伝説の武器が異世界転生してはいつも苦労しているようです
私の名はエクスカリバー。アーサー王伝説のおかげで知らぬ者はほとんどいない、伝説の剣。
そんな私は、いつも知らない場所にいる。
「くっ、このエクスカリバーを使うときがきたようだな!」
「な、なにぃ、その剣は!?」
今日も今日とて私は名もよく知らない剣士に振るわれて、なんか悪そうなやつらを斬るのに使われる。
伝説の剣は大体が期間限定の派遣業だ。剣派遣の元締めの所でマッチングした先の世界で、「じゃあとりあえずエクスカリバーさん、その岩にでも刺さってて」と言われ、抜く奴を待つことになる。
それはまだましだ。ときには何故か悪そうな奴が持ってる状態から始まって、なんか顔が綺麗な田舎育ちの男だの女だのに拾われて、最後には魔王を倒すのに使われる。
今回はこの悪そうな甲冑姿の男が相手だ。こいつはどうも、私を今振るっている女の生き別れの兄貴だとかで、悪の帝国ドグラミスの尖兵になってるらしい。
甲冑男は前に一度、私の方の女騎士に勝っているそうだが、そのくせ女騎士は私を持っただけでえらい強気である。
「このエクスカリバーが! このエクスカリバーが!」
「ぬう!」
もうほとんど呪文と変わらない。まあ、名前なんてそんなものなのかもしれない。私も丈夫なのが取り柄だし、元締めにいつも打ち直してもらってるから、あまり文句を言うつもりもない。
ともあれ、こいつをさっさと叩っ斬って休暇といきたいものだ。古今東西の美しい鞘を侍らせながら過ごす休暇はとても心地よい。親戚のガラティーンの奴はいつも苦労するわりにモテないとよく愚痴ってくる。
それにしても、今回は少し様子が違った。
男の方が決戦場となっている王の間で壁に吹き飛ばされたとき、新たな武器を取り出したのである。
「くっくっく! このムサマラの切れ味を味わわせてやる!」
「な、なにぃ!? 卑怯な、武器を隠し持つとは!」
お前だって拾った武器を堂々と使ってんじゃねえか。まあそれを言い出したらアーサーの奴もなんだが……あいつはかわいげというか、愛嬌というか、そういうのがあった。
やっぱり私もあいつのおかげで有名になったわけだし、人は武器に頼るべきじゃない。人は人に頼るべきだ。
ところで、ムサマラ……ムサマラ……なんかどっかで聞いた名前だな。
『ああ!? お前、もしかしてムラマサか!』
『そういうお前はエクスカリバー!!』
こいつ、また名前を間違えて覚えられてやがる……酷いときは村正どころか粟田口だったぞ。そこまでいくと悪意すら感じられる。
もっとも、伝説の武器も種類が多いから、これは仕方のないことだ。
『お前とは仲間なことの方が多かったから、戦うのは珍しいな』
村正の奴がのんきそうに言う。こいつのこういう戦闘狂いな所は仲間のときは笑えるが、敵の立場で言われるとちょっぴりいらっとする。
そもそも日本刀と西洋刀で斬り合っちゃだめだろ。日本刀の方が不利だろ。知識以前に見た感じでわかるだろ。
この甲冑男、本当に強いのか? 流行りの脳筋ってやつか? 騎士は頭も良くないと姻戚関係や宗教問題を上手く処理できなくてすぐ詰むぞ?
うっかり村正を折ってしまうと、どうせ直してもらえるとはいえ、寝覚めが悪い。武器を破壊した瞬間のあの高揚感と喪失感は、生き物にはわからんだろう。我々のような人造物の気持ち、もうちょっと考えてみてほしいなって。
と、そこに女騎士の仲間が駆けつけてきた。そいつは自分の身長ぐらいもある長さの投槍を持っていた。
「どけ、ミネルバ! このグングニルで俺が暗黒騎士を仕留めてやる!」
「レオナルド!? その武器を手に入れるために遅くなったのだな!」
またややこしいことしやがって。
グングニルはオーディンみたいなカリスマリーダーが持ってないと魅力半減なんだよ。武器としてはそこまで強くねえよ。
そういうとこもうちょっと気を遣ってくれると私たちも本来の力を発揮しようって気になるもんなのだが。
『俺、本当はゲイボルグなんだけど』
なんか聞きたくない声が聞こえたので、無視しよう。
「貴様らのような虫ケラがいくら集まろうと……! うぐっ!?」
甲冑男が急に膝をついて苦しみ出した。
出た、このパターン。わりと少ないが、それなりにあるのだ。
『これ、あれだな』
『ああ。勝てそうにない場面になると、苦しんだふりして、正気に戻ったとか言い出すやつ』
『そんで大して悪くなさそうな奴を大物扱いして一緒に倒すやつだ』
『……まあ、お前と戦わずに済んで良かったよ』
一応、村正を立てておいてやる。彼とはなんだかんだ付き合いが長い。
下手したらガラティーンより仲良いさえある。
まあ、あれだ。伝説の武器が役目を終えるとき、いつも言うことがある。
元の鞘に戻ったな、と。