魔鉱石のペンダントが、青白く光輝いていたのだ。

彼女は首にかけてあったペンダントを片手にとり、見入った。


「なんと美しい……」


 彼女は呟く。発動した攻撃魔法から目を離しながら……。


 その時、敵方から悲鳴が上がり彼女は我へと返った。

その悲鳴は次第に大きくなる。その悲鳴に彼女は満足しながらも、敵陣を見た。


「……なんだあれは??」


 予想外の光景に、彼女は目を丸くする。

彼女の発動した魔法はまだ敵にダメージを与えていなかった。

その代わりに、敵陣上空に()()()()()()が出現していたのだ。


 首にかけてあるペンダントの脈動に合わせるように脈動し、巨大化を続ける黒い球。

彼女はそれを見て背筋に寒いものを感じた。


 その巨大な玉は、地面へ到達すると触れた物を全て吸い込み始めた。


「わあ! なにあの攻撃! すごいねおねえちゃん!!」


 隣にいた少年ウィザードは、大魔法を見せつけられて興奮した。

そして、きらきらとした目で彼女を見つめた。


 しかし、彼女の怯え切った目を見てぎょっとする。

「恐ろしい」

そんな雰囲気を彼女から感じ取ったからだ。


 どんどん巨大化する黒い球。巨大化が加速する黒い球は、次々に敵陣を飲み込み、敵軍は壊滅を始めた。


『おい、もういい。十分だ。発動している奴はあの黒い球を消せ』


 思念波で男性司令官から指示が飛ぶ。


「……だってよ。おねーちゃん。消して?」


 彼は怯えたような声で彼女へ問いかける。だが、彼は内心その答えは直感的にもうわかっていた。

ただ、それを信じたくないだけだったのだ。


 彼女は彼を見つめると、珍しく微笑んだ。


「……無理よ。私はあんなものを発動していないもの」


 彼女のその微笑みには「諦め」という表情が含まれていた。

彼は彼女の表情を見て確信する。

今ここで()()()()が起きようとしている。

そう直感した。


 魔力災害……この世界で度々起きる制御不能な攻撃魔法が原因の災害である。

原因は不明だが、マネティア王国の炭鉱で多量の魔鉱石が発見されてから起きる頻度が増えている。

ひとたび起きると、その魔力のエネルギーが尽きるまで周りを破壊し続ける。

ある王国の100万都市がその魔力災害により、一晩で更地になったということもあったそうだ。


 彼の出身国……トルクマニア帝国内でも、3年程前に1度魔力災害が発生したことがある。

軍の訓練で発生し、付近10kmが更地となってしまった。

その時にも、巨大な黒い球が出現して全てを吸い込んでいった……。

遠くから傍観した住民からそう申告があった。

 黒い球に吸い込まれた物は行方知らずとなる。

3年前に犠牲となったトルクマニア帝国第三軍団は、捜索しても誰一人として見つからず、結局全員死亡認定されていた。


 彼女の気持ちを糧とするように、彼女がかけているペンダントは青白い光で脈動を続け、同調して脈動する黒い球は一段と大きさを増していた。


 そして、ついに自軍へと到達した巨大な黒い球は、自軍を吸い込み始める。


『もう無理だ。この場から退却しろ!!』


 この巨大な黒い球の危険性を察知した男司令官は、全軍に対して退却命令を出した。

状況を瞬時に把握した自軍の兵士たちは、我さきにと逃げ出しパニックになる。

 そんな兵士たちをあざ笑うかのごとく、黒い球は膨張を続け……


……そして弾けた。


「た、助けて……!」


 巻き込まれたアイシアは、目立とうした所業を後悔してそう呟くが、運命には抗えない。

身体ごと黒い爆風に巻き上げられた。


 巻き起きた巨大な黒い爆風は彼女を、彼を、全ての人間を巻き上げ、吸い込む。

貪欲な魔力は、土地、砂、建造物、人、武具。全てを吸い込み、対消滅した。


その後、現場には隕石が落ちたクレータのようなものが残された。


後にトルクマニア帝国第二の魔力災害と呼ばれたこの災害は、トルクマニア帝国にて後世も語り継がれることになる……。

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