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エリート先輩の異世界でも大魔導士【エリート】様伝説  作者: 史重
第一章始まりは異世界の香り
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6

各務さんのターン?

 

「・・・今、はっきり言えることは、私の手に余る話だということ。

 私には確証や自信も無く君を助けたいと言う事はできない。すまない」

 かっちりと頭を下げ各務さんが謝ってくれる。それを見て少し頭が冷えた。

 今の俺にはこの人の正直さと冷静さが有難い。危うく死にそうになったせいもあるけど、設楽を寄りにもよって最悪な奴の手に渡してしまった衝撃と焦燥感に一人だったら特攻しそうだったしな。

「君の事情は分かったが、今後どうするつもりなんだい?」

 現実は厳しい。リアルでは金持ちでも小金持ちでもない俺は、向こうの世界で情報収集と修行も兼ねて冒険者をやっていたお陰でこちらでより成金ぐらいには収入と預金がある。

 向こうに戻ってそのままいる方が生きてはいける。

 だが、こちらでは戻ってからは時間操作が出来ないからいない間は行方不明者となる。

 設楽を奪還して戻っても無職はきついし、警察の世話になるのだけは是非とも避けたい。

「悩んでます。あっちの現状を考えると今の段階二重生活は難しい。かと言って行きっぱなしになってこっちで行方不明者になるのだけは避けたいんで」

 俺の返答にふむと各務さんが考える。

「そう言えば、君の学歴だと名門高を出て東〇大学経済学部となっていたけど、こちらに帰還した年齢は20歳を超えていなかったっけ?」

 今、その質問をしますか・・・。

「俺たちが帰ってきた時に麒麟の計らいであの新幹線の召喚された瞬間に戻されたんですよ。シーラの精霊術も法力には加わってましたし」

「ああ、そうなのか。いや、すまない気になると訊きたくなる質だから。

 それが、君が現在行き来している時には適用されないという事か」

「そうです。

 帰ってきた時、持って帰った遺骨は消えていて、記憶も無いのか同級生は何事も無かったように騒いでいました。

 でも、最初に死んだ三波は旅行後に発作を起こして死にました。

 それから、卒業してからぽつぽつと訃報が届くようになって・・・みんな、向こうに行った奴ばかり。

 よく調べてみれば、それぞれ死因はばらばらだったけど、向こうで死んだ年齢で死んでました。

 一度に魔獣に殺された奴らは、電車の事故でその車両の死者としてね」

 うじうじとうっとおしいかもしれないが、考えてみれば骨だけ帰って来るよりも良かったかもと真崎が言っていた。

 真崎と勝田と迫田は通った高校に夫々同級生たちがいた。

 何度目かに出席した葬儀の帰りにぽつりと零す真崎に、掛ける言葉が無かった。

「ふう・・そうか。

 それでも良かったなとはとても言えんが、生き残った君たちのせいじゃないぞ?

 分かっているだろう?」

 この人は俺の欲しい言葉を知っている。

 生き残った仲間同士であるからこそ言えない言葉だ。

 皆、自分を責めている。

「生き残った方が辛いさ。

 なら、死んでしまった人々の本当の姿や気持ちの記憶は、君たちしか持っていないという事だ。

 辛くても、息をしている以上は生きなきゃならん。

 私は想定外の事象に弱い傾向があるからな、どこまで援助できるかは分からんが手を差し伸べることを許してくれるか?」

 男前だなあ。

 勝ち目なんて(はな)から無いよな。

「助けて下さい」

 自然に声が出せた。

 あっちでもこっちでも瞼を閉じる度に浮かぶ戦場の色と臭いと声。死んだ奴の断末魔の声。設楽の涙。ぐっすり眠ることなどできなかった。

 高校へ進学し、帰宅部になって最初にあっちに戻った時から今日まで死に物狂いで戦ってきた。

 それを贖罪と言うのならそうだろう。

 辛くて辛くて堪らない夜が続いても、俺は止めなかった。

 悪いのは自分の欲の為に俺たちを使い潰したフリージアだ。俺じゃない。俺たちじゃない。

「分かった」

 これほどこの言葉が有難いと思ったことはない。

 常識人である各務さんが俺の言葉をどこまで理解してくれたかは分からない。

 でも、この人の言葉には力がある。あの、麒麟の放つ神力にも似た力が。

「ありがとうございます。」

 それだけ言うのがやっとだった。



「それじゃあね、次は地球(こっち)側と言えばいいのかな?

 今現在の話をしよう」

 感慨に耽る間も無く、各務さんはサクサクと進行する。ブ、ブレない。

「君の身分はサラリーマンとして所属して、世間的にもそう認知されている。

 勿論今迄の二重生活が難しいことは理解したが、君の懸念も理解しているよ。

 この国では一度ドロップアウトした者には厳しい。

 再就職も大変だって聞いているからね。

 そこで、だ。君には病気療養で休職というのを勧めるんだがどう思う?」

 原因がファンタジーな休職理由に現実が優しいとか。そういう事が本当にできるのならありがたい。奪還する設楽の居場所も考えなけりゃいけないから、自己理由の退職者になるわけにはいけない。

 その上、勤務する会社はこちら方面ではしっかりフォローしてくれるから、実現は可能な筈。

「できますかね?」

 恐る恐る聞くと、悩殺スマイル(良い笑顔で)頷いてくれる。

「今日まで病欠していたし、友人が経営している病院に転院して貰って時間を稼ごう」

 そう言いながら数か所に連絡を入れている各務さんの背中を見ている。

 何事にもそつがないどころか、何倍もの成果を出すスーパーエリートなんて誰が言い出したのか。 10歳と離れていないのにこの差ってなんだろうか。

「・・・じゃあ。お願いします。

お待たせ」

 相手との電話を終え、各務さんが再び俺と対面する。

 その手にはいつの間にか急須があり、お茶が淹れられた。

「実は年度変わりに合わせて私は移動になるんだ」

 急な話題変更にはい?っと見返す俺に、苦笑気味に話を続ける。

「本当は退職を希望したんだが容れて貰えなくてね、情報管理課の在宅ワーカーとして残ることになったんだ」

 寝耳に水の話に思い浮かんだのは部内の同僚たちの顔だ。

 多分・・いや絶対に荒れる。阿鼻叫喚地獄と化すに違いない。俺だってその場で聞いたら硬直後叫んでいたと思う。

「・・れはまた、なんでって聞いていいですか?」

 恐る恐る聞いてみた。

「現在同居している祖母の営んでいる下宿を継ごうと思ってね。

 微々たる預金もリフォーム資金で使い果たしちゃったよ」

 何故か照れるように話す各務さんを見て、思わず自身にツッコミたい感情が沸くが根性で押し止める。

「大正期に建てられた和洋折衷の家を受け継いだ祖父が、近在にある大学生のための下宿として始めたんだが、如何せん力の有り余っている学生中心の下宿だから傷みも激しくてね。

 勿論経年劣化もあって、大規模にリフォームしたんだ」

 スーパーエリート様の意外な一面。何事にも最上なパフォーマンスで会社には無くてはならない人物が、下宿屋のオヤジになりたいと頬を赤らめ力説する景色を独り占めしている俺。きっと部内のお姉さま方から殺される。

「最後の学生が卒業してからリフォームを開始して、部署移動後に再開する予定なんだ。

 もう下宿希望者も募る手筈は付いているんだが、君も越してこないか?」

 ああ、この話はここに着地するのか。でも、なんで引っ越し?

「さっきの管理人さんの様子だと、冷静になったらアレの事は心の中では納得できずに『不安』として残ると思うんだ。

 帰るまで君の事を「問題の無い好青年だと思っていたのに」と呟いていたからね。

 理由を付けて次回の更新を拒まれる可能性がある」

 ああ、表面的には騙されても信用(・・)は失われたってことか。まさしくですよねえだ。

「普段から問題のある人よりも、信用していた人の未知な一面を目撃したほうが衝撃は強い。

 今後の事も考えると私の近くに居てくれる方が連携も取りやすいからね」

 なんでこんなにしてくれるんだろう。

 同僚だと言っても、教育係だとしても、ここまでしてくれるのは何故なのか。

 そんな不審の眼に気が付いたのか、各務さんが言葉を呑みこんで俺を見てきた。

 そして意を決したように、言葉を繋ぐ。

「何故?って思うよね。

 ・・・私には2つ下の弟がいたんだ。

 小さな時は私の後を付いて回るようなお兄ちゃん子だった。

 でも、思春期を迎える頃からいつも暗い顔をするようになって、ある日突然居なくなってしまったんだ」

 そこまで話す各務さんに気まずく感じた俺が頭を無言で下げる俺を手で制し、各務さんが続ける。

「いくら探しても見つからなくて、家族で心配の余り眠れない日が続いたある夜、母が私に投げつけた言葉から両親との関係も上手くいかなくなってね。高校2年生の夏から祖父母と同居するようになった」

 零すように紡ぐ言葉は俺に向けてでは無いようで、俺はただ黙って聞いている。

「私自身はその言葉に傷付きはしたが、私以上に母が動揺してね、父も気まずいのか何も言わずに母を押さえていた」

「なんて言われたか聞いてもいいんですか?」

「『お兄ちゃんが完璧すぎて、あの子は悩んでた。学校でもどこでも比べられて!もう少しあの子の事も考えてくれてたらこんなことにはならなかったのよ!』だったかな?

 その言葉で初めて弟の気持ちを知った。

 どうすればいいのか何も浮かばなくて・・・

 田中さんの話を聞いて、一瞬弟ももしかしたらって思った。浅ましいよね。なにか自分以外の理由を求めていたんだって。

 田中さんが助けて欲しいって言った時、弟が私の助けを待っているかもしれないと。思った。

 だから、私が田中さんに何くれと押し付けているのは私情からだと思ってくれていい」

 話しながら疲れた様に顔を覆う各務さんに掛ける言葉は無かった。

 各務さんも悩み苦しむことがあって、個人的な事情から俺を助けたいと言っている。

 程度の違いはあるけれど各務さんも何かを失った人だ。その痛みを比べるなんてできない。

 もしかして俺が遠慮しないように配慮してくれたのかもと思う。それも正解な気がするけど、もう入社当時から刷り込まれた『困った時には各務さん』は二人の間の垣根を低くしている。

「各務さん。俺、各務さんにそこまで甘えていいんでしょうか」

 改めて俺は精一杯の真摯な態度で各務さんに問う。

 各務さんは真剣な顔で返してくる。

「割と意外に思われるかもしれないけど、私はお人好しじゃあない。

 必要と思われる面での援助はする方がしないよりリスクが低いからだ。君も教育係の私と接していて分かっているだろう?必要以上には甘やかさないよ?」

 そういわれればそうだ。締め日以外に各務さんが手伝う事はあまり無い。指摘やアドバイスはするけど丸ごと抱えることは無かった。

「だから、これは多分に私情で持ちかけている話だよ。

 身元の知れた下宿人は貴重だし、あれこれ扱き使えるかもしれないしね。

 君と関わり合うことで、もしかしたら弟に繋がる何かを得られるかもしれない。という下心もある」

 笑みを薄く佩いた各務さんの視線は強く、俺は胸に溜まった息をたっぷり吐きだした。

「色々ありがとうございました。

 これからもよろしくお願いいたします」

 俺の『答え』に満足したようにゆっくり頷く各務さんを見て、これが正解だと思った。

 これからに不安はあるけど、隣に誰かが居てくれるのは本当に有り難い事なんだと思った。

 

  

各務さんはだってだってちゃんやかまってちゃんには相容れない人。


読んで頂き感謝感激。

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